胸の中のMelody 〜忍足side〜









屋上の隅で寝とった時、声が聞こえてきたんで ふと目が覚めた

誰や 俺の眠りを妨げよる奴は・・・・

ちょうど俺のいる位置からは死角になっていて、話している奴の顔は見えない

眠りを妨げられて、少し不機嫌のまま、身体を起こして声のしている方を覗き込むと、2人いた

1人は確か、去年同じクラスやった奴やな・・・・あんま喋ったことなかったけど

もう1人は同じクラスのがおった


「俺と別れてくれないか・・・・?」

「えっ、何言ってるの?」

「他に好きな奴ができたんだ・・・・ゴメン。」


男はそう言うと、さっさと屋上から消えてだけが残った

何や、あの2人付き合うてたんか?

マズイ所に居合わせてもうたな

俺の不機嫌さは、その会話のせいで、すっかりなくなってしまった

を見るとずっと俯きっぱなし

・・・・泣いてるんか?


しばらくその状態が続いたと思うと、ゆっくりと顔をあげてフェンス越しの街を眺めはじめた

何とか姿を見られずに屋上を去りたいけど、俺のいる位置からだとどうしても見つかってまうし ・・・・しゃーない

ドアの方に向かっていると人の気配を感じたのか、が振り返りよった

アイツも誰もいないと思うてたようで、目を大きく見開いて俺の事を見とった

泣いてると思うとったけど泣いてへんのやな

『どうしてここにいるの?』とでも言いたげな顔をしてたから説明した

「別に覗いてたんとちゃうで。俺が寝とったら、急に話し声が聞こえてきよったから・・・」

「・・・・・そっか。ごめんね、こんな所見せちゃって。」

そう笑った彼女の顔はどこか寂しそうやった

ちらっと時計を見ると、もうすぐ午後の授業が始まるにも関わらず、は一向に動く気配はない


「授業、始まるで?」

「ゴメン・・・・先行ってて。」

とは今年同じクラスになっただけで、特に仲がいいって訳やない

せやけどどうしても放ってはおけなかった

いつの間にか、いつもの俺にはなかった感情が生まれていた

さっき見せた悲しそうな顔が俺の胸にいつまでも残っている

そして俺は何故かその場に座り込んだ


「忍足君、どうして?」

「天気いーから俺もサボろうかな思うて。」

そして手招きをした

も意図が分かったのか、しぶしぶと俺の隣に腰かけた

でも特に喋る事はなかった

俺からは喋らん方がいいと思うたから

お互い何も喋らずに数分たった頃、隣でポツリと独り言のように話しだした


「・・・・私から告白したの。もともとうまくいってる時期なんてあんまなかったし・・・・。」

「泣かないんやな。」

「当たり前じゃない・・・・。」

そんなこと言うたかて、無理してるのバレバレやん

見てる方が辛い


「無理しなくていいんやで? 今なら俺の胸貸したるよ。」

普段なら絶対言わんような事を自然に口にして、俺自身驚いた

ほとんど喋ったこともない女

普段の俺なら簡単にこんなこと言わん

せやけど何故か・・・コイツだけは・・・・

「・・・・だから平気・・・・。」

数分の間一緒にいただけで、強がってるのがはっきりと分かる

もうずっと前から知っていたかのように

それがどうしてかは分からんけど

優しく頭を撫でて、そのままそっと俺の胸に押し付けた

泣いてええんや 俺に甘えろや

弱さの中にもちゃんと強さを持ってるの分かっとるから

今は、全部さらけ出してくれるか?

そしたら俺が全部受け止めたるから

・・・お前の為に

張り詰めた糸が切れたように、の頬から大粒の涙が零れ落ちた

「うっ・・・私・・・・好きだったのっ!」

俺は何も言わずにの震える肩を抱きしめていた





 *

「侑士ーっ、英語のノート見せて?」

・・・またか

今の席になってからというもの、はよく俺の所にノートを借りにくるようになった

「何や、また寝とったんか?」

「だって窓際なんだもん。」

何やそれ

の答えに俺は呆れ顔で返した

「それ、理由になってると思っとるんか?」

「侑士は窓際じゃないからこの辛さが分からないのよ!窓際の席は常に眠気との戦いよ!!」

「・・・さよか。」


あの出来事から数ヶ月が経ち、俺達は3年になった

今年もと同じクラスになった

あの出来事の事は、お互いもう触れていない

けど、あの日から俺は積極的にを遊びに誘っていた

最初はどこか曇っていた笑顔

絶対に俺が本当の笑顔に変えたる! と思うて部活が休みん時はいつも誘っていた

そのうち、だんだんも笑顔が増えていった

それに俺自身、一緒に遊んでいてすっごく楽しい

何やろう

一緒にいてすごく安心するんや

こんな一生懸命な自分にも笑った

それだけの事、好きなんやろうな









「ホンマか、跡部。」

休み時間

テニス部レギュラーが放送で呼び出され、部室へ集合した

そして跡部の言葉に思わず身を乗り出して聞き返した

「あぁ、今日は監督が用事あるから放課後の部活は休みにするって言ってたぜ。」

ここんとこ、休みの日もずっと練習やったからメッチャ嬉しい

そんな俺を見透かしたかのように跡部が聞いてきた

いつものように口の端を持ち上げて、偉そうに・・・

「忍足、お前随分嬉しそうだな、あーん? そんなに部活休みになるのが嬉しいのか?」

「そんなんちゃうて。」

素直に嬉しい と答えると跡部になにされるか分からんから、適当に言葉を濁す

部活が休みの日は、と過ごしている時間が多くなった

そして今日も部活休みになったから、俺の頭はもうと過ごすこと意外考えてなかった



早速教室に戻ると、は友達と2人で食事している最中やった

後でもええかなと思うたけど、やっぱり今話しておきたい

迷わず声をかけた

ー。」

「な、何?」

友達と何か大事な話でもしとったのか、俺を見て少し慌てていた

少し顔が赤い気がするんやけど・・・・ 何や・・・・?

せやけど、そこは気にせず話を続けた

、今日はあいてる?」

「あいてるけど?」

「じゃあ久しぶりに遊びに行こうや。」

「部活は?」

「あぁ、今日は休みになったから。」

「行く行く。」

速攻で返事してくれる事がすごく嬉しい

もっと話していたいけど、これ以上邪魔しちゃ悪いしな・・・

「じゃあ、後でな。」

「分かった。」


の予定も特に何もなくて、今日はどこへ行こうかと考えながら席につこうとすると、机の上に小さなかわいい封筒が置いてあった

「・・・何やこれ。」

何となくこの封筒の意味が分かっていたが、とりあえず開いてみた


『忍足くんへ  

お話があるので今日の放課後、校舎裏に来ていただけませんか。待っています。』


と書いてあった

差出人の名前も書いてない

やっぱな・・・・・

きっとこの文章からして告白なんやろう

今までもこういうのは何回か貰った事がある

その度に、一応待ち合わせ場所には行っていたが、断ってきた

女と付き合うのは面倒だと思うてたから



けど、今は違う

と一緒に過ごしているだけですごく楽しい

今までは本当に面倒やと思っていた事が楽しいと感じるようになって・・・・

もっと一緒にいたいと思うようになって

自分がこんなに変わると思わんかった

のおかげでこんな愛しさに気づけたんや

今日はとの約束もあるし放っとこうとも思うたけど、やっぱそれは相手に対しても失礼やろうな









 放課後



「ごめんね、待たせて・・・・」

俺は教室掃除だったから、すぐ終わって教室で待っていた所へ、が走ってきた

デートできるのが嬉しいはずやのに、今は少し複雑な気持ち

、ちょっと教室で待っててくれんか?ちょっと用事ができてもうて・・・・。」

「いいよ、じゃあ待ってるから。」

「堪忍な。すぐ済ませてくるから。」

両手でスマンと手を合わせて教室を出て行こうとする俺の後ろでが笑いながら、

「じゃあ何か奢ってね。」

「・・・しゃあないな。」

そう言ってくるに苦笑しながら、急いで校舎裏まで走った





校舎裏に俺がついた時にはすでに手紙の差出人と思われる女の子がいた

・・・・確か1年の時同じクラスやった子やな

話した事なかったけど、何となく覚えていた

「あ、あの・・・・手紙読んでくれてありがとう。」

「話って何や?用事があるから早めに頼むわ。」

俺が少し急いでる素振りしたら、急に慌てて、でもはっきりと喋りだした

「実は・・・・・私、ずっと前から忍足君の事、好きだったの!」

「あ〜・・・俺を好いてくれてる事に対してはありがとう。」

「付き合って・・・・くれませんか?」

告白する方も緊張はするやろうけど、断る時もかなり勇気がいるようになった

それはきっと、この子の気持ちが・・・・・

今まで告白してくれた子達の気持ちが分かるようになったからやろうな

でも曖昧に返事して変に期待させるより、はっきりと断った方があの子の為でもある・・・・

「それは無理や。俺、好きな奴おんねん。スマンけど気持ちだけ受けとっとくわ。・・・・。」

自分の気持ちを正直に伝えて、の待つ教室へ急いだ




ヤバイ、遅ぅなってもうたな

教室に着く手前、いつもと一緒にお昼を食べている子とすれ違った

今まで一緒におったんか?

特に気にする事もなくが待っている教室へと駆け込んだ


っ、遅ぅなってスマンな。」

椅子に座って俯いたままこちらを見ようとはしない

・・・・聞こえてなかったんか?

どうした?と声をかけようとしたら、聞こえるか聞こえないかの声で呟いていた

「・・・・しないで。」

「え?何言うたん?」

俺に言うたんか?

「同情なんかで優しくしないで!!」

「・・・・?急にどうしたんや?」

突然何言ってるんや?

どないしたん!??

訳が分からない俺に追い討ちをかけるかのように、の口から次々と言葉が飛び出す

「ふられた私がかわいそうとかで、遊びに誘ったりしてくれたんでしょ?

そうよね、そうじゃなきゃ急に私と侑士が仲良く・・・なんてありえないもんね。」

・・・・今までそう思っとったんか?

俺が遊びに誘っていたのは、同情やと思われてたんか

腹が立った

そう思われとった、誰にでもそういう付き合い方をしていると思われとった自分自身に・・・・・・

「・・・ホンマにそう思っとるんか?」

「思ってるから言ってるんじゃないっ! もう私は平気だから・・・・好きな人の所にでもいったら?」

瞳いっぱいに涙溜めて言う台詞かいな

どうもは鈍いみたいやな

行動で示さんと、分かってもらえんか

の手を取って俺の方へと引いた

そして初めて感じるの温もりをギュッと抱きしめた

「・・・これでもホンマに同情やと思うんか?」

「・・・・えっ?」

突然の行動に、俺の腕の中であたふたしている

そんな姿を見て、ふっと笑みを浮かべて喋りだした

俺の本当の気持ちを

今までの行動で伝わってると思っとってけど、勘違いされとったみたいやから

やっぱ、言葉にしないと伝わらないものもあるよな・・・・・

「あん時、を抱きしめたのは同情でも何でもない。俺が抱きしめたいと思ったからしたんや。

あん時すでに・・・俺はお前の事好きになっとったんや。」

「嘘・・・でしょ?侑士が私の事を好きなんて・・・・」

何や、信じてないんか・・・・・?

俯くの頬を両手で包み込み、顔を持ち上げた

「部活がない日はいつも遊びに誘ってたから気づくと思っとったけど・・・まさか同情だと思わとるとは思わんかったわ。」

ホンマにここまで鈍いとは思わんかった

俺がこれだけ話しても、まだ納得してない顔をしている

「俺はが好きや。」

「侑士・・・・・。」

はまだ・・・アイツの事を引きずってるんか?」

「ううん。・・・・侑士のおかげで忘れる事ができたの。

私もずっと侑士が大好きだったけど、ずっと言えなかったの・・・・・。」

ずっと言えへん と言った時に、の顔が少し曇った気がした

俺は絶対にを捨てたりせぇへんよ

もうにあんな想いは二度とさせへん

一生かけて守ったるし、愛したるから・・・・・


「心配するなや。俺はずっとの事が好きやから。 ・・・俺を、信じてくれるか?」


「・・・侑士・・・ありがとう。私も侑士が大好きだよ!」

気持ちを伝えたら、笑顔で答えてくれて、俺の胸に飛び込んできてくれた

俺も小さな身体をそっと両腕で包み込んだ


もう、離さへんからな・・・・・









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K様に捧げた「胸の中のMelody」忍足君視点で書いてみました。
設定を考えていて、忍足君sideにするかヒロインsideにするか悩んでKさまにあげたのは
ヒロインsideにしたんですが、折角途中までできてるし・・・
と思って、忍足君sideも書いてしまいました。
前にも読んでくれたみなさまは「しつこいんじゃ〜!」と思ってると思いますが(汗)
ちなみにヒロインsideはこちらから・・・・。
ゆっくりと見てやってくださいませ。

  2005年 1月4日  茜