出会いは何の前触れもなく、突然やってくる

別れも突然やってくる

けどそれは出会いとは違って、なにかしら理由があるから


でも私にはそんな事思ってもみなかった あの頃・・・・








   
胸の中のMelody









「俺と別れてくれないか・・・?」

「えっ・・・・何、言ってるの?」

「他に好きな奴ができたんだ・・・・ゴメン。」


そう言って彼は私の元を去っていった

一方的に別れを告げられ、それを受け止める余裕がなくて、ただその場に立ち尽くす

何も言えなかった ただ彼の言葉を黙って聞くことしか出来なかった

どうして急にそんな事いいだしたの?もう私の事は好きじゃないの?

彼はいつからそんな事を思っていたんだろう・・・・


12月とは思えないぽかぽか陽気の中、時折吹く冷たいい風が心地よい

このまま、私の気持ちごと運んでいってほしい

まだ忘れることの出来ないこの気持ちごと・・・

フェンスの網に手をかけて遠くを眺める

でもどこを見ているのか、自分でも分からない



その時、後ろから小さな音がした

まさか、誰かいたの!?

慌てて振り返ると、同じクラスの忍足君がバツの悪そうな顔をして立っていた


「・・・忍足君。」

「別に覗いてたんとちゃうで。俺がここで寝とったら、話し声が聞こえたから・・。」

「・・・・そっか。ごめんね、こんな所見せちゃって・・・。」

ハハッと力なく笑った

まさか誰かいるなんて思わなかった

こんな所を見られちゃって、普通なら恥ずかしいとか そういう感情を持ち合わせるんだろうけど

今は何も考えたくない 恥ずかしがる余裕もない


「授業始まるで?」

「ゴメン・・・・先行ってて。」

そう言って忍足君から視線を外し、また遠くを眺めた

今はとても授業を受ける気にはなれない

忍足君も教室に戻ってるだろうと思ったけど、いつになっても人の気配が消えない

ゆっくりと後ろを振り返ると、忍足君が地面に座り込んでいた


「忍足君、どうして?」

「天気いーから俺もサボろうかな思うて。」

そして「ここに座りな」とでも言うように手招きする

少し悩んで、しぶしぶと忍足君の隣に座った


座っていても会話をするわけではなかった

私は相変わらず遠くを眺めている

忍足君も気を使っているのか、ただ黙って座っている





「・・・・私から告白したの。」

しばらく沈黙が続いていた時、ポツリと独り言のように呟いた

どうして話そうと思ったのか分からない ただ聞いてほしかっただけなのかも

忍足君とは今年初めて同じクラスになった人 特別仲がいいってわけではない

むしろこうやって2人きりで話すのも初めてだった


「もともとうまくいってる時期なんてあんまなかったし・・・・。」

「泣かないんやな。」

「当たり前じゃない・・・・。」

何で終わった事で泣かなきゃいけないの

私はそんなに弱い女じゃない

だけど忍足君は、そんな私の心を見透かしたように優しい言葉をかけてくれる

「無理しなくていいんやで? 今なら俺の胸貸したるよ。」

「・・・・だから平気・・・・。」

頭を撫でられながら忍足君の胸に顔を押し付けられた

優しい言葉をかけられて、人の温もりを感じて

途端に張り詰めていた糸が切れた

いくら叫んでも あなたはもういない

それでも叫ばずにはいられなかった

「うっ・・・私・・・・好きだったのっ!」

一言口にしてしまって、留まる事なく溢れてくる涙

そのまま忍足君の胸の中で泣き続けた

それでも胸の中で鳴り響く悲しいMelodyは途切れる事のないまま


忍足君はそんな私の震える肩を抱き寄せたまま、何も言わずにいてくれた







  *



「侑士ーっ、英語のノート見せて?」

「何や、また寝とったんか?」

「だって窓際なんだもん。」

呆れる侑士に頬を膨らませて反論したら、私の答えにがっくりと肩を落としていた

「それ、理由になってると思っとるんか?」

「侑士は窓際じゃないからこの辛さが分からないのよ!窓際の席は常に眠気との戦いよ!!」

「・・・さよか。」


あの出来事から数ヶ月が経った

あの頃は2年だった私達も最高学年になって、気持ちも入れ替えたつもり

今年も侑士と同じクラスになって、私が授業中にノートを取るのを忘れると、決まって侑士の所に借りに行く日々になっていた





、忍足君といつから付き合ってるの?」

が急にこんな事を言い出したのは、お昼ごはんを食べてる最中

同じクラス内にその本人がいるとあってか、私に聞こえるか聞こえないか程度の小さな声で聞いてきた

聞かれると思っていなかった質問を急にされて、思わず食べていたご飯を喉に詰まらせそうになった

「どうして?」

「だってさ〜、2年の終わりくらいから急に仲良くなったじゃない。今まで話した事もなかったくせに。

そりゃぁ誰だって疑うって。」

「・・・・そんなんじゃないよ。」

いつの間にか「侑士」と名前で呼べるほどまで仲がよくなっていたから、誤解するのも分からなくはない

確かにの言うとおり、2年の終わりの頃までは侑士とそんなに話した事もなかった

だけどあの出来事があってから、侑士は必要以上に私に話しかけてくるようになった

あの出来事があった次の日、落ち込んでいる私を気遣って「どこかパーっと遊びに行こうや!」って言ってくれて

侑士が知っているおいしいパスタのお店や、カラオケなどに連れて行ってくれた

最初は「どうして私なんかを気遣ってくれるんだろう?」なんて思っていたけど、次第に侑士と過ごす時間が楽しみに思えてきて・・・

いつの間にか前の彼氏の事は忘れる事ができた

振られた時は、あんなに胸が張り裂けそうだった気持ちは今はない


「でも、今のは楽しそうだよね。前の彼氏と付き合ってる時は、いつもどこか寂しそうにしてたから。」

「えっ・・・・・。」

の言葉に絶句してしまった

寂しそうだった?・・・・私が?

にはそんな風に見えてたの?

「どこが寂しそうに見えてた?」

ー。」

私の言葉と侑士の言葉がハモって、には私の質問が聞こえなかったみたい

「ウワサをすれば・・・!」

そう言っては、1人で楽しそうにしている

どこが寂しそうに見えていたのか、聞きたかったんだけどな・・・・

「な、何?」

、今日はあいてる?」

「あいてるけど?」

「じゃあ久しぶりに遊びに行こうや。」

「部活は?」

「あぁ、今日は休みになったから。」

「行く行く。」

この頃侑士の所属しているテニス部が忙しいらしくて遊びに行ってなかったから、嬉しくて速攻で返事した

「じゃあ、後でな。」

「分かった。」

今日はどこ行くんだろう

久しぶりだから映画とかもいいかも

侑士の好きそうなラブロマンスものやってたし・・・・

なんて頭の中で考えている時に、が隣にいることを思い出して、チラッと横を見ると何か企んでいそうな顔つきでこっちを見ていた

「あんたたち、もう立派に恋人同士ね。」

「・・・・・」













 放課後


掃除も終わって、鞄を取りに教室へ戻るとすでに侑士が待っていた

「ごめんね、待たせて・・・・」

じゃあ行こうか と鞄を持とうとしたら、侑士がその手を止めた

、ちょっと教室で待っててくれんか?ちょっと用事ができてもうて・・・・。」

「いいよ、じゃあ待ってるから。」

「堪忍な。すぐ済ませてくるから。」

「じゃあ何か奢ってね。」

「・・・しゃあないな。」

侑士の背中を笑顔で見送りながら、帰りを待っていた




それからしばらく経った頃・・・


遅いなぁ〜

すぐ済むって言ってたんだけど・・・用事って何だろう?

フッとさっきのの言葉が頭を過ぎった

『今のは楽しそうだよね。前の彼氏と付き合ってる時は何かいつもどこか寂しそうにしてたから。』

さっきは突然言われて、周りにはそんな風に思われてたんだと思ったけど、今聞かれたらきっと否定できない

だって・・・・自分でもそう思うんだもん

誰にも言えないけど・・・私、侑士が好きなんだもん

フラれた後に、何回か侑士と遊びに行ったりしているうちに好きになったって知られたら・・・・

軽い女だと思われるかもしれない・・・呆れられるよね

あんなに前の彼氏の事で迷惑かけておいて、今さら侑士に「好き」なんて言えるわけない

でも・・・侑士が笑顔で接してくれる度、遊びに誘ってくれる度に好きになっていく気持ちが速度を上げていった

あの頃胸の中で鳴り響いていた悲しいMelodyは、今はとても心地よい音楽に変わっていた

それは全部侑士のおかげ

前の彼氏とは、こんなに楽しく過ごした事なんてなかったから

はっきりと自分の気持ちを伝えたいけど、同時に伝えてフラれたら と思うと伝える勇気もない

もうあんな想いは二度としたくないから・・・・

それなら友達のままの方がいい・・・

伝える事はできないこの気持ちは、行き場を失くして心の深くで今も渦巻いている





教室でボーっとしてたら、廊下から足音が聞こえてきて私がいる教室の前で止まった

まだいたんだ。」

「あれ、。どうしたの?」

「部活の集まりがあってね・・・急がないと。これから予定があるのに〜。 それより今日は忍足君とデートするんじゃないの?」

デートって言葉に引っかかったけど、一応頷いた

「・・・う、うん。」

「さっき校舎裏で見たよ。何か告白されてたみたいだったけど・・・・。」

「告白!?」

『告白』と聞いて、ドキッとした

そうだよね、侑士ってモテるみたいだし・・・・

・・・・・断ったのかな・・・・それとも・・・

思いたくない考えが頭をよぎる

そんな考えを遮るかのようにが話を続けた

「でも断ってたみたいだよ。好きな人がいるって言ってた気がするけど。」

「侑士に・・・好きな人・・・・?」

今まで考えもしなかった

侑士にも好きな人くらいいるよね

・・・・じゃあ今まで私に優しくしてくれていたのは何だったの?

やっぱり同情、だったの?

じゃあね、と言って慌てて教室を去っていくの言葉も、今の私の耳には聞こえてこなかった

好きな人いるなら、どうして私なんかに声かけてきたのよ

私の事なんて放っとけばいいのに・・・・

そしたら・・・こんなに侑士を好きになる事もなかったのにっ!!






タイミングがいいのか悪いのか、廊下を走ってくる音が聞こえてきた

っ、遅ぅなってスマンな。」

今は会いたくない・・・・

無理して私にかまうことないじゃない

侑士の顔をみて、そんな想いが込みあがってくる

「・・・・しないで。」

「え?何言うたん?」

「同情なんかで優しくしないで!!」

「・・・・?急にどうしたんや?」

急にこんな事を言い出した私をみて、侑士もびっくりしている

訳の分からない といった顔つきで

だけど私は言わずにはいられなかった

「振られた私がかわいそうとかで、遊びに誘ったりしてくれたんでしょ?

そうよね、そうじゃなきゃ急に私と侑士が仲良く・・・なんてありえないもんね。」

心にもない事が次々と口から飛び出してくる

本当はこんな事思ってないのに 言いたくないのに

次第に侑士も怒ったような表情になった

それを見るのが嫌で目線を逸らす

「・・・ホンマにそう思っとるんか?」

「思ってるから言ってるんじゃないっ! もう私は平気だから・・・・好きな人の所にでもいったら?」

いや、行かないで! 私、侑士が好きなの

侑士まで私から離れていかないで

素直にそう言えばいいのに、言葉には出せない

今にも零れ落ちそうな涙を必死で我慢していたら、急に目の前が真っ暗になった

同時に侑士の温もりや、心臓の音が制服越しに伝わってくる

何、どういう事?

何で私、侑士に抱きしめられてるの?

侑士に私、何て言ったっけ・・・?

侑士の行動が今の私には理解できず、頭の中でいろいろと考える

「・・・これでもホンマに同情やと思うんか?」

「・・・・えっ?」

私の背中に腕を回して、きゅっと抱きしめられてる

まるで、ずっと離さない とでもいうように

「あん時、を抱きしめたのは同情でも何でもない。俺が抱きしめたいと思ったからしたんや。

あん時すでに・・・俺はお前の事好きになっとったんや。」

私のことが・・・好き? 

「嘘・・でしょ?侑士が・・・・」

私の事を好きなんて・・・ と呟くと、侑士の両手で私の頬を包み込み、顔を持ち上げられた

「部活がない日はいつも遊びに誘ってたから気づくと思っとったけど・・・まさか同情だと思わとるとは思わんかったわ。」

そして真っ直ぐな瞳で言った

私がほしかった言葉を

「俺はが好きや。」

「侑士・・・・・。」

はまだ・・・アイツの事を引きずってるんか?」

「ううん。侑士のおかげで忘れる事ができたの。

私もずっと侑士が大好きだったけど、ずっと言えなかったの・・・・・。」

もうあんな想いしたくなかいから・・・・

「心配するなや。俺はずっとの事が好きやから。 ・・・俺を、信じてくれるか?」

「・・・侑士・・・ありがとう。私も侑士が大好きだよ!」

すごく嬉しくて思わず侑士にギュッと抱きついた

侑士も、それに答えるかのように私を優しく抱きしめてくれた


今 胸の中に流れているのは、優しく抱きしめるような心地よいMelodyを奏でたまま

もう二度と悲しい音は聴こえてこないよね

侑士と一緒なら・・・・・いつまでも








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  Kさまからのキリ番リクでした。
  内容は「忍足君で設定はおまかせ☆」ということだったので・・・
  こんな風になってしまいました。
  最初からヒロインがフラれてしまいました。すいません!!
  遅くなってしまいましたが、少しでも気に入っていただけたら
  お持ち帰りくださいませvv
  
    2004年12月11日 茜