氷帝は人数が半端なく多いから、同じクラスになれなかった人もたくさんいる中で

あなたとは3年間同じクラスで、そして一番初めにできた男友達でした

でもいつからか私はあなたに恋をしていた

私のこんな想い

あなたはきっと知らないんでしょうね







   
Lovely Friendship







「俺、ホストになるねん。」

「・・・・は?」

その言葉に私は、持っていたペンを落としそうになった

忍足がそんな事を言い出したのは、1時間目の数学の時間

私の隣の席の忍足が珍しく教科書を忘れたというので、仕方なく見せてあげていた時に忍足がふと呟いた

「忍足・・・?今、何て言ったの?」

ホストとかって聞こえたけど、私の聞き間違い・・・だよね?

「せやからホストやって。」

「ホスト??学校やめちゃうの?どうして急にホストなんかになろうとするの?・・・何かあったの?」

どうして急にホストなんて・・・・もっと違う道もあったんじゃないの!?

まるで自分の事のように1人であたふたしていたら、忍足がため息ついて手を額に当てた

「・・・ちゃん、何か勘違いしとらん?俺が言ってるのは学園祭の催し物の事やで?」

「えっ?」

学園祭の催し物?

・・・そうだよね いくらなんでも本気でホストなんてやるわけないもんね

思いっきり勘違いしていた私は、ホッと胸を撫で下ろして ・・・・・って

どうして学園祭の催し物でホストなんてするの??

運動系の部活は学園祭では特に何もしないので、自由に歩き回る事ができる

私もバスケ部に所属してるけど、当日は1日中いろんな所を歩いて回る予定だし

それはいくらテニス部とはいえ、例外ではないはず・・・

「何でテニス部は催し物するの?」

「・・・学園祭の2日目が練習試合で学校来れないんや。それ聞いた女子達が騒ぎよってなぁ・・・・。」

・・・そういえば、クラスの女子が騒いでた気がする

今年のテニス部は学園祭の日に練習試合が入っちゃった代わりに、残りの1日はアンケートで決めるっていう前代未聞の部活動だった・・・


「忍足がホスト〜。おもしろい!」

「何で俺がホストなんてせなあかんの・・・。」

ブツブツと横で文句言ってる忍足をからかいながらも、心の中はいろんな想いで渦巻いていた

ホストって・・・・女の子相手にお喋りするんだよね

どうして?いくらテニス部に近づきたいからって、わざわざ学園祭の日にホストなんてさせる?

あ、学園祭だからこそか・・・・


ちゃんも来てくれるんやろ?」

忍足は授業もそっちのけで、体ごと私の方に向けて喋ってくる

私は、前を向いて、ノートをとりながら答えた

「からかいに行ってあげるよ。」

「俺のホストっぷりに惚れるで?」

「・・・はいはい。」

口では「ホストなんて嫌」と言っていても、満更でもない忍足の顔を見て、ため息混じりに答えた


「絶対来てな。」そう言われて、こっそりチケットを貰った

当日は混むだろうから という事で、このチケットを持っていると優先的に入れるチケットみたい

貰ったチケットを眺めながら、私はまた深いため息をついた





 学園祭当日


氷帝の学園祭はとにかく規模がでかいし、校舎自体がすごく広い

それでも学園祭当日はたくさんの人達で溢れていた

他校からの生徒も少なくない

それに今日はどこを見回しても、圧倒的に女の子が多い

ホストを聞きつけた人達が集まってきたのかな?


そんな中、私は朝から友達のといろんな所を見学していた

、お腹すかない?」

「あんたさっきチョコバナナとあんず飴食べてたじゃん。」

「あれはおやつv」

「おやつって・・・まだ午前中なんですけど・・・・・。」

呆れるを引っぱって、外のたくさんの屋台がある所まで連れて行く

は何食べる〜?」

「何でもいいけど・・・・・すごいね。」

「何が?」

すごいね と言ったきり、全然違う方向を見ているを見て、思わず私もの目線の先を見る

「あ、あれね・・・・」

ここからさほど遠くないテニスコート

テニスコートの脇にある部室の所には、午前中だというにも関わらずたくさんの女の子が群がっていた

「私も行きたいな〜。」

も誰か目当てがいるの?」

「全然。ただどんな感じなのかな、と思って。」

「私、チケットあるから一緒に行かない?」

「えっ、何でチケットなんて持ってるの?即完売だったはずなのに・・・まさかあんた・・・・。」

にも私が忍足の事好きだって事は言ってない

まさかバレたのかと思って思わず鼓動が高鳴る

「な、何?」

「・・・並んでまで買ったの?」

並んでまでホスト部なんて行きたいと思わないって・・・

予想とは全然違う答えに、少しほっとしたと同時に脱力した

「は?そんなわけないじゃん!! 貰ったの!」

「誰に?」

「・・・忍足に。」

「ふぅ〜ん。」

「・・・何?」

「別に〜。」

『忍足に』という言葉を聞いて、の顔つきが変わった

その時のの顔は、まるで悪魔の笑みのように私には見えた・・・



その後すぐ、『私は用事思い出したから、ホスト部行ってきなよ。』とに言われて、仕方なく今ホスト部の前に来ています

の奴〜っ!!絶対何か企んでる気がする・・・・

それにしても・・・ と辺りを見回すと、部室だけでなく、その回りにもたくさんの女の子達が群がっていた

・・・この女の子の列に並ぶの!?

すでにドアの外にまで並んでいる女子の列を見るなり、少し後退った

並んでる間に1日が終わっちゃいそう・・・・

行くのやめようかな〜・・・ でも一応約束したしな と思い、とりあえず入り口からこっそりと様子を窺う事にした


部室内も外と同じように、たくさんの女の子で溢れていた

それはもう『本当にここは部室ですか?』って聞きたくなるくらい

すっご〜・・・・

これにはひたすら圧倒させられつつ、じーっと覗き込んでいたら、聞きなれた声が耳に入ってきた


「次はどの娘なん?」

忍足の声だ

思わず反応して忍足の姿を探す

それに返事をするのは、頬を赤らめて躊躇いがちに忍足の隣に座る女の子

「私です・・・。」

「めっちゃかわいいやんか、自分。俺指名してくれておおきに。めっちゃ待ったやろ?」

「いえ、大丈夫ですっvv」


・・・何あれ・・・・

思わず持っていたチケットを握りつぶしそうになった

ずっと『何でホストなんてせなあかんの?』なんて言ってたくせに・・・・

今の忍足には、楽しんでいるようにしか見えない




ちゃん、来てくれたんや。」

しばらく忍足を見つつ、部室の状況を観察していると、ふと忍足と目が合った

げっ、気づかれた・・・・

ドアの所で覗いていた私の姿を見つけるなり、今まで話していた子に謝って、忍足自ら席に案内してくれた

・・・あの子いいのかな? と思いながら忍足が案内してくれた席に座る

「ま、まぁね。せっかくチケット貰ったし。忍足がどんな事喋ってくれるのかな〜と思って。」

「そういう時は、『俺に会いたかったから来た』って言うんやで?」

「・・・・は?」

「そんな嫌そうな顔せんといてな。俺は来てくれてホンマに嬉しいんやで?」

「そう・・・・。」

何かすっかりホストが板についてきてる気がする・・・・

目の前に置かれたウーロン茶に口をつけながら、忍足を見ていた

「何や?」

「・・・・別に。」

忍足を見ていた事を悟られたくなくて、パッと目を逸らす

初めて見る忍足のスーツ姿

制服以外の服を見るのが初めての私は、いつもとは違う忍足の姿に見とれていた


ちゃん。折角やし、暴露大会でもせぇへん?」

何の話をしてくれるのかと思っていたら、いきなりどうしたんだろう? 話すネタがないのかな・・・?

「暴露大会?」

「俺ら仲いい方やと思うけど、その割にはお互いに自分自身の話とかしないやん。

この機会にでも何かあったらお互い話でもせぇへんかな〜と思うて。」

「そんな事言って、ホストの仕事と違うんじゃないの?」

「せやかて、ちゃんとはいつもクラスで話してるから、今日は特別。

忍足侑士の悩み相談所として聞いてあげるわ。」

「何それ?」

思わずフッと笑ってしまった

「悩みねぇ・・・・。」

特に悩みが思いつかない頭を何とか必死にフル回転させて、部活の事とかを忍足に相談していた

それもあんまりたいした悩みじゃなかったし、すぐその話は終わってしまった



「・・・次は俺の悩み、聞いたってや。」

へっ?

急に何言い出すかと思ったら、今度は私が忍足の悩み聞くの?

「・・・忍足が私の悩み聞いてくれるんじゃなかったの?」

「まだ何か悩み事あるん?」

「いや・・・・・多分もうないけど。」

嘘・・・一番大きな悩み事は解決されないまま

でも、本当はあなたの事で悩んでる・・・なんて言えない

それが言えるくらいならとっくに告白してるよ

この想いが伝われば、今のこの関係が壊れてしまう

伝えて壊れてしまうなら、ずっとこのままでいたい

この悩みは言えないまま、笑顔でごまかした


「多分て・・。ま、えーわ。俺の悩み聞いてくれるか?」

忍足にも悩みなんてものがあるのね

私から見たら、悩みなんてなさそうなんだけど・・・

「いいよ、じゃあここからはの悩み相談所ね。」

「あぁ、よろしゅう頼むわ。」

フッと小さく笑って、急に真剣な顔になったかと思ったら、考えてもみない事を口にしだした




「俺、好きな子おんねん。その子には今でも友達だと思われとるけど、俺はずっとその子が好きなん・・・。」

その瞬間、今まで積み上げてきたものがガラガラと崩れていく音が聞こえた気がした

分かっていたはずだったのに

忍足は私の事を友達としてしか見ていない事も、いくら私が想った所で、それ以上は絶対に見てくれていないという事も

いつからか恋に変わったこの想い

――あなたに愛されたい――

気持ちが大きくなった分、今は重くのしかかる

この想いを伝えなくてよかった

それならずっと友達でいられるから

でも伝えられなかったこの想いは・・・・どうしたらいいの?

伝えられないまま・・・心の中にいつまでも彷徨い続けるの?

「・・・・」

溢れそうな涙をどうにかして堪えるのがやっとで、返事なんてする余裕がなかった

「どうやったら本当の気持ち分かってくれるんかな・・・?」

どうして私にこんな相談するの?

前は、いつか聞きたいと思っていた忍足の恋愛話

まさかこんな形で、それも急に聞かされるとは思ってもみなくて・・・

胸が締め付けられる

そんな気持ちを押し殺して、笑顔を作って話す

何とか必死で声を絞り出して、今の私にはこう呟くのが精一杯だった

「好きって・・・言ってみれば?」

「それができれば苦労せえへんよ。向こうには友達だと思われとるんやから。」

お願い 止めて 私をこれ以上・・・・苦しめないで

「とりあえず伝えるだけでも伝えてみればいいじゃん。相手も好きかもしれないし・・・・」

「・・・・そうか? 言ってもええんやな?」

「・・・勝手に言えばいいじゃない。」

これ以上聞きたくないから、つい投げやりな態度をとってしまった

こんな話・・・私に聞かせないで――――







「・・・・・好きやで。」

賑やかな室内で、響く忍足の声

誰よりも小さい声だったのに、誰よりも大きく私の耳に届いてきた

「私で練習しないでよ・・・・。」

それでなくても、今は気持ちが不安定なんだから・・・

「ホンマにそう思っとるん?」

「・・・・忍足?」

初めて見る忍足のこんな真剣な表情

視線が絡み合い、瞳が逸らせない

ちゃん、好きや。ずっと好きやった。」

えっ、何て言ったの?この男は・・・・

私の事をからかってるとしか思えないこの行動

私が今どんな気持ちかも知らないで・・・・

「・・・・でよ。」

「え、何?よく聞こえんかった・・・・」

「誰にでもそんな事言うくせに、私にまでそんな事言わないでよっ!!」

いきなり大声だしたものだから、部室内は静まり返ってしまった

みんなが私に注目する

恥ずかしさよりも今は忍足の顔を見たくなくて、全速力で部室を抜け出す

ちゃん!!」

溢れる涙は止まらない





ちゃん、ちょっと止まってぇや!」

走っているすぐ後ろから忍足が追いかけてくる

どうして追いかけてくるの? ほっといてよ!!

それをどうにかかわそうと、逃げるけどあっさりと追いつかれた

掴まれた忍足の手を離そうとするけど、力が強くて解けない

「ちょっと・・・私の事は放っといて!」

「ほっとけるかいな!」

そう言われて、そのまま忍足に後ろから抱きしめられる形になってしまった

「やだ・・・・離してよっ!!」

忍足の腕の中にすっぽりと収まってしまっていて、恥ずかしさから何とか逃げ出そうと必死に忍足の腕の中で暴れた

それでもがっちりと抱きしめられていて抜け出せない

「落ち着いて、話聞いてな。」

「嫌っ!聞きたくないっ!!離して!!」

「落ち着いてって・・・・!!」

急に名前を大声で呼ばれてびっくりしてもがいていた手を止めた

「・・・・・落ち着いたから、離して。」

私が落ち着きを取り戻したと分かったのか、忍足の腕の力が緩んでゆっくりと私を解放してくれた

まるで名残惜しむかのように・・・・

・・・どうして?


「さっきのどういう事?私をからかったの?」

少し睨みつけるかのように忍足を見た

私を見る忍足の表情はさっきのように、今まで見たことのない程真剣な表情だった

「ちゃうよ。さっき聞いてもらったやん、俺の悩み。あれ、ちゃんの事やってん。」

「嘘・・・・。」

「嘘ちゃうよ、ホンマやで。ずっとちゃんの事が好きやった。」


「・・・・だったらどうしてもっと早く言ってくれなかったの?」

「堪忍な。お前にはずっと友達だと思われてるとおもっとったから、こういう機会でもないと言えないと思ったんや。」

申し訳なさそうに話す忍足

私と同じだ・・・私もずっと忍足には友達だと思われてると思ってたから・・・・・

じゃあずっと私達、同じ気持ちだったの?

「忍足・・・・私もずっと忍足の事好きだったの。」

「・・・名前で呼んで。」

「え?」

「・・・ずっと名前で呼んでほしかったんや。」

「えっ、急に・・・・恥ずかしいよ。」

今までずっと『忍足』って呼んでいたのに、急に・・・・

の声で聞きたいんや。」

「・・・・・・侑士。」

こんなに名前を言うのが恥ずかしいと思わなかった

お・・・・侑士の顔を見上げると、すごく嬉しそうに私を抱き寄せた

侑士の温もりに、私も心まで温かくなる


「ねぇ、もう1回言って?」

「何を?」

さっきの言葉をもう一度聞きたくて、侑士の腕の中で呟いた

分かってるくせにワザと知らないフリをする侑士の顔をみて、唇を尖らせて横を向いた

「・・・・もういい。」

「嘘やって、ちゃんと分かっとるよ。」

そう言うと、さっきよりもキツク、優しく抱き寄せて、聞きたかった言葉を言ってくれた

私も今の気持ちを表すかのように、侑士の背中に手を回して抱きつく

、好きや。」

「私も侑士が大好き。」


「このまま午後サボってどっか行かへん?俺、彼女と学園祭一緒に回るの夢やってん。」

「私は嬉しいけど・・・いいの?午後もホストやるんでしょ?」

「ええんや。俺にはといる方が大事やから・・・・。」

侑士は午後の当番をサボって2人で学園祭を楽しみました


 ・・・・次の日、侑士が跡部に怒られたのは言うまでもないかな






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「心の中に秘めた想い」のホスト設定で忍足君バージョンでした。
最初は跡部さんで書いてみて、好評のようでしたら忍足君も・・・という事だったので・・・。
書いてみました☆
丁度これを書いた時期が1万hitに近かったので、2004年いっぱいまで配布しておりました。
この話を先にお読みになった方は跡部さんバージョンの「心の中に秘めた想い
も読んでいただけると、話が分かりやすいかもしれません。
氷帝はホストだと思うのは私だけですか・・・?

 2004年11月26日 茜