こたえはきっと心の中に act3










景吾と付き合うことになって半年――――



、帰るぞ」

「うん」



今日は午前授業だけだから

これから景吾の家でお茶することになっている






付き合いはじめてから

景吾は毎日、一緒に帰ってくれた

マネージャーの仕事してて遅くなる時も

終わるのをずっと待っててくれた



付き合うのも初めてでどうしていいかもわからず

最初はいろいろなことに戸惑ってばかりで

そのたびに、いつも景吾に笑われていた


今まで友達だと思っていたのが急に「彼氏」になると変に意識しちゃって

どうしていいのかわからなくなる

友達のときに普通に話していたことが話せなくなる




戸惑いながらも、景吾の好きなところを探すことからはじめた

友達としてはもちろん好きだったけど

恋人としてきちんと相手のことを知っていこうと

こんなの、恋愛じゃないと言えばそれまでだけど

恋愛したことのないわたしにとっては、

今まで知らなかった景吾の新しい一面を知れる毎日が楽しくもあった





中学の頃、景吾は女性関係が激しいって風のうわさで聞いたことがあった

けど、マネージャーとして景吾を近くで見ていて

たわいもないことを話したりしていて

景吾はそんな人じゃないっていうのは知ってる

見た目よりすごく優しい人っていうのも知ってた

そして、それが自分だけに向けられたものだと思うと、余計に嬉しく感じた


















わたしは実際に付き合うまで、いつも

大恋愛を夢みていた



―――自分から好きになった人が、実は相手もわたしのことが好きで

なかなか気持ちを伝えられずにいるんだけど


最後はハッピーエンド―――


いつか―――そんな日がわたしにもくる


なんて、甘い恋愛を思い描いていた

そんな思い通りに行く恋愛なんて

いまどきの恋愛漫画にもないよね







わたしの優柔不断な態度からはじまった恋

だけど

だからこそ

こんな恋愛もおもしろいのかもしれない









それに


気持ちっていうのは不思議なもので

一緒にいる時間が増えていくたびに

相手のことを知るたびに

どんどん

景吾のことが好きになって

いなくてはならない存在になっていく

触れられるとそこから熱を帯びていく



友達だったときにはわからなかったことに気づくたびに

好きって感じるたびに

愛おしさが増していく

言葉では言えないけど

どんどん

好きっていう気持ちが増していく



















ティーカップからはアールグレイの優しい香りが鼻をくすぐり

思わず紅茶に手を伸ばしかけてやめた


広い部屋で

景吾はいつものように洋書をパラパラとめくっている

わたしも以前読ませてもらおうと手にとってみたけれど

景吾がいつも読んでいるドイツ語の小説は

文章どころか単語すら全然理解できず、1ページも見ないで終わってしまった

なんであんなの読めるんだろう

高校生のくせに








「景吾。」


「あん?なんだよ」


普段

わたしは、小説を読んでいるときに話しかけたりしない

せっかく読んでるのに邪魔したくないから

一度、付き合い始めたころ、読んでる最中に話しかけたことがあって

たわいもないことだったんだけど

それに対して

何も文句は言わず返事をしてくれたけど




なんとなく

読書の最中に話しかけるのは嫌いなんだろうなって悟った


だからそれからは邪魔しないように

景吾が読書してるときは

わたしは宿題やったり、ファッション雑誌見てたり

好きなことをして過ごしているけれど




だけど


なんかすごく

今、伝えたい

この気持ちを




景吾も

返事はしてくれたけど

わたしの方を向いてはいない

目は小説の文字をたどったまま






それでも



伝えたい









「・・・好きだよ」










半ば強制的に付き合うことになって

最初は戸惑ってばかりで

正直、彼氏として「好き」という気持ちがなくて


だけど

そんなわたしだったけど



今は心から言える

景吾と出逢って

好きになってよかったって





さすがの景吾も、わたしがそんなこと言うとは考えていなかったようで

突然の告白に洋書から目を離してわたしの方を見た



そして少し微笑んだその顔が

あまりにも綺麗で

自然とわたしも笑みをこぼした







学校ではめったに見せない景吾の素顔

二人きりのときでもめったに見せないその微笑んだ笑顔



手に持っていた洋書をテーブルに置き、

向かい合って座っていたソファーから立ち上がり

わたしの隣へ座った



「・・・知ってんだよ、そんなこと」



言い方はぶっきらぼうだけど

顔見ればわかる

景吾の優しさ












今まで自分から気持ちを口にしたことはなくて

わたしの中で、景吾の存在が大きくなるにつれて

もっと言い出せなくなってきて


恥ずかしいからとか

そんなつまらないことばっかり考えて

景吾の気持ちを考えたことがなかった

好きっていう想いが自然と口に出た

そんなこと

はじめて






「俺も、好きだぜ」



そう言って優しく肩を抱いてくれる景吾が好き

わたしも景吾に寄り添って

そっと目を閉じた





アールグレイの香りに包まれたその空間で過ごす日常





そんな日常が

すごく幸せ








                                NEXT




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早くも更新が遅くなりました(笑)
そろそろこの連載も終わりそうな予感です。
どうなるかわからないけど(笑)がんばります。


2014年8月