「うっ・・・・・・・・」

!?」

「気持・・・・・わる」

いそいそとベッドから抜け出して洗面所へと向かった

朝起きるなり、そんな状態が毎日のように続いていた




   
私は今、とても幸せです  act 3




「大丈夫かよ?」

「うん・・・・・今はね。」

さっきよりは落ち着いたみたい

だけどやっぱり食欲はなくて、ヨーグルトを一口口につけて手を止めた


あれから数週間

妊娠3ヶ月に入った頃から、いわゆる『つわり』というものが始まった

何も食べる気にならないし、朝は起きた瞬間から気持ち悪くなるし・・・・・・・・・・・・

こんなに辛いものだとは思わなかったよ

「そんなに辛いなら夜中に起きて少し食えよ。本にもそう書いてあっただろ。」

「そうなんだけど・・・・私、一度寝ると起きないの知ってるでしょ?」

初めて妊娠して、初めてつわりを体験している私には知らないことだらけ

今頼りになるのは産婦人科の先生と、妊娠についての本

確かにそこには『朝起きて空腹だと気持ち悪くなるから、夜中に起きて少しでも食べた方がいい』って書いてあったけど

私、一回寝ちゃうと起きないんだよね・・・・・・・

「だから起こしてやるって言ってるだろ。」

「だめだよ。景吾だって仕事あるのに、私の都合で起きてもらっちゃ悪いでしょ?」

「『私の都合』じゃなくて、俺にも関係あることだ。俺たちの子供なんだぜ?」

確かに私と景吾の子供だけど・・・・そうなんだけど、景吾の負担になりたくない

そんな私の想いを読みとったのか、フッと優しく笑って髪の毛を撫でられた

「バカ。お前の方がよっぽど辛い思いしてんだから、遠慮なんてしてねぇで少しは俺に甘えろ。」

「・・・・・ありがと。」

今はそんな景吾の言葉も嬉しい





「じゃあ行ってくるけど・・・・・・・無理すんなよ。」

いつものように玄関まで見送って、外へ出る前に景吾が振り返って私の頭を軽く叩く

これはいつもの景吾の癖

「分かってるよ。気を付けてね。」

「・・・・・・あぁ。」

景吾が出かけてから、区役所に母子手帳をもらいに行って、ついでに買い物してきた

今は気分がいいから普通に買い物も出来た

吐き気があるときだと外に出ることすらできなくなっちゃうくらいだもん

最近、食欲がない時はずっとヨーグルトを食べている

デザートとして、私も景吾も好きな林檎を何個か買ってきて、冷蔵庫に入れるために手にとった

「林檎好きだったのになぁ・・・・・」

今までは飽きることなく毎日のように食べていた林檎も、今は食べる気がまったく起こらない

そのまま冷蔵庫にしまって夕食の用意をし始めた










「今日、区役所に行って、母子手帳を交付してもらったんだ。」

じゃーん と言いつつ、だが嬉しそうに母子手帳を差し出してきた

「妊娠届け提出してきたのか。」

「うん。」

「大丈夫だったか?」

「大丈夫だって。」

俺の言葉に苦笑しながら答える

心配でしょうがねぇんだよ

本当なら俺がずっと傍にいてやりたいくらいなんだ

そういえば・・・と、が観たがってた映画のDVDがあったのを思い出して鞄から取り出した

「お前が観たがってた映画、借りてきてやったぞ。」

「わぁ、ありがとう。」

「お前、本当に好きだな、その映画。何度目だよ。」

「いいじゃない、結婚してからは初めて観るんだから。」

の言葉に『相変わらずだな』と思いつつ、ため息交じりにDVDをセットし始める

実際観るのは二度目だが、はこの映画は気にいってるらしい

何度も観るくらいに

少しは感動するものの、俺には普通の映画だと思うがな

何度も同じ映画観て何が楽しいんだ?と思いながらも再生ボタンを押した









「・・・・・?」

「っ・・・・・ふっ・・・・・・・」

2時間の映画が終わる頃、小さな声が聞こえてきた

紛れもなくの声だ

隣を見ると、俯きながら目を押さえていた

・・・・・・・・泣いてるのか?

前にもこの映画を2人で観た事はあったが、感動する とは言ってたものの、泣きはしなかったはずだ

しかも声をあげるほど

それにはさすがの俺もびっくりした

「お前、何泣いてんだよ。」

「わ・・・かんない。悲しくて、涙が止まらないよ・・・・・・」

か細い声で俺の質問に答えつつ、大きな瞳から真珠のような涙が零れ落ちる

どうしたんだ?

そういえば『たまごクラブ』とかいう本に書いてあったな

妊婦は急に寂しくなったり、心細くなったりするらしい

喜怒哀楽が激しくなるって書いてあったな

特につわり中は

これもその一つ・・・か?

抱きしめようと伸ばした手を、そのままの頬に伝っている涙を手で拭ってやった

そして、艶のある長い髪を優しく手で撫でた

まるで子供をあやすように

出来ることならにこんな想いさせたくねぇ

出来ることなら・・・・・・・・俺が代わってやりてぇ

昔の俺なら絶対思わなかったことが、いろいろとこみ上げてくる

だが何もしてやれない自分が酷くもどかしい

だからせめての傍にいてやりたい

そんな想いを秘めて、未だに泣きじゃくるを抱きしめた



「ありがと、大分すっきりした。」

さっきよりも大分落ち着いたのか、抱きしめていた腕をするりと解き、キッチンへと向かった

が望むならずっとこのままでもよかったのにな と思いつつ、じっとの行動を観察していた

コップを片手に冷蔵庫から水を取り出そうとしている所をみて、慌てて駆け寄った

、ちょっと待て。」

「何?」

俺の言葉にきょとん とした顔で水を取ろうとした手を止めた

がコップに水を注ごうとする前に俺は冷凍庫から氷を取り出して、素早く自分の口に放り込んだ

そして俺の行動を黙って見てたに近づき、そのまま柔らかな甘い唇に口付けた

「けい・・・・・・・っ」

びっくりして後ろへ下がろうとするの後頭部を優しく抱きしめ、俺の方へ引き寄せた

もっと俺を感じてほしくて

何より俺自身が、直接に触れられたことが嬉しくて


の唇を舌で割って、隙間からさっき自分が口に放り込んだ氷を滑りこませた

本当はもっと長くしてたかったんだがな

今日はこれくらいで勘弁してやるよ


「・・・・・氷?」

「水を一気に飲むと吐き気がするらしいから、氷でも舐めてろ。」

「すごい、景吾詳しいね。」

「あのなぁ・・・・病院で本もらってきたじゃねぇか。」

感心したように喋るに俺は思わず項垂れてしまった

おいおい・・・こういう事は妊婦のお前の方が知ってなきゃいけねぇんじゃねぇのか?

「そう、だったっけ?」

「まぁ、いいけどな。水が飲みたくなったら俺が氷をやるからよ。口移しで。」

俺の言葉に『もっと勉強します』と言って、いそいそと本をとりだしているの姿があって

その姿に複雑な気持ちになりながらも、笑った








                               
<NEXT>


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景吾お産ドリ第3弾
相変わらず景吾じゃないです、すみません・・・・・(汗)
こんな景吾もアリだと思って読んでくださると嬉しいですvv

 2005年 7月 1日 日暮 茜