「それじゃ、行ってくる。」


玄関を出て行こうとする景吾に鞄を手渡して笑顔で見送る

「行ってらっしゃい。今日は早いの?」

「そんなに早く俺に会いたいのかよ?」

「あ、当たり前じゃない・・・・・」

素直にそう答えると、景吾はクッと笑って、ポンポンと頭を軽く叩いた

「いい子で待ってんだぞ。」

私はいつまで経っても子供扱いする景吾に、頬を膨らませた

だけど、昔と変わらない優しい景吾が愛しくて、すぐ笑みに変わった

「もぅ・・・・・。気を付けてね。」

「あぁ。」

私に小さく微笑みかけてから自分の腕時計を見て、車に乗り込む景吾の姿を見送った

さて、洗い物でもしようかな・・・・

景吾と結婚してから2ヶ月、毎日そんな生活が続いていた








   
私は今、とても幸せです  act 1








景吾が仕事に行ってから食器を洗ったり、洗濯物を干したりしてるうちに、少し疲れを感じてソファーに座っていた

今まで一人暮らしをしていても、いつものように景吾が家に来ていたせいで、食事作りや洗濯も今までと変わることはなかった

朝、郵便受けに入っていた新聞を広げると、間に挟まっていた封筒が1通落ちてきた

手紙?誰だろう・・・・

落ちた手紙を拾いとると「跡部 様」の文字

いくら食事作りや洗濯が慣れてるといっても、これだけは未だ慣れない自分の名前にくすぐったさを感じる

景吾と知り合ってからは、もう10年近くなる

中学の終わりから付き合いだして、いろんなこともあったけど・・・・

景吾と同じ大学を卒業した年――――

純白のウエディングドレスを身に纏った私は、その日・・・・苗字が跡部に変わった


封筒をひっくり返して裏に書いてある差出人の名前を見ると、昔からの友人のだった

それにしても最近眠いなぁ・・・

お昼過ぎだからかな?


トゥルルルル・・・・・・・・


コール音が聞こえて小さくあくびを噛み殺しながら、傍にあった受話器をとった

「もしもし・・・・」

「あ、?」

受話器の向こうから聞こえてきたのは、の声だった

とは中学の時からの付き合い

当然、景吾のことも知ってる

学生の頃は毎日のように遊んでいたのに、最近は忙しいせいか、こうやって話すこともできなくて

久しぶりに聞く友人の声に、声をあげて喋りだした

!久しぶりだね。」

『新婚生活はどう?』

「うん、普通だよ。」

『何だ〜、もっとノロケてよ〜。』

私の答えに、つまんなそうにしているの様子が電話越しでも容易に想像が出来て、声をあげて笑ってしまった

「あはは!それでどうしたの?」

『あ、手紙届いた?』

手紙、と聞いて、目の前にあった封筒を手にとった

「うん。今開けようと思ってた所。」

『そうなんだ。手紙見てもらえば分かると思うけど・・・・・・・・・・・・・今度、結婚するんだ。』

一呼吸おいて、ゆっくりと でもとても幸せそうな声での結婚発言

前に付き合ってる人がいるってことは聞いてた

私と景吾の結婚式にも同伴で出席してくれて・・・・

いつかは結婚するんだろうな〜とは思ってたけど、まさかこんなすぐに結婚とは思わなくて、驚きと同時に嬉しさでいっぱいになった

「え、本当に?おめでとう!!式はいつ?」

「ありがとう。それでね、本当は達にも出席してほしかったんだけど、都合で身内だけで式をやることにしたんだ」

本当は誘いたかったんだけど・・・ごめんね? なんて心苦しく言うに、残念だけど仕方ないよ と告げる


同級生の中では私達が一番早く結婚した

だから他の人の結婚式って出席してみたかったんだけど・・・・身内だけでやるならしょうがないもんね

「そうなんだ。じゃあ今度お祝い持って遊びに行くからさ!景吾と一緒に。」

「跡部かぁ・・・来てくれる?『面倒くせぇ』で終わりそう・・・・」

もっともらしい台詞に声をあげて笑った

さすがに中学からの付き合いというだけあって、景吾の性格を見抜いてる

「大丈夫。絶対連れて行くから。」

「分かった、達が来るの楽しみにしてるよ。それにもうも『跡部』だったよね、ごめんごめん。」

「そうだよー。」

それから2人して何気ない会話をしていた


との電話を終えたあとで、封筒を開けると『結婚します』の文字と共に、幸せそうなと旦那さんが写っていた

そっかぁ、も結婚か・・・・・

思えば私と景吾が付き合いだしたのは中学の3年からで、喧嘩も何度もした

その度にや、景吾と同じテニス部の忍足君達に相談してたんだよね・・・・・・

あの頃を思い出してフッと笑った



その時、また電話が鳴り響き慌てて受話器をとった

『もしもし』と私が言う前に、受話器の向こうにいる相手の方が先に喋ってきた

か。』

「景吾。どうしたの?」

まだ仕事中のはずなのに電話かけてくるなんて珍しい・・・

何かあったのかな?

『今日は早く帰れそうだから・・・・・』

『早く帰れそう』その言葉が嬉しくて、景吾の言葉を最後まで聞かずに遮った

「本当?じゃあたくさんご飯作っておくね。」

『あぁ・・・・じゃあな。』

電話を切って、嬉しさで緩みきった頬のまま、早速晩御飯の支度にとりかかった








「お帰りなさい。」

いつもよりも早い景吾の帰宅が嬉しくて のことも早く伝えたくて

いつもよりも笑顔で玄関まで向かえに行った

「なんだよ、ニヤニヤして・・・・」

「ニコニコって言ってよ。あのね、今日から手紙が届いたんだぁ。」

そう言って今朝届いた手紙を景吾に手渡した

ネクタイを片手で外しながらリビングへ向かい、私も後にくっついて行く


「へぇ。の奴、結婚するのか。」

「うん。だから落ち着いたら遊びに行こう。」

「何で俺まで行かなきゃいけねぇんだよ。」

『面倒くせぇ』と呟く景吾に、さっき電話で喋っていた言葉が脳裏を過ぎって苦笑した

本当にの言うとおりだ・・・・・

笑ったことに気づいて『何だ?』って顔をされたけど「なんでもない」と誤魔化して

「いいじゃない、長い付き合いなんだから・・・・」

私がそう言えば景吾はしぶしぶと了解する

「ちっ。・・・・しょうがねぇな。」

景吾も納得してくれたようでよかった

早速次の休みの日にでも、お祝い買いに行かなきゃ









 *


そんな毎日が続いていたけど、そんな生活に少しの変化が訪れた

それはから結婚報告を受けた2〜3日後の朝――


「お前、最近眠そうだな。」

朝ごはんも食べ終わって片付けしながら小さなあくびをした私に、景吾が話しかけてきた

「・・・ちょっとね。少し熱があるからかな。」

最近微熱が続いてるんだよね

別に動けないほどじゃないから景吾には言ってなかったんだけど、やっぱり分かっちゃうのかな?

「バカ、熱があるならきちんと寝てろ。」

「大丈夫だよ、微熱だし。」

食べ終わった食器片付けるから・・・・と景吾の前にある食器に手を伸ばしたら、その手を掴まれた

・・・なに? と思って景吾の方を見ると、いつにも増して真剣な表情の景吾に戸惑った

「景吾?」

「・・・・・・・・。」

「なに?」

一呼吸おいて、確認するようにゆっくりと口にした言葉

「・・・今月、きたか?」

『きたか?』の意味は明白

とっさにカレンダーにくぎ付けになる

「・・・まだ、きてない」

「・・・・もうきてもいい頃だよな?」

私もまだこないなぁ とは思ってたけど・・・

改めてカレンダーで確認すると、既に1週間くらい遅れてる

「うん・・・・1週間くらい遅れてる・・・・」

そこまで考えて2人して顔を見合わせる

ここ最近続いている微熱といい・・・

毎月定期的にくるはずなのに、今月は既に1週間遅れてるといい・・・

しかも最近、無性に眠くなる

この症状・・・・まさか

「もしかして・・・・・・・・」

続きを言う前に、景吾はガタッと椅子から立ち上がった

「病院行くぞ。」

「今から?」

行動の早い景吾に私はついていけず、まだ椅子に座ったまま返事した

「当たり前だ。早いに越したことはねぇんだよ。」

「でもただの風邪かも・・・・」

「風邪でも病院に行かなきゃ治らねぇだろ。いいから早く支度しろ。」

大慌てで支度するために小走りしそうになったら、見透かされていたのか景吾に

「バカ、走るな。」

と怒られ、「ハイ・・・」と言いながらも、急いで支度を始めた

景吾は携帯片手に今日の仕事のスケジュールの確認をしてるみたい


まだ分からない

ただの風邪かもしれない その可能性もある

確信はないけど・・・・・

だけど、もしかして・・・・という期待も少なからず持っていた


果たして結果は―――??








                               <NEXT>


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ラムたん主催のオフ会で決まったお産ドリーム!!
第1弾を書いてみましたv
・・・・こんなのでいいのかな??いつも以上に偽者景吾だー!!
さすがに結婚してるのに「あーん?」は入れられないかな、と思って、はずしました(笑)
・・・・入れた方がいいのかな??

 2005年 6月23日 日暮 茜