act3 〜この気持ちは・・・・何?〜
あれから1週間
普通の毎日を送っているんだけど、あの日以来1つ変わった事が・・・・・
跡部が、一度も喋った事のなかった私に あんまりたいした話じゃないんだけど、話しかけてくるようになった
あの一件を許したわけじゃないけど、次第に私も普通に話すようになった
それに比例するように 跡部の女関係の話を聞くことはなくなった
愛達や周りの女の子から 跡部の事を聞くのはこんな話―――
「そういえば、最近跡部君って女の子と一緒にいないよね。」
「何か、今まで付き合ってきた女の子と手を切ってるみたいよ。 どうしたんだろう・・・・」
それでも熱狂的な跡部のファンの子達は 跡部の周りにいるみたいだけど
・・・・・・でも、私には関係ないもん
「可奈〜 やだよぉ。」
「私もこの席好きだし淋しいケド、こればっかはね。でも同じクラスには変わりないんだから・・・・。
愛なんて 『やっとアリーナから開放されるーっ!!』 って喜んでたよ。」
私が嫌だと嘆く理由 それが今から実行される席替え
折角窓際っていう絶好のポジションで、後ろには仲良しの可奈がいるのにどうして席替えなんかするのよぉ〜っ
月曜の1時間目
これは先生がいきなり言い出したこと
「する事ないから 今日は席替えでもするか。」
・・・・・する事ないって・・・・・担任がそんなんでいいのか??
ま、いーや 席替え席替えv っと ・・・・・・・・席替え??
「やだーーっ!!」
と、私が出した声の何倍もする声が いろんな方向から同時に聞こえてきた
「きゃ〜〜っ!!やったぁv」
待ってました と言わんばかりに声を上げたのは 全員女の子
な、何? みんなそんなに席替えしたかったの?
私が目を丸くしてると、後ろで可奈も嬉しそうに笑ってた
「でもさ、これで跡部君の隣になれたら最高vv」
「はぁ?」
・・・・じゃあみんなが『やった〜!!』と叫んでいた女の子達はその為だったの?
騒がれている当の本人は、どうでもいいって顔をしてる
「でも跡部の隣になんかなったりしたら 他の女子からの視線が怖いよ・・・・・。」
「そんなのいちいち気にしてたら なれるものもなれなくなるよ。 よ〜し、がんばるぞv」
そう言うと、可奈は私を連れて くじを引きに教卓の前に並びだした。
私は跡部の隣になるより、窓際になれる事を祈るよ
「12番っと・・・・・廊下側じゃん。」
引いた紙を黒板に書いてある番号と照らし合わせて、自分の席を確認すると、可奈はため息をついた
「私は・・・・・・・また一番前だ。」
愛が私達の所にきて、がっくりと肩を落としながら わざわざ報告に来てくれた
「超かわいそーvv」
「でも愛は目が悪いんだからちょうどいいんじゃない?」
「・・・・・2人とも、何か嬉しそうに聴こえるんだけど・・・・・」
恨めしそうに私達の事を睨んで、引いた紙を くしゃっ と丸めた
「「気のせいですよ〜。」」
怖いわ 愛ちゃん
「今回はアリーナじゃないだけ まだマシか・・・・・」
でもなぁ・・・・・ と落ち込む愛をなだめる
とにかく愛の機嫌を損ねないように笑ってごまかす
でも2回連続で一番前はキツイなぁ
「そういえばはどこなの?」
「ふふふv 実は超いい席なのv」
「どこ?」
「窓際の一番後ろvv」
引いた紙を2人の前に差し出して見せびらかす
い〜だろ〜っ これでまた寝れる!!
「今回は3人とも席が離れちゃったね。」
「でも授業中だけだし・・・・・・」
「はい、じゃあみんな席移動してー。」
先生が言うと同時に、みんな荷物を持って席を立った
私は1つ後ろにずれただけだし 新しい自分の席に座って荷物の整理をしてた
よかった窓際でv これなら隣が誰でも文句ないし
そう・・・・・隣が誰でも・・・・・・
「よう、。」
・・・・その声は まさか・・・・・
ゆっくり声のした方を向くと 私の中で一番最悪な人物が隣に立っていた
「・・・・・跡部・・・・君。」
自分の中じゃ、こんな奴に 『君』 付けなんてしたくないんだけど、さすがに普段から呼び捨てにできるほど、仲良くもないから 一応付けてみた
まさか隣・・・・?
あからさまに嫌そうな表情をした私を、奴は笑って通り過ぎっていった
やだな アイツ私の近くの席なのか
でも隣じゃなくてよかった
アイツがどこに座るのか見てたら、見事に男子の席の一番前に腰を下ろした
私の隣に座ったのは清水君
清水君は私と同じくらいの身長だから 男子としては結構低い方だ
そして、おとなしい性格 誰かさんとは大違い
本当、見習ってほしいくらいだよ
「よろしくね、清水君。」
「うん、でも僕、目が悪くて・・・・・」
そういう会話をしていたら、一番前の席に座っていた跡部が 先生に話しかけてるのが聞こえてきた
「先生。清水君、目が悪いから席を交換したいと言ってるんですが、いいでしょうか?」
「あら、清水君 そうなの?」
へ? 一体何の話をしてるの?
清水君と跡部は いつそんな会話をしてたの?
「あ・・・・はい。できればそうしてもらえると僕も助かるんですが・・・・・」
「じゃあいいわよ。清水君が一番前で、跡部君が一番後ろね・・・・・」
えっ・・・・・っていう事は・・・・・??
一時 思考回路が停止する
まさか・・・・・・・
「そういう事だ。」
どうしてそうなるわけ〜〜??
周りの女の子はすごい顔して睨んでるし (特に最初に跡部の隣だった子)
私のせいじゃないのにぃ〜!!
どうして? どうしてこうなっちゃうの?
頭を抱え込む私を見て、跡部が小さく笑ったのが聞こえた
そして 私に追い討ちをかけるように先生が喋りだした
「今年は受験で 大半の人が高等部に持ち上がりだけど、他の学校を受ける人もいるし、変なストレスになると困るから席替えはこれが最後にします。卒業までこれで我慢してね。」
「えぇ〜っ!!どうして?」
と女子からのブーイングの中、私も負けずに身を乗り出して叫んだ
「もう席替えしないのぉ!?」
私は嫌そうにそう言ったのに、他の人には嬉しそうに聞こえたみたいで また キッと私を睨んだ
だから席替えしないのが嬉しいんじゃなくて・・・・・・・もう1回席替えしようよ!!
そう叫びたいが叫べる状況じゃない・・・・・・
「ま、そういう事だ。 これからよろしくな。」
「あ〜・・・よろしく、跡部君。」
・・・・なっちゃったものはしょうがないか・・・・・
ここは しかたなく腹をくくる
「何だよ、そのやる気のない返事は。俺の隣になれて嬉しくないのかよ?」
「・・・・・・嬉しくない」
ボソっと 聞こえるか聞こえないかくらいの大きさで呟いた
つい本音が・・・・・
自分の隣になる女の子は、みんな嬉しいと思ってるのか?この男は・・・・・
「あぁ? 聞こえねえな。」
この言い方は絶対聞こえてた!!
それなのに私の返事が納得できないのか、ワザと聞こえないフリをしてくる
「はいはい、嬉しいです。すっごく嬉しいです!! これで満足?」
もう返事するのも面倒くさくて なげやりに言ったら、その会話を聞いていたのか周りの女子からの視線が痛い・・・・・
本当、誰か席代わってよ・・・・・
「クッ・・・・・あぁ、満足だ。」
何が『あぁ、満足だ。』よっ!!
あぁ、神は私を見放したのですか・・・・・・
どうしてこんな酷い仕打ちをなさるのですか
私、こんな人とこれからうまくやっていく自信ありません・・・・・
*
眠い・・・・・・・
今の席に やっと慣れた頃 突然授業中に訪れた眠気
何かしてないと確実に寝る・・・・・
でも寝たらまた居残りさせられるかも・・・・・そんなの嫌〜っ
今日の天気が これまたポカポカいい天気
こんな日に勉強なんて出来ないよぉ
寝るには最適な気候を少し恨めしく思いながら黒板を見上げたら、見た事のない数式が並んでいた
・・・・もうこんな所まで進んだの?
ヤバイ・・・・全然分からない
愛か可奈にノート見せてもらおうっと
途中から授業を聞いても分からないと判断して 何かしようと考えた
・・・・・メールでも打とうかな
あくびを噛み殺しながら 鞄から携帯を取り出した
ふと 視線を感じて隣を見ると 跡部が机に右肘を立てて手に顔を預け、目を閉じていた
寝てる・・・・・のかな?
私は跡部の目の前で手をヒラヒラさせてみたけど、気づく様子もない
完璧寝てる・・・・・
でも、何でこっちを向きながら寝るのさ
何か『跡部様が授業中に寝てたんだけど、いつも伏せて寝てるから寝顔が見れないの〜!! 一回でいいから寝顔見てみたいv』と、前に跡部の隣だった女の子が言ってたのを聞いた気がする
跡部でも授業中寝たりするんだ〜 とその時は思ったなぁ
いつもつまらない授業の時はサボってるのに
でも私が見る限り、というか跡部が私の隣になってから 跡部がサボってるのを見た事がない
サボりたい気持ちもよく分かるけどね
特にこんな天気のいい日なんて勉強なんかしてられない!!
しかも跡部は生徒会長としての仕事もあるし、部活では200人以上いる部員を 部長としてまとめ上げてる
そりゃあ授業くらいサボりたくなるよね
いくらサボってても成績がトップだっていうのは気に入らないけど・・・・・
ずるい・・・・・・私なんて・・・・・(泣)
とにかく、跡部の寝顔なんていつでも見れるわけじゃないわ レアだ
そう思って私は跡部とは対照的に、左肘をついて跡部の顔を見た
・・・・・どれくらいみていたんだろう
初めは跡部に『寝てたでしょ? 見ちゃった〜』ってからかってやるつもりだった
思えば、最初はあんなに嫌がってたけど、いろいろ話してみると、思っていた程とっつきにくくもなく 気づけば普通に話していた
いつの間にか、呼び名が『』から『』へ
『跡部君』から『跡部』に変わっていた
景吾と呼んでやろうと思ったけど、そこまでは勇気がなかった
跡部は『別にいい』と言ってくれたんだけど、周りが怖かったから
それでなくても 普段から喋ってるだけで睨まれたりするのに・・・・・
できることなら教室ではあまり喋りたくないんだけど、隣の席だから どうしても会話をする機会が多くなってしまう
跡部に『』と呼ばれるのは不思議と嫌じゃなかった
前の私からは考えられないな・・・・・・
最初に名前で呼ばれた時はかなりびっくりしたけど
普段男の子から名前で呼ばれることなんてないから・・・・・・
そんな事を思いながら じっと見つめる
目を閉じてても整った顔立ち
女の私が綺麗と思うくらい
見れば見るほど目が離せなくなる
「・・・・・オイ、いつまで見てるつもりだ?」
閉じていた口がいきなり動いたと思ったら、跡部の日本人離れしたブルーの瞳をうっすらと開けた
えっ・・・・・ 私の事・・・・だよね?
急に話しかけられて思わず肩が ビクッ と揺れた
どうして見てるって分かったの? ずっと目を閉じてたのに
「起きてたの・・・・・・」
「あぁ、お前ずっと見てただろ? 知ってたぜ?」
俺の前で手をかざしてたのもな・・・・・と教科書を開きながら言った
寝てなかったの? 全部知ってたの? ならどうして寝たふりなんてしてたの・・・・?
「俺に惚れたか?」
いきなり突拍子もない事を言ってきた
はっ? 突然何言ってるの?
「なっ・・・・・・違うわよっ!!」
いきなりそんな事を言う跡部に顔を赤くして反論し、気づけば叫んでいた
今は授業中
「何が違うんだ?」
当然声をかけてくる先生 笑ってなんかいない
いや、先生が違うんじゃなくて、この俺様野郎が・・・・・・
どうしよう また居残りなんて嫌〜
でも言い訳なんて見つかるハズがない
それでも何とかして言い訳を探そうと、目を泳がせてる
その時、思わぬ助け舟がでた
「さんは、先生が今黒板に書いた数式が間違ってると言ったんですよ。」
へっ?
先生と私が同時に声がした方を向くと 跡部が先生を見ながら黒板を指差していた
数式って??
「・・・・・本当だ。悪かったな、。」
間違いに気づいたのか、急いで前に戻り、黒板に書いた文字を消していった
間違った所を直してるみたいだけど、私にはどこが違ってるかなんてさっぱり分からない
本当に間違ってたんだ・・・・・と黒板を見てると
「お前、どこが間違ってるのか分からないのか?馬鹿だな。」
「・・・・馬鹿ってなによ。数学はちょっと苦手なだけよ。」
「にしたって、あれは誰でも分かる間違いだったぞ?」
「悪かったわね、そんなのも分からなくて。」
ふん とソッポを向いて教科書とノートを開く
「それより、言う事あるだろ?」
・・・・言う事?
言ってる事が分からず、首を傾げてると、少し苛立ったような口調で
「誰がお前を助けたんだ?」
「今のは元はと言えば跡部がっ・・・・・・・。」
100%跡部が悪いのに、本人は全然悪いと思ってない
それどころか、私を助けたことのお礼を言わせたいらしい
「お礼の一つも言えねぇのか、チャンは。」
ムカつく・・・・・・
言えばいいんでしょ!!
「・・・・アリガトウゴザイマシタ。」
「・・・・まぁ、いい。」
棒読みの返事に少し不満を持ったみたいだけど、許してくれたみたい
だって私は悪くないもん!!
跡部が急にあんなこと言い出すから・・・・・・・
目線は教科書に向いているものの、内容は全然耳に入ってこない
跡部に惚れた? まさか私が?
―――そんな事あるはずない
じゃあどうして彼の寝顔を見ていたの?
―――アイツがこっちを見てたから なんとなく
どうして名前で呼ばれても嫌だと思わないの?
―――それは・・・・・
<next>
少しは進展があったでしょうか?
ちゃんは跡部君に惚れたのでしょうか・・・?