「やっぱりここにいた〜。」

お昼休み
彼を探して屋上に来ると、いつもの所に座っていた

「遅ぇよ。」
アンタが最初から屋上にいるって言ってくれればもっと早くこれたわよ!
って言いたかったけど言うと後が怖いからやめといた。

「それはすいませんでした〜。」

軽く流して隣に座ってお弁当を渡した
付き合い始めてからは、いつもお弁当を作ってくる
景吾はいいもの食べてるんだから、文句の一つでも言われるのかと思ったけど、いつも残さず食べてくれる
それが嬉しい

「もうこの時期になると屋上は寒いんじゃない?」
「お前の鍛え方が足りねぇんだろ?」
文化系のあたしとテニス部のアナタを一緒にしないでほしいんですけど・・・・・・

「何それ?寒いものは寒いんです!!」
昼間はまだ日があるものの、時折吹く風が明らかに冬を告げている
次からはホッカイロの出番かな〜

そんなことを考えながらもくもくとお弁当をたいらげる

食べ終わったお弁当を片付けていると、景吾が急に立ち上がった

「ど、どうしたの?」

景吾は何も言う事なく、私の手を取り立たされた

「こうすれば寒くないだろ。」

いきなり後ろから抱きしめられて、私の体温が上がっていくのが分かった
「ち、ちょっと・・・・・・」
景吾が優しくて嬉しい・・・・・・・・・・って違うっ!

公共の場ではもうちょっとおとなしく・・・・・というか
恥ずかしいから!!

「けっ、景吾。誰か来たら・・・・・。」
「誰も来ねぇよ。が寒いと思ったらいつでも俺がこうしててやるから。」
「・・・・・・・・うん。」

いつもより優しい景吾に、これ以上文句言うことなく
素直に従う

いつもは俺様だけど
本当はとっても優しい景吾が大好き


午後はそのまま2人でサボりました




     跡部景吾





「Trick or Treat!」

テストが近いから一緒に勉強しよう、と言って残っていた放課後の教室
私の苦手な数学を教えてもらってた時にいきなり言われたこの言葉

「えっ?」
「せやから、Trick or Treat!」

私の質問には答えず、先ほどの言葉を繰り返す
どうして急にそんな事を言い出したのか、そればかり頭にあって、返事をするのをすっかり忘れていた
そしたらいきなり侑士の顔が私に近づいてきた

「ど、どうしたの?」
「どうしたの?やないよ。がお菓子くれへんからイタズラするんやん。」
「はっ?」
「もう遅いで。」
「侑・・・・・んっ。」

これ以上喋るな とでも言うような強引な口付け
こうなってしまってはもう彼のペース
そういえば今日って・・・・・ハロウィンだったっけ

「・・・もし私がお菓子あげてたらどうしてたの?」
「そんなの、それでもいたずらするに決まってるやん。」
「それじゃあ聞く意味ないじゃん・・・・。」
「まぁ、細かい事は気にせんといて。・・・・、好きやで。」

いつも強引な彼だけど、本当はすごく優しい
急に侑士に触れたくなって、体温を感じたくなって
侑士の唇にキスをした

「私も好きだよ。」

いつも侑士からしてくるから

たまにはこんな日があってもいいよね―――?



忍足 侑士     










「寒〜い!!」

10月にしてはいつもより寒い今日
手を擦り合わせながら周助と歩いていく

「そうだね。」
「なんか周助寒そうに見えないよ。」
「そんなことないよ。」
「そぉ?」
「うん。」

ニコっと微笑む周助につられて、私も笑った
急に冷たい北風が頬をかすめて
本当に冬が近いんだな・・・なんて思った
そしたら突然首元に温かさを感じた

ふわっ

その正体はマフラー

「周助、これっ・・・。」
「ちょうど持ってきてたんだ。」
「私なら大丈夫だから。周助使って?」

周助が持ってきたのに、私に貸してくれたら意味ないじゃない
首に巻いてくれたマフラーを取ろうとした手を、周助に抑えられて

「大丈夫だよ、僕はそんなに寒くないし。それに・・・・・」

そのままその手を絡めて、歩き出す

「こうしてれば2人とも温かいでしょ?」

「――――うん。」

繋がれた手は、周助が貸してくれたマフラーや、私の心と同じくらいに
暖かかった




   不二 周助









いつものように昇降口で清純を待っていた
数分後、聞き覚えのある声が聞こえてきて振り返ると、女の子に囲まれた清純が歩いてきた
楽しそうにしながら・・・・・

「・・・清純のバカっ!!」

今まで付き合っていても、周りに女の子が絶える事のない状態に我慢ができず
一人で怒って帰ってきた
いきなり怒って清純もかなりびっくりしてるよね
今まで我慢してたけど、もう限界だよ・・・・
寂しいのは私だけなの?
いつからこんな嫉妬深くなったんだろう・・・・
こんなんじゃ嫌われてもしょうがないよね


ピーンポーン――――――


・・・・・誰だろう
今は出たくない気分
でもしつこいくらいの呼び鈴を鳴らされ、しょうがなく玄関に向かった
そして、玄関のドアを開けると、意外な人物が立っていた

「・・・・清純・・・・・?」

どうしてここに・・・?
家に訪ねてくるのも、こんな切ない顔を見るのも初めてで・・・・
清純は驚きを隠せない私を見ながら、乱れた息を整えて、ゆっくりと喋りだした

「・・・・・・ごめん!」
「えっ。」

「俺、不安だったんだ・・・。が俺から離れていっちゃいそうで。
それに俺が女の子と喋ってても何も言わないし。」

それって・・・・清純も不安だったって事?
今まで清純と女の子が喋ってるのも見て、心が痛んでいたけど言えなかった
それが逆に清純を不安にさせてたの?

「私、清純が大好きだよ。離れてなんかいかないよ・・・・・私こそいきなり怒って・・・ごめんね。」
「それだけ俺の事好きだって証拠でしょ?」
「う・・・・・うん。清純は?」

そしたら抱き寄せられて、唇に温もりを感じた
紛れもなく清純の温もり


「俺は愛してる・・・・。」


お互い本当の気持ちが見えなくて不安になっていたんだね
じゃあこれからは遠慮なく言ってあげるから

覚悟しといてね



千石 清純     







今日は体育祭
ちょっと張り切りすぎてころんじゃった

「いててっ・・・・。」

右足を引きずるように保健室へ行くと、私の大好きな人が忙しそうに働いていた

「長太郎君。」
「あ、先輩。」

丁度手当てが終わった所みたいで、後片付けをしている所だった

「先輩っ・・・怪我してるじゃないですか!!」

そして私の右ひざを見て、すぐに駆けつけてきてくれた
それが少し嬉しい

「ちょっとドジっちゃって・・・」
「先輩は少しあぶなっかしい所がありますからね。」
「ちょっとそれどういう意味〜?」

笑いながら話す長太郎君に、私もつられて笑みがこぼれる

「でも傷は浅いみたいでよかったです・・・。」

と慣れた手つきで手当てをしていく
さすが運動部

「もう少しで赤組に追いつくからがんばらなきゃっ!!」
「無理してまた転ばないで下さいね。」

苦笑する長太郎君

「は〜い。」

心配してくれてるのかな・・・?
それだけで嬉しくなる

「でも、そういう先輩も放っておけませんけどね。俺がずっと傍についていないと不安ですよ。」

何・・・?
・・・・今、さらりとすごい事を言われた気がする

「長太郎君・・・・?」

怪我なんていつもは、痛くて保健室に行くのも面倒で嫌なことばっかだけど・・・・
今日は何か得した気分

「怪我なんてさせませんよ。・・・・先輩は俺が守りますから。」


この日
私にとって、かけがえのない人ができました




   
鳳 長太郎