ゲームの行方
今日も絶好の部活日和
練習が始まる前に洗濯物干さなきゃ
マネージャーである私は、みんなが部活を始める前も仕事がたくさんある
それに今日はボール確認もしておいてくれって手塚君に頼まれてたんだった
急がないと手塚君に怒られちゃう
「先輩、今日は一緒に帰ってくれるよね。」
洗濯物を干そうとした時、私の目の前で確信つくように笑いながら言い放つ人
越前リョーマ君
最近毎日のようにこの質問される
・・・・・一応こんなことを聞いてくる理由は分かってるつもりだけど
「普通『帰れる?』とか疑問系で聞くんじゃないの?どうして始めから一緒に帰ることになってるの?」
「いいじゃん、別に。」
よくないって・・・・
一応私の方が年上なのに、敬語を使う気がまったくない
私の発言もまったく効果がないようで、思わずため息をついた
おかげで洗濯物が干せないじゃない
それでなくても仕事たくさんあるのに・・・・・
「で、どうなの?」
なかなか返事をしなかった私に、また聞いてくる
どうなの? って言われても・・・
なるべく目線を合わせないようにしながら答えた
「・・・・・部活終わってもまだ仕事残ってるし、リョーマ君先帰っていいよ。」
私の返事を聞いて、またか というふうにリョーマ君が大きくため息ついた
「いつもそれ。」
「何が?」
「いい加減返事くれてもいいんじゃない?」
返事 と聞いて一瞬動きが止まった
だって・・・・・この前はあんなこと言ってたくせに
そう
私は、この前リョーマ君に告白されました
あれは、今日と同じように部室にいたときのこと・・・・・
片付けもだいたい終わったし、後は部誌書くだけかな
と、机に座って部誌を広げていると部室のドアが開く音がした
思わず振り向いたらリョーマ君だった
「あれ、まだ練習してたの?」
てっきりみんな帰ったかと思ったのに
「・・・・ッス。」
帽子のつばに手をかけながらそれだけ言うと、部室に入ってきた
あ、着替えるのか 私がいたら着替えられないもんね
慌てて席を立った
「ごめんね、今出て行くから・・・・」
部誌を持って外へ出ようとすると、リョーマ君が声をかけてきて思わず足が止まった
「ねぇ、もうすぐバレンタインだよね。」
「あぁ〜、もうそんな時期か。」
バレンタインというものは、お正月気分が抜けた時にやってくる
女の子たちはみんな、苦くて甘いチョコレートに勇気をもらって自分の想いを伝える日
でも私には気持ちを伝えたい相手もいないから、バレンタインと言われてもあまり特別な日ではない
「・・・・先輩は誰かにあげるんスか?」
「ううん、特には・・・・・あ、でもテニス部のみんなには毎年あげてるから今年もあげないと。」
やっぱり毎日のように部活で一緒にいるんだし、感謝の意味を込めて、ね
私の答えを聞いた途端、リョーマ君がムスっとした顔になっていたので慌てて言葉をつなげる
「もちろんリョーマ君にもあげるよ!!甘いもの平気?
・・・って言ってもリョーマ君、もてるから私のなんていらないか。」
「・・・・・やだ。」
「・・・え?」
「俺だけにしてよ。」
リョーマ君が突然意味の分からないことを言い出して、思わず聞き返した
「何が?」
「チョコ・・・・俺だけにちょうだいよ。」
「ど・・・・して?」
部員全員にあげるならわかるけど、どうしてリョーマ君1人しかあげちゃいけないの?
チョコを自分だけにくれ という意味がどういう意味か少しは理解しているつもりだけど、まさかと思った
まさかリョーマ君が・・・ねぇ?
さっきの言葉がどういう意味か知りたくて答えを待っていると、リョーマ君が、私の方に歩み寄ってきた
「大分我慢したんだけど、もう限界。
俺・・・・・先輩のこと、好きだから。」
顔色一つ変えずに・・・・・ううん、少し頬を赤く染めて言うリョーマ君に、私の方が驚いた
今、私のこと好きって言った!?
さっきの、まさかと思った仮説は現実になった
「えっ!!リョーマ君!?急にどうしたの?」
「急じゃないッスよ。ずっと前から先輩のこと好きだったんだ。
先輩は? 俺のこと、どう思ってる?」
「私・・・・・・?」
告白されることなんて初めてで、どう返事していいのかわからない
まして、リョーマ君のことはずっと可愛い後輩だと思っていたんだから、すぐに返事をしろっていう方が無理だよ・・・・
返事に困って俯いていると、リョーマ君がフッと笑った
「ま、いいや。バレンタイン、楽しみにしてるよ。
もし俺のこと、好きならチョコちょうだい。それが返事でいいから。」
それだけ言うと、着替えずに荷物を持って帰ってしまった
リョーマ君が私のこと・・・・・?
今までそんなこと、考えたこともなかった
リョーマ君の姿を目で追いながら、しばらく私の思考回路が停止していた
いつまでたっても部誌を持ってこない私を見に来た竜崎先生に見つけられるまでずっと・・・・・
それ以来、どうリョーマ君と接していいのか分からなくなっちゃって
なるべく話さないようにしようと思っていても、同じ部活だからどうしても接する機会はある
普通に話してるつもりなんだけど、あの出来事以来、いつも私の心臓の鼓動は早い
今までなかったくらいに・・・・・
そんな私の気持ちを知ってるのか知らないのか、リョーマ君は今まで通り話しかけてくる
本当に今までと変わらない態度に、だんだん私もぎこちなさはなくなってきたけど、前よりも鼓動は数段早くなってる
そして、それ以来何かと理由つけては私の教室に来たり、部活終わるまで待っててくれたりするようになった
今まで気づかなかった新しい一面を見せられるたびに嬉しくなる自分がいた
私の事を好きって言ってくれた時の顔が、いつまでも頭に残って離れないのは、どうして・・・・・?
*
「もうすぐバレンタインだね。」
休み時間、隣の席の不二君が私に声をかけてきた
『バレンタイン』という言葉に反応してしまう
――俺だけにちょうだい―― リョーマ君の言葉が頭の中に残ってるから
「そ、そうだね。」
「ちゃんは今年も僕達にくれるの?」
「えっ・・・・・」
返事に困っていると、今までの会話を聞いていたのか菊丸君が話しに加わってきた
「え〜っ!!今年はちゃんからチョコもらえないの?」
「まだ分からないけど・・・・」
みんなもてるんだから私のチョコなんていらないでしょ〜?
と思ってみても、口には出せない
リョーマ君のこともあるし、いつもならすでにみんなのチョコは用意しているんだけど今年はまだ買っていなかった
「・・・あ、越前。どうしたの?」
私が言い終わる前に、不二君がドアの向こうにいたリョーマ君に気づいて声をかけた
リョーマ君!?・・・・・何てタイミングで来るの・・・・
「先輩、ちょっといいスか?」
「・・・・・」
何か怒ってる気がする・・・・・
不二君はリョーマ君を見て、クスって笑ってるし
返事が出来ないでいると、それを不思議に思った菊丸君が私の顔を覗きこんできた
「ちゃん?おチビが呼んでるよ?」
「・・・うん。ありがと」
何か気まずくてあんまり行きたくなかったけど、まさか行かないわけにはいかない
しぶしぶリョーマ君が待っている廊下へと足を運んだ
「・・・・・・どうしたの?」
「やっぱり他の先輩達にもチョコあげるんスか?」
やっぱり聞いてたんだ・・・・・
「・・・・分かんない。」
「そうっスか。」
一瞬俯いたかと思うと、それ以上何も言わずにスタスタと教室から離れていった
リョーマ君の背中がすごく悲しげに見えて、姿が見えなくなってもリョーマ君が去った方を見ていた
次の日
リョーマ君は毎日のように私のクラスに来ていたのに、その日は一度も来ることはなく放課後の部活の時間が来た
今日は朝練もなかったから、一度もリョーマ君の顔を見ていない
どうしたんだろう・・・・・いつも来ていたのに
やっぱり原因があるとしたら昨日、だよね
私、リョーマ君のこと・・・・傷つけちゃったのかな
ため息をついて部室のドアを開けると、中には手塚君がいた
「。」
「何、手塚君。」
「越前の姿が見えないんだが、少し急ぎでな。悪いが探してきてもらえるか?」
「え・・・・・分かった。」
「頼むぞ。」
今はリョーマ君とどう接していいのか分からなくて少し戸惑ったけど、マネージャーの私が断れるはずもなく、荷物を置いて探しにでた
まだ部活始まる前だし、水飲み場にいるかなぁ・・・
いたら・・・・普通に話してくれるかな?
重い足取りで水飲み場まで来たが、そこにリョーマ君の姿はなかった
いない・・・・どこ行ったんだろう
キョロキョロ辺りを見回している時、どこからか声が聞こえた気がした
準備室の裏から・・・・・?
水飲み場のすぐ横には準備室がある
ここにネットとかテニスボールとか置いてあるんだけど・・・・・
どうしてあんな所から声がするの?
何気なく声のする方へ足を向けると、目的の人物の姿が見えた
何だ、こんな所にいたんだ と、声をかけようと思ったけど、あと1歩が踏み出せなかった
女の子と一緒にいたから
反射的に足が止まる
別に会話なんて聞くつもりはなかった
だけど、聞いてしまった
「ごめんね、急に・・・・・」
「で、何?」
「私ね・・・あの・・・・・」
「用がないなら戻るよ。部活始まるし。」
リョーマ君がテニスコートへ向かおうと女の子に背中を向けると、今まで呟くような声が急に叫び声に変わった
「待って!・・・私、越前君のこと、好きなの!!」
「先輩?何やってるんスか?」
しばらく沈黙が続いて、私もどうしていいか分からなくなった丁度その時
桃ちゃんが水を飲みに来たみたいで、準備室の方を向いたまま動かない私を不思議に思ったのか声をかけてきた
はっとして桃ちゃんの方へ駆け寄る
「桃ちゃん、リョーマ君に『手塚君が呼んでたから部室に来るように』って伝えてくれる?」
それだけ言うと、唖然としている桃ちゃんを置いて、急いでその場から離れた
たぶんリョーマ君には気づかれてはいないはず
一刻も早くあの場を離れたかった
あんな所、見るつもりなかったのに
リョーマ君がもてるのは知ってたつもりだったけど、実際に告白される所を見ると結構ショックが大きい
私、自分でも気づかないうちにリョーマ君のこと・・・・
リョーマ君、さっきの子と付き合うんだろうな
可愛い子だったし・・・・・
私、次に会った時うまく笑えるかな?
部活が終わった後、いつものように部誌を開いてみたけど、何を書いていいのか分からない
今日何やったっけ?
ついさっきの出来事なのに覚えてない
その代わりにさっきから頭に焼きついて離れないのがリョーマ君と女の子の告白シーン
そのせいで部誌に何も書けずにいた
頭を抱えて悩んでいると、カチャとドアが開く音がした
ゆっくりと顔をあげると、今一番会いたくない人
リョーマ君・・・・・・今は会いたくなかった
だって自分の気持ちに気づいちゃったから
失ってから気づくなんて遅いよね
もう何もかも・・・・・手遅れ
「ねぇ、先輩。さっき・・・・・」
「どうしてリョーマ君は私にかまうの?」
リョーマ君の言葉を遮って話を変えた
「だからいつも言ってるじゃん。俺は先輩の・・・・」
「リョーマ君もてるんだし、私なんかにかまわなくてもいっぱい告白してくる子いるでしょ?」
「・・・・もしかしてさっきの事、言ってるの?」
「・・・・・・さっきって?」
「俺が告白される所見たんでしょ?」
私がいたって知ってたんだ
「・・・・・うん。あの子とつき合うの?
そういえば、リョーマ君ってうちのクラスでもかなり人気あるんだよ。」
「何でそんなこと言うの?」
知ってた? と涙を堪えて必死に笑おうとすると、リョーマ君は逆に不機嫌な顔になった
怒ってるの?
だって、本当に分からないから
どうして私にかまうのか・・・・・・・
いつも練習しているコートの脇で、リョーマ君を応援している子を何人も見かけるし
さっきだって・・・・・・・告白されてたし
私なんかにかまわなくても、リョーマ君のこと好きな子はいっぱいいるじゃない
それこそ私よりも全然可愛い子だって・・・・・
「だって・・・・・私なんて何のとりえもないし別に可愛くないし・・・・・・・私の方が年上だし・・・・」
「何だ、そんな事か。」
「そんな事って・・・・」
理由を聞いて、怖い顔じゃなくなったけど、まだ少し怒ってるみたい
そんな私にぐっと近づいて、真っ直ぐ見つめられる
今までで一番近い距離
視界いっぱいにリョーマ君が映し出されて、それだけでもドキドキするのに
更に鼓動が早まりそうな言葉を私にくれた
「俺は先輩が好きなの。他に理由なんている?」
「え・・・でもっ!」
「ねぇ・・・・」
今度はリョーマくんが私の言葉を遮ってきた
「・・・何?」
「そういう質問するって事は、期待していいんだよね?」
確信つくようにそう言われて、慌てて否定する
「ち、違うよ!私はただ・・・・・」
「『私はただ・・・・』何?」
「・・・・・何でもない。」
「ふーん。」
顔を赤くした私にニヤッと笑うリョーマ君
こんな顔でこんなこと言っても説得力ないんだろうな・・・・・・
もうバレバレじゃん
『俺は先輩が好き』 この言葉を聞くのは2度目
この言葉を聞いて前よりも嬉しいのは
やっぱり私も同じ気持ちだからだと思う
リョーマ君が家まで送ってくれるというので、送ってもらっていた帰り道
そういえば、初めて一緒に帰るんだ
いつも断っていたから・・・・・
少し緊張していたとき、風に当たって冷たかった手が急に暖かくなった
それは紛れもなくリョーマ君の手の温もり
「。」
「・・・・・・えっ?」
急に手を繋がれたこと
それに名前で呼ばれたことに驚いて、少し声がうわずった
「くれるんだよね、チョコレート。」
「・・・・・・・うん。」
今までバレンタインといっても普通の日と変わりなかった私が 特別な日に思えるように
特別な人に渡すたった1つのチョコレート
そして私のキモチ
あなたは受け取ってくれますか・・・・・?
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「バレンタイン・キッス企画」第1弾はリョーマでした☆
初のコラボということで、お題を使ってのドリームになりました。
お題に沿ってない気もしますが(汗) いかがでしたでしょうか?
企画はまだ始まったばかりですので、お付き合いいただけると嬉しいですvv
2月 2日 茜