今年初めて同じクラスになった彼女

最初は特に意識していなかった

だんだん、僕の心の中で君の存在が大きくなっていって

いつの間にか君で溢れていた

この想いはとどまることを知らずに、今も溢れ続けている

いつかこの想い、届くようにと・・・・・・












   
こんなにも愛しくて













彼女を初めて見かけたのは、確かあの日――――



朝練の真っ最中

朝早くて越前なんて毎日のように寝坊して手塚に走らされてるくらいなのに、テニスコートの周りには女の子達がたくさんいる

本当にすごいと思っちゃうよ

眠くないのかな?

今はもうこの光景に大分慣れたけど、最初の頃はこれには圧倒されたっけ


「次は素振り!!」

「はいっ!!」


手塚の掛け声でみんながそれに取組んでいく

素振りをしようとする背後から何となく視線を感じて、その方向を見た

たくさんの女の子達の間から、ある女の子の顔が見えた

同じクラスのさん

一瞬目が会った気がしたけど、彼女の視線はすぐに別の所へ向いたから、僕も特に気にしなかった







次に会ったのは学校の帰り道

試合前で遅くまで練習していて、帰る頃にはすっかり陽が落ちていた

横断歩道の向こうをふと見ると、犬を連れてキョロキョロと辺りを見回している人がいた

どうしたんだろう とよく見ると、同じクラスのさんだった

信号が青に変わるのを待って急いでさんに駆け寄った


さん、じゃない?」

「・・・不二君!!」

声をかけると、ほっとしているようなびっくりしているような、そんな感じで僕を見てきた

さんの家ってこっちなの?」

「ううん、そうじゃなくて犬の散歩してたら全然違う所に来ちゃって・・・・。」

ここって・・・どこ? なんて言われて苦笑しちゃった

少し不安そうに僕を見上げる彼女が可愛かったから・・・・

「大丈夫?送ってってあげるよ。」

「えっ、いいよ!別に・・・・・。何とかがんばって帰るから。」

「遠慮しないで。行こう。」

さんの代わりに連れていた犬が僕にじゃれながら吠えた

がんばっても道は分からないでしょ?

僕が送ってあげるから

戸惑っているさんの手を引っ張って、とりあえず青学を目指した




「・・・・ありがとう。送ってくれて。」

青学からは彼女の道案内に従って歩いていて

途中、何度も『もう道分かったから、大丈夫だよ』って声を聞きながらも、彼女を家まで送っていった

もう辺りは真っ暗なのに、ちゃんと送っていかないと危ないからね

「どういたしまして。道、覚えた?」

「うん、不二君の家の方って行った事がないから知らなかったの。本当にごめんね。」

「いいよ、じゃあまた明日。学校でね。」

「うん。じゃあね、バイバイ。」

さんと犬の声を背後に感じながら、今来た道を戻った










そんな出来事があってから数日後・・・・


「じゃあ、くじ引いてー。」

朝練の後手塚と少し喋っていて、教室へ入ってきたと同時に聞こえてきた声

「英二、くじって?」

何の事か分からず、隣の席の英二に話しかけた

「あ、不二。遅かったなぁ。今から席替えするんだって〜。」

「席替え?」

「この席気にいってたのになぁ〜・・・。不二も早く引いてきた方がいいよ。」

「うん。」


そして何気なく引いたくじが、まさか僕の気持ちを大きく変えるものになるなんて・・・・・

今の僕は知る由もなかったんだ


「不二、どこの席だった?」

英二に尋ねられて、今引いてきた紙を開く

「・・・・廊下側の一番後ろだ。英二は?」

「あ、俺真ん中の列の一番後ろ!!案外近いじゃん!!」

「そうだね。」

素直に喜ぶ英二に僕も笑顔で返す



「じゃあ席移動してー。」


先生の声で荷物を持って新しい席へと移動する

今までの席もよかったけど、晴れた日は日差しが暖かくてつい居眠りしちゃいそうだから・・・・・

今度は廊下側でよかったかも なんて思いつつ新しい席に座った


「不二君、隣なの?」

座った隣の席から、聞きなれた声がした

数日前にも聞いた、僕を呼ぶ声

振り向くと、既に新しい席に座って荷物の整理をしているさんがいた

さん。席そこなの?」

「うん・・・・。よろしくね。」

「よろしく。」

ニコっと笑ったさんの顔が、いつまでも僕の心に残って離れなかった





それから、僕はさんとよく喋るようになって・・・・・

気づけば、いつでもどこでも一日中、君のこと考えてしまう自分がいた

女の子の事を名前で呼ぶことも初めてで、少し照れくさくなりながらも『ちゃん』と呼ぶようになった

ちゃんも、最初は恥ずかしがってたけど、今は大分なれてきたみたい

彼女の何気ない仕草や、可愛い笑顔にどんどん惹かれていった

実際にこんな気持ちになるのは初めてで、気づくまで時間がかかったけど・・・

きっと初めて逢ったときから、この気持ちはあったんだと思う


でも、テニスコートに来ていたって事は聞けないまま

誰かを見ていたんだろうけど、今はそれを聞きたいような聞きたくないような複雑な気持ちだったから










 *


「不二。」

休み時間

いつものようにちゃんと何気ない会話をしているときに、廊下から僕を呼ぶ声がした

「・・・手塚、どうしたの?」

「辞書持っていないか?」

「忘れたの?珍しいんじゃない?」

「ちょっとな・・・・。」

手塚が忘れ物するなんて本当に珍しくて、驚きつつも辞書を鞄から取り出した

「すまない、少し借りていく。」

「うん。」

廊下で手塚を見送ってから自分の席についた

「ごめんね、話の途中だったのに・・・。」

そう言っても返事はない

ちゃんの顔を覗き込むように、もう一度尋ねた

「・・・ちゃん?」

「手塚君ってかっこいいよね・・・・。」

「えっ?」

そう呟いたと思うと、急に顔を赤くして慌てて弁解した

「あ、そういう意味じゃなくて・・・・その・・・さ。雰囲気というか。」

「・・・・あぁ、それは分かるかもね。」


僕は何となく気づいてたんだ

ちゃんが時々テニスコートにいる時の視線を

そしてその視線の先には・・・・・手塚がいたことも


君の瞳に僕は映らないの・・・・・?

君が僕を必要としてくれる事はないの?




「そんなに手塚が・・・・好きなんだ。」

「えっ・・・・・。」

僕の言葉にちゃんの返事が途切れて、思わずちゃんの顔を見た

図星の事を言われて、顔を赤くしているのかと思った

返事に戸惑ってるのかと思った

けど、実際の彼女は・・・・・

悲しそうに僕を見つめていた

・・・・どういうこと?



「・・・・・・・そう、だね。」

小さい声でそう一言呟いて、教室を出て行った

いつものような、明るく澄んだ声と違う、切ない声

悲しみではちきれそうな顔

どうして君はそんなに悲しそうな顔をしていたの?

今の僕にはちゃんの悲しそうな顔の理由が分からなくて、追いかけることすら出来なかった


僕はどうすればいい?

君に何をしてあげられる?

目を閉じて、ひたすらに想うのは君のこと

誰よりも君を好きになっていく

いろんな仕草に恋していく

ここまでちゃんを好きになってしまった僕は・・・・・どうしたら、いい?












「どうして泣きそうな顔、してたの?」


次の日

今日は丁度ちゃんと日直だったため、残って日誌を書いていた

ちゃんは心はここに在らずって感じ

日誌を書き終えて、走って帰ろうとしたちゃんを止めた

「・・・・・。」

ちゃん?」

「不二君が・・・・・。」

「僕が?」

「あんなこと言うから。」

「あんなことって・・・・・ちゃんは手塚が好きだって言ったこと?」

僕が改めてそう言うとちゃんの瞳からまた涙が溢れてきた

どうしてそんなに僕に言われるのが嫌なの?

僕にしてみれば、ちゃんにふられたようなものなのに・・・・・


「不二君にそんなこと言われたくなかった!! 私は不二君が好きなのにっ!!」


えっ・・・・・

今の、本当?

いきなりの発言に驚いてちゃんを見ると、顔を赤くして口元を手で押さえていた

「な、何でもない・・・・。私、帰る!!」

「待ってよ!!」

逃げ出すように教室を出ていこうとするちゃんの腕を慌てて掴んだ

ちゃんと聞かせてよ

君の言葉で・・・・・

「今言ったこと、本当?」

「・・・・・・・嘘でこんなこと言うわけないじゃない。」

じゃあ手塚が好きだと思ってたのは・・・僕の思い違い?

「・・・ごめんね、急にこんなこと言って・・・・返事はいいから・・・・・。」

「僕の返事・・・・・聞きたくないの?」

今まで僕の顔を見ようとしなかったちゃんが僕の顔を見上げた

「え?」

「僕もずっとちゃんのこと、好きだったんだ・・・・。」

「嘘・・・・・っ!だって不二君が私なんて・・・・。」

「嘘じゃないよ。でもちゃんは手塚の事が好きだと思ってたから、諦めなきゃって・・・・。僕が勝手に勘違いしてたんだね。」

「・・・・どうして私が手塚君を好きだと思ったの?」

「だって君の視線、いつも手塚に向いてたよ。テニスコートでも、手塚が僕のクラスに来たときも・・・・・・。」

君の視線はいつも手塚に向いていた

手塚に少し嫉妬しちゃうくらいにね・・・・・

「別に手塚君の事を見てたわけじゃないよ。」

「・・・・・・え?」

「私はずっと不二君の事を見てたんだよ。だけど、目が会うと恥ずかしくてすぐ逸らしちゃって・・・・・。」

それじゃあ、僕をずっと見ていてくれたの?

テニスコートでも、教室でも


「じゃあちゃんの中では、誰が一番かっこいいの?」

「そんなの・・・・・・。」

不二君に決まってるじゃない・・・・・

そう俯きながらもはっきりと言葉にしてくれるをギュッと抱きしめた

目線を逸らす、恥ずかしがりやな君も大好きだけど・・・・・・


「もう、瞳逸らさないで。僕だけを見ていてくれる?」

「うん。大好き、不二君。」

「僕も。が大好きだよ。」

夕日が照らされる中、ゆっくりと、2つの影が重なった



初めて女の子を名前で呼んだこと

初めて恋をしたこと

初めてキスをしたこと

いろんな『初めて』がでよかった――――










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綾瀬笑子さまに差し上げるキリ番リクですv
リクエスト内容は「周助さんで、悲恋っぽいけど最後はハッピーエンド」
だったんですが、手塚さんをだしてみました☆(出すぎ?)
しかも手塚さん少し可哀想・・・・?ま、いっか(笑)
こんな感じでいいでしょうか??
悲恋っていうより・・・・勘違い?
こんなことしか考えられないちっぽけな頭の私をお許しくださいっ!!

でもリクエストしてくれて嬉しかったですv
ありがとうございました♪


 2005年 1月10日 茜