高校に入ってから部活以外にバイトを始めた

学校と家の中間にあるファミレス

深い意味はないけど、何となくそこでしようと思った

ただ、バイトというのに興味があったからだ

そこで1人の女の子と会った

まさかこんな所で会うと思ってなかった

今日のように、全てが灼けつきそうな夏の太陽の中で出会った

一度見ただけの彼女に・・・・・


「今日から入ったです。よろしくお願いします。」


そう言う彼女の瞳はキラキラと輝いていた










   
Under a rainbow after the rain








「千石君。」


今日はバイトの日

いつも平日は学校帰りに寄るから、制服のまま休憩室に行こうとして、その手前で店長に声をかけられた

「はい?」

「今日から新しい子入ったから。分からない事とか教えてあげてな。」

俺だってこのバイトやり初めてまだ1ヶ月足らずしか経ってないけど、初めてのバイトはとても楽しく

仕事内容もすぐ覚えられた

そんな訳で、店長には気に入られてたりする

「女の子ですか?」

これを聞くのはもう癖だ

「そうだぞ、しかも同じ高校1年生だ。仲良くな。」

ラッキー

女の子だって どんな子だろう

そんな事を思いながら、新しく入る子がいるという休憩室へ向かった



「やぁ、書類には目を通しておいてくれたかな?」

休憩室のドアを開けると同時に、店長がその女の子に話しかけた

「はい。」

店長!! 見えねぇよ〜。

俺より背も体格も大きい店長がドアの前に立っているおかげで、俺はその後ろで何とかして休憩室へ潜り込もうと努力していた

何とか隙間を見つけて無理やり入ると、彼女と目が合った


・・・・どうしてここに・・・・?

そう言うより先に店長が話始めた

「千石君、こちらが新しく入る事になったさんだ。」

そう言われたさんが俺と目を合わせて、ニコっと笑いながら自己紹介をしてくれた

「今日から入ったです。よろしくお願いします。」

あの日と同じ笑顔で俺に話しかける

同時に、あの日の事がフラッシュバックする

「・・・・俺は千石清純。よろしくね。」

いろんな想いが混ざり合って、今の俺はそう口にするのが精一杯だった




彼女は覚えているだろうか

数ヶ月前に逢った事を―――――









あれは関東大会が行われた日

部員全員で、青学 対 氷帝 の試合を観に行く途中

「千石さん。早く行かないと手塚と跡部の試合始まっちゃいますよ。」

室町が、一番後ろでゆっくりと歩いている俺を急かす

それにしても暑いなぁ・・・・

「あぁ、ジュース買っていくから先行ってていーよ。」

「ジュースって・・・・。もうすぐ始まりますから早く来てくださいね。」

半ば呆れたように言い放ち、室町は走って他の部員を追いかけて行った

テニスコート内の休憩所にある自動販売機でジュースを買ってコートへ向かう時

「すいません。」

後ろから声をかけられた ・・・・俺か?

「はい?」

この声は女の子だ ラッキーと思い、嬉しくなって返事をした

もしかして逆ナンってやつ??

そんな事を思い、振り返ると一人の女の子が立っていた

ニコっと太陽にも負けない笑顔で、俺の前に手を差し出していた

「お釣り、忘れましたよ?」

「・・・・あ、ありがとう・・・ございます。」

声を絞り出してお礼を言うのが精一杯だった

いつもは軽い口調で出てくる言葉も、今は重く感じてしまう

何も言葉が出てこない

どうしちゃったんだ・・・・?俺

彼女を見た瞬間から何かが変わった


俺らしくない

それは自分が一番よく分かってる

でも俺はその瞬間


・・・・本気で恋をしたんだと思う


受け取ったお釣りを手のひらに乗せたまま、歩いていく彼女をいつまでも見送った





それからは他の女の子なんて目に入らなくなっちゃって

名前も住んでいる場所も知らない、たった一度の出逢い

分かっているのは、あの時彼女が着てた服が氷帝の制服だったってことだけ

だけど、分かってるからといって何をするわけでもなく、ただ日々だけが過ぎていった

あの子に逢いたい気持ちは日々募っていくものの、「誰ですか?」と言われるのがショックで行動には出せない


・・・俺が1人の子を本気で好きになった なんて知ったらテニス部の奴らびっくりするだろうな

今までさんざん女の子を見る度に「可愛い」と連発していたから








「じゃあ、書類置いてくるから千石君、さんに教えてあげてな。」

店長の言葉でハッと我に返った

「はい。」

店長がいなくなって2人きりの休憩室

何を話していいのか分からない


「千石・・・君。これからよろしくお願いします。」

「うん、よろしくね。」

何か遠慮がちに話してくる・・・初めてのバイトできっと緊張してるんだろうな

ちゃん、俺も高1だから敬語なんて使わなくていいよ。もっと楽しくやろうよ。」

「へっ?・・・・うん、よろしくね千石君。」

「名前で呼ばれるの、嫌だった?」

「ううん。そんな事ない。急に呼ばれたからびっくりしただけ。」

少し赤くなった顔を隠すように俯いた

嫌な顔されるかと思ったけど、あまり気にしてないみたいだ よかった




今日はちゃんが初めての仕事という事で、俺が簡単なゴミ捨てとかシルバー並べとかを教えていた

こんなに仕事が楽しいと感じたのは初めてだ

教えているその間にも、時間は刻々と過ぎていき、あがる時間になった


「もうそろそろあがっていいぞ〜。」

「は〜い。」

運がいいことに、今日は仕事終わりの時間も一緒


店長に言われて、あがる準備を始めた

これもちゃんと教えておかないと・・・

洗い物がたくさん入ったボックスを洗い場に持っていく事

これはあがる前に必ずしなくちゃいけないから

それを教えた所、1人で全部持って行こうとしたから、とっさに止めた

「俺持ってくから今日はいいよ。」

「でも・・・・」

躊躇しながらもボックスを持とうとした、ちゃんの手を止めて俺が持った

「平気だって。俺部活やってるから、こんなの軽い軽い。」

そう言ってボックスを洗い場に運んでる時にずっと感じる視線

紛れもなくちゃんのもの

どうしてそんなに見てくるんだろう・・・俺、何かしたっけ?

やっぱ自分で運びたかったのかな?

と思い、恐る恐る声をかけた


「・・・・・どうかした?」

「・・・千石君って、部活ってもしかして・・・テニス部だったりする?」

「どうして分かったの?」

俺、「部活」としか言ってないよな・・・・

いきなりのことでびっくりして目を見開いた

そんな俺の反応をみて、嬉しそうに喋りだした

「やっぱり!!最初見た時からどっかで見た事あるな〜って思ってたんだけど、思い出した。

テニスの試合会場で会ったよね?・・・・もう1年近く前だから覚えてないかもしれないけど・・・・。

そこで会ったならテニスをやってるのかな〜と思って。」


覚えていてくれた

絶対に忘れていると思っていた事を覚えていてくれた

それが今の俺にはすごく嬉しかった

「俺も覚えてたよ。だけどちゃんは忘れてると思って言わなかったんだ。」

そしたら、何も言わずに笑っていた




それからはすっかり仲良くなっちゃって、ある日、どうして関東大会を見に行ったか聞いたら

「友達がテニス部にいる人のファンで、付き合わされたの。私もテニス好きだからいいんだけどね。」と言っていた

でもそのおかげで俺はちゃんに会えたし・・・・

その友達に感謝かな?




  *







「映画観に行かない?知り合いからチケットもらってさ。この前、これ観たいって言ってたじゃん?」


ちゃんもバイトに慣れて来た頃、俺は知り合いから2枚、映画のチケットを貰った

それは明日から上映されるラブロマンスもので、上映前から少し話題になっている映画だ

チケットを貰って、俺は迷わずちゃんを誘った

俺の知らない時間を少しでも一緒に過ごしたいから

「いいの?一緒に行っても・・・・。」

「もちろん、大歓迎♪」

「じゃあ行く。」

そう言って、早速明日観に行く事になった

今から明日が楽しみで、その夜はなかなか眠りにつくことができなかった





そしてデート当日


今日はあいにくの曇り空

そんな中、俺の心の中は晴れ渡っていた

初めてのちゃんとのデート

デートでこんなに楽しみと感じた事はない

こんなに緊張した事もない

こんな想いをしてしまうのは全てちゃんだからだと思って、嬉しくなった

嬉しい緊張

そんなものがあったなんて―――





「ごめ〜ん、待った?」

約束の時間の10分前に待ち合わせ場所に着いていた俺は、時計を気にしながらも静かに待っていた

待っている間も落ち着かない 妙にソワソワしてしまう

そんな俺の元にちゃんが小走りでやってきた

待ち合わせの時間ピッタリ

いつもバイト先にも制服で来てるから、彼女の私服姿は初めてみた

ワンピースにジャケットを羽織って夏物の可愛らしいサンダル

それがちゃんにとってもよく似合っていた

「走ってこなくても、まだ時間まで十分あるから大丈夫だよ。」

「でも千石君待ったでしょ?」

「そんな待ってないよ。ちゃん、今日とっても可愛いね。」

「えっ・・・・・。ありがとう・・・・」

言葉にしたとたんに、ちゃんは顔を赤くして俯いた

俺もこんなに素直に言葉に出せると思ってなかった

「何か雨降りそうだね。傘持ってくればよかった・・。」

ちゃんは恥ずかしさを紛らわすかのように、空を見上げた

「大丈夫だよ。俺、今日ツイてるから☆」

今日の占いで射手座は1位だったし

何ていっても、今日はちゃんと一緒だしね

「さっ、行こうか。」

「うん。」

並んで歩きながら、近くの映画館へと向かった










映画館を出て、どこへ行くわけでもなくゆっくりと歩きながら会話していた

2時間のラブロマンス映画

普段は滅多に観に来る事はないけど、ちゃんとだったらまた来たいな

「やっぱ映画は映画館で観る方がいいよね。」

「うん、私もそう思う。家で観るのとはまた違った迫力があるからね。」

「そうそう。」

チラッと腕時計を見ると、すでに1時半を回っていた

ちゃん、お腹すいた?」

「うん、ちょっとね。千石君は?」

「俺もうペコペコ〜。」

俺の言葉に笑って、ある提案を持ってきた

「じゃあバイト先でも行ってみる?」

「あっ、いいね。」

うちのバイト先は結構おいしいと近所では評判なんだけど、実は食べた事なかったから、軽い気持ちで返事をした






バイト先まで来ると、丁度ランチタイムの混雑が引いたみたいで、結構空いていた

よかった空いてて

混んでるとさすがに入りずらいしな

入ってすぐに窓際の4人席へ案内された

いつも自分がやっている事を客として見るのは、ちょっと面白かったりする

いつもこんな仕事してるんだよな〜

俺とちゃんが2人で来た事に、働いていた他の同級生とかはニヤニヤしながらこっち見たりしてたのが目に入った・・・・


「いらっしゃいませ。」

その時、店長が水を持ってきた

俺たちの事気づいてないのかな?

「店長〜。」

笑いながら店長に手を振ってみたら、やっと俺たちに気づいたみたいで少し驚いていた

「あぁ、おまえらか・・・。何だ食べに来たのか。」

「それ以外に何があるんですか。」

「何だったら働いていくか?」

「・・・・遠慮します。」


俺と店長の会話を聞いて、ちゃんは笑っていた

つられて俺もちゃんと目を合わせて笑った


「そ〜いやぁ・・・。」

店長が話を続けた

まさかまだ「働け」なんて言うんじゃないだろうな・・・・

「いつの間に2人は付き合ってるんだ?」

「あ、そう見えます?」

付き合っていると思われた事が嬉しくて、つい笑いながら店長に言ったら、ちゃんに思いっきり否定された

「違いますよ、今日はたまたまで・・・。付き合ってなんかないですよ。」


その言葉を聞いた瞬間、降らないと思っていた雨が窓にポツリと当たったのが目に入った

もしかしたら、俺の心にも雨が降っていたのかもしれない


あっさり否定された

それが余りにも辛くて、嬉しかった気持ちが一気に落ちていく

ちゃんにとって俺はそういう対象には入ってないって事なんだろう

俺1人でデートだと思って、勝手に舞い上がって・・・・



それ以降俺はめっきり喋る言葉が減ってしまった

ちゃんもそれに気づいたのか、少し遠慮がちに声をかけてきた


「千石・・・・君?どうしたの?」

「・・・・別に。何でもない。」

「・・・・そう。」

それから料理がきて、食べている間もあまり会話することはなかった

さっきまでの楽しい時間が嘘みたいに、今は重く感じる

本当おかしいよね俺・・・・・


「千石君、さっきから変だよ?どうしたの?私・・・何かした?」

「・・・ちゃんにとって俺は恋愛対象に入らない?」

「え!?・・・・急に何言って」

こんな所でこんな事を言うつもりじゃなかったけど、俺にはもうちゃんしか見えないんだ

俺のこの想いを少しでも知ってほしい

ちゃんの方も、急にこんなことを言い出して戸惑ってる感じだった

「俺は去年ちゃんに逢った瞬間から、他の人が目に入らなくなった。

ずっとちゃんの事ばかり考えてきたんだ。

偶然とはいえ、ここでちゃんを見た時に運命を感じたのは・・・やっぱり俺だけだったのかな?」

きっと・・・俺だけなんだろうな と思って少しでもこの辛さを取り除こうと軽く笑ってみたものの

余計に辛くなって、虚しくなった

ちゃんは俺の言葉を、ただ黙って聞いていた


・・・・やっぱ俺だけだったんだよね

一目見てこれを恋だと思ったのは



一息ついて、これ以上困らせるのは可哀相だと思って立ち上がろうとしたら、小さな声でちゃんが喋りだした

思わずあげかかった腰を下ろす

「・・・・私、千石君がここでバイトしてるの知ってたの。知ってて私もここでバイト始めたの。少しでもあなたに近づきたかったから。」

「えっ・・・。」

そんな事ないって想いつつも、心の中ではどうしても自分の都合のいいようにとってしまう

確認したい気持ちを何とか抑えて、ちゃんの言葉に耳を傾けた

「私だけだと思った。試合会場で会った時のことを覚えているの。だから千石君も覚えていてくれて・・・すごく嬉しかったの。」

騒がしい店内で、ちゃんの澄んだ声だけが聞こえてくる


「忘れるわけないじゃん。あの日からすでに、俺はちゃんの事しか考えられないんだ。」

「千石君・・・・私初めて会った日からずっとあなたの事・・・・・」

「待って。その先は俺から言わせて?」

それは俺がずっと言いたかった事

ちゃんから聞かせてもらうのもいいんだけど、やっぱりそこは

俺から言わせてほしい


「ずっとの事が好きだったんだ。俺でよかったら付き合ってくれませんか?」

「・・・・はい。」

そう言ったの頬を滑り落ちる涙は止まらない

必死に涙を拭いながらも、表情はすごく嬉しそうだった

俺もと気持ちが同じだった事が、たまらなく嬉しい





「あ、虹だ。」

会計を済ませて外で空を見上げると、厚い雲に覆われた空の隙間から七色の虹が架かっているのが見えた

「本当だ。今年初めて見た。」

「俺も。と一緒だから見れたんだよ。ラッキー。」

そう言って、の頬に軽くキスをした

「千石君!!」

いきなりの事に驚いたのか、キスをした頬を押さえて真っ赤になっていた

「ね、名前で呼んでくれないかな?」

「名前で!?」

「そういえば、は俺の名前知ってるの?」

「知ってるよ。」

「嘘〜。じゃあ言ってみてよ。」

「・・・・清純。」

照れながらも言ってくれた そんな仕草がとっても可愛くて愛しくて、思わず俺の方に抱き寄せた

「きゃっ・・・・。」

俺の腕の中で小さな声をあげたものの、ゆっくりと俺の背中に腕を回してくれた

2人の鼓動が1つになって聞こえる

それが心地よくて嬉しい

これから君とそんな気持ち いっぱい感じていけるといいな





「そういえば、雨止んでよかったね。」

の呟きに俺はもう一度空を見上げた

この感じなら、今日はもう降る事はないな

そう確信して、俺は腕の中で空を見上げるの手をとって言った



「だから言ったでしょ?今日はツイてるって。」








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サイト開通記念!! K様からのリクエスト
千石君のドリームでした
もうとっくにサイト開通してるよね・・・
遅くなってすいませんでした!
千石君は好きなんですが、書いた事がなくて・・・・
Kさま、こんな感じでよろしいでしょうか??(果てしなく不安)

とりあえずサイト開通おめでとうございます☆
これからもよろしくお願いしますvv

 2004年11月13日 茜