私にとってあの出来事は
一生忘れない
ずっと一緒に・・・・
国光と付き合って半年
彼の出る試合はいつもかかさず見に行っている
そしてあの試合も――――――
関東大会1回戦
青春学園 対 氷帝学園
シングルス1
「はぁっ・・・もう始まっちゃったかな!?」
出かける時になってお母さんから頼まれた買い物のせいで、今日の予定が大幅に狂った
お母さんも出かける時になって言わないでよね〜!
今年は3年生の国光達にとって大事な試合だから、欠かさず応援しに行きたい
それが関東大会ならなおさら
コートを覗くと、不二君と氷帝の人が握手してるのが見えた
・・・・何とか国光の試合には間に合ったみたい
本当は全部見たかったんだけどな
とりあえず、急いで青学のベンチに駆け寄った
「あ、ちゃ〜ん!」
菊丸君が私の名前を呼んだとたんに、そこにいたみんなが一斉にこっちをみた
でも国光の姿が見当たらない
「国光の試合はまだ?」
「これからだよ。」
私の問いに答えてくれたのは、先ほどまで試合していた不二君だった
「不二君、お疲れ様。試合見れなくてごめんね。」
もうほとんど汗の引いている不二君に、ジュースを差し出した
すると、ジュースを受け取ってにっこり微笑んで
「ありがとう。ちゃんにも見ててほしかったな。僕の試合・・・・」
「、遅いぞ。」
不二君の言葉を遮って、いつもより声のトーンが低い国光の声が聞こえた
「国光!!これから試合でしょ?がんばってね。」
「・・・・あぁ。」
国光に会えて笑顔で応援すると、少し照れた顔を隠すようにソッポを向いて呟いたのが聞こえた
ベンチに座っていた不二君は、クスクス笑ってる
今ではすっかりテニス部全員に国光と付き合っているのを知られている
テニスに詳しくなかった私に国光がいろいろ教えてくれて、今ではテニスをやるのも見るのも大好き
だから今日も国光の試合を楽しみにしていた
「ザ・ベスト・オブ・1セットマッチ! 氷帝サービスプレイ!!」
国光は青学テニス部の中でも一番強いのは知ってる
だから・・・・絶対に勝つと信じていた
負けることはないと思っていた
不二君が呟いた一言を聞くまでは・・・・
「跡部は持久戦で手塚の腕を潰す気だ。」
聞いた瞬間、足がガクガクと震えるのが自分でも分かった
どうして?
どうしてそこまでして勝とうとするのか・・・・最初は分からなかった
やめて!!と何度叫ぼうと思ったか分からない
けど、止めようとする度にあの言葉が頭によぎる
そして言葉を失う
「アイツらと全国へ進む。今はそれ以外には考えられない」
いつものように国光に聞かされていた、ゆるぎない想い
試合を見るたびにその言葉が胸に突き刺さる
―――絶対に勝つ
その想いが今闘っている2人からひしひしと伝わってくる
だからこそ
やめてほしいと思う反面、いつしか「がんばって」―――と強く願っている自分がいた
結果は跡部君の勝ち
でもいい試合だった
今まで見た試合のどの試合よりも
心からそう想った
それから2、3日経ったある日
「・・・。」
お昼休み
いつものように屋上で2人でご飯を食べていたら、急に国光が真剣な顔をした
「・・・どうしたの?ご飯おいしくない?」
今日のは自信作だったんだけどなぁ・・・・
「嫌、そうじゃなくて・・・・。に話しておかなければならない大事な話があるんだ。」
「・・・・・何?」
それっきりしばらくの間、沈黙が続いた
この沈黙が重い
何だろう・・・・
そんな大切な話なのかな
国光が何か言ってくれないと、私も話しようがないよ
そんな事を思っていると、国光がやっとの事で重い口を開いた
「・・・・・別れよう。」
「えっ?」
一瞬、国光が何を言ってるのか分からずに少し微笑んだまま聞き返した
聞き間違い・・・・だよね?
「俺と別れてくれ・・・・。」
ナニヲイッテイルノ?
言葉を理解しようとするけど、頭が働かない
理解しようとも思わない
――別れてくれ――
彼は確かにこう告げた
理解してしまった瞬間、私の顔から笑みが消えた
「・・・・どうして?」
「・・・・・・・」
「私の事、嫌いになったの?」
「・・・・違う。」
「他に好きな人でもできたの?」
「違う。」
「じゃあ何?」
「・・・・・・・。」
「何か・・・・言ってよぉ!国光っ!!」
震える声をどうにか搾り出して、溢れて止まらない涙を拭う事も忘れて
必死に国光のシャツを掴んで揺さぶった
「・・・・・・・すまない。」
彼はシャツを掴む私の手をそっと離し、一言そう呟いて屋上を去っていった
違う
そんな事を聞きたいんじゃない
謝らないで理由を教えて
理由を言う事なく、彼は私の元から立ち去った
一人屋上に取り残された私は、崩れるように座り込み同じ事をずっと言っていた気がする
「・・・・・どうして?」 と・・・・
それから何をして過ごしていたのか、自分でもあんまり覚えていない
当然国光にもあれから会ってはいない
別れようって言われて、私が返事をしないうちに一方的に立ち去って
今更私にどうしろって言うのよ
どうして別れなくちゃいけないの?
私の事を嫌いになった訳じゃない、好きな人が出来た訳でもない
じゃあ何が原因でいきなり別れようなんて言い出したのか
どうしてもそれを知りたいけど、国光は教えてくれない
そこでハッと思い出す
最近国光と一緒にいる所を何回か見かけていたから、もしかしたら・・・
・・・不二君に聞けば何か知っているかもしれない
そう思って、帰ろうとしていた足を止めて不二君のクラスに向かって再び歩きだした
「不二君・・・・いる?」
放課後、不二君のクラスに行った私は、教室に残っていた菊丸君に尋ねた
「ちゃん!!不二なら、部室に行ったよ?忘れ物したとか言って・・・・。」
「そう・・・・ありがと。」
そう言った時にはすでにテニス部の部室に向かって走り出していた
後ろで菊丸君が呼ぶ声が聞こえてきたけど、今は不二君に国光の事何か知ってるかどうかを聞き出す事しか頭の中になかった
まだ不二君部室にいるかな・・・・
と、部室の手前まで走ってきて、はっと足を止めた
・・・・部室の中から話声が聞こえる
不二君と・・・・・国光!?
少し開いていたドアから気づかれないようにそっと覗くと、椅子に腰掛けている不二君と背中を向けて立っている国光の姿があった
声が小さくてよく聞き取れない・・・ともう少し近くまで寄ってみる
「・・・・九州に行くから。だからちゃんと別れたの?」
部室の中から聞こえた声に思わず、問いかけそうになって慌てて両手で口を塞ぐ
九州?
不二君、今九州って言ったよね?
誰が?・・・・誰が行くの?
まさか・・・・・・
「・・・しかたがないだろう。俺達は全国制覇をしなくてはいけないんだ。」
「それなら僕がちゃんをもらっちゃうよ?いいの?」
「・・・・・・・不二、帰るぞ。」
「話逸らされちゃったね。」
クスクスと不二君の声が聞こえる
2人とも何の話をしてるの?
ヤバイ・・・・2人ともこっちに来る
隠れなきゃっ!!
でも、足がまるで固まったようにピクリとも動いてくれない
それはきっと、隠れなきゃと頭で思っていても心の中では真実が知りたいから
その想いの方が強いから
だから足が動いてくれないんだと思った
「・・・・ちゃん?」
ドアの前で立ち尽くしたまま動こうとしない私に、先に気づいたのは不二君だった
私は無言のまま2人を見た
「・・・・・・。」
不二君も私がここにいたことにびっくりしてたみたい
だけど、それ以上に普段あまり表情をださない国光までが、今は誰が見ても分かるくらいに驚いているのが目に見えてはっきり分かった
「・・・いつからそこに?」
不二君の後ろから国光が声をかけてきたが、答えることはせずに、ただ俯いていた
そしたら不二君が、私の表情から全て聞いていたのを察したみたいで、不二君が私の背中に軽く手を回して部室の中へと誘導した
「ちゃん・・・とりあえず部室に入りなよ。僕はもう帰るから。手塚、後よろしくね。」
「おい、不二・・・・・っ。」
国光が声を上げたけど、不二君はそのままドアをパタンと閉めて行ってしまった
あれからまともに国光と顔を合わしてない
部室という狭い空間で、どちらが話しかける事もなく、ただ沈黙が訪れた
前にも味わったこの嫌な感じ
短いとも長いともいえるこの沈黙の中で、いろんな事が頭の中を駆け巡っていた
それでも考えるより先に言葉にしていた
「・・・・・どういうこと?国光・・・・九州に行くの?」
「・・・・・やっぱり聞いていたのか。」
「旅行で・・・・って事でしょ?すぐ帰ってくるんだよね?」
そう信じたい
でもそれは次の言葉で、信じていた想いは完全に壊された
「・・・・・いや、しばらく帰ってこられない。肩の治療する為に九州に行く事になった。」
「どれくらい行ってるの?」
俯いたまま、問いかけた
国光の顔をみたら泣き出してしまうと思ったから
自分でも分かるくらいに声が震えてる
「まだ分からない。」
「・・・・ねぇ、私、この前の返事してないよ?」
「返事はいらない。別れると決めたから。」
「何で国光1人だけで決めちゃうの!?私の気持ちはどうでもいいわけ?私は今でもこんなに国光のこと・・・・・っ!!」
好きなのに―――
そう言おうとして顔を上げた時、人差し指を唇に当てられて、言葉を遮られた
「・・・・・言わないでくれ。」
そう言う国光の顔は、今まで見た事がないくらいに辛そうにみえた
でも今の私は、国光の気持ちを考える余裕はない
自分の気持ちを整理する事もできないくらいに混乱していた
好きとも言わせてもらえない
こんな私はどうしたらいいの?
せめて「俺が帰ってくるまで待っててくれないか?」って言ってほしかった
そんな願いも叶わない
そんなに私と別れたいんだね・・・
それならもう、いい
何も言わずに、その場から逃げるように立ち去った
それからどんな想いで過ごしたんだろう
いたはずの人がいない
いつも私の隣にいてくれた国光が、今ではこんなに遠い
ふと振り返って「国光」と名前を呼びそうになって
泣きたくなる
忘れようと何度努力しただろう
でもできない
あなたの匂いが、感触が、今でも抜けない
何度も抱きしめられた
時間が合えばいつでも一緒にいた
あなたの体温も記憶も、忘れられない
国光が別れたいなら と頭では納得したはずだったのに、心は追いついていかない
今でもこんなに好きだから
それから何日か過ぎて
私達は職員室の前でばったり出会った
「・・・・・。」
「国光・・・・。」
国光の手には、青春学園付属病院のパンフレットを持っていた
・・・・やっぱり行っちゃうんだね
と確信していたら、手を引っ張られて人気のない所まで連れていかれる
「ちょっと、国光っ・・・・・。」
引っ張られてる間中、国光が喋りかけてくることはなかった
振り返ってくれる事はなく、前だけみて歩いていく
つながれている手から感じる国光の体温
久々に感じる国光の温もり
そして国光は私の手を引いたまま、部室まで来ると鍵を開けて入っていった
「どうしたの?急に・・・・・。」
「少し・・・・話したい事があってな・・・。」
これ以上私に何を聞かせる気なの?
「・・・どぉ?九州行きは着々と進んでる?」
「・・・あぁ。」
話しをされる前に自分から話題を探した
本当はこんな事聞きたくない
でも国光は九州へ行く
肩の治療をして、青学のみんなと全国へ行く為に
それを邪魔しちゃいけないんだ
笑って見送る
それが私に出来る最後のやさしさ
そう、思った
「その事なんだが・・・・・。」
「何?」
次に国光の口から出た言葉は少なからず、私の頭を混乱させるのに十分だった
「一緒に来てくれないか?」
「・・・・は??」
たぶん今の私の顔は、今までで一番まぬけな顔をしていたと思う
だって話が急すぎて頭がついていかない
「国光・・・何言って・・・・・?」
「俺と一緒に九州まで来てくれないか?」
「・・・・本気で言ってるの?」
「あぁ。」
国光は絶対にそんな事、言ってくれないと思っていた
どんな時もテニスの事を一番に考えていて
私はテニスには勝てないんだと思っていた
「だって国光だって治療しに行くのに、私なんかがいたら邪魔でしょ?」
「俺にはが必要なんだ。どんな設備の整ったいい病院でも。
がそばにいてくれる
それが俺にとって一番なんだ・・・。」
そんな事思ってくれていたんだ
それだけですごく嬉しいけど、言葉は素直に「行きたい」とは言ってくれない
「・・・・勝手な事言わないでよ!今まで私がどんな想いで過ごしてきたのか
どんな想いで国光と別れよう・・・と思ったのか。
一体・・・・私がどんな想いで・・・・・」
国光は子供のように泣きじゃくる私を、そっと両腕で包み込んで抱きしめた
どんなに忘れようと努力してもできなかったこの想いに、体に、温もりに・・・・・
そしてどれだけあなたを想って泣いたのか
そんな事を思い出して、また涙がこぼれてくる
「このまま別れる方がにとっていいと思った。
連れて行けないのなら「ずっと待ってろ。」なんて縛るような事言えないし、それなら別れた方が諦めもつくと思った。
でもに会わなくなった途端、すぐにでもに触れたい、ずっと傍にいたい気持ちが日に日に大きくなっていって・・・・。」
「・・・じゃあ何で最初に一緒に行こうって言ってくれなかったの?」
「言えるわけないだろう。俺と一緒に九州まで来てくれ なんて。」
確かにいきなり九州って言われたら、少し考えてしまうかもしれない
だけどね
私、国光の為ならどこでも行くよ?
国光と一緒ならどんな事でも出来るから
「・・・・竜崎先生を説得して、やっとの事でお前を連れて行ってもいいと。九州でお世話になるドクターにも許可を貰ったんだ。」
付き合っていても、絶対に私の方が好きだと思っていた
国光が私の事を好きでも、私の方が国光の事を好きという気持ちの方が大きいと思っていた
それでも国光は私に「一緒に来てほしい」と言ってくれた
私もそれに答えたい
・・・・国光が好きだから
「・・・・言っとくけど、こんな我侭聞いてくれる人なんていないんだからね!!」
「分かっている。だが、一緒に来てくれるんだろう?」
「私・・・一緒に行きたい。国光と一緒に。」
「あぁ、俺もお前とずっと一緒にいたい。と一緒に生きていきたい。」
今まででくれたどの言葉よりも嬉しい
私も国光と一緒に生きていきたい
そう思っていても口に出ることなく、代わりに国光にしがみつくように抱きしめた
涙が留まることを知らずに溢れてくる
そんな私を見かねたのか、国光が私の頬にすべり落ちる涙を指ですくいとってくれた
ふいに視線が絡み合う
久しぶりに国光の顔を近くで見るのに、涙で瞳に映る全ての景色が歪む
国光はそんな私の頬を手で包み込んで上を向かせ、少し微笑んだかと思うと優しいキスをくれた
今の気持ちを表すかのように・・・・・
私も国光と一緒に生きていきたい
ずっと一緒に・・・・・・
国光は離された私の唇を人差し指でそっとなぞり、かわいいとも思えるその仕草に、思わずどちらからともなく微笑んだ
そしてもう一度口付けを交わした
永遠とも呼べる誓いのキスを、あなたと―――――
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梓様からのリクエストでした。
キリリク内容は「手塚さんで、少しシリアスっぽいけど最後はハッピーエンド」という事でしたが・・・
こんなのになってしまいました〜!!
梓様、こんなのでよろしいでしょうか??
手塚さん、お誕生日おめでとうvv
2004年10月7日 茜