バカップル










朝、教室へ足を踏み入れると目の前には既に登校していた侑士の姿

おはよう!と声をかける前に、侑士が私の姿を見るなり近づいてきた

「おはようさん」

「侑士、おはよう。」

返事をしながら自分の机の上に鞄を置くと、侑士はまだ登校していない前の席の椅子に座った

、明日の休みってもう予定入れてしもた?」

明日は平日だけど、学校の創立記念日でお休みなんだ

しかも授業の多い木曜日がお休みだから嬉しい

「ううん。まだ予定は入れてないよ?なんで?」

「遊びに行かへんかなーと思って」

「え、だって部活は?」

「あぁ、言わんかったか?明日の部活は休みになったんや。せやから1日フリー。」

部活があると思っていたから、休みと聞いて一気に嬉しくなった

「本当?それじゃあどこか遊びに行こう。」

「それで、ここ行かへん?」

ゴソゴソと制服のポケットから2枚のチケットを目の前に差し出された

手にとって見てみると、そこにはでかい字で『ボーリング平日無料』の文字

「・・・・ボーリング?」

「知り合いからもろたんや。どや?」

「うん、いいけど・・・・・・」

言葉を濁す私に、チケットを眺めていた侑士の目が私の方に向いた

「ん?なに?」

「私、ボーリング下手なんだもん・・・・」

最近ボーリングなんてしてないし、本当に自信がなかった

そんな私に、侑士は手に持っていたチケットを机の上に置いて、ポンポンと軽く頭を叩いた

「大丈夫やって。明日は平日で空いてるやろうし、俺が教えたるから。」

「本当?」

「あぁ、まかしとき。」

ニコっと笑う侑士につられて私も笑顔を返した

「うん。よろしくね」













 *

次の日


この前の休みの日にお母さんに買ってもらったキャミとスカート

そして薄手のカーディガンを身に纏った

だいたいはジーンズの方が多いんだけど、このスカートを一番に侑士に見せたかったから

丁度支度ができた頃、侑士が迎えにきてくれて、2人でボーリング場へと足を運んだ



割と近い場所にあるボーリング場へ行くと、途端に カコーン というボーリング独特の音が響き渡る

まだ朝ということもあり、人はそんなに多くないけど、それでもお客さんは何組かいる

紙に名前を書いて受付の人に渡して、指定された番号のレーンへと向かった


「そういや、とはボーリング来たことあらへんかったな。」

「うん、初めてだよね。侑士はうまいの?」

「そりゃあもう。テニス部の奴らとちょくちょく来とるしな。」

俺のボールさばきに惚れるで? と言いながら投げたボールは見事にストライク

それを見て、まるで自分のことのように興奮してしまう

「すごい!最初からストライクでた!」

「どうや?」

「うまいよー!よしっ、私もがんばろう。」

久しぶりにボールの重さを感じながらも、ピンに向かって投げたボールは見事にガーター

・・・・そうだよね、久しぶりだもんね

最初はこんなもんだよ・・・でもがんばろう!

自分に気合入れてるところを侑士に見られて、私の姿に侑士は苦笑していた


それから何度かガーターが出ていたけど、だんだんと体が慣れてきて

1ゲームが終わり、何とか私も侑士と一緒にやっても恥じないくらいのスコアを出した

2人して画面にくぎ付けになる

「なんや、が言うほど下手やないやん。」

「そぉ?」

腑に落ちない顔をしている私に微笑んで、画面から目を逸らし私の方を見た

「あぁ、これなら俺といい勝負するんやない?」

「そんなわけないじゃない。」

無理無理、と言いながら『次のゲームへ進む』ボタンを押して第2ゲームへと進んだ





2ゲームめが始まって、初めて侑士よりもたくさんピンを倒した

って言ってもまだ1回目だから始まったばかりだけど・・・・

スペアが取れなくてくやしがって侑士の方へ戻っていったら、画面にくぎ付けになってる侑士がいた

そして突然こんなことを言い出した

「・・・・・ゲームせえへん?」

「ゲーム?今してるじゃない。」

侑士の言ってる意味が分からなくて、首を傾げた

「ちゃうて。どっちが多くピンを倒せるか、勝負しよか?」

どうしていきなり勝負なんて言い出したの?

・・・もしかして今ので、侑士の勝負魂に火をつけちゃったの?

「そんなの無理だよ!絶対侑士の方がうまいに決まってるじゃない!」

「やってみないと分からへんで?」

「でも・・・・・・・」

が勝ったら何でも1つ言うこと聞いたるで?」

「言うことっていっても・・・・・・」

まだ気乗りしない私に追い討ちをかけるように侑士が話を続けた

「来週やる英語の小テスト、範囲知っとるの?」

「・・・・小、テスト?」

何、それ?

いきなりのことで目が点になる

は覚えてるわけあらへんよな。授業中ずっと可愛え顔して眠っとったんやから・・・・・」

なにそれなにそれぇ〜!!

聞いてないよ!しかもよりによって一番苦手な英語〜?

どうして誰も教えてくれないのよ〜!!

頬を膨らませて侑士を見てみるが、タダでは教えてくれそうもない

「・・・・侑士に勝ったら教えてくれるの?」

「もちろん。勉強も見たるわ。」

「・・・・・・分かった。 その代わり、やるからには勝つからね!」

「あぁ、がんばってな。」

何としても勝って勉強も教えてもらうんだからーっ








そして6回目が終わったころ・・・・・

第2ゲームの自分と侑士のスコアを比べてみると、ガーターは出さないものの、差が縮まらない

そこそこ調子はいいものの、ストライクは1回もとれていなかった

スペアは何度かとってるけど、ストライクを出さなくても勝てるほど、侑士は甘くない

と、思ってる間にもまた侑士はストライク出したし・・・・

このままじゃ負ける・・・・

私が投げる番になって、ちょっと癪だけど侑士の元へ駆け寄った

「侑士ー、どうしたらストライクとれるの?」

は投げる時に手首が曲がってるねん。場所変えて投げてみ?」

ボール持って と言われて持ったものの、そのままレーンまで一緒に歩いてこさせられ、戸惑う

「侑士?」

「真ん中からやなくて、の場合はもう少し右から投げて・・・・・」

説明しながら私の後ろに回りこんだかと思うと、ボールを持っている私の手にそっと自分の手を重ねた

後ろから抱きしめられているような感覚に頬が赤くなっていく

背中が熱い  背中越しに侑士の鼓動が伝わってくる

突然のことに、力が抜けて持っていたボールを落としそうになった

それを侑士は見透かしていたかのように、力を入れてボールを持つ

「ボール、ちゃんと持たなあかんで。」

「ち、ちょっと侑士・・・・・・」

「何や?」

「こういう場所でくっつかれると・・・・・」

平然としている侑士に、ますます顔が赤くなって俯く

どうしてそんな普通なのよ〜

「くっつかれると、何?」

「・・・・・・・恥ずかしいじゃない」

実際、周りが見ると抱きしめてるように見えるんだろう

いくら人が少ないと言っても、こんな所で抱きしめられて平然としていられるほど私は強くない

「ボーリングのやり方、教えてほしいんやろ?こっちの方が口で言うよりよく分かると思うで?」

後ろから囁く侑士の声が耳元で聞こえてきて、それだけで心臓が破裂しそうなほど高鳴る

きっと顔も真っ赤なんだろうな

これじゃあ余計投げることできない・・・・・

「ほら、こう投げればええんやで。」

「う、うん・・・・」

投げる直前にやっと侑士から開放されて、未だに鼓動が早くなっているのを抑えつつ、レーンに視線を向けて集中した

えっと、投げるときに手首が曲がってるみたいだから、少し意識して・・・と


そして投げたボールは見事ストライクを決めてくれた

初めてのストライクが嬉しくて侑士の方へ駆け寄る

「やったぁ!初めてストライクでたよ!」

「な?俺の教えた通りやろ?」

「うん、ありがとうね。何かコツ掴めた気がする!」





それから侑士と私は白熱したゲームをしていたけど、やっぱり侑士には敵わず、結局負けてしまった

「はぁ〜。やっぱり負けた・・・・」

「でもええセンスしとったよ。なかなかやるやん。」

「私・・・負けたけど・・・・・小テストの範囲教えてぇ〜」

「あぁ、教えたる。ついでにちゃんと勉強も見てやるさかい・・・・」

「え、私負けたのに・・・いいの?」

ぐいっと私の肩を引き寄せて、左手を私の肩の上に置いた

「ええんや。の頼み断れるわけあらへんやろ。」

「・・・・・侑士。」

やっぱり侑士だ

いつもと同じ優しい侑士に笑みをもらした

伊達眼鏡の奥でもう1つ、別の笑顔が隠されているとも知らずに・・・・・

「ただし・・・・・」

「なに?」

「お礼、くれるか?」

・・・・・・お礼?

意味が分からず、返事の代わりに首を傾げた

そんな私に、当然のような顔して話を続ける

「ボーリングのコツ教えたやろ?」

「さっきお礼言ったじゃない。聞こえてなかったの?」

「それは聞こえたけど・・・それだけなん?」

それだけ・・・・って

「どういうこと?」

「キス、してくれへん?・・・・・・今、ここで。」

「えっ・・・・キス?しかもここで!?」

いきなりの『キス』発言に立ち上がり、大きな声を出してしまった

どうやら侑士の顔からして冗談ではないみたい

声を出した後で、ここは公共の場ということを思い出して、一旦気持ちを落ちつけさせて・・・・

「でも、何でここで・・・・・・・」

何もここでしなくてもいいじゃない

どうしてわざわざ人に見せ付けるようなことをするの?

「せやかて、勝負に負けたやろ?」

「それは・・・そうだけど」

「俺が勝ったんやから、俺の言うこと1つ、聞いてくれるんやろ?」

確かにそういうゲームだった

だけど今は侑士の『言うこと』が何なのか・・・・

何か企んでいるような侑士の笑いに、背筋が凍りそうになった

・・・・・もしかして・・・・・・

「まさか侑士・・・・・・最初からこれが狙いだったの?」

「何のことや?」

少し睨んだように侑士を見下ろしたけど、そんなものも侑士には通用しない

確信犯〜!!

・・・・・せぇへんの?」

どうしようもなくて困っていたら、侑士が少し寂しそうな顔で立っている私を見上げてきた

こうなった侑士は、動きそうにない・・・・・

一つため息ついて腹をくくる

少しかがんで侑士と目線を合わせる


「・・・・・・・・・・・・目、瞑って。」

私の言葉に素直に目を瞑る侑士の顔に、ゆっくりと近づいていった

いくら平日の午前中と言っても、お客さんがまったくいないわけではない

むしろさっきよりも時間が遅くなっただけ人が多くなってきた

誰かに見られる、そんな気持ちが大きくなってどうしても目が他を向いてしまう

真っ直ぐ侑士の顔を見られない

そのまま侑士の唇に触れるか触れないかという所で、いきなり目を瞑っていたはずの侑士が突然目を開けた

何? と思ってる間に、素早く右手を後頭部、左手を腰に回して、身を引こうとする私を抑えた

そしてそのまま強く引き寄せられて強引に口付けされた

「んっ・・・・・・・・」

触れるだけのキス

だけどいつもよりも少し乱暴な口付け

しばらくしてやっと唇が離れたと思ったら、侑士からこんな言葉が飛び出した

「まだ離してやらんで」

「ち、ちょっと侑・・・・・・・」

私が反論する間もなく、また侑士と唇が重なる


今度はさっきよりももっと深く 長く―――










「もう信じらんない!」

「せやから謝っとるやん。」

ボーリング場を出て、さっきからこの台詞ばっかり

怒る私に必死に謝る侑士

「・・・・でも何でいきなりあそこで『キスしろ』なんて言ってきたの?」

「・・・・・・・・・俺のお姫さんを許可なしに見てくる奴らに、な。」

「・・・どういう意味?」

侑士の言ってる意味が分からず、聞き返すと、それには答えてくれず代わりに頭を軽く叩いた


「それより、ボーリング来る時はスカート止めてぇな。」

「どうして?」

「俺以外の男がの事を見てると思うと腹立たしくなる。」

「そんなことないって。」

「しかもミニスカートやん。」

「・・・・・うん、そうだけど。」

だって新しく買ったスカート、一番先に侑士に見せたかったんだもん・・・・・・

似合わなかったかな・・・・・それとも興味、なかった?

「似合わない・・・・・?」

「いや、そうやなくて・・・・俺に見せてくれるんは嬉しいんやけど、外では嫌やねん。

 特にボーリングとか・・・・・投げる時は1人やから守ってやる事もでけへんし・・・・・・」

今まで組んでいた腕を離して、手を繋いでくれた

侑士の言葉と温もりに嬉しさがこみ上げてくる

「侑士・・・・・・・・・・」

「これでもめっちゃ嫉妬してんねんで?」

「そ、そうなの?」

・・・だからあんな所でキスなんてしたの、かな?

そのことを思い出して顔が赤くなる

「せやから、もう俺のいない所ではミニスカートははかんといて」

「うん、分かった」

「穿くなら俺の前だけでな。」

返事の代わりにギュッと手を握ると、侑士も微笑んでキュッと手を握り返してくれた










〜〜おまけ〜〜



「せやけど、ボーリングやってる時ののミニスカート姿ってそそるなぁ・・・・・」

「なっ、何言ってるの?」

「今度はボーリング場貸切ってやりたいなぁ」

「そんな・・・・・・」

わざわざそんなことのためにボーリング場貸切にする なんて言わないでよね・・・・

侑士の考えに、思わずため息ついた


「そん時はもちろんミニスカートで、な?」









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6月11、12日のラムたん主催のオフ会へ参加した方に捧げるドリームでした。
オフ会でボーリングしていた時に言っていた、侑士君のボーリングドリームv
妄想が膨らんで、膨らんだついでに私がドリームを書かせていただきました!!
妄想しすぎて少し長くなってしまいましたが・・・まさにバカップル(笑)
そして、侑士君にボーリングを教えてもらいたいと思った私はアホですか?(笑)

このドリームはFDLにさせていただきます!
オフ会へ参加された方はもちろん、どなたでもご自由にお持ち帰りくださいませvv
これで侑士君とボーリングに行ったつもりになってくれたら幸いです(笑)


 2005年 6月15日 茜