2〜3日前、気分転換に歩いて帰っていた時に公園でふと見かけた女
何となく気になって次の日も通ってみると、アイツはいた
同じ時間、同じ場所に
猫が見る夢
今日は、午前授業で部活もなかったから昼頃にまた同じ道を通った
今日は時間も違うし、いるはずねぇな
だけど心のどこかで期待している自分がいた
・・・・・今日もいるのか? ・・・まさか、な
朝から降り続く雨のせいで、ほんの少しの期待が淡いものに変わりつつあった
さすがに今日はいねぇだろ と思っていた
だけどアイツはいた
傘も差さずに何やってんだ?
アイツの所にゆっくりと近づいてみるが、まったく気づく様子もない
黒く長い髪から雨水が雫になって滴り落ちている
一体いつからここにいやがったんだ?
「お前、こんな所で何やってんだよ。」
最初はからかうつもりで声をかけた
だがいくら待っても返事はない
小さく舌打ちして、もう一度問いかけてみた
「おい、聞いてんのか?」
「・・・・猫」
2度目の問いかけに、やっとのことで視線を合わせやがった
そして何か言ったみたいだが、声が小さすぎて聞こえねぇ
「あん?」
「猫が・・・・・」
やっとのことで俺の問いかけに答えたかと思ったら『猫』と言ったきり、また視線を外してさっきまで見ていた方へ顔を戻した
何だってんだ・・・・・・・
一歩進んで何かと見ると、小さな猫がダンボールの中にいた
・・・・飼い主に捨てられたのか
それまでずっと見ていただけだったコイツが、ゆっくりとダンボールから猫を抱き上げた
猫は腕の中で小さく『ミャー』と鳴いていた
「・・・・・飼うのかよ?」
コイツは質問した俺と顔を合わせることなく、猫を見つめたまま
「ううん・・・・・・ただ、私と同じだなと思って・・・・・・・・」
「同じ・・・・?飼う気がねぇんならそのまま捨てとけよ。」
「だけど・・・・・・・・・・」
「それにしても、お前いつからここにいたんだ?」
それっきり返事がなくて、顔を覗かせるとそのまま俺の方へ倒れこんできた
「おいっ、どうしたんだよ!」
軽く揺すっても返事はなく、片手で支えられる程の華奢な身体は震えていた
息が荒く、もしかして・・・と思い、額に触れると、とても平熱とは思えない程に熱をもっていた
本当にいつからいやがったんだコイツ
それに何でこんなになるまで・・・・・
いろいろと疑問が浮かんだが、さすがにこのままにしておくわけにはいかねぇ
急いでポケットから携帯を取り出す
「俺だ。大至急車を回せ。場所は2丁目の公園だ、急げ!」
さっきよりも雨が強くなり、人気もまったくない公園で叫んでいた
無意識のうちに、名前も知らねぇ女を抱きかかえながら・・・・・・・・
*
事実を聞かされてから、一秒でも早くあの家を出たくて
雨の中を傘も持たずに駆け出した
公園で見つけた一匹の小さな仔猫
捨てられた仔猫が、今の私と重なってしまってずっと動けずにいた
「・・・・・・・・あれ?」
ここ、どこ?
私・・・・・・どうしたんだっけ?
「目が覚めたか。」
「あなたは・・・・・・・・・・・」
「跡部景吾だ。お前は?」
跡部景吾 と名乗った彼は、柔らかそうなソファーに身を沈めて、本を読んでいた
あとべ・・・・どっかで聞いたことある・・・と思いつつも、考えを中断した
「・・・。。あなたが助けてくれたの?ありがとう。」
私の名前を聞いて跡部君は一瞬目を見開いた気がしたけど、すぐに戻った
「礼はいい。ところで、お前はどうしてあんな所にいたんだよ。」
「どうしてって・・・そうだっ!猫は・・・・・」
「心配すんな。そこ、見てみろ。」
公園に捨てられていた仔猫
飼えないけど・・・・どうしても放っとけなくてずっと傍にいた
気になってベッドから起き上がろうとすると、跡部君が親指で窓際を指した
「あ・・・・・・・」
言われるがままに窓際の方をみると、さっきまで抱きかかえていた仔猫が、一生懸命ミルクを飲んでいた
元気な姿に胸を撫で下ろす
「猫も一緒に助けてくれたんだ。ありがとうね。」
「だから礼はいいって言ってる。それより・・・・・・」
「私があそこにいた訳?」
何となく跡部君が聞きたかった事が分かって、自分から切り出した
「・・・・あぁ。お前、2〜3日前からいつも同じ時間にあそこにいただろ?」
どうしてそれを・・・・・・跡部君が知ってたことに驚きを隠せなくて、目を大きく見開いた
「・・・知ってたの?」
「たまたま見かけたんだよ。」
「家を出てきたの、さっき・・・・・・・。親がお見合いしろって・・・。」
「見合いくらい、いいじゃねぇか。」
『見合いくらい』・・・・って簡単に言えるなんて・・・・。それにこの部屋だけでこんなに広い
・・・・・・・もしかして!
さっきからずっと『あとべ』ってどこで聞いたっけ?って考えてて、やっと思い出した!
「もしかして跡部って・・・あの?」
跡部って跡部財閥の しかも一人息子って聞いたことがある!
「あぁ・・・。そういうお前は家のお嬢様だろ?」
顔色一つ変えずに私の質問に答えて、それから確信つきながら質問を返された
道理で『お見合い』って言っても平然としているわけだわ
「・・・・・・そんなんじゃないわ。」
私がそう答えると、口の端を持ち上げてフッと小さく笑った気がした
「それで?」
「え?」
「見合いがどうしたんだよ。」
「・・・・いつものお見合いだけならよかったんだけどね。いくら親の都合って言ってももう慣れたし。
だけど、朝に父親から『本当は許婚がいたんだ。今度お見合いする相手がそうだからな』とか言われて・・・・。
いきなり許婚とか結婚とか言われても私どうしていいのか分からなくて・・・・・思わず家を飛び出してきちゃったんだけど・・・
仔猫は3日くらい前にたまたま公園に行ったら見つけて、気になって毎日仕事の帰りに寄ってたの。私には他に行く当てがなかったから・・・・。」
跡部君はただ黙って私の話を聞いていた
「・・・私もこの子みたいに野良猫の方がよかったな。」
小さく呟いてみるけど、そんなことできないことくらい分かってる
ふぅ と小さくため息をついて、相変わらず黙ったままの跡部君に微笑んだ
「ごめんね、こんなことまで喋っちゃって・・・。忘れてね。
看病してくれて本当にありがとう。・・・・私帰るね。」
これ以上見ず知らずの彼に迷惑かけるわけにはいかない
まだ身体はだるいけど、ゆっくりと起き上がって荷物を持とうとした手を押さえられた
「待てよ、どこへ帰るんだよ。」
「・・・・・・・・・・」
「答えろよ、。」
いきなり名前で呼ばれて驚いたけど、今はそれどころじゃない
掴まれた手をそっと離した
「・・・これ以上跡部君に迷惑かけるわけにはいかないわ。とりあえず友達の家にでも泊めてもらうから。」
本当にありがとう・・・・と 軽くお辞儀をしてドアへ向かって歩きだすと、跡部君が小さく何か呟いた気がした
「・・・えっ?」
何を言ったのか聞き取れなくて振り返って聞き返すと、髪をかきあげながら、さっきとは・・・違う言葉を発したような気がした
「・・・・部屋は有り余ってんだ。もう夜も遅いし泊めてやる。」
「でも・・・・・・・・・」
「いいから、まだ熱下がってねぇんだから。もう寝ろ。」
なんか、強引な人 だけど・・・・優しい人
「・・・・・・ありがとう。」
図々しいと思いつつ他に行く当てもないので、その日はそのまま跡部君にお世話になることになりました
あれから数日―――
・・・・なのに、数日経った今でも、私は仔猫と一緒に跡部君のお世話になってます
私は『出ていく』って言ってるのに『いいからここにいろよ』の一点張りで・・・・
それに、丁度連休が重なって私も会社は休みだし、跡部君も学校は休みらしい
でもテニス部に所属してるみたいで学校へ行ったりするけど、それ以外は私と一緒にいてくれる
跡部君は、何かと理由をつけては外に連れて行ってくれたり、一緒にいて気を紛らわしてくれていた
今日も午前中は部活だったから疲れてるはずなのに、午後は外へ連れて行ってくれた
「ねぇ、跡部君。今日はどこへ行くの?」
「・・・・・・・・」
私の声は聞こえてるはずなのに、ソッポを向いたまま返事をしてくれない跡部君に首を傾げながら、もう一度問いかける
「跡部君・・・・?」
「いい加減名前で呼べ。」
前々から何度も『名前で呼べ』って言ってたけど、どうしてもそれが出来ずにいた私に痺れを切らしたように言い放った
そんなこと言われても急に呼べるわけないじゃない
「だけど・・・・・・・・」
「いいから言ってみろよ。言わねぇと、ここでキスするぜ?」
そう言って跡部君の手が私の頬に触れた
跡部君のその一言と、いきなりの行動に驚いて名前を呼ぼうとするんだけど、どうしても躊躇ってしまう
「えっ!・・・・け、いご・・・」
「あん?聞こえねぇな。」
「景吾!」
「やりゃあ出来るじゃねぇか。これからもそう呼べよ。」
私が名前で呼んだのを聞いて、嬉しそうにそう言って歩きだしてしまった
いきなりのことに私の鼓動は更に速さを増していた
だけど・・・・・・・こんな生活いつまでも続けているわけにはいかないのよ
跡部君を名前で呼ばなかったのは、私の唯一のケジメ
もし名前で呼んでしまっては、もう引き返せないと思ったから
私の心の奥に秘めた、この想いを―――
「ずっとここに泊めてもらうわけにはいかないわ。」
ここでお世話になっている間、この言葉を何度言ったか分からない
この話になると、決まって景吾は不機嫌な顔になる
「俺がいいっつってんだからいいんだよ。」
「景吾がよくても私がよくないのよ・・・・・・・・・」
逢って数日で景吾を好きになった・・・なんて知られたら・・・・・
相手は高校生なのに
これ以上一緒にいたら、全てを捨ててでも景吾の傍にいたいと思ってしまう
景吾にとっては私のこと、何とも思ってないのに
だから諦められるうちに・・・・・・・
「もう・・・・本当に無理なの・・・・ごめんなさい、今までありがとう。」
ドアに向かって足を進めようと踏み出すと、後ろから抱きしめられた
な、何!?
と思って振り返ると、景吾が私を抱きしめていた
優しく、包まれるように
「・・・・行くな、ずっとここにいろよ。」
そう言ってくれるのを少し期待している自分がいた
だけど、これ以上一緒にいたら・・・・私・・・・・本当に景吾から離れられなくなってしまう
この手を離そうとすると、逆にキツク抱きしめられる
「なに、言ってるのか分かってるの?」
「あぁ、分かってるぜ?お前をこの猫と一緒に飼ってやるって言ってんだよ。」
・・・飼ってやる?
景吾の言葉に少しムッとしながら反論する
「飼うって・・・・私は猫と同じなの?」
「同じだな。気は強い。なのにそうやって甘えるところ・・・・そっくりじゃねぇか。」
「私、気強いかしら。それに甘えた覚えもないんだけど・・・・・」
「そんなこと言っても俺には全て分かるぜ?
お前はずっと俺の声だけ聴いてろ。」
離れなきゃ、家に帰らなきゃ
そう思っても体は思うように動いてくれない
今、この手を離さなきゃ・・・・・・だけど・・・・・
あなたの囁く声が、触れる指先が、熱が・・・
全てが私を魅了する
あなたが私に触れるたびに『愛してる』って聞こえる
幻聴なの?それとも・・・・・・・・
「・・・・」
名前を呼ばれて顔を上げた瞬間にキスをされた
私はいきなりのキスに気をとられて気がつくと体の力が抜けていた
もう・・・・・この気持ちは偽れない
「景吾、愛してるわ。」
猫は決して媚びず、必要以上に近づかず、だが距離を置くわけでもない
そういうもんだ
それに猫ってのは飼い主を夢中にさせるんだってよ
俺も、既にお前という猫に夢中だからな
そんな想い、は知る由もないんだろうがな
真っ白なシーツにの黒くて長い髪が乱れている
不安そうな目で見てくるを見下ろし、優しく髪を撫でた
「そんな怖がるな。素直に俺を感じてろ。」
俺だけを、な―――
そして、再び深いキスを送った
本気で愛したっていうのか?まさかこの俺様が・・・・・・
はっ それも悪くねぇかもな
コイツ・・・・なら・・・・・・
「、愛してる・・・・・」
「・・・・・?」
昨日お互いの愛を確かめ合い、安心したのかいつの間にか眠っていたようだ
だが、ついさっきまで隣に寝ていたはずのの姿がなかった
ベッドにはの温もりは既に消えていた
最初はシャワーでも浴びてるのかと思ったが、嫌な予感がしてベッドから起き上がった
一瞬、昨日見せた今にも泣き出しそうな悲しい顔を思い出した
・・・・・まさか
「っ!」
叫んでみても返事はない
代わりにテーブルの上に置かれた白い紙を見つけた
『今までありがとう。猫をかわいがってやって下さい。景吾のこと、本当に愛してた』
その手紙を読み終わると同時にクシャと片手で握りつぶした
俺は好きな女一人守れねぇ甲斐性なしなのかよ!
・・・・冗談じゃねぇ
どうして・・・何も言わずに俺の前から姿を消した? っ・・・・
「おいっ!すぐに親父と連絡とれるようにしろ!!すぐにだ!」
電話で執事にそう叫んだ
ようやく手に入れたんだ 簡単に手放してたまるかよ
数日振りの実家
自分の家だというのに、入るのにこんなに勇気がいるなんてね
この扉を開ければ現実に戻る
もう引き返せない
一つ、大きく深呼吸をして家の扉を開けた
「・・・・・・ただいま。」
「!・・・・よかった、心配させないでちょうだい。」
私の姿を見るなりお母さんが今にも泣きそうな顔つきで抱きしめてきた
それを見て、悪いことしたかな と少し反省した
「ごめんなさい・・・・。」
玄関でお母さんと話していると、お父さんがリビングのドアから小走りにやってきた
あの日、一方的に話を聞かされて何も言わずに出て行って以来
許婚がいた と聞かされた時は何がなんだか分からずに反発して家を飛び出したけど
冷静になって考えれば、お父さんも私のことを考えてとった行動なんだろうし・・・・・
「心配かけてすいません。」
「・・・・・・・・もういい。とにかく今日は部屋で休みなさい。」
私の顔を見て安心したのか、いつもよりも優しい顔つきだった
「・・・・・はい。」
自分の部屋に戻ってから何もする気になれず、そのままベランダで座って外を眺めていた
それからいつまでそうしてたのか分からない
気づいたらもう日は完全に落ちていた
夜、薄暗い部屋の中でベッドの上に寝転がってみる
いつもならとっくに寝ている時間なのに、何故か今日は眠れない
明日はお見合いだから・・・・・?
チク・タクと時計の音が部屋中を支配していて、やけに大きく聞こえる
そっとレースのカーテンを開けると、真っ白い月がぽっかりと顔をだしていて、その光が薄暗い部屋に白々と淡い光を放っている
「・・・・綺麗」
ベランダに出て、ぼんやりと月を見上げた
まだ夜は少し肌寒く、小さく身震いをする
だけど今はこうしていたい
お見合いなんて何度もしたことあるのに、今夜だけはどういうわけか不安になってしまう
今まではこんな気持ちなかったから
お見合いとは形だけ
明日お見合いする相手と私は結婚させられるのだろう
いくら私のことを思ってやってくれていることでも、親の都合だけで決めて・・・私の人生めちゃくちゃよね・・・・・
だけど、今まで何もさせてもらえなかった私が家を出たところで生きていけるとも思えない
結局親に従う形になってしまう
部屋から携帯を持ってきて見るとディスプレイに着信が数件残っていた
全て景吾からの着信
今は景吾のことしか頭にない・・・・・・
迷惑かけたくなくて自分から離れたのに、まだこんなに好き
抱きしめられた感覚が 彼のぬくもりが未だに抜けない
彼に触れられた所が、今も熱い
景吾が『』と呼ぶ度に自分の名前が愛しく感じるの
ここで例えば私が一言『会いたい』と口にすれば、きっときてくれる
だけどそんなこと、言えるわけないじゃない
景吾とは歳も離れてるし、彼には彼の人生がある
「景吾・・・・・・」
夜空に向かって呟いてみる
返事なんてないのは分かってるけど
あの日、私を暗闇から救ってくれた人
あなたに出逢わなければ、今の私はなかったかもしれない
こんな想い、知らなかったかもしれない
だけど、私はあなたに出逢った
あなたは『ずっと俺の傍にいろ』って言ってくれた 抱きしめてくれた
だけど私は、自分から素直にその腕の中へ入っていくことができない
『かわいくない女』そう言われても仕方ないと思う
そんなの自分が一番よく分かってるのにね
私よりも年下なのに、私よりもしっかりしていて、いつも支えてくれた
一見クールに見えるけど、実はすごくあたたかい人
そんな人を好きになって 好きでどうしようもなくて・・・・・・・・・でも諦めて
最後にこんな素敵な恋をさせてくれてありがとう
あなたを想って泣くのは、今日が最後にするから
今だけは・・・・あなたを好きでいさせて―――
*
「、早くしなさい。」
「・・・・・はい。」
今、私はお見合いする場所へ向かっている
そこは高級料亭を一部屋借りて行われるらしい
『事前に写真見ておきなさいよ』と言われたけど、そんなの見る気になんてなれない
・・・・・・・だめね、私ったら
もう景吾のことは忘れなくちゃいけないのに
もう二度と会うことはないんだから
「じゃあお母さんはこっちの部屋にいるからね。あなたが逃げ出さないように。」
しっかりばれてる・・・・・・・
はは・・・・と苦笑いでごまかした
そう言ってお母さんはお見合いする部屋の隣の部屋へと姿を消した
そのまま案内人の女性が隣の部屋まで案内してくれる
「お連れ様がお見えになりました。」
部屋の中にいるお見合い相手にそう告げて、襖が開けられた
心の中で大きくため息をついて、すぐ帰ろう と心に決めて部屋へ一歩足を踏み入れた所で身体が硬直した
「それでは失礼します。」
と言う女性の言葉さえも耳に入らないくらいに、今の私は動揺していたと思う
「はじめまして・・・・・・、跡部景吾です。」
確かに彼はそう言った
「・・・・ど、うして?」
「それはこっちの台詞だ。お前、どうして急に出ていったんだよ。」
どうして景吾がここにいるのか、どうして今日のお見合いの事を知っていたのか
聞きたいことはたくさんあるのに、うまく言葉が出てこない
二度と会えないと思っていたのに・・・会わないと心に決めていたのに
だけど本当は会いたくて 今すぐ会いたくて・・・・・会えた嬉しさで涙が出そうになる
「景吾がお見合いの相手・・・・だったの?」
「あん?当たり前のこと言ってんじゃねぇよ・・・・・・って言いたい所だがな、本当は俺じゃなかったんだよ。」
何を言ってるのか理解できずに、そのまま景吾の話に耳を傾けていた
「の見合いの相手、俺じゃなかったんだ。だから親父に頼んで説得して強引に俺に変えてもらった。」
・・・・・ちょっと待って
私が今日お見合いする相手は本当は景吾とは別の人だったけど、景吾が強引に変えたっていうの?
「何で・・・・?よく景吾のお父さんも本当のお見合いの相手も許したわね。」
「はっ、文句なんて言わせるかよ。親父さえ説得できりゃ後はどうにでもなる。
もともとの見合いの相手は、俺の親父とよく取引している所の息子だったしな。」
「そう、だったの・・・・・・」
やっとのことで理解したそばから『あぁ、それから』・・・と景吾が話を続ける
「今日が見合いする相手と許婚だって言ってたよな。それ解消されたぜ。」
えっ、どういうこと?
「お前の親父にはもう許可はもらってる。後はお前次第だ。」
私の頭の中でクエスチョンマークが飛び交う中、さっさと景吾は話を進めていくのを慌てて止めた
「ち、ちょっと!どういうことかさっぱり意味が分からない!」
「あーん?これだけ言っても分からねぇばかりか、どうして俺様がここまでしたのかすら分からねぇか。」
「分からない、分からないわよ。どうして!?
私なんて景吾より年上だし、あなたにはきっと私より相応しい人がたくさんいるはずでしょ?」
だから自分から離れていったのに・・・・・・・
折角・・・・忘れようと思ったのに
なかなか景吾の方へ近寄ることができずにいた
それを見兼ねた景吾が私の傍までやってきて、そっと抱きしめてくれた
あの日のように・・・・・
「俺様がお前をそう簡単に手放すとでも思ってやがるのか、あーん?」
「・・・・・だけど・・・・・私は・・・・」
「うるせぇ。俺が選んだんだ。俺がお前を好きだって言ってるんだよ。何度言わせるんだ。
それに、俺はの幸せを考えて来たわけじゃねぇ。
俺自身が幸せになるためにはが・・・お前が必要だと思ったから来たんだ。」
「景吾・・・・・・」
その言葉に、涙がまた溢れだしてきた
それを見て、ふっ と小さく笑い、親指で頬に伝った涙を拭ってくれた
「それにお前みたいな手のかかる猫なんて俺にしか懐かないだろ?」
「失礼ね、私は猫なんかじゃないわよ。」
「いや、世話のかかる猫だ。」
「・・・もぅ」
「お前はどこまでも俺を夢中にさせる、世界で唯一の猫だぜ
俺だけの、な――」
そう、耳元で囁かれて一気に顔が赤くなった
「それで?」
「・・・・え?」
「答えは決まってるだろうが、一応聞いてやる。俺と一緒に来るだろ?」
自信満々に言う拒否権のない質問に、思わず小さく笑う
だけど、私の答えは1つしかないから
「・・・・はい。」
そして私は今日も、景吾の腕の中で夢を見るんだろう
景吾と、あの日拾った仔猫と一緒に・・・・
ねぇ、景吾
あなたさっき『俺自身が幸せになるためにはが・・・お前が必要だと思ったから来た』って言ってたけど
私だってあなたに幸せにしてほしい なんて思ってないよ
私は景吾と一緒に幸せになりたい!って思っているんだからね
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唯さんに捧げるキリリクでした。・・・・って長いよ!!
本当、こんな長くするつもりなかったんですが・・・・・すんまそん(汗)
リクエストは「景吾に雨の日に猫と一緒に拾ってほしい!」でした!!
年上ヒロインは初めてだったんですが、ちゃんとなっていたでしょうか?
そしてどうしてもオトナテイスト風になってしまう・・・(汗)
リクエスト通りになっているか(かなり)不安ですが、気に入ってくれたら嬉しいですvv
100のお題 : 66「猫が見る夢」
2005年 5月 10日 茜