学校から帰って家の玄関を開けると、お母さんと誰かが話す声が聞こえてきた

・・・・お客さん?珍しいなぁ

疑問を抱きつつリビングへ行くと、そこにいたのは一年前に結婚して家を出たお姉ちゃん

それにもう一人・・・・・・・










   
かわいい嫉妬









「お姉ちゃん!」


突然目の前に現れたお姉ちゃんに声をあげて呼んだら、慌てて人差し指を自分の口元に当てた

「しーっ。」

な、何?

その動作に、声をたてないようにそっとお姉ちゃんに近づくと、赤ちゃんがすやすやと眠っている姿が目に入った

「和樹君も来てたんだ!」

だから静かにって言ったのね


和樹君はお姉ちゃんが結婚してから産んだ赤ちゃん

まだ生後五ヶ月で、とっても可愛いんだ

病院で何度か顔を合わせたけど、退院してから会うのは初めて

私子供って大好き

だからついつい声が大きくなってしまった

そしたらキッチンからお茶を運んできたお母さんが、念を押すように私に告げる

「今眠った所だからあんまり大きな声ださないでよ。」

「はーい。」

私服に着替えるのも忘れて、気持ちよさそうに眠っている和樹君の寝顔を見つめる

しばらくして、どうしてお姉ちゃんが家に来たのか気になった

連絡もなしに来るなんて・・・・

「お姉ちゃんたち、どうして急に来たの?・・・旦那さんは?」

遠慮がちに聞いてみた

旦那さんと喧嘩でもしたんだったら、お姉ちゃん怒って八つ当たりされかねないからなぁ・・・

「今日から出張で家にいないから、その間だけ実家に遊びに来たのよ。

 和樹が産まれてからとも全然会ってなかったしね。」

「旦那さんが出張・・・って、どのくらい?」

「二週間。」

じゃあ二週間は和樹君と一緒に過ごせるんだ

ニコニコしながらまだ夢の中の和樹君の頬を軽くつついた











「それでね、手とかすっごい小さくて可愛いんだよ〜」

「・・・・へぇ。」

次の日の朝、景吾が家まで迎えに来てくれて、早速和樹君の事を話はじめた

だけど景吾はあんまり楽しくなさそう

どうしたんだろう?

朝だから機嫌が悪いのかな?なんて考えてた


、明日部活が休みになったからどっか行かねぇか?」

「え、だって今週は休みないって言ってなかった?」

「急に監督の方が都合悪くなったらしくて、休みにするって言ってきたんだよ。」

てっきり今週末は景吾と過ごせないと思って、家族でご飯食べに行こうと約束していた

いつもなら家族より景吾を優先するけど、その日はまだお姉ちゃんと和樹君が家にいる

「・・・・ごめん、その日家族で過ごすから・・・・・」

「・・・・そうかよ。」

私の返事を聞くなり、不機嫌になってしまった

多分いつも私が家族の方を断るから、今回もそうすると思っていたんだろうな

「あ、じゃあ来週景吾の家に遊びに行くからさ。それでいい?」

「・・・・・・・・」

「景吾?」

「・・・・分かった。」

一応不機嫌は直ったみたいで、ホッと一息ついて景吾と一緒に学校へ向かった














 *


あれから一週間以上経つってのに、未だには『和樹』って奴のことばかり喋りやがる

それにたいして俺は苛立ちが募るばかり

いくら子供好きっていってもそこまで構う必要ないんじゃねぇのか?





「跡部、英語の辞書持ってねぇか?」

自分の席から何気なく窓の外を眺めていると、宍戸が声をかけてきやがった

そもそも別のクラスなんだから勝手に教室に入ってくるな

俺のそんな想いなんて気づきもせず、それがまた苛立ちを募らせた

「・・・何だよ宍戸。俺は今忙しいんだ。辞書なら忍足の奴にでも借りればいいじゃねぇか。」

「見当たらねぇから跡部に声かけたんだろ。それにお前、どっからどう見ても暇そうだぞ・・・・。」

宍戸が呆れ顔で俺を見てきやがる

・・・・確かに傍から見れば暇に見えるかもしれないが、頭の中はアイツのことでいっぱいなんだよ

無言で宍戸に辞書を手渡した所で、忍足がこっちに来るのが見えた

一瞬目が合ったがすぐに逸らして、また外を眺めていた

うるさい奴が来やがった・・・・・

「何や、宍戸。跡部に辞書借りるなんて珍しいやん。」

「しょうがないだろ。次の時間使うんだから・・・・・。」


「・・・それにしても、今日も機嫌悪そうやな。跡部の奴。」

「・・・・あぁ。」

「最近特に機嫌悪ぅないか?」

「そう言われればそうだな。」

そんな会話が聞こえてきたが、反論することもなく黙って外を見ていた

また一言でも話すとうるせぇからな

心の中で小さくため息をついた俺の横で、二人がニヤリと笑みを浮かべていることなんて、今の俺は知る由もなかった












 *


「なぁ、。」

休み時間、後ろの席の宍戸が声をかけてきた

「どうしたの?」

どうせいつもの『今の授業のノート貸してくれ』って言うのかと思ってたから、机の中からノートを取り出していた

「最近跡部の奴と喧嘩したか?」

声かけてきたのって・・・景吾のこと?

私達の列は廊下側なので、壁に寄り添って横向きになって返事を返した

「えっ、してないけど・・・何で?」

「何か最近妙に荒れてるっつーか、機嫌が悪いっつーか・・・・・・。で、思い当たるのはお前しかいねぇし。」

「荒れてるって・・・・・・何で?」

私の言葉を聞いて、がくっ と肩を落としていた

「だからそれを俺が聞いてんだよ。」

あ・・・そうだよね

だけど、荒れてるって・・・・どうしてだろう

機嫌が悪い・・・?

宍戸のその言葉で私も思い当たる節があるのを思い出した

「・・・・・そういえば、景吾ってば私が話してる間も妙に機嫌が悪いのよね・・・・・まともに私の話、聞いてくれないの。

 私がいつも同じような話ばっかりしてるからっていうのもあるかもしれないけど・・・・・」

ちゃんはいつも跡部に何の話してんねん?」

「うん、実は一週間くらい前から・・・・・・・って」

今、横から宍戸と違う声が聞こえたような気がしたけど・・・まいっか

構わず話を続けていると、私達が話している真横に忍足君が廊下の窓から顔を覗かせていた

「忍足!お前いつの間に話に割りこんできてんだよ!」

「ええやん別に。で?ちゃん、続きは?」

怒鳴る宍戸なんて気にもせず、忍足君は私に続きを急かした

「あ、うん・・・。一年前に結婚した私のお姉ちゃんが今、家に帰ってきてて、赤ちゃんも一緒に・・・。

 それで私子供が大好きだから、気づくとつい和樹君の話ばっかりしちゃってるみたい・・・。」

それでね・・・・・と話を続けていくうちに、だんだんと忍足君の表情が変わってきた

勘がいい忍足君は私の言葉だけで分かったのか、ニヤニヤしている

それに気づいた宍戸が忍足君に声をかけた

「どうしたんだよ、忍足。気持ち悪ぃな。」

「失礼なこと言うな。ちゃん、跡部の機嫌悪いわけ分かったで。」

「うそっ!本当?」

「マジかよ・・・」

私と宍戸と二人して目を丸くして、忍足君を見た

どうして景吾が最近機嫌悪いのか知りたい

私の話聞いて理由が分かったっていう事は、やっぱり私が悪い・・・・のかな?


「跡部の奴、嫉妬しとるんや。」


一瞬目が点になった、気がした

そして間の抜けた声をあげた

「はぁ?」

しっと?景吾が?

「「・・・・・誰に?」」

「その赤ちゃんに。」

迷うことなく答える忍足君

そしてその答えに、私と宍戸君は更に驚く

「まさか。いくら跡部でもガキに嫉妬するかよ。」

うん、私もそう思う

と頷くと、忍足君はいやいや と首を横に振って反論し始めた

「そのまさかやん。ちゃんが最近跡部にかまわないからイライラしてるんやないか?」

「でもまさか景吾が・・・・・・・・・」

あの景吾が子供に嫉妬するなんて・・・・・まさかねぇ・・・・・

信じられない気持ちでいっぱいの私の横で、確信つくかのように忍足君が笑っていた













 *


学校から帰ってきて、家で洋書を読みながらくつろいでいた

チラッと時計を見ると、約束した時間より30分も過ぎてやがる・・・

あいつが時間に遅れるなんて珍しいな・・・・・

やっぱり俺が迎えに行った方がよかったか?なんて考えてるうちに、が来たと連絡があった

しょうがねぇから玄関まで迎えに行ってやると、息を切らしたの姿があった

「よぉ、遅かったじゃねぇの。俺様を待たせるとはな・・・・」

「ごめん、和樹君が・・・・・・・」

ちっ・・・また『和樹』かよ

の口から他の男の名前を聞くのはさすがに頭にくるぜ

今までは我慢してたが、さすがにずっと続くとな・・・それがいくら子供だろうと

「・・・お前、俺といるときに『和樹』って奴のことばかり喋るんじゃねぇよ。」

「私・・・そんなに和樹君のことばかり喋ってた?」

「その上自覚ナシかよ・・・」

そう言うと、一応少しは自覚あったらしく、素直に謝ってきた

「ごめんなさい・・・・・・・」

「とにかく、俺といる時は俺のことだけ考えてればいいんだよ。」

「ねぇ・・・・・前から聞きたかったんだけどさ・・・」

「あんだよ」

「景吾・・・・・・・嫉妬、してる?」

「・・・・・・・・・・・・」

突然思ってもみない事をが言ってきたせいで、すぐには言葉が出なかった

俺の反応を見てそれが確信に変わったのか、少し嬉しそうな顔つきに変わった

「やっぱり本当だったんだ・・・・・」

「やっぱりって何だよ。」

「忍足君が言ってたの。『景吾は和樹君に嫉妬してる』って。」

「忍足のヤロウ・・・・・・・」

明日忍足の奴にはグラウンド20周させなきゃな・・・と考えつつ、と部屋に向かった






「それで?和樹がどうしたって?」

左手はの腰に手を回し、右手でブルマンが入ったティーカップを持ちながら、さっきの続きを聞いた

俺の質問にが呆れた顔をしながら答える

「さっきは自分が和樹君の話するなって言ったくせに・・・・」

「だけど何か言いかけただろ?」

「うん・・・・・さっき旦那さんが迎えにきて帰っちゃったんだ。」

「へぇ、よかったじゃねぇか。」

「よくないよー。」

『和樹』って奴が帰りゃあが話をすることもなくなるだろうしな・・・・・・

なんて思ってると、が俺の考えを読み取ったのか、さっきの話をまたしてきやがった

「それにしても、まさか景吾が和樹君に嫉妬してたなんてね〜」

「だから違ぇって言ってんだろ?」

「ま、別にいいけど〜」

「・・・ちっ。勝手に言ってろ。」

「勝手に言ってる。」

これ以上話していても、が面白がってくるだけだろうから放っておいた

そしたら隣で『明日忍足君に教えてあげよー』とか『宍戸にも連絡しなきゃ』なんて言ってるのが聞こえた

・・・・あいつらには死んでも言えるか


「でもさ・・・景吾、子供嫌い?」

頭の中で、明日の朝練であの二人に何をさせようか考えていると、急に真剣な顔つきでが俺の方を見てきた

「あぁ?・・・・・あんま好きじゃねぇかもな。」

「どうして?」

「・・・・さぁな」

そう・・・と小さく呟いて、冷めかかった紅茶に口つけてから俺の肩に寄りかかって小さな声で喋りだした

「もっと和樹君と遊びたかった。寂しいな・・・」

の奴、そんなに子供好きだったのかよ

だったらな、手っ取り早い方法、教えてやろうか?

「俺の子を産めよ。」

「けっ、景吾!急に何言い出すのよ!」

俺の言葉に耳まで赤く染めて声をあげた

「子供って・・・・・・一体いつの話をしてるの?」

「今はまだ早いにしても、そう遠くない未来、だろ?」

「でも・・・・」

言いずらそうに顔を俯かせて・・・・まさかの奴、反論でもあるのか?

まぁ、そんなこと俺が許さねぇけどな

「でも・・・何だよ?」

「さっき子供あんまり好きじゃないって言ってたじゃない。」

何だ、そんなことか

の質問に内心ホッとした自分がいた

その動作に気づくと小さな笑みを漏らした

まさかここまで一人の女に入れ込むなんてな・・・・・

「そりゃ他人の子供だからだろ?だけどな・・・・・・」

俺の言葉を首を傾げながら待っているの顎をそっと持ち上げて言葉を続けた

「俺との子供だったら、世界で二番目に愛せるぜ?」

「け、景吾っ!!」

俺の言葉に近づけていた顔を逸らされ、さっきみたいに顔を赤くしていた

これくらいでいちいち顔赤くしてんじゃねぇよ

しばらくして、俺の言葉に疑問を持ったのか、聞き返してきた

「・・・・じゃあ一番・・・・は?」

そんな当たり前のこと聞くなよ

「そんなの、に決まってんだろ。お前は違うのかよ?」

「私は・・・・・どうだろうな〜。もし景吾との子供が出来たらその子が一番になっちゃうかも・・・・」

決して悪気があって言ってるわけじゃねぇのは分かる

だがな、俺様にそんなこと言うなんて、もいい度胸してんじゃねぇの、あーん?

「へぇ、いい度胸じゃねぇか。」

こりゃ分からせてやらねぇとな・・・

ニヤッと笑い、隣に座ってたをひょいと持ち上げた

「へっ?な、何?」

「今言った事、後悔させてやるぜ?ベッドの中でな。」

「ちょっと景吾・・・・・・・・・・・・」

これから起こることが分かったのか、顔を真っ赤にしながら降りようと必死になっていた

そんなことしても俺を煽ってるだけだって事、分かんねぇのかよ・・・馬鹿だな


俺の腕の中で暴れるに深いキスを送り、息が上がって黙りこんだところへ、ゆっくりとベッドへと連れていった




一晩じゃ足りねぇ程、愛してやる

だからよく覚えとけよ


俺の一番はいつだって、お前だって事・・・・












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Kさんに捧げるバレキス完投お祝いドリですvv
遅くなってしまって申し訳ございません!
リクエスト通り、景吾さんを書いてみましたv
い、いかがでしょう??
景吾さんが嫉妬してます☆しかも子供に(笑)
こんな景吾も可愛いかな・・・とvv
ちなみに『和樹』は適当につけた名前ですので・・・・


 100のお題 :  27「かわいい嫉妬」

        2005年 4月16日  茜