あなたに初めてあったのは、こんな風に桜が舞う季節だったね

そこで私は初めて一目惚れをしました










   
恋はいつでも晴れ模様










それはただの偶然――――


入学式も無事に済んで、これから通うこととなる学校のあちこちを歩いていた

一通り校舎は回って 次は外だ と意気込んで外へ出た途端に、強い風が吹いた

春風に乗って何枚かの桜の花びらが舞ってきた

目の前には満開の桜

そんな桜の木に誘われるように足が動く



「うわ、綺麗・・・・・・」


私達新入生を歓迎してくれるかのように、見事に咲いていた

どこまでも続く桜並木を見上げながら歩いていた・・・・のが間違いだった

「わっ・・・」

急に何かにつまづいて勢いよく倒れた

何かと後ろと振り返ると、そこだけ木の根っこが飛び出ていた

あれに引っかかったのね・・・

何でここだけこんなに根っこが出てるのよ〜

入学そうそう、コケるなんて・・・・・

もう帰ろうかな・・・・

と、思いながら少し擦りむいた膝を見ていると、急に目の前が暗くなった

それと同時に上から聞こえてくる声


「・・・大丈夫?」

その声に反応して顔を上げると、男の子が立っていた

・・・・綺麗

それが彼の第一印象

一面に咲き誇る桜が、更に彼を引き立たせてる感じ

「は、はい・・・・・・・」

しゃがんでるのが恥ずかしくなって立ち上がろうとすると、彼が手を差し伸べてくれた

「立てる?」

この行為に少し戸惑ったけど、ゆっくりと彼の方へ手を伸ばすと、私の手を優しく掴んでそっと立たせてくれた

「・・・・・ありがとう、ございます。」

「同じ1年なんだから敬語は使わないでよ。僕は不二周助。君は?」

不二君・・・も1年?

ふと胸についている「入学おめでとう」の文字が目に入った

・・・。」

さん、ね。これからよろしく。」

「うん・・・・。」

2人で笑いあって、一瞬の沈黙が訪れた

何を喋るわけでもなく、ただ見つめあっていた



「周助ーっ。」

突然遠くから聞こえた声で、ハッとして声のする方向を見た

声の方向を見ると、綺麗なお姉さんが不二君の事を呼んでいた

・・・・彼女?

「あれ、姉さんなんだ。じゃあ僕はもう行くね。気をつけるんだよ。」

「ありがとう、不二君。」

ひらひらと手を振って、不二君が向かっていった方を見ていた

もうその時には桜よりも不二君に心を奪われていたみたい


不二君・・・か

同じクラスになるといいな





新学期の始まり

桜が綺麗で何となく足を向けただけ・・・・だったハズが

一瞬で恋に落ちてしまいました



















 *



この気持ちは変わることなく季節は幾度となく過ぎていき、また桜の咲く季節が近づいてきました

次の春がやってくる頃に、私たちは3年生へと進む

その前にやってくる私の誕生日・・・・・

だけど、私の誕生日は毎年春休みの時期だから、学校では祝われた記憶がない

そんな中、偶然にも1年、2年と同じクラスだった不二君に言われた言葉が嬉しかった


ちゃん、もうすぐ誕生日だよね。」

2年間同じクラスということもあり、不二君とはすっかり仲良くなった

「覚えててくれたの?」

「当たり前じゃない。」

前に誕生日の話をしたけど、まさか覚えていると思わなかった

それなのに、当たり前のように覚えててくれた不二君に、嬉しくてつい顔が緩む

「何かあげるから、欲しいのがあったら教えてね。」

「・・・・・うん、じゃあ考えとくね。」

欲しいもの・・・・・

欲しいものなんて今の私にはたったひとつしかないの

私の欲しいもの、それは・・・・・・・・・・・











それからしばらくして、3月の下旬

本当は春休みだけど上級生になるということもあり、今日だけ学校に登校してきている

今年は例年よりも温かかったということもあって、いつもよりも早く桜の開花を告げた

今はそれを自分の教室から見下ろしている


またこの季節がやってきた

私と不二君が出逢った季節

まだ咲いて間もないのに、桜の花びらが地面に落ちている

散らないで・・・・まだ咲いていて

無理なことだと分かりきっているけど、そう願わずにはいられない

桜と一緒に私の想いさえも散っちゃいそうな気がしたから・・・・・

不二君の事が大好きなのに

好きで好きでしょうがないのに、実際には何も言えない私がいる




ちゃん、どうしたの?」

窓際でずっと外を眺めていた後ろから声をかけられ、ゆっくりと振り向いた

「不二君・・・・・」

「もうみんな帰っちゃったよ。」

「え、嘘!?」

周りを見渡すと、さっきまでガヤガヤとしていた教室が静まり返っていた

誰もいない・・・・・・・・・いつの間に

いるのは私と不二君だけ




「そういえば欲しいもの、決まった?」

「・・・・・・・うん」

「本当?何がほしいの?」

いつもと変わらないはずの不二君の笑顔

だけど、私を変えさせるのには十分だった

「私・・・・・・ずっと不二君が好きだったの。」

「・・・・それって」

「不二君がほしい・・・・」

目を見開いたあと、少し困った顔をしたのを見逃さなかった

その瞬間、何言ってるんだろう と死ぬほど後悔した

「あ・・・・ごめん、何でもないから・・・・・・気にしないで」

震える唇から、やっとのことで言葉を紡ぎだして、その場を立ち去った

後ろで周助が何か言ってるのも聞こえず、ただひたすらに走った

その場から逃げたかった




言うんじゃなかった

あんなことを言うつもりじゃなかったの

だけど、気づいたら・・・・不二君の優しい顔を見たら言わずにはいられなかった

留まることなく溢れてくる気持ちを抑えられなかったの

不二君・・・・大好き

だけど、不二君はきっと私の事を何とも思ってない

困った顔してたし・・・・・・


「ぅ・・・っく・・・・・・・・・」

溢れる涙は止まらない


前を見て走る余裕などなく、何かにつまづいた

「きゃっ・・・・・」

走っていたからその衝撃で勢いよく転んだ

周りを見る余裕すらなく、転んだ拍子に周りの景色を見て、唖然となった

ここは・・・・・・いつの間にこんな所に・・・・・・




入学式の日、私が転んだ場所

そして不二君と初めて出逢った場所



少しの不安とたくさんの期待を胸に足を踏み入れた入学式の日――

淡いピンク色の桜に囲まれて、独特の香りがしていた

あの時は大きく感じたグラウンドも、広すぎて迷路のようだった校舎も

今ではすっかり見慣れて、それが当たり前のようになった



今もあの日のように桜が咲き乱れている

あの日と同じ桜だけど、今はどうしても切ない色に染まっているように見える

桜の花びらが散ってくる度に心が痛む

嫌でもあの日の事がフラッシュバックする

足の痛みと胸の痛みとが重なって、その場に座り込み大粒の涙を零した

















「・・・・・大丈夫?」

俯く私の上から声がした

嘘・・・・・・来るはずない

だけど、この言葉・・・・それにこの声は・・・・・・・

ゆっくりと顔をあげると、不二君が立っていた

あの日と同じように、あの日と同じ台詞で・・・・・

びっくりして固まっていると、手を差し伸べてくれた

また2年前の事が頭に浮かぶ

黙ったままでいると、私の手を引いて立たせてくれた


「・・・・だったよね、初めての会話。」

「・・・・不二、君?どうして・・・・・・」

涙を拭くのも忘れて、ただ不二君を見つめていた

そしたら不二君が指で涙を拭ってくれた

その動作だけで鼓動が早くなっていく

ど、どうしたの不二君

いつもこんなことしないのに・・・・・・・

・・・それとも、ただ慰めるだけの行動・・・なのかな?

そんな私の想いを分かっているのか分かっていないのか、そのまま手を頬から離すことなく話を続ける

「だって、僕の返事聞かないの?」

「・・・・・いいの、もう分かってるから。」

「分かってないよ。」

「どうせ・・・・フラれるんでしょう?告白なんてしなきゃ、よかった。」

「どうしてそう決めつけるの?僕もちゃんに告白しようと思ってたのに。」

「そうだよね、不二君も私に・・・・・・」

不二君の言葉を繰り返すように喋っていて、途中で少しの違和感に気づいた

え・・・・?今・・・・・・

「・・・・告白?」

首を傾げて聞き返すと、にっこりと笑ったまま頷いた

落ち着いてもう一度周助に問いただす

「誰が?」

「僕が」

「・・・誰に?」

ちゃんに。」

・・・・・・は?

「どう、いうこと?」

聞き間違い?

不二君も私に告白・・・しようとしていたの?

「僕はずっとちゃんのことが好きだったんだよ。そう、初めてここで逢った日からずっと・・・・・・・ちゃんは?」

「・・・・・・あの日から?」


あの日から、私はずっと不二君に対する想いを募らせてきた

この桜の花びらのように、たくさんの想いが積もっていって留まることを知らない

舞い落ちてきた1枚の桜の花びらに私の想いをそっと託してみたい

私の想い、風に乗って今あなたの元へと届きますように・・・・・・


「私も、不二君が大好きです。」


私の頬を触っていた不二君の手が私の背中に回されて、抱きしめられた

私の鼓動が不二君にも伝わっちゃうかも という不安があったけど、それ以上に嬉しいからいいや

あいていた両手を不二君の背中に回して抱きついた



「そうだ、誕生日プレゼント考えといてね。」

しばらくして、思い出したように不二君が口を開いた

「いいよ。・・・不二君に気持ち伝えられただけでも嬉しいから・・・・・」

「ダメ。それじゃあ僕の方がプレゼントをもらっちゃうじゃない。」

「え・・・どうして?」

「だってが想ってる以上に、僕の方が嬉しいんだから。」

” 急に名前で呼ばれて、また鼓動が早くなった

今日ほど自分の名前が愛しいと思ったことはないだろうな・・・・

「ねぇ、その前に僕が欲しいものもらっていいかな?」

「不二君の・・・ほしいもの?」

「うん。」

笑って言う不二君に 何だろう?と首を傾げていると、急に目の前が暗くなって・・・

そのまま唇を塞がれた


どれくらい時間が経ったのか分からないくらい、ずっと不二君に夢中だった

唇が離された時には少し息も乱れていて、いつもよりも優しい顔をしている不二君に顔を赤くした

そして俯く私に不二君はさっきの会話の続きを話し出した



「僕のほしいものはね・・・・・の未来。・・・・・・これからの全て、僕に預けてくれる?」





あの日・・・・

桜が舞い散る中で生まれた恋は

2年後の同じ季節、同じ場所で実を結びました










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綾瀬笑子様に捧げるお誕生日お祝い夢でしたvv
笑子さん、お誕生日おめでとうございます!!
周助さんで設定はおまかせとの事でしたので、こんな形に仕上がりました☆
「不二君が欲しい」なんて、大胆なヒロイン(笑)
季節が季節なだけに、最近は桜に関わる設定が多い気がしますが・・・
こんな周助さんでよかったら是非もらってやってくださいvv


  2005年 4月 3日  茜