素直になれたら











最初は我慢してた

仕事なんだからしょうがない っていつも自分に言い聞かせて・・・・・

だけど・・・・・・・



「何なの、景吾ってば!あの生徒会の副会長の人と仲良くして!!」

いつものように同じクラスの忍足君に愚痴をこぼす

忍足君は毎日のように聞かされている会話に呆れながらも、きちんと私の話を聞いてくれる

そして頬杖をつきながら答えた

「しゃーないやん、仕事やねんから。」

「そりゃそうだけど・・・・・・」



私は今付き合っている人がいます

氷帝に通っていれば誰もが知っている人 跡部景吾

その景吾はテニス部の部長で、しかも生徒会長

そんなにやっていて大変だな なんて思いながらも、そんな景吾を尊敬しているし、仕事や部活が大変なら支えてあげたいって思う

必要なら手伝ってあげたいとも思うけど・・・・・・

そんな私の想いをことごとく邪魔している人がいる

それが副会長の鈴木さん

鈴木さんは可愛い人で、男の子にとっても人気がある

だけど、男関係がとっても激しいらしくて

今までは人事だったんだけど、忍足君が変な噂を聞いたらしくて・・・・・・

『鈴木さん、次の彼氏は跡部にするって言ってたらしいで?』

確かに鈴木さんは彼氏の入れ替えが早い・・・と思う

前の彼氏とは数週間で別れたらしいし・・・・・・


それに景吾は私と付き合ってるって知ってるはずなのに、必要以上に景吾と一緒にいる鈴木さんをよく見かけるようになった

まるで私に見せ付けるかのように・・・・

景吾と鈴木さんが一緒にいる所を見かける度に、私の心の奥が痛む

そんな所を見せられて不安にならない彼女がいると思う?

でも景吾はちっとも私のそんな気持ち、分かってくれていない


少しでいいから、この不安な気持ちに気づいて・・・・













。」

下校の時間になって、帰り支度をしている時に景吾が私の教室に現れた

それだけでクラスの女子達は小さな声で騒ぎだす

「あ、景吾。どうしたの?」

「今日先に帰れ。」

「・・・・何で?」

どうして・・・・?

今日は部活もないって言ってたから久しぶりに早く一緒に帰れると思って楽しみにしてたのに・・・・・

「生徒会の仕事が結構残ってて遅くなりそうなんだよ。」

また生徒会?

また・・・・鈴木さんと一緒なの?

「・・・・分かった。」

そう一言景吾に呟いて、背を向けて歩き出した











一人で歩く帰り道

本当なら景吾と一緒に歩いていたこの道

それを今、一人で歩いている

やっぱり景吾が終わるまで待ってればよかったかな

本当なら今頃は生徒会も、次の代へと引き継いでいるはずなのに

景吾が言うには1年生が使えないらしくて、仕事が思うように進まないって言ってたけど・・・・





「おーい、ちゃん。」

一人で歩いていた後ろから声が聞こえた

振り返ると忍足君だった

「あ、忍足君。どうしたの?」

「いや、ちょっとこっちの方に用事あってな。ちょうど帰る時にちゃんの姿をみかけたから・・・・」

「そっか・・・・・・」

「跡部は?一緒に帰るんとちゃうの?」

「今日は生徒会で残るから先に帰れって・・・・・・」

「そっか・・・・・。なぁ、自分、今暇か?」

「え・・・帰るだけだからまぁ、暇といえば暇だけど。」

「お茶してこうや。」

「・・・・・うん、いいよ。」

二人で歩きだして近くのファミレスで何気ない会話をしていた

と言ってもほとんど景吾の話しかしてなかった気がするけど・・・・・・

でも、まさかこんな些細な事が噂になるなんて思わなかった

















 次の日


朝、部活が終わって教室へ入ると同時に俺に声をかけてきたのは生徒会副会長の鈴木

仕事はそこそこ出来るが、それだけだ

「跡部君、おはよう。」

「・・・・何だ?」

鈴木が必要以上に俺に近づいてくる目的は、俺なりに気づいているつもりだ

俺にはがいる

だからこいつが近づいてきても何とも思わないし、ただウゼェと思うだけ

「これ、昨日の書類の残り。」

「あぁ。」

「・・・それとね、さっき変な噂聞いたんだけど、跡部君知ってる?」

「あーん?噂だ?」


その噂とやらを鈴木から聞いて、俺は一目散にのクラスへ急いだ

別に噂なんて信じてるわけじゃねぇけどな・・・・・・








 *


朝からやたらみんなの視線を感じるんだけど・・・・・・

何だろう・・・?と思いつつ教室へ足を踏み入れた

でも、教室へ入ってもそれは同じで、女子達が私の方を見ながらひそひそとしている

・・・・・何なのよ

意味が分からずに、みんなからの視線を感じながらも席に座っていると景吾の声がした

っ!!」

「景吾?」

声のする方を振り返ると景吾が眉間にしわを寄せながらドアの前に立っていた

何か・・・・・怒ってる?

私、何かしたっけ・・・・・

「ちょっと来い。」

「でも、もうすぐ授業始まる・・・・・・」

「いいから来いよ。」

腕を引っ張られる形で連れてこられたのは、屋上へ続く手前の踊り場







「・・・・何?」

「昨日、何してた?」

「・・・・・・は?」

「昨日忍足と何してた?」

どうしていきなり昨日のことなんて聞いてくるのか分からなかったけど

昨日 と言われて記憶を昨日までたぐりよせた

えっと、昨日はたしか・・・・景吾と一緒に帰れなくて1人で帰ってたら帰り道で忍足君にあって、それから・・・・・・

「あぁ、忍足君とお茶した。」

「・・・・・それで?」

「それで・・・・って?」

それで、って言われても他には・・・家に帰ってご飯食べてって、そんなことまで言う必要ないよね?

景吾が何を聞きたいのかまったく理解できずにいると、突然、突拍子もないことを言い出した

「お前、忍足と付き合ってるんだってなぁ?」

「はぁ?」

思わず呆れたような声をだした

だって何を言ってるのかが分からないんだもん

私が忍足君と付き合ってる?

何を言ってるの?

第一私が今付き合っているのは、忍足君でも誰でもなくて

目の前にいる景吾、あなたなのに


「朝からすげぇ噂だぜ?」

・・・・噂?

それでみんな私の方を見ていたの?

「そんなの・・・・・・知らないよ。それに景吾はそんな噂を信じてるの?」

「別に信じちゃいねぇよ。けどな、忍足と2人でいたってのも事実だろ?」

「な、によ。忍足君とはたまたま帰り道に会ったからお茶しただけだもん。 それに景吾だっていつも鈴木さんと仲良いくせに・・・・・・」

「別に仲良いわけじゃねぇよ。仕事上ってだけだろ?」

分かってるよ・・・・・そんなの分かってるけど

私だって不安なんだから・・・・・・・

「それよりこの噂、どうするつもりなんだよ。」

「どうするも何も、別に忍足君と付き合ってるわけじゃないし・・・・・・」

「お前がいつも忍足と喋ってたりするからこういう噂になるんだろ?少しは自覚しろ。」

「なに、それ?まるで私1人が悪いみたいじゃない。

 だいたい景吾だっていつもなら生徒会の仕事なんて最終確認しかしないくせに、最近ずっと鈴木さんと居残りしてやってるじゃない!」

「何だよ、それ。俺は・・・・・・・・・」

「・・・・・え?」

景吾が何か言おうとした言葉を聞こうとしたら、チッ と小さく舌をならして、面倒くさそうに『何でもねぇよ』呟いた

その態度と言葉が頭にきて思わず勢いで叫んでしまった

「景吾の馬鹿っ!!」

そう言い放って景吾に背を向けて階段を下りていった


そんな噂があることにも驚いたけど、なによりも景吾が私のことを信じてくれなかったという事実が余計に私を悲しくさせた

恋をすることが こんなにツライとは思ってなかった

毎日が楽しくて 嬉しくて、ときめきっぱなし だと思ってた・・・・・・














お昼休み



「何や、跡部と喧嘩でもしたんかいな?」

休み時間はだいたい景吾と過ごす私が教室にいるのに疑問を感じたみたいで、傍に来て机に伏せている私に聞いてきた

「・・・・・・別に。」

「素直やないな〜。早く仲直りした方がええで。」

「・・・・だって景吾が悪いんだもん。私はただ・・・・・・・」

そう言いかけてハッと周りを見ると、やっぱり女子達の視線が痛い

これ以上忍足君と一緒にいると余計話がこじれる

たぶん忍足君の態度からすると、まだ噂のことは知らないみたい

「・・・・・ごめん、私席はずす。」

「あ、ちょっ・・・・・ちゃん?」


『素直じゃない』

そんなこと分かってる

私が一番よく分かってるよ

だけど、どうしても素直になれないの



好きだから 一緒にいたいと思う

好きだから 寂しい時は、抱き締めてほしい

好きだから・・・・・不安にもなる

たくさんの好きな気持ち

景吾にはちゃんと伝わってなかったの?














放課後



私から謝るのは少ししゃくだけど、やっぱり仲直りしたい

今日も生徒会・・・・なんだよね

その後は部活みたいだけど、今日は待ってることにした

少し不安になりつつも、教室で待っていると誰かの足音が近づいてきた


他のクラスかと思ったけど、その足跡は私のクラスでピタリと止まってドアが開いた

「あれ?ちゃん、そんな所で何やっとんねん。」

「・・・・忍足君こそ。」

「今から部活やねんけど、ちょお忘れ物してしもて取りにきたんや。」

と、自分の机の中からノートを取り出していた

いつもと変わらない様子の忍足君に思わず口を開いた


「・・・・知ってた?私たち噂になってるんだって。」

「何の噂?」

きょとん としている忍足君

本当に知らなかったんだ

「私と忍足君が・・・その、付き合ってるっていう・・・・・・・」

「何や、そんな噂が流れてるんか?そもそもちゃんは跡部と付き合っとるやん。」

「うん・・・・。そうなんだけど、昨日2人でお茶していたのを誰か見ていたらしくて、今日にはもう広まってたみたい・・・・・・。」

「ちょっとお茶したくらいで、いちいち噂されてたらかなわんなぁ。」

「・・・・・・・」

「あ、せやから今日跡部は機嫌が悪いねんな。」

私が黙ったまま俯いていると、思い出したかのように忍足君が言い出した

その言葉に顔を上げた

「・・・・景吾が?」

「朝から何かピリピリしとんねん。特に俺が話しかけようとするとな。」

「そう、なんだ。」










 *


の奴、もう帰ってるか・・・・?

そうは思ったが、少し生徒会の仕事を抜け出してのクラスを覗いてみることにした

そこから聞こえてきた2人の声

その声に歩いていた足が止まる

と・・・・・忍足?

立ち聞きとは俺のする事じゃねぇが、のこととなると話は別だ

静かに聞き耳を立てていた










 *


「なぁ、ちゃん。」

「何?」

一瞬、忍足君の口の端がつり上った気がした

だけど、今は理由なんて分からずに普通に返事をした

「せやったら、噂をホンマにする?」

「・・・・・え?」

・・・噂を本当に?

何を言ってるの?

急に変な事を言い出して私が戸惑ってる間に、忍足君がゆっくりと私に近づいてくる

そんな忍足君が怖いと感じて、反射的に後ろへ身を引いた

「いつも跡部の文句ばっかり言ってるやん。跡部のこと、嫌いなんとちゃうの?」

「違うよ!」

「違わんよ。副会長の子と跡部の関係、気になるんやろ?もしかしたら付き合っとるかもしれへんで?」

「そんなことない!!景吾がそんなことするはずないもん・・・・・・・・」

「いつも文句言っとるのに、信じるんか?」

「確かに鈴木さんの事は気にならないって言ったら嘘になるけど・・・・・・景吾を信じてる。景吾が好きだから・・・・・・・。」

だから・・・・・

俯く私の頭に手を乗せて、子供をあやすように優しく撫でられた

・・・・・忍足くん?

忍足君の行動が読めずにいると、急に廊下に向かって喋りだした



「・・・だそうや、跡部。」

「・・・・え?」

どうして急に景吾の名前なんか・・・・・・

「そこにいるんやろ?」

廊下からは何の反応もないのに、忍足君は確信つくかのように喋り続けた

そしたら忍足君を睨みながら、景吾がゆっくりと姿を現した

景吾・・・・・・?どうしてここに?

「・・・・何でいるって分かったんだよ。」

「何でやろうな?」

不機嫌そうに訊ねる景吾に忍足君は笑って答えている

「答えになってねぇよ。」

「まぁ、ええやん。」

どういうこと?

訳が分からず首をかしげていると、忍足君が優しく微笑んで私の頭をポンポンと軽く叩いた

「仲良くするんやで。」

そう、言い残して忍足君は教室を出て行ってしまった



忍足君・・・・・・・ ありがとう―――

やっと忍足君の意図が分かって心の中でお礼を言った











「・・・・・あんまり忍足と喋るんじゃねぇよ。」

忍足君がいなくなったと廊下を確認してから、景吾が私に近づいてきた

「それなら景吾だって・・・・・・」

「俺が何だって?」

「・・・・何でもない。」


「・・・・・・悪かった。」

「・・・・・私こそ、ごめんね。」


しばらくして、景吾が口を開いた

「もう生徒会は終わった。」

「今日の仕事は終わったの?」

てっきり今日やらなきゃいけない生徒会の仕事が終わったのかと思って、そう聞くとあっさりと否定された

「そういう意味じゃねぇよ。引き継いできたって意味だ。」

「・・・・え?」

だって、まだまだ仕事が残っててすぐには引継ぎはできそうにない って前に言ってなかったっけ?

そのせいで景吾が忙しそうだからと思ってデートだって控えてたし、

「他の奴らの仕事を待ってると、まだ引継ぎまで時間がかかりそうだったからな。俺が2週間で終わらせてやった。」

生徒会は一種の組織だから、いくら景吾が1人でがんばっても全員仕事が終わらなければ次の代へ引き継ぐことは出来ないはず

それを2週間で終わらせたの・・・・・?

「じゃあ、景吾が毎日のように生徒会に残っていたわけって・・・・・・・」

「あぁ、少しでもお前と過ごせる時間を増やそうと思ったんだよ。」

知らなかった・・・・・・・

景吾がそんな事を考えてくれていたなんて

『それから・・・』と景吾が付け足すように話を続けた

が勘違いしてるかもしれねぇから一応言っとくが、放課後に生徒会に残っていたのは鈴木だけじゃねぇぞ?

 他にも2年の奴らとかいたからな。」

そう、なんだ・・・・・

あからさまにホッとする私に気づいたのか、フッと小さく笑い声が聞こえた

そして急にこんなことを聞き出した


「お前、俺のことどう思ってるんだよ。」

「何?いきなり・・・・・」

「答えろよ。」

「好きだよ。」

迷う事なく、そう答える

だって私には景吾しかいないから

抱き寄せられても、まだ不安は完全に拭いきれなくて・・・・・

温もりも大切だけど・・・・・








「け、景吾は私のこと・・・どう思ってる?」

不安そうに見上げるの顔が愛しくて、抱きしめていた腕に力を込めた

だけど、壊れ物を扱うかのように優しくそっと

それでも不安がっているに苦笑した

これだけやっても俺の想い・・・・分かってねぇのかよ?

だったら、聞かせてやるぜ

本当の気持ちってやつをな――



「そんな不安になるな。俺はしか好きじゃない。

 だから黙って俺に愛されてろ。」



そう言って、顔を赤くするの柔らかい唇にそっとキスを落とした










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沢村 楓様の誕生日お祝いドリでした☆
楓さん、お誕生日おめでとうございます!!
リクエスト内容は『跡部さんで、些細な事で喧嘩してしまうんですが
お互い意地っ張りでなかなか仲直りできず・・・でも最後はハッピーエンド』でした。
かなり忍足君の出番が多すぎのような気がします・・・・すいません(汗)
しかも景吾が立ち聞きなんてっ!!(笑)
こんなのでよかったら是非もらってやってくれると嬉しいです。
これからも仲良くしてやってください♪