私の作戦






「お疲れっした。」


放課後の部活の後、部誌を書いていた私に、リョーマ君が後ろから声をかけてきた

「お疲れ様。明日は遅刻しないでよね、リョーマ君。」

「分かってますよ。じゃ、さよならッス。」

少し照れたような怒ったような顔で返事をして、スタスタと帰っていった

最初は、生意気な少年・・・・と思ったけど、話していくうちに、今ではすっかり「かわいい弟」って感じ

リョーマ君は2日連続で朝練を遅刻している

理由は単なる「寝坊」

彼らしい理由

まぁ、もっと寝ていたいのは分かるけどね

私も2度寝は、得意中の得意!!(笑)

でも、遅刻したりすると、手塚君のお説教が待ってるから・・・・一生懸命がんばって起きてます

それに遅刻なんてしてちゃ、マネージャーなんて務まらないしね

私はお説教で済むかもしれないけど、リョーマ君は部員だから2日連続でグラウンド20周させられてたなぁ






「さてと・・・・・」


う〜ん と大きく伸びをして、立ち上がった

後はさっき干した洗濯物をたたむだけだ

早く済ませて帰ろっと

貞治は一緒に帰れないって言ってたしなぁ・・・・

つまんな〜い





貞治とは2ヶ月前から付き合っている

もう、部活内でも公認のカップル(恥ずかしい)

貞治とは、1年の頃からよく喋るほうだった





マネージャーの仕事も楽じゃない

しかも、青学は強豪だから練習量もハンパじゃない

みんな汗だくになって練習してる

それを見てると、みんなもがんばってるんだから私もがんばらなきゃ! と思っちゃうんだよね

だけど、やっぱり辛い時や苦しいと思う時だってあった

貞治は私が辛い時、苦しい時いつもそばにいてくれた

1年の頃、先輩に呼び出された時や、泣いている時に黙って傍にいてくれた


そしていつの間にか、貞治のこと・・・・好きになっていたんだ

貞治やテニス部のみんなの励ましがあったから、ここまでこれた





そんなこんなで3年間続けているテニス部のマネージャー

今の部活に不満なんてない

みんな仲いいし、楽しいし、優しい

今では3年間マネージャーをやっていてよかったと本気で思う

こんないい部活、他にないんじゃないか っていうくらい、やっていておもしろい


そんな貞治の事がすっごく好きなんだけど・・・・・ずーっと疑問に思ってた事があるの

1年の時から・・・・・

付き合いだしてからもずっと










誰もいない部室に1人

なんか寂しいから、今はやっている歌を声にだして歌ってみる

これが案外ストレス発散になって気持ちいい

カラオケに行くのもいいけど、誰もいない所でついつい歌っちゃうんだよね

お風呂とかでも・・・・





。」


歌いながらタオルをたたんでいたら、名前を呼ばれた

ふと 顔を上げると、貞治がジャージ姿のままドアの所に立っていた


「あれ、貞治じゃん。まだ残ってたの?」

「データ整理がしたくてね。少し外でやっていたんだ。」

もうてっきり全員帰ったのかと思った

いつも鍵を閉めていく大石君でさえ、今日は用事がある って言って、鍵を私に預けていったのに

おかげで明日は朝一に来なきゃいけなくなっちゃったけど・・・・・

しかも貞治今日は用事があるから一緒に帰れないって言ってなかったっけ?

だから、もう誰も来ないだろうと思って気持ちよく歌っていたのに


は・・・恥ずかしい・・・・

なにもなかったかのように、タオルをたたみ続ける

貞治も普通に荷物を取っている

よかった

別に気にしてないみたい

そうだよね

別に歌ってただけで、つっこむような奴じゃないもんね

これが例えば桃ちゃんだったりしたら

先輩、もうその歌覚えたんスか?

俺まだ全部覚えてないんスよね〜。」

なんて言って話が盛り上がるんだよね


と、思ったのもつかの間




帰り際


。」

「何?」

「もう少し、練習した方がいいな。」



・・・・・・は?


一瞬、何を言ってるのかと思った

テニスの練習?

またやるの?

しかも、何でそれを私に言うの?

と、貞治の言葉を理解してない私を見て、笑いながら

「さっきの歌。半音ズレてた所があったし、歌詞があやふやだった。」

「は?」

「じゃあ、また明日。」

そう言って、ジャージ姿のまま荷物を持って急いで帰っていった





・・・・・なに?

ムカつく〜!!

気持ちよく歌ってた気分が台無し

別に歌詞なんて適当でいいじゃん

貞治はこの歌の歌詞を全部覚えてるわけ?

それに半音ズレてた〜!!?

なんなの〜っ!!!

しかも、彼女に対してそういう事言う??

誰もいない部室で、私の怒りは頂点に達した


なんで貞治にそこまで言われなきゃいけないの?

いくら貞治でも許せない〜!!



・・・・・・こうなったら、私が3年間溜め込んでいた事を実行してやるぅ!!












 次の日




朝練が終わって、みんなにタオルを渡しに走りまわった後、最後に貞治の所に駆け寄った


「貞治〜!!」

か。お疲れ。」

「お疲れ様。いつも以上に今日はすごい汗だね。」

「あぁ、今日はやけに手塚が張り切ってたみたいだったからな。」

おかけで特製乾汁もバージョンアップできそうだ

なんて貞治の独り言は放っておいて・・・・・

「汗すごいから、顔でも洗ったら?」

「あぁ、そうするよ。」

何気に顔を洗う事を進めた

顔を洗うという事は眼鏡を外す!!

まさにこれが私の狙い

これが3年間疑問に思っていたこと





貞治が眼鏡をはずした所を見たことがない

付き合いだしてからも、眼鏡を取った所を見せてくれない

正直に「見せて!!」と言えば、見せてくれるのかもしれない

でも、何となく言えない・・・・・

付き合ったからはまだ2ヶ月足らずだけど、それまでもずっと部活で一緒だったんだから1度くらい素顔を見ててもいいはず

でも、私の些細な願いは叶う事なく、もう3年目に入ってしまった




―――眼鏡を外した姿を見てみたい―――



それが3年間、ずっと私が思っていた事だった

手塚君でさえ、部活の後とかに顔を洗う時、眼鏡を外してた所を目撃した(偶然だけど)

絶対に人には見せない素顔

それを見てみたいんだ

絶対に・・・・・



タオルを受け取り、眼鏡を外そうとフレームに手をかけた

い、いよいよ見れるんだ・・・・・・

生唾を飲んだその時







。」


後ろから手塚君の声が聞こえてきた

「何?(今忙しいんだから後にしてよっ!! ←心の声)」

「昨日ボールの確認したか?」

「したよ。」

「足りない分を確認した用紙、朝練の前までに渡すはずだっただろう。」

「あ・・・・・・。」

あぁ〜・・・何も今言わなくても・・・・・

忘れてた私が悪いんだけど


そしたら、貞治が気を使ったのか分からないけど、

、先に部室行ってていいよ。俺も顔洗ったら行くから。」


・・・・・やっぱりそうなるの?

今は観念して、手塚君と部室へ足を運んだ


まだ朝じゃない

チャンスは、これからいくらでもあるわっ!!

手塚君の説明を聞きながら、頭の中では次の作戦を練っていた













「貞治〜!!」


昼休み、廊下を歩いていた貞治を見つけて声をかけた

「あぁ、か・・・。どうした?」

私の声を聞いて、歩いていた足を止めて振り返った

「あっ、貞治。眼鏡汚れてない?」

不自然にならないように、自然に話を進める

「そうか?」

「そうだって・・・・。眼鏡拭きあるから、今拭きなよ。」

そう言って、制服のポケットから眼鏡拭きを貞治に渡す

「あぁ。」

私の手から眼鏡拭きを受けとった

眼鏡を拭くには、眼鏡をはずす!!




貞治が眼鏡に手をかけた所で、手が止まった

えっ・・・・・?


「やっぱり教室に戻ってから自分ので拭くから。」

と言われ、あっさりと返されちゃった

「あ、そう・・・・」

何か拍子抜け

つまんない・・・せっかく、貞治の素顔が見れると思ったのに・・・・・


「それより、何か用事があったんじゃないのか?」

へっ? 用事?

目的は貞治の眼鏡を外させる事であって、それ以外に特に用事はなかった

「えっとぉ・・・・・。あ、そうそう。辞書忘れちゃってさ、貸してくれない?」

「あぁ、ちょっと待っててくれ。」

言い訳みたいだったかな?

でも気づかれてはいないみたい




「これでいいんだろ?」


えっ・・・・・・

辞書を片手に持って、こっちへ歩いてくる貞治を思わず凝視した

だって・・・眼鏡のレンズが綺麗に拭き取られていたんだもん


そういえば辞書を取りに行った時 やけに遅いな〜と思ったけど、辞書を探してたのかと思った

眼鏡を拭いてたの?

どうしてわざわざ教室に行って拭くの?

私のを使うのがそんなに嫌なわけ〜!?

私に素顔を見せるのが嫌なの!?

そう考えたら怒りがこみ上げてきた

差し出してくれた辞書を強引に奪うと、何も言わずに自分の教室へ戻っていった

後ろから貞治の声が聞こえてきたような気がしたけど、今はとてもじゃないけど、それに答える気分にはなれなかった



私って本当に貞治の彼女なの?

素顔を見せてくれないだけで、ここまで落ち込む自分もどうかと思うけど・・・・・私は貞治が好きなの

好きな人の事なら、全て知りたいじゃない

そういう事分かってよ



貞治の・・・・・・・バカ













 放課後



辞書を返す事ないまま、部活の時間になっちゃった

私が一方的に怒ってるだけなんだけど、なんとなく顔合わせづらい・・・・・

こういう時に同じ部活とかだと困るんだよね

でも、部活中にそんな事言ってられないのは分かってる

だから普通に接してるつもり・・・・なんだけど、どうしても避けちゃう

自分でもそう思ってるくらいだから、貞治なんてとっくに気づいてる・・・・かな?






・・・・・。」


部活が終わって、帰ろうかどうしようか悩んでいる時に貞治に呼び止められた

いつもはお互いに用事がない時は一緒に帰ってるから

いっその事、今日は用事があるって断ろうかな

「あ、あのさ。今日は・・・・・」

「ちょっと話がある。」

少し怒ったような口調に、反論できずにいた


貞治が怒るなんて初めて

私が知ってる貞治は、辛い時も寂しい時もいつも傍にいてくれて・・・・・

たまに乾汁とかで恐れられる事もあるけど

とても頼りになる・・・後輩からも慕われる

優しい彼だった・・・・

そして私にとっては、それが全ての・・・・・


そんな彼が、初めて見せた表情

怒っている そんなピリピリした空気が肌に突き刺さる

彼に対して「怖い」そんな感情が初めて芽生えた


・・・・・そうさせたのは私かもしれないけど、原因は貞治にあるんだから!!









誰もいない部室

いるのは私と・・・・貞治だけ



「何? 話って・・・・」

なるべく普通通りに話を進めた

早く帰りたい

いくら貞治と一緒にいられるからって、こんな嫌な空気の中にはいたくない

「どういうことだ?」

「は?」

「俺が気づいていないとでも思ったか。今日1日態度が変だっただろ?」

「・・・・・。」

やっぱり気づいてたか・・・・・

だって・・・・・そうさせたのは貞治なのに

「・・・・・どうして?」

「何がだ?」

「私・・・・貞治の彼女だよね?」

「どうしたんだ?いきなり・・・・」

「そんなに私に素顔を見せるのが嫌なの?」

「は?」

何を言ってるんだ って顔してる

説明しなきゃ

でもうまく説明なんてできない

感情だけが先走っちゃって・・・・

「だってっ・・・・どうして私にも眼鏡取った所見せてくれないの?

そんなに私に素顔を見せるのが嫌なわけ!?」


・・・・・最悪だ 私・・・・


訳分からないうちに貞治を怒らせて、1人で勝手に八つ当たりして・・・・

でも、そう思うには十分だったよ さっきの行動・・・・

どうして私の前で眼鏡を取ってくれないの?

わざわざ教室に戻って眼鏡を拭いて・・・・


――そんなに私に素顔を見せるのが嫌なわけ!?――


言ってて悲しくなってくる

涙でてきそう・・・・



「・・・・

しばらく黙っていた貞治が、急に俯いてる私の髪に触れてきた

思わずビクッと体がこわばった

なぜか「怒られるっ!」

そんな気がした

でも返ってきたのは、思いもよらない言葉



「俺はが言ったから、眼鏡をはずした所を見せないんだけどな。」

・・・・・私が言った?

いつ??

そんな疑問が頭に浮かんで、思わず貞治を見上げた

「・・・いつ言った?」

「何だ、覚えてないのか。」

ふう と小さくため息をついて事のあらましを説明しだした




なんでも、私がそれを言ったのは、まだ貞治と付き合う前の事

部室で、英二と不二君と喋っていた時のこと







――――「そういえば、ちゃんって好きな人いるの?」

    「えっ?」

    「そーだ、俺も聞きたいにゃ〜。」

    「別に・・・・好きな人はいないけど・・・。」

    「そうなの?じゃ理想とかないの?」

    「理想かぁ・・・。理想は・・・・・」―――――








 「あっ!!」


そこまで言われて思いだした

そういえば、そんな話してた気がする

でもそれを何で貞治が知ってるの?

あそこにいたのは英二と不二君と私の3人だけ

「どうして知ってるのかって?

俺にわからない事はないよ。」

どうせ、英二か不二君にでも聞いたんだろうけど・・・

「もしかして、私の言ったこと気にして・・・・?」

「・・・・。」




―――私は、理想っていうか眼鏡かけてる人が好きだな―――



確かそう言った

でも、そんなのもう忘れてたのに

それに・・・・・

「貞治も分かってないね。確かに眼鏡かけてる人が好きって言ったけど、今は貞治が好きなんだから、そんな事気にしなくていいのに。」

「確かにそうかもしれないが・・・・・」   

「でも・・・・ありがと。」

さっきまで怒っていたのがウソみたい

今は貞治の気持ちが嬉しい

やっぱり私は貞治が大好きv

「じゃあ、眼鏡とるか?」

「えっ!?」

私より20cmくらい高い背を、私の目線まで屈んだ

これは私に眼鏡をはずせ って事?

面と向かってそう言われると何か恥ずかしい

貞治は私の気持ちが分かっているのか、ずっと微笑んでいる


う〜ん・・・・・・

とまどいながらも、貞治の眼鏡に手をかけた

よしっ!!

何故か自分に気合をいれて、手に力をいれて外した

瞬間、素早く貞治が私の唇に触れた


「んっ・・・・」


それはいつもしてるような触れるだけのキスじゃなくて、もっと深いキスだった

長い長いキス

びっくりして離れようとするけど、頭を貞治の手で支えられてて、離れられない

唇が離れた時には、息が上がり、頭がボーっとしていた

力が抜けて、床に座りそうになるのを貞治が支えてくれた

だんだん呼吸も整ってきたから、ゆっくりと貞治の顔を見ると、もう眼鏡をかけていた

「あぁーっ!!」

「どうした?」

「眼鏡かけてる・・・・・。」

「キスしてる時は、眼鏡外してたぞ。見なかったが悪いな。」

ひどい〜っ

初めてこんなキスしといて、素顔なんて見る余裕なんてあるわけないじゃない!!


でも・・・・・


「ありがとう。」

「何がだ?」

「何でもな〜いv」

「・・・・・?」


不思議な顔して私を見てる貞治を無視して、自分と貞治の鞄を持ってドアの前で部室にいる貞治の方を振り返る

「早く帰ろう!!どこか寄り道して行こうよ。」

「・・・・・あぁ。」


結局素顔の貞治は見れなかったけど、私の言った事を覚えていてくれたことが嬉しい

これからも貞治の笑顔を見続けていきたい


そして今度こそ眼鏡を取らせてやる〜!!

私の疑問は、もうしばらく解決しそうにありません・・・・・




でもね・・・・


もし、今また「好きな人いるの?」って英二と不二君に聞かれたら、今度は理想なんかじゃなく、胸を張って答えられるよ

「いるよっ!!」

「えっ、誰だれぇ?」



「貞治。ずっとこれから先、それは変わらない。誓えるよ――――」









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K様に捧げる、1500キリリクです。
リクエストは「乾さんで、眼鏡を取らせたいっ!!」でした。
乾さん・・・・は、はっきり言って分かりません(汗)
しかも、乾さんの素顔はもう出てきましたよね!?
ま、いっか(笑)
Kさま、こんなんでよろしければもらってやってください m(__)m
これからも遊びにきていただけると嬉しいですvv
またリクエストしてくださいねv

 2004年8月31日  茜