俺はたくさんなんて望みません

本当に欲しいのはたったひとつ・・・・・・・・









       
会えない時には









今日は朝から一度も彼女の姿を見かけていない

どうしたんだろう・・・・・・

彼女の教室に足を運びたいけど、それもできそうにない

俺は今、たくさんの女の子に囲まれている


「鳳先輩ー。チョコ受け取ってください!」

「鳳君、私のもっ!!」


今日はバレンタインデー

朝、自分の席についてしばらくすると女の子達がすっかり俺の机を取り囲んでしまっていて、近くの席の日吉の姿ですら視界が塞がれてしまっていた

そういう状態がずっと続き、休み時間毎にやってくる女の子達の応対に追われていた


俺が『受け取れない』と断っても一向に収まる気配がない

彼女達の気持ちは嬉しいけど、俺は応えてあげることはできないし

俺がほしいのは、たった1つだから・・・・・・・・・

先輩、あなたは今どこにいるんですか・・・・?

そんな事を考えながら、今日はまだ見ぬ人の事を想っていた







 *


もうサイアク どうして今日に限って・・・・・・・・

2月14日 バレンタインデー

そんな日に限ってどうして風邪なんて引くのよ〜

熱自体はそんなに高くはないから学校へ行きたいのに

『風邪は引き始めが肝心なのよ』

なんてお母さんが言うから、休まされるハメになった

風邪引きそうになると、毎回のようにお母さんはそう言う

いつもは『学校休めてラッキー』と思うんだけど、今日だけは別

どうしても学校へ行って渡さなきゃいけないものがある

バレンタインだけだったらまだ休む気になれたかもしれない

だけど今日は・・・・・長太郎君の誕生日だから・・・・・・・

今日渡さないと意味がないから


昨日は、長太郎君に喜んでもらうために夜遅くまでチョコを作っていた

私が一番に渡したかったのに・・・・・・

絶対みんなからもらってるよね

窓の向こうに映る真っ白な雲を眺めて、長太郎君の姿を思い出す

長太郎君、逢いたいよ・・・・・・

大きなため息をついて、布団の中へ潜り込んだ







 *


「鳳ーっ。」

「あ、忍足先輩」

お昼休みになると、女の子達が廊下にまで来ていて、そこから忍足先輩の姿を見つけ何とか駆け寄った

「どうしたんですか?2年の教室まで来て・・・・・・・」

「あぁ。今日は部活がなくなったらしいから、それを伝えにな。」

「跡部部長は?」

「跡部はホンマに動けんような状態やから、俺が代わりに来たんやけど・・・・・。」

忍足先輩がお手上げのポーズをして思わず苦笑していると、忍足先輩を探していたと思われる女の子が遠くから声を上げた

「忍足君、こんな所にいたーっ!」

「キャーッ!忍足先輩と鳳君が一緒にいる!!」

最初の女の子の一言で、みんなの視線は俺達に集まった

「忍足先輩も跡部部長と変わらないじゃないですか。」

「何言うてんねん。じゃ、俺はもう帰るからな。」

「あ、忍足先輩・・・・・・・」

逃げるように去っていく忍足先輩を止める間もなく、廊下の角を曲がって行ってしまった

もうこの時期になると、3年生は午前授業が多くなる

朝の出席だけとってそれですぐ下校 っていうのさえあるらしい

忍足先輩は先輩と同じクラスだから、様子を聞こうと思ったのに・・・・・・・

逢いたい・・・・・・


ポケットにある携帯を握ったその時

俺の携帯が綺麗なメロディーを奏でた

周りがどんなに騒がしくても俺だけには絶対に聞こえる着信音

これは先輩専用の着信音だから

急いで携帯を開くと、それは電話ではなくメールを告げる着信音だった

メール・・・?

『今夜、少し逢えない?』

内容を見て、急いで返事を返した








 *

目が覚めたら、もうお昼だった

朝よりも大分楽になったし、枕元にあった体温計で熱を測ってみた

薬のおかげですでに平熱になっていたし、少し逢うだけなら大丈夫・・・・だよね?

慣れた手つきでメモリーから長太郎君のアドレスを出して、メールを送信した

返事は意外とすぐに返ってきた

『今、どこにいるんですか?俺は今すぐでも逢いたいです。』

私だって今すぐ逢いたいけど・・・・・

今日学校行ってないとは言えず、わざとごまかした

『熱で休んだ』なんて言うと、長太郎君なら『逢うのは今度でいいですから、無理しないでください!』って言うに決まってる

そんなのは嫌

今日じゃなきゃ意味がないのに、今日言わないでこの言葉をいつあなたに伝えればいいの?

『ごめんね、私も今すぐ逢いたいんだけど、あとでにしてほしいな。』

『・・・・・そうですか。じゃあ学校終わったらすぐ先輩の家に行きます。』

この受信メールを見て、早く長太郎君に逢いたいという想いを抑えつつ、用意していたチョコを手にとった







 *


先輩と約束をしてからというもの、午後の授業なんてちっとも頭に入っていなかった

ホームルームが終わると同時に駆け足で廊下へ出て、階段を駆け下りようとした踊り場でまた1人の女の子に捕まった

もちろん用件とは俺にチョコレートを渡したかったようで、恥ずかしがりながら俯いていた

いつもなら丁寧に話も聞いてあげるけど、今はそれどころじゃない

駆けだしたい気持ちを抑えてみるけど、微かに聞こえてくる小さな声での告白

さすがに軽くあしらったりする訳にもいかず、手短に返事を返した

「ありがとう。でも俺、付き合っている人がいるんだ。ごめんね?」

そう告げると、再び階段を駆け降りた

今までは『誰からのチョコレートが欲しい』とか『プレゼントが欲しい』なんて思った事はなかった

それなのに・・・・・・・

誕生日やバレンタインのプレゼントを差し出されても受け取れない自分がいて

どうしても欲しいたったひとつのことが頭から離れない







 *


もう学校終わる頃かな・・・・?

なんて思っていると、携帯が鳴り響いた

ディスプレイには『鳳 長太郎』の文字

慌てて通話ボタンを押す

「――もしもし、長太郎君?」

先輩、今着きました!」

そう言われて自分の部屋の窓から外を覗くと、息を切らした長太郎君の姿があった

「今行くね」

そう言って用意していたチョコを持って部屋を飛び出し、コートを羽織るのも忘れて長太郎君のもとへ急いだ


先輩!!」

「長太郎君!!ごめんね、わざわざ来てもらっちゃって・・・・・・」

「いえ、全然平気っすよ。」

今日初めて見るとっても優しい笑顔

ニコっと微笑むと、長太郎君が何か気づいたみたいで自分が着ていたコートを脱ぎだした

「長太郎、君?」

「先輩、そんな格好じゃ寒いでしょう?」

と、私の肩にコートをかけてくれた

伝わってくるのは長太郎君の温もりと、長太郎君のお日様のような清潔な匂い

その時、長太郎君の手が私の頬に触れた

そしたら一瞬目を見開いて、少し怒ったような顔になった


先輩・・・・・。もしかして、風邪引いてるんじゃないんですか?」

「どうして・・・・・?」

どうして分かったのか不思議に思っていると、素早く私の額に長太郎君の手がくっつけられた

そしてそれは確信となり、ますます怒った顔つきに変わった

「やっぱりっ!どうしてそれを早く言わなかったんですか!!」

「だって・・・・・・・」

先輩にもしもの事があったら、俺っ・・・・・・」

だんだん小さくなっていく声

「ごめんね、長太郎君・・・・。でもね、どうしても今日言いたかったの。」

「え・・・・・?」

今日じゃないと意味がないから

私の精一杯の気持ち

手に持っていたチョコが入った包みを渡した

「ありがとうございます。開けてもいいですか?」

「うん、開けてみて。」

中はシンプルなハート型のチョコレート

でも、中央には『Happy Birthday』の文字

それを見て、勢いよく顔を上げて私の方を見た

先輩・・・・・・・」

「今日は世間ではバレンタインかもしれないけど、私にとっては長太郎君の誕生日の方が大切だから・・・・・・・。

 お誕生日、おめでとう!!」

「ありがとうございます!俺、すごく嬉しいです。」


先輩が俺の言葉を聞いて微笑むと、ドクン と鼓動が高鳴るのを感じた

それと同時に胸の中に広がるのはこんな想い


「俺、先輩からのチョコもお祝いの言葉も嬉しいけど、

 一番嬉しいのはこうやって先輩と一緒に過ごしている時間です―――」




俺が本当に欲しいのは・・・・・・・・

         先輩、あなただけですから












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2月14日!!
バレンタインデー&ちょたHappy Birthday♪
バレキスの第5弾を書く前にちょたを書いてしまいました。
間に合わなそうだったので・・・(汗)
近々バレキスの第5弾も仕上げますv
ってバレンタイン終わった後に書いてもしょうがないのかなぁ??
計画的にできず申し訳ありません!!

 2月14日  日暮 茜