『バレンタイン・・・・・俺にくれへん?』

『私で、いいの?』

『俺はちゃんのチョコがほしいんや・・・・・』




 ジリリリリ〜

遠くから大きな音が聴こえてくる

 ジリリリリ〜

うるさいな〜もっと静かにできないの?

 ジリリ・・・・・・・

やっと静かに・・・なった・・・・・・・


っ!!!」

「・・・っ、はいっ!!」

いきなり耳元で大声が聞こえて、思わず飛び起きて返事をしてしまった

「あ、あれ・・・・?」

ぼーっと辺りを見回すと・・・・私の部屋?

そして目の前にはお母さんの姿

「何度呼んだら起きるの?」

「へっ・・・・?」

今の状況が理解できずにいると、お母さんが追い討ちをかけるように時計を指さす

「早く出ないと間に合わないんじゃない?」

そう言われて枕元にある時計を見ると8時になろうとしていた

「うっそぉ〜っ!!」

慌てて飛び起きて制服に着替える

お母さんは、そんな私の姿を見てため息つきながら部屋を出ていった


着替えてる時にふと思ったこと


――バレンタイン・・・・・俺にくれへん? 

     俺はちゃんのチョコがほしいんや・・・・・―――


あれは夢だったんだ・・・・・・

そう実感して肩を落とした

そうだよね、まさか彼が私にそんなこと言うわけないもんね

どうしてあんな都合のいい夢を見たんだろう

でもあれが本当だったら・・・・・・









    
ひそかな涙









家から学校まで、どんなにがんばって走ったとしても20分はかかる

完全に遅刻だと分かっていても、学校まで全速力で走っていった


乱れた息を整えながらおそるおそる教室へ入ると、黒板には『1時間目は自習』の文字

よ、よかったぁ〜

ほっ とひといきついて席につくと、仲のいいが駆け寄ってきた

「おっはよ、。」

「おはよ〜。寝坊しちゃったよ・・・・・・・」

「珍しいね、が寝坊なんて」

「うん、ちょっとね・・・・・・」

だってあんな夢を見てたせいで遅刻した なんて・・・・言えないよね

話を変えようと違う話題を持ち出した

「それより今日の調理実習楽しみだね。」

「うん、クッキーでしょ?」

今月はバレンタイン ということもあって、今日の調理実習はお菓子を作ることになったの

今更クッキーなんて作る? なんて言う子もいるけど、私は作るのが好きだから別にいいんだけどなーなんて思ってしまう

それにみんなで作るの楽しいじゃない?

そんな会話をしながら調理実習の時間を楽しみにしていた




調理実習は仲良しの子とやっていいから、と一緒に作った

でもたくさん作りすぎちゃって、実習の時間に全部食べ切れなかった

残りはお昼休みに一緒に食べようってことで、ご飯を食べてからさっき作ったクッキーを机に広げていた

「あ、そういえば先生に呼ばれてたんだ。」

まだほんのり温かいクッキーを食べていた時、が思い出したように喋りだした

「そうなの?」

「めんどくさいなぁ・・・・・」

「しょうがないじゃん。」

「うん・・・・・じゃあちょっと行ってくるね。クッキー全部食べないでよ。」

「分かったから・・・・・・。」

私に念を押してから教室を早々と出て行った

私だってそんなに食いしん坊じゃないもん

でも、結構おいしかったりするんだよね

また一口食べた所で教室を見渡すと、1組のカップルがさっき作ったクッキーを彼に手渡していた

それを見て、いいなー なんて思っちゃう

少しくらい、彼にあげたい

だけど、絶対にたくさんもらってるよね きっと・・・・・・



「何や、1人で寂しいな。」

「っ・・・・忍足君!」

自分が今考えていた人物が声をかけてきたから、びっくりして声が裏返った

でも、忍足君はさほど気にしてないようで、私が今食べていたクッキーを見た

「調理実習で作ったやつか?」

「そうだよ、と一緒に作ったの。」

「少しくれへん?」

まさか、彼の方からそんなことを言ってくれると思ってなかったから少し面食らった

「・・・・どーして?」

「ええやん、いっぱいあるんやから。」

「・・・・・・いいけど。」

そう言うと忍足君の手が伸びてきて、クッキーを1つ自分の口元へもっていった

たぶん忍足君にしてみれば、この行動は普通なんだろうけど、私の心臓はずっと高鳴りっぱなし

だって好きな人に自分の作ったものを食べてもらうんだもん・・・・・・

さっきまで自分で食べてて味は大丈夫だと思うけど、やっぱり不安になってしまう

忍足君の好みの味じゃなかったら とか、忍足君が食べたクッキーだけ不味かったり とか・・・・・・

「・・・・・どぉ?」

おそるおそる聞くと、笑って返事をくれた

「めっちゃうまいやん!」

「本当!?」

嬉しくて思わず大きな声を出しちゃって、ハッとする

こんなんじゃ、私の気持ち気づかれちゃうよ・・・・・・

でも、好きな人に『おいしい』って言ってもらえるのがこんなに嬉しいことなんだと始めて知った

「もう1つもらってええか?」

「いいよ。もしよかったら私の分あげるよ。」

「ホンマに?嬉しいわ。」

私の分のクッキーを包んで忍足君に渡すと、また笑顔を向けた

「おおきに。大切に食うわ。」

そう言うなり、自分の席へと戻っていった

そんな忍足君の姿をずっと見つめていた

どうして私のがほしいなんて言ったんだろう・・・・・

気まぐれかな?

そうだよね、忍足君ならいろんな子からもらえるはずだし・・・・・

でも、それでも『おいしい』って言ってくれて嬉しい






 バレンタインが間近にせまった頃

休み時間に忍足君と何気なく喋っていた時、突然バレンタインの話をしだした

「そういえばちゃん、バレンタインって誰かにあげるん?」

「え・・・・ど、して?」

「もし誰にもあげないんやったら、俺にくれへん?」

今、何て言ったの?

もしかして、夢の続き・・・・・・?

ちゃん?」

「え?・・・・・あ、うん。」

忍足君の声ではっと我に返る

毎年数え切れないくらいのチョコをもらう忍足君だから、私なんかがあげてもしょうがないと思って、あげるのを躊躇っていた

だけど・・・・・・・私、忍足君にチョコ、あげてもいいの?

「もし、あげる相手がいるんやったら無理にとは言わへんけど・・・」

「私のでよかったらあげるよ。」

「ホンマか?せやったら俺、ちゃんの手作りクッキーが欲しいねん。」

「クッキー?チョコじゃなくて?」

「あぁ。この前ちゃんが作ってくれたクッキーめちゃ上手かったから、また食べたいんや。」

「わかった。じゃあ忍足君のために、腕を振るうね。」

「楽しみにしとくわ。」

『手作りクッキーがほしい』って・・・・・

そんなこと言われると期待しちゃうよ?











 2月14日

バレンタイン当日

昨日、1日中キッチンを占領して、何回も作り直して 何回も自分で味見して

やっと自分が納得するおいしいクッキーが出来た

何かの雑誌で読んだけどおいしいお菓子を作るには

――想いを込めること――

今ならその気持ちがよく分かる気がする

作るのは時間と手間がかかるのに、食べる時は一瞬

だけど、好きな人が『おいしい』って言ってくれるだけで、とっても幸せな気持ちになる

それを前から買っておいたピンクの袋に詰めて、赤いリボンでラッピングする

このクッキーに私の想いも込めて―――

『おいしい』って・・・・言ってくれるかな?


いつもより早く学校へ着くと、いつもの雰囲気とはまるで違っていた

学校中が甘い匂いに包まれる日

今日は朝から学校全体が賑やか

そして女の子達の荷物がいつもより多い

私の鞄の中にも、もちろん可愛くラッピングをしたクッキーの包みが入っている

でも、いつ渡そう・・・・・・


休み時間も昼休みも、これでもか ってくらいの人だかり

サッカー部や野球部もそれなりに人気があるけど、一番人気があるのはやっぱりテニス部

特にレギュラーの人は半端なくもてる

それは忍足君も例外ではなく、今日はとても近づいて喋れる状況じゃない

結局一言も喋ることのないまま、放課後になった




もう下校時刻だというのに、校舎内には女の子がたくさん残っている

鞄は教室にあるのに、忍足君の姿が見当たらなくて探しに行った

手には鞄とクッキーを持って

「忍足くーんvv」

廊下の角を曲がろうとする手前で、数人の女の子の声が聞こえてきて近くに本人もいるのだと知った

女の子の手には可愛くラッピングされた包み

それを見た瞬間に、何故か物陰に隠れてしまった

あの子達も忍足君にチョコあげるんだ・・・・・・・

「これ、バレンタインなんだけど・・・・・受け取ってくれる?」

女の子が、持っていた包みを忍足君に差し出した

忍足君が何か言おうとする前に、女の子が頬を染めながら、こう言った

「忍足君が言ってたクッキー作ってきたから・・・・。」

え・・・・・?

今、何て言ったの?

目の前が一瞬、真っ暗になった

血の気が引くってこういうこと・・・・・?


私だけじゃなかったんだ・・・・・・

忍足君はみんなに『クッキーがほしい』って言ってたんだ

私も・・・・・その中の1人だったんだ

それならそうと早く言ってくれたらよかったのに・・・・・・・

力ない笑みがこぼれると同時に、切ない気持ちでいっぱいになった

これ以上その場にいたくなくて全速力で今来た道を走って行った




昇降口まで走ってきて靴を履きかえながら、さっきの出来事が頭から離れない

分かってたよ

忍足君は軽い気持ちで、私にバレンタインがほしい って言ったんだって事は・・・・

分かってたけど・・・・・少しだけ期待してた

もしかしたら って

期待させるようなこと、言わないでよ

勘違いしていた自分が馬鹿みたいじゃない

目頭が熱くなって

一滴、涙が零れた

一度溢れた涙は止まらない

拭っても拭っても溢れてくる

私の気持ちのように

忍足君が好きなのに 好きでしょうがないのに・・・・

叶うはずのない恋に夢見て

一生懸命、喜んでもらうためにクッキー作りの練習なんてして・・・・・・

本当に・・・・馬鹿みたい


その時、涙を拭っていた腕を誰かに掴まれた

びっくりして振り返ると、息をきらした忍足君だった

「何、泣いてんねん。」

「・・・・・忍足、くん?」

どうしてここにいるの?

「さっき廊下にいたやろ?慌てて駆けていきよったから・・・・・・」

追いかけてきて、くれたの?

どうして・・・・・ そんなに手作りのクッキーがほしいの?

「別に、何でもない。 それより、何か用?」

「何か用?って・・・・・俺に渡すもの、ないんか?」

「え・・・?」

「バレンタイン・・・・クッキー焼いてくれる言うたやん。」

「だって、私のなんていらないでしょ?」

「何言うてんねん・・・・」

「みんなにクッキー作ってって言ってたんでしょ?

 だったら私があげなくても、たくさんの子からもらえるじゃない。」

私の言葉に、忍足君は訳のわからないような顔をした

私、聞いたんだから・・・・・・

どうせ私もその中の1人なんでしょ?

「何言ってるん?俺、誰にもクッキー作ってくれ なんて言うてへんよ。」

「え・・・・・・?だってさっき・・・・・」

忍足君が言ってたクッキー作ってきた・・・・ って言ってたよね?

私が言葉にする前に、忍足君には私が何を言いたいのか分かったみたいで説明してくれた

「もしかして、今日女子達がくれたクッキーのことか? あれ、岳人が悪いねん。」

「どう、いうこと?」

「1ヶ月くらい前にな、岳人に『チョコって好きか?』って聞かれたんや。

 そん時は深い意味なんてあると思わんかったから『チョコよりクッキーのがいいかもな』って答えたら、それが女子達に知られてしもたみたいでな・・・・・。

 おかげで今日はいろんなクッキー見たわ。」

「・・・・・じゃあ」

忍足君が頼んだわけじゃないの?

「俺がくれって自分から言ったんは、ちゃんただ1人やから。

 あ、それでさっき泣いとったんか?」

本当のことを言われて、返事できずにいた

「俺が欲しいものは、ただ1つやから・・・・・・・」

「それって・・・・・?」

「今日はバレンタインやねんで?意味くらい分かるやろ?」

心臓が高鳴った

言っても・・・・いいの?

ゆっくりと鞄からクッキーが入った包みを取り出すと、忍足君の前に差し出した

「あの・・・・・・クッキー、受け取ってくれる?」

「他に言うことあらへんの?」

「えっ・・・・・・・。」

「今日は女の子が男の子に告白する日やで?」

口の端をあげて笑う忍足君

それを見て、更に俯いた

「俺、ちゃんの口から聞きたいんや。」

きっと今の私の顔は真っ赤だ

だけど今伝えないと一生後悔する

ずっと伝えられなかった想い


「忍足君が・・・・・好きです。」


そう言った瞬間に、忍足君が私の腕を引っ張った

いきなりのことに思わずよろけて、忍足君の方へ倒れこむ形になった

それをうまく受け止めて優しく抱きとめてくれた

私の方は、いきなりのことにびっくりして声をあげた

「お、忍足君!?」

ちゃんが好きや。ずっと、こうしたかった・・・・・・」

私を抱きしめる手に力がこもる

忍足君の体温が私を安心させてくれて、思わず目を瞑った

・・・・・・」

名前を呼ばれて忍足君を見上げると同時に唇が軽く触れ合った

熱いキス

その唇はすぐ離された

それでもまだ唇に感触や温もりが残っている

ここが学校だと気づいて顔を赤くした私に小さく笑って、何度もキスを繰り返した


 お菓子のように、甘くて優しいキスを―――








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バレキス第3弾は侑士君でいきましたvv
6日にupする予定だったのに1時間!間に合わなかった!!
14日までにあと2人!!
そして14日にはチョタをupできるようにっ!!
がんばります☆

 2月7日  茜