「おじゃましまーす。」
「飲み物持ってくから、先に俺の部屋に行っててや。」
「うん。」
侑士はそのままリビングへ向かった
私は侑士に言われて、迷う事なく階段を上がって侑士の部屋を目指す
出逢った頃のように・・・
いつもと変わらない侑士の部屋
部屋に入ってすぐ、大きいテレビの隣にある、たくさんのビデオテープやDVDを眺めた
侑士は本当に映画好きで、特にラブロマンスが上映されると分かると、すぐ「観に行こう」と誘われる
私もラブロマンスは好きだから付き合うんだけどね
侑士と付き合うようになって、家に遊びにくるといつも映画を観てる
今日も映画を観る為に来たはず・・・なんだけど・・・・・
「今日は映画は観ないで。全部終わるまで帰さへんからな。」
気づいたら、侑士がティーセットが乗ったトレーを持ってドアの前に立っていた
そして、私の手に持っているDVDを取り上げると、棚に戻した
あ〜、それ観たかったのに・・・・
「えぇー。せっかく侑士の家に来たんだから映画観ようよ。」
口を尖らせて反論したけど、侑士の意思は変わらなかった
「何言うてんねん。俺かてと一緒に映画観たいわ。せやけど、もうすぐテストやっていうのに試験範囲も知らんかった奴に映画なんて観せらるわけないやろ?」
「だってぇ〜!!」
「だってやない。俺が教えたるからきちんと覚えなあかんで?」
「・・・・はぁ〜い。」
そう。今日は勉強に来たのです・・・
もうすぐ中間テストなんだけど、部活とかが忙しくて勉強なんて全然してなかった
それに氷帝は試験範囲を廊下に張り出すんだけど、1週間しか貼ってないんだよね
後でいいや〜なんて思ってたら、いつの間にか試験範囲が書かれた紙がなくて・・・・
仕方なく侑士に聞きに行ったら呆れられて、今日からテスト勉強するって言われて・・・・
今、ここにいます
「今日は何するの?」
「とりあえず今日は数学やっとくか。は数学が苦手なんやろ?」
「うん・・・。」
映画観たかったなぁ〜と思っても、今日は侑士が観せてくれそうにないからあきらめて鞄から教科書を取り出した
「・・・平方根??何それ?」
ここからが範囲やで と開かれた教科書を覗き込んで、最初に発した言葉
その言葉を聞いて、侑士は大きなため息をついて頭を悩ませた
私はたいていの教科は平均点はとれている
だけど、数学だけは別
どうしても数字や数式が頭に入っていかない
「・・・は授業何も聞いてなかったん?」
「聞いてたつもりだったんだけどなぁ〜。数学苦手なんだもん・・・・。」
といいつつ、実はあんまり聞いていなかった事は内緒にしておこう・・・・・
「・・・・・とりあえずここのページだけやってみ。」
「うん。」
侑士に教わりながら、何とか数式などを頭に詰め込んでいく
私が問題を解いている間は、侑士も自分の勉強を進めていた
しばらく進んで、やっぱ慣れない事をしたせいか頭がこんがらがってきた
これ以上詰め込んだら頭の中パンクしちゃいそう・・・・
「侑士〜・・・・少し休憩しない?」
「そうやな。じゃあこの練習問題やって休憩しよか?」
「うん!」
休憩できると思ったら何だかやる気がでてきた
数分後
「・・・・できたよ。」
向かいで歴史の教科書に目を通していた侑士に、答え合わせのためにノートを見せた
「お、早いやん。どれ?」
侑士が答え合わせしてくれている間に、侑士が勉強していた歴史の教科書を手に取った
「全部できてるやん。はやればできるんやからしっかりやり。」
「・・・・・・。」
「・・・?」
「あ、うん。がんばるね。」
「あぁ。ほな、休憩にしよか。」
新しく持ってきてくれた紅茶に口をつけながら、小さくため息をついた
「・・・・どうしたん?さっきから。」
「えっ、何が?」
「何が? やないで。さっきから上の空でため息ついとるし。そんなにテストが不安なん?」
自分でも聞こえるか分からないくらいに小さくため息をついたつもりなのに、侑士にはしっかりと耳に届いていたみたい
「・・・違うよ。テストは・・・・多分平気。」
「だったらどないしたん?」
「・・・・時代もどんどん変わっていっちゃうんだね。」
「はっ?」
いきなり私がこんな事を言ったもんだから、侑士もポカンとした顔をしてこっちを見てる
「歴史の教科書見てたんだけど、今までの日本の歴史がいろいろ書かれてるじゃない。」
「ま、そらそうやな。」
「それを見てたらさ、時代もどんどん変わっていってるな〜と思ってさ。」
「そんな事言うなんておっさんやなぁ。」
「おっさんって言わないでよ〜。本当にそう思ったんだから。」
なんかそれも寂しいかも・・・なんて呟いた言葉に、侑士は少し考えて。
ふいにこんな事をいいだした
「、じゃあ最後の問題な。」
「・・・うん。」
「今も昔も変わらないものといえば――――?」
「今も昔も変わらないもの?」
「せや。」
・・・なんだろう・・・・そんなの教科書に載ってたっけ?
首を傾げながらパラパラと歴史の教科書をめくっていたら
「そんな所に書いてあらへんよ。」
なんて、笑いながら言ってきた
教科書に載ってない事が試験にでるのかな?
「・・・これって試験にでるの?」
「いや、試験には出ぇへんけど・・・・・」
「けど?」
「俺にとってもにとっても大事な事や。」
大事な事・・・・?試験よりも?
「建物・・・・・とかじゃないよね?」
侑士にも私にも大事な事・・・・だもんね
建物だっていつか変わっちゃうだろうし
しばらく悩んでみたけど、どうしても分からない
侑士はそんな私をみて、笑ってるだけ
「侑士〜、分からないよ。答え教えて?」
「仕方あらへんな。」
そう言うなり、テーブルの向かいに座っていた侑士が、いきなり立って私の隣に腰を下ろした
そして私の体を自分の方に向けて、私達は向かい合わせになった
「・・・侑士?」
何が何だか分からずに問いただすと、侑士が親指を立てて心臓の上でトントンと軽く叩いてみせた
「心・・・・臓?」
「ああ。正確には心や。」
「どういう事?」
侑士の行動がまだ完璧に飲み込めていない
そんな私にもっと分かりやすく、さっきの答えを教えてくれた
「気持ち・・・・つまり『人を想う心』や。」
「人を想う心・・・・。」
「それだけは、時代がどんなに進もうが変わらない事やと思わへん?」
侑士はそう言うと、ニコっと微笑んだ
人を想う心・・・・と言われて思い返してみた
そう言われれば・・・・・
戦国時代から江戸時代、明治、昭和、平成と時代が流れていって
長い歴史の間には、戦争や争いが耐えなかった時代もあったけど
それでも負けずに
男の人と女の人が愛し合い、子供が産まれて
私達のおじいちゃん、おばあちゃんが産まれて
お父さん、お母さんが産まれて
――――そして、今の私たちがいる
『人を想う気持ち』
それだけは、どんなに時代が進もうが絶対に変わらない
突然のスケールの大きさに涙が溢れた
変わる事は素晴らしいと思うけど、反面、怖いと思う時もある
けど、ずっと変わらないものもある
侑士はそれを私に気づかせてくれた
「勉強になったやろ?」
「うん。」
そっと抱きしめられて、思わず侑士の胸の中で一粒の涙をこぼした
「俺のに対する気持ちも一生変わらへんから・・・。」
「私に対する気持ち・・・?」
「あぁ。」
侑士の顔を見上げると、急に真剣な顔になって耳元で囁いた言葉に
顔を紅く染めながらも、それに答えるように侑士に抱きついた
「愛してるで。いつまでもずっとな・・・・」
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忍足君ドリーム第二弾
今回は少し?甘めで攻めてみました☆
いかがでしたでしょうか?
是非感想なんかいただけると嬉しいですv
2004年11月 6日 茜