今年の夏は信じられないくらいの猛暑やった

去年が冷夏だっただけに、今年はいつにも増してしんどかった

そして気づけば

蒸し暑くてうっとおしかった風は冷たくなっていて、すっかり秋の季節

なぁ、秋といえば―――――?








   
甘い眩暈







いつかはこうなるって分かってた

俺の通う氷帝学園は6月の始めに体育祭、10月の半ばに学園祭をやる

日にちまでは決まっていないんやけど、毎年これは確実

小学校から氷帝に通っていて、今までこうならなかったんが不思議なくらいや

10月の学園祭はいつも俺の誕生日の前後に行われていた

せやから、準備やら後片付けやらで友達からはまともに祝ってもらった事がない

そして今年の学園祭開催日は ――――10月15日と16日



「楽しみだねー、学園祭。」

ここんとこ毎日学園祭の準備で朝も帰りもまともに会えへんと、久しぶりに一緒に登校して

それだけで嬉しさに包まれた俺に、が太陽にも負けへん明るい笑顔で俺に問いかけてきた

「あー・・・そうやな。」

「どうしたの?何か元気ないね。侑士こういうの好きでしょ?」

「まぁな。」

「1日目は忙しくて一緒には回れないけど、2日目は一緒にいようね。」

「・・・あぁ。」

相変わらずニコニコしながら俺に話しかけてきよる

俺が元気ない理由なんて知る由もあらへんやろうな


・・・・には俺の誕生日は言ってへん

付き合ってから初めて迎える俺の誕生日

別に言いたくなかった訳やない

ただ、言う機会がこなかったんや

今更言うと何か催促してるみたいやん

せやから言おうとは思わんけど・・・・

こんなに気になるんなら前もって言うておけばよかったかなぁ

楽しそうに学園祭の話をするの一歩後ろで、俺は気づかれないように小さなため息をついた







  *


2学期になってからというもの、放課後は毎日のように学園祭の準備で大忙し

そんな中、俺は誰もいない生徒会室に入るなり椅子にドカっと腰を下ろした

俺は生徒会には入ってへんけど、サボりたい時はたいていここにいる

でも生徒会室に来る本当の目的はに会う為

今の時期は生徒会室はあまり使われへんからな

使うとしても、たまに短い会議が行われるくらいって言うてたし

こんな所跡部に見つかったらどやされるんやろうな・・・

「グラウンド30周」ってどっかの部長と同じ事を言われるかもしれへん

せやけど、アイツも・・・・も生徒会に入っているから、ついここに足が向いてしまう


いつもと一緒にいたい

今までこんな事思ったことあらへんかったのになぁ

それだけに本気なんやろうな・・・・惚れた弱みっちゅう奴や

今頃も、最終確認の為に校内を走り回っているんやろう

はお祭り事が大好きやから

氷帝学園の学園祭は都内でも派手という事で有名

無駄にでかい校舎をまるまる使うから、規模は相当でかい

事前の準備も、体育祭や入学式、卒業式なんかの比やない

長かった事前準備も、今は各クラスとも追い込み作業に入っている所

中には、当日に間に合わずに徹夜して仕上げる所も少なくない


俺は座っていたパイプ椅子に背中を預けて、机に無造作に置いてある生徒会の学園祭当日の役割分担の紙を手に取った

の担当の所を目で追うと、休む暇がないくらい細かくスケジュールが書かれていた

・・・・何や、ほとんど動きっぱなしやん

そんな事を思いながら、部屋の隅に貼り付けてあるカレンダーを見た

そのカレンダーには、いろいろな学校行事の詳細が書き込まれている

10月15日も赤いペンで大きく○がついている

それはもちろん俺の誕生日の為やない

学園祭当日の為の印

まぁ、今更誕生日なんて祝ってもらおうとも思わんけど

やっぱりどこか少し寂しい・・・・と感じてしまうんは俺だけなん?

なんで1日目にスケジュールぎゅうぎゅうに入れてしもたんや

せめてそれが2日目なら15日は一緒にいられたのに・・・・・

俺は一つ小さなため息を漏らした


 学園祭開催まであと2日――――






  *

 そして学園祭当日

あれからとまともに会話する事なく迎えた学園祭

朝、登校すると同時に俺に群がってくる女の子達


「忍足君、誕生日おめでとうv」

「おおきに。」

「これプレゼントなんだけど・・・。」

「悪いけど、気持ちだけ受け取っとくわ。」

なんて会話、今日1日で何回しよったか分からへん

中には氷帝じゃない学校からわざわざ来てくれる子もおった

誕生日を祝ってくれるんは嬉しいけど、ほんまはに祝ってもらいたい

一番好きな奴に祝ってもらわんで何が誕生日やねん

俺は子供のようにふれくされて校舎の裏でサボっとった

ここなら誰も来ることあらへんやろ

そういえば、のクラスは喫茶店やったな

確か今日は午後の当番をしてるはずや

後で行ってみよ

と思って軽く仮眠をとるつもりが、日頃の疲れが溜まっていたのかいつの間にか熟睡してしもた


寒いなと感じて目が覚めると、すでに夕方になっていた

この季節になると日が落ちるのも早い

やばい・・・いつまで寝てたんや、俺・・・・・

グラウンドを覗くと、夜のメインイベント

キャンプファイヤーの準備をしてるんが見えた

今時キャンプファイヤーかいな・・・

それに明日も学園祭は続くんやで?

明日でええやん

とは思いつつも、これは全員参加で、この時間は校舎は立ち入り禁止になっている

それでも俺は窓から忍び込んで、1人で生徒会室へ逃げ込んだ



「今日、誕生日やねんぞ。」

それなのに

何が悲しくて生徒会室に閉じこもってるんやろう

そもそも俺もお祭りは好きやから、盛り上がりたい気持ちもあるけど

・・・・足りないんや

傍にがおらんと、何してても楽しいと感じん

やっぱりと一緒におった方が何百倍も楽しいに決まってるやん


忙しいんは分かってるけど

祝ってくれなくてもいい

せめて少しの時間でも一緒に過ごしたい

ポケットから携帯電話を取り出し、電話帳の一番最初に登録してあるの番号を出そうとした時


―――ブルルルルッ

手に振動が届いたと同時に、ディスプレイに見慣れた名前が表示されていた

電話の発信者は ―――やった


俺の鼓動が高鳴ったんを感じた

まさか、今日が俺の誕生日って事知って・・・?

一瞬そんな事が頭によぎった

けど、それは叶わぬ願い

今日が誕生日やと言わなかった自分が悪いんや

いい加減に諦めや、自分・・・・

そんな淡い想いを胸にしまいこんで通話ボタンを押した


「あ、侑士?私。今忙しいかな?」

携帯を耳に当てて聞こえてきたんは、いつも聞いている俺の愛しい人の声

同時に、の声の後ろでカシャンと何かが落ちた音も聞こえてきよった

忙しい?って聞いてるの方が慌しい感じやん


「・・・・・めっちゃ忙しい。」

本当は声が聞けて嬉しいはずやのに

自分が一番会いたいと思ってるはずやのに・・・

ずっと連絡が取れなかった

寂しいと思っているのは自分だけなんか?

そんな事で不機嫌になって、つい思ってもない事を口にしてしまった

の為なら、どんなに寒い朝だって、どんなに嵐の夜だって急いで駆けつけたる

そう思っていたのに

「ごめんね・・・・・じゃあまたかけるから・・・・。」

俺の返事を聞いて急にしょんぼりしたような口調で、いそいそと電話を切ろうとしていた

の声を聞いて、俺は心の中で自分自身に舌打ちした

ちゃうねん

何で俺はこんなに馬鹿なんや

本当の事を口にすればいいのに

それが素直に出来ない自分自身に腹が立った

「いや、大丈夫や。どうした?何かあったんか?」

「・・・本当に大丈夫なの?」

「あぁ。」

「じゃあさ、私の教室に来てくれない?渡したいものがあるの。」

「教室って・・・・・分かった。すぐ行くわ。」

どうして教室にがいるのかが気になったが、に早く会いたい

その気持ちの方が大きくて

電話を切って、足早に生徒会室から抜け出した

行き先はもちろん、の所


会いたいという気持ちが俺の足を軽くする

廊下を猛スピードで走ってると、廊下に人影が見えてきた

今は校舎の明かりは消されていて、月明かりを頼りにのクラスまで目指してる

ある程度近づいてもはっきりと人影の人物までは特定できん

けどな、俺は分かるで

どんなに暗くても、どんなに人ごみの中でもお前の姿だけは・・・・・

っ!」

「・・・侑士!」

こっちこっちと手招きしているに勢いよく抱きついた

ずっと触れたかったこの温もり

久しぶりにの体温を肌で感じた

もその細い腕を俺の背中に回してくれる

それだけで幸せやん

今までに逢えんで凍りついていた俺の心をそっと溶かしてくれる

「せや。どうして教室に残ってたん?今の時間は校舎立ち入り禁止やで?」

「それを言うならどうして侑士も校舎内にいたの?」

「俺は・・・・少し仮眠しとっただけや。」

「私は、今どうしても侑士に受け取ってほしいものがあったの。」

に会えんで寂しくて生徒会室に閉じこもってた―――なんてかっこ悪いから言われへん

そんな俺の手を取って薄暗い教室の中、一箇所やけに明るく灯ってる所へ案内される

それが何か気づくまで、そう時間はかからんかった


「これって・・・・」

薄暗い部屋の中央の机の上に乗っていたものを見て俺は絶句した

どうして・・・・?

円形に配置されたろうそくがゆらゆらと小さな炎を上げて、幻想を造りだしてるんかと思った

喫茶店の余り物か?

そうとも思ったけど、1人で食べるには大きすぎる

真ん中には「Happy Birthday 侑士v」と書かれたプレート

そしてろうそくの数は―――15本

これは・・・・


「ハッピーバースディ、侑士。」

「どうして・・・・・。」

俺の目の前に差し出される大きなケーキ

これが作ったんか?

「どうしてって・・・・。誕生日でしょ?知ってたよ。というか今日知ったんだけど、ちょっと驚かせようと思って・・・。」

暗闇の中、ろうそくの炎に照らされて俺の瞳に映るの顔は、いつにも増して綺麗に見えた

ニコっと笑うを抱きしめたい気持ちを抑えて、ただ黙っての言葉を聞いていた

「時間なくて急いで作ったからちょっと不恰好になっちゃったけど、愛情はたくさん込めたから・・・・。ごめんね、怒った?」

「いや、まさかが俺の誕生日知ってると思わんかったから・・・。めっちゃ嬉しいわ。」

 嬉しくて、死んでしまいそうや―――



「歌、歌ってあげる。」

「あぁ・・・。」

今まで歌う事はあっても歌われる事はあまりなかったこのハッピーバースディの曲

発音のいい英語を聞きながら、俺はろうそくの灯りに照らし出されるケーキを見つめ、幸せに浸っていた

俺は歌い終わったと同時に息を吹きかけて一気にろうそくの炎を消した

暗闇になるから消さんほうがよかったかなと思っとったら、

外ではキャンプファイヤーが始まったらしく、窓から微かに淡い光が差し込んできた


「・・・・・おいしい?」

一口食べた所で、が不安そうに尋ねてきた

「不安なん?」

「だって時間がなくて急いで作ったから・・・。」

「それじゃ味見してみるか?」

そう言って、苺を口に入れてにすばやく近づいた

「侑・・・・っ」

の言葉を紡ぐように強引に口付けた

早くに触れたかった、もっとを感じたかった

せやけど、優しくせんと壊れてしまいそうやから

俺の愛しいお姫様は苺のように繊細やから

久しぶりにゆっくり逢えたかと思ったら、こんな可愛いことして

今日はどうなっても知らんで―――


久しぶりに感じるの温もりに俺もだんだん酔いながら

それでも夢中でキスを交わした


「よくこんなの作る時間あったな?いつ作ったん?」

名残惜しいけどそっと唇を離して、疑問に思ってた事を聞いてみた

今日は1日中クラスの当番やら何やらで忙しかったんちゃうの?

「うちのクラスって喫茶店だったでしょ?みんなの目を盗んでオーブンとか器具とか借りて作ったの。」

コソコソ作るの大変だったんだよ?なんて言うが可愛くて

そっと俺ん方に抱き寄せた

こんな大きなケーキ、他の奴らに気づかれん方が不思議なくらいや


「侑士、誕生日おめでとう。」

「あぁ、ありがとうな。」


俺の腕の中で嬉しそうにそう言ってくれるがめっちゃ愛しい

今まで生きてきた中で、一番嬉しい誕生日や

星と星が結ばれて、星座になっていつまでも輝き続けるように

俺達もずっと一緒にいような

そう、光輝く星空を見上げて願った








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10月15日!!
忍足君の誕生日ドリームでしたv
学園祭設定にしてみました☆
そして初めての忍足視点で書いてみました
少しでも楽しんでいただけると幸いです。
でも、今時キャンプファイヤーって・・・(汗)
おっしー、お誕生日おめでとう!!

 2004年10月15日 茜