ライラック
「ねぇー薫くん、そっちはどぉ?」
「・・・・・おい。」
ずっとしゃがみこんでいた体を起こし、おもむろに伸ばし始めた
「どうしたの?薫くんも探してよ。」
「・・・・どうしてこんなことしてんだ?」
そもそも俺はトレーニングしに来たはずだ・・・・・と、横でぶつぶつ言ってる薫くんの顔を見て、口を尖らせる
「だって薫くんが言い出したんじゃない!」
「・・・・・あぁ、悪ぃ。」
そう言ってまた2人して探しはじめた
素敵な言い伝えがある花を―――
今日も公園でいつものように薫くんのトレーニングに付き合っていた
薫くんがトレーニングしている時はいつも邪魔しないように見てるんだけど、ベンチに座ったときに ふわっといい香りが漂ってきた
なんだろう・・・・・・?
と、周りを見渡すと、そばに花が咲いていた
近づいて匂いを嗅ぐと、先ほどと同じ、いい香りがした
・・・・・なんて言う花なんだろう?
見ただけじゃ名前なんて分かるわけないけど、その花をそっと手にとってみた
「ライラックじゃねぇか。」
その時、聞こえるはずのない声が後ろから聞こえてきて驚いて振り向く
薫くんはトレーニングしてるはずなのに・・・・・・
それにしても、今なんて言った?
ライラックって・・・・この花の名前?
それを薫くんが知ってることに驚いて目を丸くした
「薫くん、知ってるの!?」
私の大声に少したじたじになりながら答えた
「あ、あぁ・・・・・家の庭にも咲いてるからな。それにこれは5月11日の誕生花らしくてな・・・母親が勝手に植えてた。」
「え、そうなの!?5月11日の誕生花は林檎だと思ってた!」
だから林檎買ってきたのに・・・・・
薫くんもアップルパイ大好きだから、あとでアップルパイ作ってあげようと思ったんだけどな
やっぱり焼きたての方がおいしいからね
今日は薫くんの誕生日
だけど毎日のトレーニングは欠かさない
後で時間つくってくれるって言ってたし、私も特に何も言わずにトレーニングに付き合った
「それもあるらしいがな・・・・・・。これにはちょっとした言い伝えがあるんだとよ。」
いつの間にか少し離れて軽く体操をしだした
だけどその『言い伝え』を話そうとしない
私は薫くんが言った『言い伝え』がすごく気になって、トレーニングしている薫くんの傍に近づいた
「どんな言い伝えなの?」
「・・・・・・・・・・・・・・忘れた。」
目線を逸らしながらトレーニングを続ける薫くん
この言い方は嘘だ 絶対に嘘だ
長年一緒にいるからこれくらいすぐ分かる
「嘘。その顔は覚えてるでしょ。」
そう言っても私の言葉は無視して、そのままトレーニングを続けている
なんか『俺が言えるか!』っていう顔してる
こうなったら絶対聞き出してやるんだから!
「・・・・・教えてくれないんならもう帰る」
「おい、・・・・・・・」
帰る素振りを見せると、少し慌ててから大きくため息をつき、ゆっくりと喋りだした
「・・・・・・・その花、花びら何枚ついてる?」
そう言われて、急いでライラックが咲いている場所へ戻って数えはじめる
「えっと、4枚かな。何で?」
「花びらは普通4枚だけどまれに5枚のものがあって、それを見つけると・・・・その、幸せになれるとかいうくだらねぇ言い伝え聞かされたんだよ」
少し照れくさそうに話す薫くんに私は小さく笑った
だけど素敵な言い伝え
「探そう!」
「あぁ?」
「こんなにたくさん咲いてるんだもん!あるよ、きっと!」
私の急な発言に、また大きくため息をついていた
「俺はやらねぇぞ。やるんなら1人で探してろ。」
「どうして?一緒に探してくれないの?」
「俺が花なんかの傍にいれるか!」
そう言うとは思ってたけど・・・・・・・
「薫くんの誕生花なんだよ。一緒に探そうよ。
それとも薫くんは・・・・・私とは幸せになりたくないの?」
今にも泣きそうな声でそう言うと、急に慌てて私の傍に駆け寄ってきた
「ち、違う!そういう意味じゃねぇ!!
じゃあ探してやろうじゃねぇか、5枚の花びらがついてるライラックをよ!!」
そして冒頭に戻る
ただの幸せになれる という言い伝えだけなら、ここまで必死になって探すこともないかもしれない
だけど・・・・・ライラックは薫くんの誕生花ってことを知ったから
何としても探したい
薫くんも文句言いながらも一応探してくれているのに・・・・・
こんなにたくさんあるのに、いくら探しても花びらが5枚ついているライラックは見つからない
なかなか見つからないから、見つけたら幸せになれるっていうんだよね
だけど何とかして見つけたい
咲き乱れるライラックから、花びらが5枚ついているライラックを探し続けた
それから何十分経ったか分からない
それでも探し続けていた
そして、かきわけた花からたった1つ、花びらが5枚ついている白いライラックをみつけた
そっと手にとって、少し離れた所で探している薫くんに向かって叫んだ
「あった!あったよ、薫くん!!」
「よかったじゃねぇか。これでもういいだろ。」
肩に手を置いて首をクキクキと鳴らしながらトレーニングに戻ろうとする薫くんを慌てて止めた
「あ、ちょっと待って。」
「まさかまだ探すつもりなのか?」
すごく嫌そうな顔つきで振り返った
「違うよ、薫くんにあげるの。」
「・・・・・・・俺に?」
私が薫くんにあげるとは予想してなかったみたいで、目を丸くしていた
「そうよ、だって今日は薫くんの誕生日だもん。ちゃんと後でアップルパイも作るけど、今はこれあげる。」
「・・・なら、これは俺からお前にやる。お前が持っていろ。」
「どうして?」
「俺といてもが幸せになれるように・・・・・・・」
「だったらなおさら薫くんが持っててよ。」
私の言葉に薫くんの表情が微かに変わった
「だって、私はもう十分幸せだもん。薫くんが傍にいてくれるだけでとっても幸せだから・・・・・」
本当にそう思ってるから・・・・・
薫くんに抱きつくと、突然のことに驚いていたが、ゆっくりと私の背中に手を回した
「・・・・・・・・」
「薫くん、お誕生日おめでとう。」
「・・・あぁ、サンキュな。」
はにかみながら答える薫くんの全てが愛しいと思ってしまう
薫くんの腕の中で目を閉じた
「だけどそれなら探す意味なかったんじゃねぇのか・・・・・?」
「いいの。薫くんと一緒に探したかったの。
それより・・・・・薫くんの心臓の鼓動早くなってるよ。」
さっきから薫くんの鼓動が聞こえてくるんだけど、かなりの速さで動いている
そのことを伝えると、顔を真っ赤にして大声で反論した
「そっ、そんな事ねぇよ!! ・・・・・・それにお前だって」
「何?」
「その・・・・鼓動早くなってんじゃねぇか。」
「当たり前じゃない。好きな人と抱き合ってるんだから。」
「そりゃそうか。」
「そうだよ。」
にこっと笑って、また顔を薫くんの胸に埋めた
トクントクン と私と薫くんの鼓動が重なる
それが私を落ち着かせてくれる
「さっきの話・・・だけどよ。」
しばらくして、薫くんが話しだした
『さっきの話』と聞いて、埋めていた顔を上げた
「さっきの話?」
「俺だって幸せ・・・だと思ってるからな。今日もと一緒に過ごせてよかったと思ってる。
・・・・・今までで一番の誕生日だ。」
さっきよりも更に耳まで赤くしてそっぽを向いたままの薫くんが愛しくて、小さく笑った
「薫くん・・・・・・・」
「・・・・帰るか。」
「でもトレーニングは?」
そもそも今日はトレーニングをしに来たはずなのに、ひょんなとこからライラック探しに夢中になって
結局トレーニングはやっていない
「今日くらい家でゆっくりしても大丈夫だろ。」
「だったらこれから薫くんのためにアップルパイ作るね!」
「あぁ・・・・・・・。」
手を繋ぎながら薫くんの家へと急いだ
1輪のライラックを持って そして
ライラックの香りに包まれながら
あなたの特別な日に一緒にお祝いできるのが嬉しい
いつまでも一緒にいようね・・・・
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偽者海堂です!!
誕生日ドリームなのに当日に祝ってあげられず、すいません〜!!
100のお題 : 68「ライラック」
2005年 5月12日 茜