街はすでに冬の面影なんてカケラもなくなっていた
今はもう寒い季節は過ぎ去ろうとしていて、暖かい春が来るのを待っている
僕もその中の1人だけどね
愛なんて言葉じゃ言えない
「周助、見て見て!綺麗な桜だよ!」
僕の隣にいるが嬉しそうに、綺麗に咲いている桜並木を見上げた
桜色のワンピースを身にまとい、それがにとってもよく似合っている
繋いでいる手から伝わるの温もりと笑顔を見て、僕も微笑んだ
今年は温かい日が続き、例年より早く桜を見ることができた
1年でこの時期にしか見ることのできない桜
夕方は部活のせいでニュースを見れない僕が、たまたま早く帰ってきた時につけたテレビから流れた映像
そこは青春台から近い河川敷
道沿いに並ぶ桜並木が7分咲きとはいえ、綺麗に咲いていた
それを観た瞬間、趣味である写真を撮りたいと思うよりも何よりも・・・・・
この綺麗な桜を『と一緒に見たい』
そう思った
そしてクスッと笑う
自分の中でこんなにもの存在が大きくなっていたことに――――
「周助も早く来なよー。」
走って桜の木の傍まで行き、後ろをゆっくりと歩く僕に手招きした
僕の思った通り、今日のはいつも以上に笑顔が絶えない
だからこそ、と見にきたいと思ったんだ
ならきっと喜んでくれるから
この笑顔を見たかったから
「そんなに急がなくても、桜は逃げないよ。」
その仕草と言葉に苦笑しながら返事をする
ワンピースから覗くキミの細い肩が見えると、守りたくなる
強い風に煽られているキミを見ると、僕が盾になってあげたくなる
どんな些細な仕草も僕には可愛く見えて
の全てが愛しくてたまらない
ゆっくりとに近づきながら、片手に持っていたカメラを構えた
シャッターを切ろうとした時、ずっと桜を眺めていたが僕の方を見た
思わず手を止める
「写真、撮るの?」
「うん。」
「じゃあ私どくね。」
「どうして?」
「桜の木を撮るんでしょ?そしたら私は邪魔じゃない。」
一緒に撮りたいと思ってるのに、邪魔なわけないよ
桜の木から遠ざかろうとするを止めた
「違うよ、桜も撮りたいけど、僕はを撮りたいんだ。とっても綺麗だから。」
「周助、何言ってるのよ・・・」
僕の言葉に恥ずかしくなったのか、俯いてしまった
ねぇ、知ってた?
桜よりもの笑顔の方が、僕には何倍も綺麗に見えるんだって事
たった1本の桜の木もまだ花を咲かせていない木も、が一緒にいるだけで、ファインダー越しに眺める風景はまったく別のものに変わるから
今まで見たこともない程、僕の瞳には綺麗に映るんだ
まるで初めて見る景色のように
「それじゃあ写真、撮れないよ?」
ファインダー越しに眺めていたけど、いつまでたっても俯いている
折角可愛く撮ろうと思っているのに
「周助が撮ってくれる写真も好きだけど、私は周助と2人で写りたい。」
そんな可愛いこと言ってくれるとは思ってなくて
うん、僕も一緒に写真撮りたいな・・・・・
でも、そう思っていても、実際に口にするのはこんな言葉
「そしたら桜が入らなくなっちゃうよ?」
「それでもいいから・・・・一緒に撮ろ?」
「分かったよ。」
桜の木の前で2人寄り添い、顔を近づけて片手で持っているカメラを構える
カシャ・・・・・
カメラに向かって笑っているの頭に落ちてきた1枚の花びらを掴んだ
「どうしたの?」
「ほら、花びらがついてた。」
「本当だ・・・・・」
目の前で無邪気にはしゃぐの頬をそっと片手で包みこむ
「・・・・周助?」
「ほら、写真撮るよ。」
「え、だって・・・」
「いいから」
「しゅっ・・・・・・・・」
片手に構えていたカメラはそのままで、もう片手でを引き寄せてキスをした
カシャ―――――
どこまでも続く桜並木を歩いていると、少し離れた所にある自動販売機を見つけたが口を開いた
「そこでジュース買ってくるね。周助は何飲む?」
「いいよ。僕が買ってくるからはここにいて?」
「うん、分かった。」
そう言って急いでジュースを買いに走った
僕の瞳に映る桜が、想像していた以上にに合っていて
普段のもすごく可愛いけど、今日は一段と僕の瞳を惹きつけてしまう
どうしてだろうね
キミは僕の心を捕らえて離さない
だけど、はとっても綺麗だから、他の男達も惹きつけてしまうんだって事・・・・・・気づいてる?
僕がちょっと目を離したスキにも、2人組の男に声をかけられていた
急いでのいる場所に戻る
「だから連れがいるって言ってるじゃないですか!」
「だって今はその連れいないじゃん、こっち来て一緒に話でもしない?」
「しませんっ!!」
今にもの肩に手を置きそうなのを見て、更に走る速度が増した
「ねぇ、僕の彼女に何やってるの?」
少し息を切らしながらも、を守るように前に立って彼らを睨んだ
「いや・・・・別に何でもないよな。」
「あ、あぁ。行くか。」
そう言いながら、足早にここを去って行った
彼らの姿が見えなくなった頃、小さな声が僕の後ろから聞こえてきた
「周助・・・・・」
僕の洋服の裾を小さく掴んで、僕を見上げる
小さく震えているのが分かって、頭を優しく撫でた
「大丈夫?」
「ごめんね。」
「別にが謝る必要はないよ。でも、今度から気をつけてね。」
「・・・うん。」
買ってきたジュースを渡して、座りながら桜を眺めていた
の表情も、さっきよりも落ち着いてきたみたい
「そういえば、今日家に寄ってく?」
元気づけようと僕がそう提案すれば、の表情は一気に明るく変わる
「え、いいの?」
「うん、が見たがってた写真できたから・・・・。」
「行く!」
歩いてきた桜並木を通り過ぎ、そのまま僕の家へ向かった
*
「お邪魔します・・・・」
「適当に座ってて。今、飲み物持ってくるから。」
いつもと変わらない周助の部屋
窓際には周助の趣味である、サボテンが顔を並べている
近寄ってサボテンを眺めると、一番手前に私があげたサボテンが置いてあった
バレンタインにチョコと一緒にあげた小さなサボテン
実は私もお揃いで部屋の窓際に置いて育ててるんだ
大事そうに置いてくれてると思うと、笑みがこぼれる
「少し大きくなったでしょ?がくれたやつ。」
後ろから声がして振り返ると、ティーセットが乗ったトレーを持った周助が立っていた
「うん。大事にしてくれてるみたいで嬉しい。」
「当たり前だよ。僕サボテン大好きだし。」
「・・・・それ、だけ?」
不安そうにそう呟くと、周助が笑って私のほしかった答えをくれた
「ふふっ。がくれたから・・・・・が一番大きいかな。」
「ありがと。」
つられて私も笑う
カップに注がれる紅茶から甘い香りが鼻をついた
「あ、今日はピーチティーだ。」
「うん。は紅茶好きだからね。その中でもピーチティーが大好きなんでしょ?
おかげで僕もいろんな紅茶の種類覚えたよ。」
「えへへっ」
大好きな紅茶を飲みながら、今見てきた桜並木を思い出す
「でも、今日の桜綺麗だったよね。また見に行きたいな。」
「うん。また一緒に行こうね。」
ティーカップを鼻に近づけて紅茶の匂いを楽しんでいると、確認するかのように周助が訊ねてきた
「は桜の花が一番好きって言ってたよね?」
「そうだよ。カスミソウや、コスモスも好きだけどね桜が一番好きなの。」
・・・・でも、どうして桜が一番好きなんだろう
四季の中で春が一番好きだから、なのかな?
春といえば桜というイメージが強いから
そして桜といえば卒業、とか入学と思うかもしれないけど・・・・
桜が咲いてるのを見ると、新しい季節が始まるという気持ちにさせてくれるの
「周助は桜の花言葉って知ってる?」
急に周助が桜の花言葉を知っているか聞きたくなった
でも、知らなかったみたいでティーカップを置きながら軽く首を傾げた
「ううん、知らないな。」
「桜の花言葉は精神美なんだって。」
「精神美?」
「そう。精神は『魂や心』のことで、美は『美しい』ってことなんだけど、美って字には他に『立派』って意味もあるんだよ。」
桜の生命力ってすごいと思う
暖かくなったな と思っている間には蕾が膨らんでそこからあっという間に花を咲かせ、一面をピンクに染める
満開になり、さぁぁ・・・っと散り始めたと思っていると、すでに緑の葉が芽生えている
毎年その繰り返し
桜が咲く時期なんてほんの数ヶ月もないけど、毎年繰り返され希望を繋ぐという意味では葉桜の時期も素敵だと思う
「桜が咲く時期は短いけど、例え短くても生きている間にたくさんの人達に愛されるのは素敵だよね。」
それはどんな花にもいえるけど、それでも桜の花が好き
「もし周助が桜だったら嬉しくない?」
「嬉しくないわけじゃないけど、僕はたくさんの人に愛されなくてもかまわない。
たった1人の人に愛してもらえればそれだけで十分だよ。」
そう言って私の方をじっと見つめてくる
優しい瞳で・・・・・
「誰のこと言ってるのか、分かってる?」
「・・・・・・・私?」
少し不安になりながらもそう答えると、私の大好きな笑顔を見せてくれた
「当たり前でしょ。の他に誰がいると思ってるの?」
僕はが桜の花が一番好きっていうの、分かるよ
人に好かれている所とか、心が純粋で綺麗な所とか、笑った顔が誰よりも輝いている所とか・・・・・・
上げていったらキリがないけど、僕には桜の花はにぴったりだと思う
だけどね、理由はそれだけじゃなくて――――
「ってピーチ好きだよね。」
僕の質問の主旨が分かっていなかったらしく、可愛い勘違いをしていた
「ピーチティー?うん、好きだよ。」
「それもあるけど、色のことだよ。」
僕が『色』と言って少し不思議そうな顔をした
確かに普通はピーチなんてあんまり使わないよね
「ピンク・・・・・じゃなくて?」
「ピーチ。」
今日だって桜色のワンピース着てるし・・・・
そう説明してもまだ納得できない顔をしていた
「・・・・・どう違うの?」
「ピーチの方がに合ってるよ。」
桜はピーチ色でしょ?
世間では桜の色はピンクって言うかもしれないけど
僕にとってはピーチなんだ
なんていったって、の好きな花なんだから
そしてに一番似合う色なんだから
「ピーチって桃のことでしょ?柔らかくて繊細で傷つきやすい。
それに・・・・・・」
の柔らかい唇を、そっと指でなぞる
そして微笑みながら桃色に可愛く色づいた頬に小さくキスをした
「とっても甘いしね。」
「しゅっ、周助!!」
顔を真っ赤にしているに1人笑みを零した
「だからこそ、僕が守ってあげなきゃって思うんだ。」
そう言ってを優しく抱きしめた
桜のようにふんわりと
部屋中にピーチの香りが漂う中、僕たちは何度もキスを繰り返した
『愛してる』なんて言葉じゃ言えないほど愛しているから・・・・・・・
これからも守らせて
僕だけにを・・・・・
今はの大好きなピーチティーだけど
いつの日か一緒に飲もうね
イングリッシュ・ブレックファストを―――――
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ラムさんの素敵企画「不二Color」!!に出展させてもらったものです。
「Peach」でやらせてください!と言った後で
ピーチ・・・・・どんな感じだろう?と悩みに悩んで
こんな感じに仕上がってしまいました。
「イングリッシュ・ブレックファスト」 文字の通り朝に飲む紅茶ですv
周助さんと飲みたい!!
2005年02月26日 茜