バレンタインまで後1週間

クラスの女の子達が休み時間や、授業中でさえも雑誌を広げている光景が目につくようになった

しかもみんな見ている所は『バレンタイン特集』

バレンタインにどんなチョコをあげようか――とか

恋人とどういうふうに過ごそうか――とかを今から考えている


私もその1人だったりするんだけどね















  
あなたでなくてはいけない理由
















はバレンタインどうするの?」

「どうしようかな〜。は?」

「私は買うけど、も買うんでしょ?一緒に買いに行こうよ。」

「買うのもいいと思うんだけどさ、今年は手作りをあげて・・・・・・」

手作りをあげてみようかなと思ってるんだけど、どう思う? と、言い終わる前にが大声で止めた

「あんたが・・・・・・お菓子を作るの!?」

何か意味ありげな言い方に、少しムッとする

「・・・・何で?私がお菓子を作っちゃいけないの?」

「だって、あんた調理実習でさえもまともに作ったことないでしょ?」

確信ついたことを言われて、私は何も言えなくなってしまった



確かに私は少し料理が下手だったりする

中学で一番初めにやった調理実習の内容は、玉子焼きを作ることだったんだけど見事に焦がしちゃったし

卵も割ると絶対に殻が入ってたりするし、この前は砂糖と塩を間違えたこともあったし・・・・

これ以上言ってると悲しくなってくるから言わないけど・・・・・・

これでも一生懸命やってるんだよ

「そんなこと言ったって・・・・・・・」

「悪いことは言わないから買った方がいいと思うよ。」

多分の言い分は正しいと思う

1年の時から同じクラスで一番仲のいい友達だから、ちゃんと言ってくれるのも嬉しいんだけど

でもね、作りたいんだ

そういう人に巡り逢えたから、今年はちゃんと・・・・・・・





。」

と話している後ろで私を呼ぶ声がした

「周助!!」

「何の話してたの?」

私が周助の質問に答えようとした横から、が先に喋りだした

「あのね、不二君。ったら・・・・・」

「あーっ!!」

慌てての口を塞いだ

絶対お菓子作るってことを言うに決まってる

うまく出来るまで秘密にしてるんだから

「何でもないよ、周助。それより何か用?」

ニコっと笑ってごまかしたけど、周助は首を傾げたまま私とのやりとりを不思議がっていた

でも、すぐにいつもの笑顔に戻った

うまくごまかせた・・・・・かな?

「うん、今日部活がなくなったから一緒に帰ろうかなと思って。」

よかった、あんまり気にしていないみたい

「本当に?部活ないなんて久しぶりだね。」

「竜崎先生が出張でいないんだ。だから部員達の休養も兼ねて今日は休みにするって。」

「嬉しい。じゃあ一緒に帰ろう。」


周助が自分の席に戻ったのを見計らって、私の前の席のが再び話かけてきた

「何で不二君に言わないのよ。」

「だって出来るまで秘密にしていたいもん。」

「・・・・そう?まぁ、がんばって。いつでもチョコ買いに行くのは付き合うから♪」

「ひどーい!!」

それって私が絶対に失敗すると思ってるってことだよね・・・・・

拗ねる私を見て、笑いを堪えてる

の奴〜っ 絶対に私の反応を見て楽しんでるよ・・・

「嘘だよ、がんばれ。不二君、喜んでくれるといいね。」

「うん・・・・・。」











 帰り道


毎日周助と一緒に帰ってるけど、周助が所属しているテニス部は毎日のように放課後も練習があるから、帰りはもっと遅くなる

だからこんなに早く帰るのは本当に久々

ふと辺りを見渡すと、2月特有の街並が続いていた

ここらへんはお店が並んでいて、そこのほとんどの店から赤やピンクといった、いわゆる『バレンタイン』を強調したものが飾ってあって、それが私を焦らせる

あと、1週間しかないんだよね・・・・・・


周りのお店をキョロキョロと見回してる隣で、周助が声をかけてきた

「ちょっと本屋寄っていいかな?」

「うん、いいよ。」

そう言うと、目の前の本屋に足を踏み入れる

周助は参考書が置いてあるコーナーへと向かった

一方、私は入り口にあった『バレンタイン特集』というコーナーが目に止まり、思わず足が止まってしまった

そして周助に気づかれないように、そこにあったたくさんの本の中から1冊を手にとった

パラパラとめくると、たくさんの可愛いお菓子の作り方が載っていた

それを見る度に『作りたい』という気持ちと『本当に出来るのかな』という不安が増してくる

難しいのかなぁ・・・・・

お菓子作りなんてまったく未知の世界

そんな私にもできるやつ・・・・・・

と、更に後ろまで見ていると『初心者でもできる簡単なチョコレートケーキの作り方』を見つけた

読み進めてみると、結構簡単そうで私でも何とかできるかも・・・・と思えた

今なら周助は参考書コーナーにいるし・・・・・買っちゃおうかな

途中で周助が来てもばれないように、もう1冊、普通の雑誌と一緒に本も買った


それからしばらくして、周助が私の所へ向かってきた

手には買ったばかりの参考書が包まれている袋を抱えて

そして私の手にも本屋の袋を抱えていたのを見て、私に聞いてきた

「あれ、も何か買ったの?」

「う、うん。ほしい雑誌があったから・・・・・」

「そうなんだ。僕も探していた参考書見つかって買っちゃったよ。」

「よかったね、見つかって。」

「うん。」


手を繋ぎながら、いつも家まで送ってくれる周助

「いつもありがとう。」

「どういたしまして。じゃあ、また明日ね。」

くるっと背中を向けて自分の家に向かって歩き出す周助の後姿を、ずっと見つめていた

さっき買った本を抱えながら・・・・・・

この時は、本を見てがんばればできると思っていたから、作るのが楽しみで仕方なかった



でも、読むのと実際に作ってみるのとでは全然違うわけで・・・・・・















「どうして!?どうしてできないの??」


次の日


家でフライパンを片手にキッチンで叫んでいた

昨日買った雑誌を見て、早速作ってみようと思って、今日は学校から帰ってからずっとキッチンに立っている

お姉ちゃんにそれを言ったら

『本気でやるなら止めはしないけど、いきなりチョコケーキなんて作ろうとしないで、初めはもっと簡単なものをやってみたら?』と言われた

お姉ちゃんの言われた通りに、とりあえずパンケーキでも焼いてみようと思ったんだけど・・・・・・

どうして?どうして本の通りに作ってもうまくできないの?

真っ黒に焦げたパンケーキを見ながら泣きそうになった

パンケーキすらまともに焼けない

「あ〜あ・・・どうやったらこんなのが作れるのか聞きたいよ。」

いつの間にか帰ってきていたお姉ちゃんがキッチンへ来て、私の作ったパンケーキを見て呆れていた

そんなの私も聞きたいよ・・・・・・

やっぱり私がチョコケーキを作るなんて無理なのかなぁ・・・・・

ううん!!時間はまだあるもん


周助だって私が不器用っていうのは知ってる

だからバレンタインも絶対に手作りなんてくれるはずないと思ってると思うんだ

絶対周助を驚かせてみせるんだから!!
















 *



今日は周助が部活終わるまでずっと待っていて、一緒に帰ってきた

時間は6時といえども今は冬なわけで、もう辺りは真っ暗

あれから何度か挑戦してみて、パンケーキは何とか焼けるようになったから、今はチョコケーキを練習している

今日は何から練習しようか と頭の中で悩んでいると、横にいた周助が呟くように声をあげた

「手・・・・・どうしたの?」

「えっ・・・?」

そう言われて自分の手を見た

指にはお姉ちゃんが貼ってくれた絆創膏が目立っていた

毎日のようにチョコを刻んだりしてて、包丁で少し指を切っちゃったりしていたんだよね

チョコケーキの方が、思ったより上達しないんだ・・・・

でもそんなことを周助に話す訳にはいかず、慌てて手を後ろに隠しながらごまかす

「何でもない!!気にしないで。」

「そんなこと言われても気にしちゃうよ。」

「大丈夫だから・・・・」

心配しないで と言う私の声を無視して、後ろに隠した手をそっと周助に掴まれた

私の手を優しく包んでくれる周助の手から伝わる温もりが、傷を癒してくれる

、何をしてるのか知らないけど無理しないでよ。だけの身体じゃないんだから・・・・・。」

私だけの身体じゃないって・・・・・・

そんなことを平然と言われても!!

周助の言葉に、急激に顔が赤らんでいくのを感じた

そんな私の様子を楽しむかのように、周助は笑う

「クスッ、どうしたの?」

「だって周助が変なこと言うからっ!」

「それだけのことを心配してるの。分かってる?」

「う、うん・・・・・気をつけるから。」


これ以上、周助に心配かけないように今まで以上に気をつけながら次の日から練習を始めたけど、やっぱりうまくいかない

もう、こうなったらしょうがない・・・・・・・








タイミングを見計らって、リビングでくつろいでいるお姉ちゃんに声をかけた

「お姉ちゃん、明日って暇?」

「どうして?」

「学校終わったらすぐ帰ってくるからさ、その・・・・・お菓子作るの教えてくれない?」

「夕方までなら時間あるからいいわよ。」

「本当?彼氏さんはいいの?」

「明日は夜に会うことになってるから。」


もうバレンタインの前日だし断られるかと思ったけど、あっさりOKしてくれた

本当は今日作って明日学校に持っていってもよかったんだけど、出来たての方がいいよね

と思って、当日に作ることにした

明日学校休みならよかったのに・・・・・

でも、お姉ちゃんが教えてくれるなら、何とかできるかも

今まで誰にも教えてもらうこともなく、1人でやってきた

本当は誰にも聞かずに1人で全部やりたかったけど・・・・・















 2月14日 バレンタインデー当日



今日は朝から女の子達がそわそわしていた

私もある意味、朝からそわそわしていた

早く周助のためにチョコレート作りたい――

学校にいる間中、それしか頭になかった

っ」

今日は一緒に帰れない と朝言っておいたから、学校が終わって速攻で家に帰ろうとしていたら、周助に呼び止められた

急いでいて、周助の話を聞く前に自分から話を切り出していた

「周助、後で逢える?」

「え?大丈夫だけど・・・・・・」

「ありがとう。待っててね」

それだけ言うと、周助の言葉を待たずに家へと急いだ




急いで家に戻ってきた私が見たのは、今にも出掛けようとしているお姉ちゃんの姿だった

「お姉ちゃん!今日ケーキの作り方教えてくれるって言ってたじゃん!!」

「ごめん、だって彼氏が明日仕事が早いっていうから今日は早めに会うことになっちゃったのよ。」

それもついさっき決まったらしく、何の準備もしてなかったお姉ちゃんは急いで化粧をしていた

「えぇ〜、何時頃帰ってくるの?」

「なるべく早く帰るから!ごめんね。」

そう言うと、慌てて家を出ていった

両親は金曜日から連休のため2人で旅行に行ってしまっていて、今日の夜にならないと帰ってこない

そして唯一の頼りであったお姉ちゃんは・・・・・出掛けてしまった

なるべく早く帰るって言ってたけど、あてにしない方がいいな・・・・

思わずため息をもらす

だけどキッチンにはちゃんと材料が揃えられていて、すぐ作れるようにしてくれていた

しょうがない こうなったらもう一度自分で挑戦してやる!!

制服から着替えて、買った本を広げてチョコレートを刻み始めた
















 ピーンポーン―――


それからしばらくして、家のチャイムが鳴る音が聞こえた

もう〜今忙しいのに・・・誰?

居留守使おうかな

でも宅配便とかだと困るし・・・・・

「あぁっ!!」

玄関に行こうとしたら、刻まれたチョコが入ったボールが手に当たって落としてしまった

辺りには散乱したチョコレートと共に、落ちた時の金属音が鳴り響いた

サイアク・・・・・・・

また最初からやり直しかぁ

どうしてこんなに不器用なんだろう

自分自身に呆れてその場に座りこんでしまった





その時、思ってもみなかった声が後ろから聞こえてきた

!?どうしたの?」

「しゅう・・・・すけ?」

あれ?どうしてここにいるの?

幻・・・・・じゃないよね

のお姉さんにそこで逢って鍵を貸してくれたんだよ。何かやらかすかもしれないから様子を見に行ってくれって。

 そしたら大きな音が聞こえてきたから・・・・」

お姉ちゃん・・・・・・

「・・・・・・でも、どうして周助はうちに来たの?」

「だって、さっき『後で逢える?』って聞いたまま帰っちゃうから、どうしたのかな って。」

そう言われて、さっきの周助とのやりとりを思い出す

そういえば『周助に後で逢える?』ってことだけを聞いて、そのまま帰ってきちゃったんだ

「チョコ・・・・・作ろうとしてたの?」

キッチンの光景を見回して、私の手をとって立たせてくれた

もう、隠せないよね・・・・・・

「う・・・・ん。秘密にしておきたかったのにな・・・・・。

 しかも落としちゃったし・・・・・。」

ごめんね、周助・・・・・やっぱ私には無理だったよ

一生懸命がんばったんだけどな・・・・・

泣いてもしょうがないことは分かってるけど、悔しさで涙が溢れてくる

俯く私の肩に手を置いてから、周助は傍にあった『チョコケーキの作り方』が書いてある本を見て、ある提案をした

「もう1回作ればいいじゃない。僕も手伝ってあげるから。」

「・・・・本当?」

「うん。だから泣かないで、可愛い顔が台無しだよ。」

「し、周助!!」

「本当のことじゃない。」

ニコニコと笑う周助に口を尖らせる

「・・・・周助も手伝ってくれるの?」

「もちろん。」

「ありがとう。もう1回がんばってみる。」









それから周助にも手伝ってもらって、何とか型に生地を流し込んでオーブンへと入れる所まできた


「・・・・できた。」

それから数十分

オーブンから取り出したチョコケーキは、ちょっと形がいびつだけど、あんまり焦がさずに焼けていた

「出来たね。おいしそうじゃない。」

「本当?」

「うん。だってが作ったんだから。おいしくないわけがないよ。」

「周助、ありがとうね。手伝ってもらって・・・・・。」

ほとんど周助に作らせちゃったようなものだけど・・・・・・

「どういたしまして。・・・・・それで?これは誰に作ったの?」

「もちろん周助にだよ。あの・・・・・受け取ってくれる?」

「ありがとう。じゃあ早速いただこうかな。」

「うん、食べてみて・・・・・。」


出来たてのケーキをそのままお皿に移して、紅茶と一緒に周助の前に差し出した

差し出す前に、もう一度作ったケーキを見て、肩を落とした

ちゃんと型に入れて焼いたのに・・・・・・・

「ハート型にしたのに、形がくずれちゃったし・・・・もっと練習しなきゃね。」

「ちゃんとした形もいいけど、少しくずれた方が手作りって感じがしていいじゃない。」

そう言って、フォークを口に運んだ

まずかったらどうしよう・・・・・

砂糖と塩だって間違えてないし、分量も自分でも量ったし周助にも見てもらったし、大丈夫だと思うんだけど・・・・・・・

次に出てくる周助の言葉がすごく不安で、食べてから喋るまでの時間がすごく長く感じた

「今まで食べたチョコケーキの中でこれが一番おいしい。」

「ほん・・・と?」

「本当だよ。」

「ありがとう、そう言ってくれて。ほとんど周助に作らせちゃったようなものだけど、ちゃんと私の愛はたくさんつまってるから・・・・・。」

やっぱりケーキ、作ってよかったな

1人で作るのもいいけど、好きな人と一緒に何かをするってとっても楽しい

「・・・・これだけなの?」

何とか気持ちを伝えたくて照れながらそう言うと、周助が突然変なことを言い出した

意味が分からなくて思わず首を傾げる

「・・・えっ?」

「僕への愛ってこれだけ?」

「なに、言ってるの?」

「僕はもっとほしいな。このチョコよりも、もっともっと甘いの愛が・・・・・。」

「しゅっ・・・・・・・」


それ以上、言葉を発することは出来なかった

急に周助の顔が近づいてきたかと思ったら、次の瞬間には唇を塞がれていた

突然のことにびっくりしたけど、そこから周助の熱が伝わってくる


周助と一緒にいる時間が大好き

周助と触れ合ってる瞬間が大好き


周助の大きな手が私を優しく包みこんでくれて、私も背中に手を回した

そしてしばらくしてゆっくりと、唇が離れた

周助の綺麗な瞳が私を映し出してくれている

その瞳に吸い込まれそうになりながらも見つめていると、優しく甘い声で囁いた

の愛、僕にもっとくれる・・・・・?」

「もちろん。」

そう言ってどちらからともなく、また甘いキスを繰り返した




ねぇ、周助は知ってる?

いつだって私の心は周助でいっぱいなんだからね・・・・・・・













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バレンタイン企画、第2弾は周助さんですvv

いくら恋人同士だからって、家の鍵を渡すお姉さん(汗)

そして不器用なヒロインちゃんv

私も周助さんと一緒にお菓子作りしたいっ!!


 2月4日   茜

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