あなたと私の未来予想図 <後編>
あれから2週間が過ぎた
あの日から不二君は1回も家に来ていない
もしかしたら私がいない時に来てるのかな
そう思って、お母さんに聞いても『来てないよ』と毎回同じ答え
学校でも話しかけづらいし・・・・・
さすがに本人に直接『どうして来ないの?』と、聞けるほど仲がいいわけでもないから言えない
もう、来ないのかな・・・・・
でももう来ないつもりなら、わざわざ私にサボテンのこと教えてあげる って言わないよね
来るよね、きっと
前までは週2日の部活じゃ足りないと思っていたけど、今は複雑な気持ち
――学校以外で不二君に会える――
この事が、いつも嫌だった家のお手伝いをやる気にさせる
本当は毎日でも手伝いたいんだけど、部活もあるし・・・・・
だから部活のない日はなるべく手伝うことにした
でも毎日のように手伝っていたって、不二君がいつ来るかなんて分からない
一応部活がない日にはなるべく手伝ってるって不二君には言ったんだけど・・・
私が不二君に今度はいつ来るのかを聞けばよかったかな
「お母さん、今日も手伝うね。」
あれから暇があれば手伝うようになった私に、お母さんは毎回目を丸くして驚いていた
前まではお母さんに『手伝って』と言われても文句ばっかり言ってたから、当然といえば当然だろうけどね
「どうして急に毎日のように手伝ってくれる気になったの? ・・・・・まさか何か欲しい物があるの?」
「違うよ!!」
「まぁ、いいけど・・・。じゃあよろしくね〜。」
最近、私が毎日のように『手伝う』と言い出したので、お母さんも私に手伝いさせてる時に、どこかに遊びに行くようになった
今まで遊びに行くために娘に手伝いさせてたの〜!?
そう思ってはみるものの、やっぱり不二君に会えるという嬉しさの方が勝ってしまう
今は物をくれるよりも
不二君に会えることの方が私にとっては何倍も大事なことなの
会いたい・・・・・・
今日は、来てくれますか?
「こんにちは。」
この声・・・・・
間違えるはずない ずっと待っていたから・・・・・
声に反応して振り向くと、いつものようにニコニコ微笑みながら立っていた
「不二君、いらっしゃい。」
来てくれた
たとえ不二君の目的がサボテンを買うためだとしても・・・・・
その嬉しい気持ちを抑えて、なるべく平然を装った
「最近、来なかったんだね。」
「ごめんね。練習試合が近くて、手塚に毎日練習入れられてね・・・・・・・。」
「そうだったんだ、大変だね。」
私が部活の時は、いつも部室から見えるテニスコートを眺めている
窓越しに眺める不二君は、私にはとても遠いから・・・・・
今度買いに来てくれる時は、私が接客したい
でも、いつ不二君が家に来るかなんて分からないから、部活ない日はいつも早く帰っていた
だからテニス部が毎日練習してるなんて知らなくて・・・・・・
来てくれてよかった
「でも、本当にここはサボテンの種類が豊富だよね。」
サボテンを見回して、嬉しそうにニコニコ笑う
「そう、だね。」
「今日はさんにサボテンについて教えてあげる。」
「えっ・・・・」
「約束したでしょ?」
「うん、ありがとう。」
不二君から『約束』という言葉が出てきて、びっくりした
何日に来るからっていう待ち合わせをしているわけでもないし、いつ来るのかもあやふやだった
その中でも私は勝手に約束だと思い込んでいた
だから、不二君から『約束』って言葉が出てくるとは思わなかった
ニコッと笑ってそう言うなり、手前にあったサボテンを手にとって説明してくれた
「これはねシャコバサボテンっていうんだ。クリスマス前後に花を咲かせるから、クリスマス・カクタスとも呼ばれてるんだ。」
淡紅色に染まった花がついたサボテン
まだ開花時期なのか、この辺りには淡紅色の他にもピンクや白の可愛らしい花をつけた同じようなサボテンが目立つ
うちには一応いろいろなサボテンが置いてある
だけど、いちいち名前を書くのが大変なのか『サボテン』とひとまとめにしているから、名前なんて知らなかった
「そんな名前なんだ・・・でもよく見るよね、このサボテン。」
ほら、そこにも・・・・ と指さすと、すかさず不二君が否定した
「ううん、あれはシャコバサボテンに似てるだけで別の名前があるんだよ。」
と、今度はそれを手にとって説明してくれる
「これはねカニバサボテンって言うんだ。」
「かに・・・・?」
「シャコバサボテンは葉がギザギザしてるでしょ。でもカニバサボテンは丸みがあるんだ。それの違いだよ。」
そう言われて見比べてみると、葉の形が微妙に違っている
「サボテンにもいろいろあるんだねー。」
「うん。それからこれは・・・・・・」
それからも時間を忘れて、私は不二君の話を聞いていた
不二君の声が私の耳に聞こえてくるたびに、胸の鼓動が高鳴る
このまま時間が止まっちゃえばいいのに――――
「そろそろ帰らないと、営業妨害しちゃうかな?」
「そんなっ・・・・・・・」
そんなことない!と言いたかったけど、一応手伝いをしているわけで、不二君とばかりお話していられない
まだ帰らないで という気持ちを必死で心に押し込めた
不二君に迷惑かけちゃ悪いもんね
「今日はわざわざありがとう。部活も忙しいのに。」
「いいよ、僕もサボテン好きだし。じゃあまたね。」
またね―――
この一言がいつまでも頭に残っていた
また、来てくれるんだ
それからも、何回か不二君が遊びにきてくれてサボテンについていろいろ教わった
気をつかってくれているのか、そんなに長い時間は話してくれないけど、その分いろいろなことを教えてくれた
その時間が今の私にとっては至福と時間
不二君って全部の種類の名前覚えてるのかな?
それならこのサボテンの名前も知ってるかも
黄緑色の柔らかい葉に白いうぶ毛がフワフワ生えていて、前から可愛いと思っていたんだ
だけど、名前なんて知ってるはずもなくて・・・・・
「不二君、このサボテンの名前って知ってる?」
「これはヒントニーっていうサボテンだよ。」
『ヒントニー』
原産地はメキシコで、大きさは5cmくらい
セダムっていう種類のなかの1つらしい
「ちゃんはこういうのが好きなの?」
「うん、何か可愛くない?」
ほら とサボテンを差し出そうとすると、私と不二君の距離がすごく近いことに今頃気づいて、急に恥ずかしくなった
どうしてこんなに近くにいて、今まで平気だったんだろう
心臓がバクバク言ってるよ・・・・・
不二君がそんな私の気持ちを知るはずもなく、普通に接してくる
「うん、可愛いよね。」
動揺してるのを気づかれたくなくて、とっさに辺りを見渡して、まだ名前を聞いた事のないサボテンを探した
「じゃあ、これは・・・・・・・・つっ」
名前を聞こうとしたサボテンを取ろうと手を伸ばしたら、手前のサボテンの棘が指に当たって思わず声を漏らした
「さん!?」
「あ、ちょっと棘に当たって・・・・」
「大丈夫?血が出てきた。」
「平気、これくらいなら・・・・・・」
怪我したのが恥ずかしくて手を後ろに隠そうとすると、ぐいっ と手を引っ張られた
「ちょっ・・・・・・え・・・・不二君!?」
怪我している手を引っ張られて何かと思った次の瞬間、不二君の唇に私の指が触れていた
それをなんのためらいもなくする不二君に、戸惑いを隠せなかった
鼓動が一気に高鳴って、言葉が出ない
どうして私にこんなことするの?
不二君にとってはとっさにした行動だろうけど、私には心臓に悪い・・・・・・
それからどれくらいの時間が経ったのかさえ分からない
痛みさえも今は感じない
ただ分かるのは、指先から伝わる不二君の温もりだけ
「はい、一応血は止まったけど消毒しておいた方がいいよ。」
「・・・・・・・・」
「さん?」
「え、あ・・・・ありがとう。」
私の鼓動・・・・伝わってないよね、大丈夫だよね?
まだ指先が、不二君の唇が触れた所が熱い
家で絆創膏を貼ってまたお店へ出て行くと、不二君が心配そうな顔をしていた
不二君の顔を見て、さっきの出来事が脳裏によみがえってきて、また顔が赤くなるのがわかる
「傷、平気?」
「うん、もう大丈夫!」
私の言葉を聞いて安心したのか、いつもの優しい笑顔に戻った
「どぉ?サボテン好きになった?」
「不二君のおかげでサボテン大好きになったよ。」
同時に諦めかけていた恋も・・・・・・・・
伝えたくても伝えられない
接点なんてほとんどなかったから諦めていた
最初は遠くから眺めているだけでよかった
けど、たくさん不二君と話す機会が増えて、新しい不二君の一面を知るたびに、このときめきは加速を増していくの
今はまだ決心がつかないけど
いつかこの想い、言えるときがくると信じてるから・・・・・
次の日
「おはよー。」
「、おはよ。」
教室へ入ると、私を待っていたかのようにが近寄ってきた
「ね、不二君ってサボテンが好きなんだって。知ってた?」
「・・・・え?どうしてそれ・・・・・・」
「だって、あれ。」
あれ と指さした方向は不二君の席の方角
思わずと同じ方向を見る
そして女子たちの声が聞こえてきた
「不二君ってサボテン好きなの?」
「うん、好きだよ。」
みんな不二君の趣味を知らなかったのか、好意を寄せている女の子達が不二君の机の周りを囲った
そして不二君の机の脇には、小さなサボテン
どうして不二君はサボテンを持ってきたの?
私だけの特権だと思っていたのに
不二君の趣味が他の人にも知られただけで、こんなに落ち込むのも大げさかもしれないけど・・・
放課後のあの時間だけが、私と不二君を繋ぐ唯一のものだったのに
何か、それさえもなくなった感じ
サボテンについて教えてくれると言ってくれたこと
指を怪我した私をとっさの事だったとはいえ、手当てしてくれたこと
あの行動に深い意味なんてないことくらい、私が一番よく知っていたはずなのにね
不二君は気づいていないよね
あなたの一言で、私は一瞬で舞い上がったり落ち込んだりしてしまうの
それだけ不二君が好きになったから
私はいつまでこんな気持ちを抱えていくんだろう・・・・・
放課後
今日は珍しく不二君と一言も会話することなく1日が終わろうとしている
掃除の後に先生に呼ばれて、思ったより話が長引いて教室へ鞄を取りにきた時には、もう誰もいなかった
彼以外には、誰も―――
「・・・・不二君。」
「さん、待ってたんだ。」
ほら・・・・不二君の一言で鼓動が早まった
でも、どうして私を?
「これ、僕が育ててたサボテンなんだけど・・・・ちゃん育ててみない?」
「私が!?」
そう言われて差し出されたのは、朝に見たサボテン
今・・・・ちゃんって言ったよね・・・・・名前、呼ばれた
でも今はそれよりも、どうして急に私にサボテンを・・・・
まさか今日サボテンを持ってきたのは、私に渡すため・・・・・?
「本当は誰にも知られずに渡したかったんだけど、英二に見つかっちゃってね。教室で騒ぐからみんなにもバレちゃって。」
「どうして?不二君が大切に育てているんでしょ?」
「だからだよ。だからちゃんに育ててほしいんだ。」
「でも・・・・・・」
せっかく今まで不二君が大切に育ててきたのに、私なんかが・・・・・
と、戸惑っている私に少し悩んで条件をつけてきた
「じゃあ、この花が咲くまで っていうのは?」
「サボテンの花が咲く・・・・まで?」
「このサボテンの名前分かる?」
そう言われてサボテンを覗き込んだ
葉がギザギザしてないから・・・・・
「えっと、カニバサボテンだよね。」
「そう。これはシャコバサボテンと似てるけど、開花時期が微妙に違うんだ って前に説明したよね」
それは聞いたけど、開花時期について教えてくれたのはシャコバサボテンだけで、カニバサボテンの開花時期は教えてくれなかった気がする
それを思い出して、ちょっと躊躇いがちに聞いた
「それは聞いたけど・・・・これは、いつ咲くの?」
「カニバサボテンは2月〜3月がだいたい開花時期にあたるんだ。」
「2月〜3月・・・・・」
「初めてサボテンを育てるにはいいんじゃない?」
花が咲くまで、だいたい1、2ヶ月くらい
確かに初めて育てるにはいい期間かもしれない
けど・・・・・・・・・
「本当に・・・・いいの?」
そう聞くとニコっと笑って、持っていたサボテンを差し出してくれた
「うん、ちゃんに育ててほしいんだ。」
「ありがとう。」
小さいサボテンをそっと受け取ると、微かに不二君の体温が伝わってきた
「でも、どうして私に・・・・?」
私の家は花屋なんだから、育てようと思えばお母さんに言って1つくらいサボテンくれるはずだし
それは不二君も分かっているとは思うけど
「どうしてだと思う?」
「う〜ん・・・・サボテンが好きになった、記念?」
「クスッ。可愛い解釈だね。」
「えっ・・・・・。」
違うの?思わず首を傾げる
「それもあるけど、それだけならわざわざ大事に育ててきたサボテンを渡すわけないでしょ?」
「う・・・・ん。」
「大切に育ててきたサボテンをちゃんに渡したのは、僕と同じ時間を過ごしてほしかったから、かな?」
いつもと同じなんだけど、ほんの少し照れたような表情を見せる不二君
「どう、いうこと?」
「僕が今まで大切にしてきたものを、ちゃんにも知ってほしかったから。
ちゃんが好きだから・・・僕の事を知ってもらいたかったんだ。」
今、好きって言ったの?私を?本当に・・・・・?
「不二君・・・・・。」
「ちゃんは僕のこと、嫌い?・・・・迷惑、だったかな。」
少し困ったような顔をして言う不二君に慌てる
まさか不二君が私のこと好きだなんて言ってくれると思ってなかった・・・・・
嬉しさよりも今は驚きの方がはるかに強い
だけどちゃんと言わなきゃ伝わらないから
「迷惑なわけない! だって私・・・・・・」
思うことはできるくせに、その想いを伝えるのは難しい
その後がどうしても言えなくて口ごもっていると、不二君がクスッと笑って、私の持っていたサボテンを机の上に置いた
「言ってくれなきゃ分からないよ?」
本当は言わなくても分かってると思う けど、不二君は私からの言葉を待っている
今なら言える
ずっと心の奥に閉まってきた言葉
たった一言だけど、私の気持ちがたくさん詰まった大切な言葉
「好き・・・・・不二君が、好きです。」
顔を真っ赤にして言う私を笑いながら、優しく抱きしめてくれた
サボテン、大切に育てるから 綺麗な花を咲かせるから
だから待っててね
不二君に預かったサボテンの花が咲くのは、もう少し先の話―――――
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後編、upさせていただきました☆
どうでしたでしょうか??久しぶりの周助さんドリーム!!
途中書いていて恥ずかしかったです・・・・・。
言わなくてもどこだか分かると思いますが(笑)
ありえないですかね?すいません(泣)
そしてサボテンの話が多くてすいません・・・。
2005. 1.25 茜