雪 〜snow〜
木にくっついている数枚の枯葉が寂しく 冬の冷たい風を受けてヒラヒラと落ちてくる
そんなのを見つめながら もう今年も終わりだなぁ としみじみ思う
「寒〜い!!」
凍りそうな手をなんとか動かしながら 大量の洗濯物を干していく
12月20日から始まった 冬の選抜の為の強化合宿も 明日で最終日
「どうしてこんな日に合宿なんてやってるのよぉ〜!!」
そして私の隣で叫んでいるのが同じクラスの
私達は青学男子テニス部のマネージャーをやっている
「しょうがないよ。 選抜の為の合宿なんだから・・・・。」
私は諦めなよ となだめるが の怒りは納まる様子がない
「っ! 今日が何の日だか知ってるの?」
「・・・・クリスマスイブ。」
それくらい知ってるよ
だけど叫んだ所で状況が変わるわけじゃない
「そ〜よっ!!今日は一年に一度のクリスマスイブよっ。
しかも今年は雪が降るって今日天気予報で言ってたのに・・・。」
そう 東京では滅多に降らない雪が 今年は今日、クリスマスイブに降るっていうもんだからは朝から浮かれっぱなし
そうかと思ったら、今度は怒ってるし
「いいじゃん、この合宿中 ずっと愛しの英二と一緒にいられたんだし。
明日合宿終わってから2人で祝えば。」
「明日でもいいけど、やっぱ雪の降る中2人きりってシチュエーションとしては最高じゃない?
一緒にいるって言ったって向こうはテニスする為に来てるんだから2人きりなんてほとんどなれないよ・・・。」
今日は一段と浮き沈みの激しいを どうにか慰めようとタオルを干していた手を止めて、の方に近づく
「だって寂しくないの? 不二君とクリスマス過ごせなくて。」
は、私と同じクラスの英二と付き合っている
そして私は、と同じクラスの周助と付き合っている
「周助だってテニスする為に来てるんだし、毎日顔見れるから。・・・・・・だから寂しくないよ。」
後者は・・・・・・嘘
本音を言えば 私だって周助と一緒に過ごしたい
付き合って初めてのクリスマス
だけどしょうがない
強豪といわれてる青学のテニス部に所属してるんだから
合宿所で一緒に過ごせるから それだけでも良しとしなきゃ
*
「お疲れ様。ハイ、ドリンク。」
休憩時間は と分担してみんなの所にドリンクとタオルを配りに走り、いつも最後にドリンクを渡す周助と 一緒に二人で過ごせる
ほんの20分足らずだけど 私にとっては至福の時間
「ありがとう。」
木陰に座り込んでいた周助が、私を隣に座るように促した
周助に言われたように隣に座り、また持っていたドリンクを差し出す
手を伸ばしてドリンクを受け取ってくれるはずが、私の手ごと周助の手に包み込まれた
「えっ・・・・。 どうしたの?」
「こんなに冷たくなって。」
そう言いながら優しく両手で私の手を包む
「大丈夫だよ。 これが仕事なんだから・・・・。」
なんて言ってみても 嬉しい反面、少し恥ずかしい
普段こんなことしないのに・・・・
触れている部分から周助の体温が伝わってきて 熱くなってくる
「・・・・もう大丈夫だから。」
恥ずかしさで火照った顔を見られたくなくて 少し目を逸らしながらゆっくりと包み込まれていた手を解く
「そう?」
名残惜しそうに私の手を離し、私の顔を見てクスっと笑った
「今日・・・・」
休憩終了の直前に 突然周助が思いつめたように言ってきた
「今日夜、会えないかな?」
正直言って周助からそんなこと言われると思ってなかった
合宿に来てからは、朝から夕方までずっとテニスをやっていて、疲れてると思い わざわざ私からは会わないようにしてたのに
「でも・・・・・」
「プライベートでも、会えなくて寂しいのはだけじゃないんだよ?」
周助も会いたかったの?
そう思ってたのは私だけじゃなかったんだ
「すっごく嬉しい!!」
私は二つ折りで返事した
私こそ周助に気を使わせていたのかな・・・・?
夜にも会えるのは嬉しいけど、周助から誘ってくれたことが一番嬉しかった
なのに――――
「どうしてぇ? どうして今日に限って夜にミーティングなんて入れるの? 手塚君の馬鹿〜っ!」
夜
1人になった部屋で叫んでみるが、当然返事なんて返ってこない
今回の選抜は レギュラーメンバーを2班に分けて それぞれチームとして行動している
手塚君率いる班には 周助も入っている
一方、大石班の英二は今日はミーティングも入ってないらしい
同室のは、英二と会えて満足気になって帰ってきて早々、これから周助に会えると浮かれてる私に告げた
「今から手塚君の班 ミーティングするみたいよ。」
かわいそうに・・・・・と言って 言葉とは裏腹にルンルン気分のは、お風呂に入っていった
手塚ぁ〜っ!!
今日が何の日か知ってるの?
クリスマスイブだよっ!?
私達女の子にとっては 1年に1度の大切なイベント
ずっと一緒にいたい なんて贅沢言わないから
せめて夜くらいプライベートで会わせてくれったっていいじゃないっ!!
と本人の前で叫んでみたい・・・・・
それと同時に手塚君の睨んだような怖い顔を思い出し、私の怒りは一気に冷める
はぁ〜っ
ベッドに寝っころがってため息をついていた私の視界に 分厚い部誌が飛び込んできた
「はい。今日はの番でしょ?」
お風呂を出たが、タオルを肩からかけながら私に部誌を渡す
やる気なんてないよぉ
起こしかけた上半身を またベッドへと戻す
「えぇ〜っ!! 今日はマジでやる気ない・・・。」
「不二君に会えなかったの気持ちは分かるけど、これだって仕事なんだから・・・・。」
「・・・・うん。分かってる。後でやるから机に置いといて。」
「はいよ。」
そんな会話をしてるうちに いつの間にか眠ってしまっていた ―――
「・・・・ん。」
ふと 目覚めてベッドから抜けた
二段ベッドの上では が寝息を立てていた
私、寝ちゃってたんだ・・・・・・
時計を見ると もうすぐ12時になる所
結局周助に会えなかったな・・・・ もう寝ちゃったよね
やっぱり合宿中に一緒にいられる時間なんてないのかな・・・・
あ、そういえば部誌書かなきゃ・・・・
思い出したように 机に向かって今日のトレーニングのメニューを部誌に書いていく
今日は何やったっけ?
確か・・・・ストレッチしてから・・・・・・
なんて考えながら 手を止めて窓のカーテンを開けた
少し窓を開けると冬の冷たい風が肌に突き刺さる
それでも今は窓を開けていたい気分
ずっと空を見続ける
あいにくの曇り空
何か私の今の気持ちみたい
「・・・・ぅん・・。寒・・・・。」
起きちゃったかな?
小さく呟くの声に反応して慌てて窓を閉める
「・・・・・!? 周助!!」
ふと 窓の下を見ると 周助がこっちを見上げながら立っていた
これは夢? それとも現実?
思わず声を上げる
声を上げるのと同時に 周助が人差し指を立てて、自分の口元に持っていった
思わず両手で口を押さえる
私 そんな大声だしてた?
どうしてこんな時間にここにいるの?
明日だって早いのに・・・・・
驚きを隠せない私に 今度は『ここへ来い』って手で合図する
私は 返事の代わりに1つ頷いて急いで周助のいる場所へと向かった
「やぁ。」
「やぁ じゃないよ。どうしたのこんな時間に。それに・・・・」
走ってきて上がっている呼吸をなんとか整えて 両手で周助の頬を触る
「それに いつからここにいたの?」
「たいしたことじゃないよ。」
たいしたことないって・・・・・周助の頬 冷たくなってるじゃない
一体いつから・・・・・
「に会いにきたんだ。 こんな時間になっちゃったけど・・・・・。」
「もう、無茶しないでよ。私が気づかなかったらどうする気だったの?」
「いいじゃない。会えたんだから。」
ニコッと笑って私を包み込んだ
もう・・・・・マイペースなんだから
でも会いにきてくれたんだ
「嬉しい。今日は会えないと思ってたから。」
ぎゅっと周助の胸にしがみついた
「これから少し時間とれない?」
幸せを噛み締めていると、急に腕を解いて 私を歩かせようとする
「どこか行くの? じゃ、コート取ってくるから待ってて・・・・・」
今日はもう会えないと思ってたから・・・・
周助が会いにきてくれたことが嬉しくて
1分でも1秒でも早く会いたくて コートも着てこなかった
今更ながらやっぱ寒い・・・・・
「時間がないんだ。」
反転していったん部屋に戻ろうとした私を 手を掴んで引き止めた
周助の方へ振り向くと同時に肩に羽織われるもの
「これなら寒くないでしょ?」
それは周助が着ていたコートだった
そのコートから周助の温もりが体中から伝わってきた
「でもそれじゃ周助がっ。」
「いいから行こう。」
私の意見を聞き入れる事なく、私の手を引っ張っていった
「・・・・・ここ?」
目的地に着いたらしく、走っていた足を止めて歩きだした
そんなに走ってたように思えなかった
周りには小さな憩いの場みたいのがある
なんせ夜中だし、あるはずの電灯には灯りがついていないから真っ暗でほとんどみえない
「・・・どうやら間にあったかな。」
辺りを見て ほっ と小さくため息をついた
「ここって・・・・・」
「しっ。もうすぐだよ。あっちの方向見てて。」
私の言葉を遮り 私達の目の前に広がる暗闇に目を向ける
もうすぐ?
首を傾げながら 周助が指した方向をみた
「3・2・1・・・。」
周助のカウントダウンが始まったかと思うと 真っ暗な空間に一瞬で数えきれないくらいの灯りが灯った
「え・・・・これって・・・・。」
「そ。僕からのクリスマスプレゼント。」
憩いの場だと思っていた所の中心には 大きなクリスマスツリーが飾られていた
周りの木々にもかわいく飾りつけされているけど、中心のツリーについている色鮮やかな電球や飾りつけで まるでこの空間だけ昼間になったような輝きを放っている
「すごい・・・・・キレイ。」
こんな所にツリーなんてあったんだ
驚きのあまりそれしか言葉を発せず、ずっとツリーを見つめていた
そんな私を横目で満足そうに微笑む周助の姿が見えた
「周助、ありがとうね。・・・でもどうしてこんな所にツリーがあるって分かったの?」
「毎年ここにツリーが飾られてることは知っていたんだけど、夜に点灯するのは今年が始めてなんだ。
それを聞いて絶対?に見せたいと思ったんだ。」
「そうなんだ・・・・・。 ありがとう。」
私も周助と一緒に見れて嬉しいよ
ちゃんとしたプレゼントは家に帰れば用意してあるけど、今何かしたい 周助の為に
だから・・・・
いつも私からは恥ずかしくて出来なかったキスを
今日は私からあなたに――
「周助。」
「何?」
振り向いた周助に 私は背伸びして彼の唇に触れた
「・・・・初めてじゃない?からキスしてくれるの。うれしいな。」
軽く触れた唇が離れたとたんに彼が口にした
「えへへv」
ぺロッ と小さく舌を出して笑ってみるものの、自分からするのはちょっとまだ恥ずかしいみたい
思わず顔が赤くなる
そんな私の頬を軽く触って 今度は周助から触れるだけのキスをしてきた
私が周助に触れている事が、周助が私に触れてくれている事が嬉しい
そんな余韻に浸っていたときに頬に1滴の水が降ってきた
雨〜? 折角のクリスマスなのに台無し・・・・・
と睨むように空を見上げると
「・・・・雪?」
その正体は雨ではなくて雪だった
「・・・・ホワイトクリスマス。」
ふと、部活中にが言ってた事を思い出す
―――「そ〜よっ!!今日は一年に一度のクリスマスよっ!!
しかも今年は雪が降るって今日天気予報で言ってたのに・・・。」―――
「よかったね。雪が降って。」
「うん!!」
近くにあったベンチに座って 肩を寄せ合いながらツリーに降りかかる雪を眺めている
暗闇に舞い降りてくる雪は ツリーの周りにたどり着くと キラキラと輝いていて
まるでここだけ空間が違うみたい
ここが合宿所だなんて思えないくらい
しばらく眺めてたけど、明日も早いから名残惜しいけど 部屋へ帰った
ずっとテニス三昧だったけど クリスマスに周助といい思い出ができてよかった
短い時間だったけど ずっと忘れない
彼と過ごした初めてのクリスマス ―――
次の日
「結局雪降らなかったね。楽しみにしてたのにな、ホワイトクリスマス・・・・。今日は1日快晴みたいだし。」
テニスコートで越前君と桃ちゃんが練習試合してるのをスコアにつけている最中 が独り言のように呟いた
「え?」
の一言に首を傾げた
今日は、快晴
もともと数十分しか降らなかった雪は 今は跡形もない
昨日夜降ったよ って言おうとした時、周助と目が合った
今のの呟きを聞いてたのか
周助は私を見るなり ニコッ っと微笑んで 視線をコートに戻した
「やっぱクリスマスは雪降らなきゃねぇ? だってそう思うでしょ?」
「・・・・そうだよね。 ツリーに降りかかる雪って綺麗だよね。」
昨日の とても合宿所とは思えない程綺麗だった光景を思い出し、微笑んで答えた
「何、見たような言い方だね。昨日不二君と何かあったの?」
「え・・・・何もないよ〜。」
「本当に?」
慌てて否定するが それでも何か信用しきれない目で私を見る
雪が昨日降った事は きっとこの合宿に来ているみんな知らない
このことは 私と周助だけのヒミツv
―――――――――――――――――――――――――
〜あとがき〜 ・・・・言い訳??
今って・・・・・真夏ですよね・・・・
不二「・・・ねぇ。」
茜 「・・・はい。」
不二「何で夏なのにクリスマスの話を書いてるの?」
茜 「・・・どうしてでしょうねぇ?
書きたかったから・・・かな?」
不二「ふ〜ん。が楽しんでくれたんなら別にそれでいいんだけどね。クスッ。
、またきてくれるよね?」
茜 「(でた・・・。)」
不二「何か言った?(ニコッ)」
茜 「いいえっ!別に〜。それじゃあ ここまで読んでくれてありがとうございました☆
2004年7月10日 茜