屋上に寝そべると
見えるのは、どこまでも広がる青空だけ
MDプレイヤーの音量を最大にして
耳元で鳴り響くピアノの旋律にホッと息をつく
リピートをONにして
眩しい青空を見上げながら
思い出にしたくなくて
思い出にしたくないから
何度も、何度でも―――――
JE TE VEU
ポケットから取り出したしわくちゃな写真を指で伸ばすと、そこに映っとるんは少し幼い二人。
『何聴いとるん?』
イヤフォンをかたっぽずつ分け合って
『ええ曲やな』
あんなに近くで笑った。
親が親友同士で、関西から東京に移り住んでからは学校もずっと一緒な幼馴染みで
隣に居るんが当たり前やと思っとった。
いつからやろか?
その横顔が少しずつ大人びてきて
『日直だから先に行くって言ってたわよ?』
『今日も日直だからって―――――』
『日直・・・って言ってたんだけど―――――』
チャイムを押すんが怖くなった。
一緒に登校するなんて約束しとったわけやないけど、あからさまに避けられとるっちゅう事実に
俺は目の前が真っ暗になるんを感じた。
幼馴染みって、こんなもんなのやろか?
こんなにあっさりと、途切れてしまうものなんやろか?
クラスが別れて、お互いの知らん友達が増えて、登下校も別々になって
どんどん重なり合うトコロが消えていく。
そのうち、まったくの他人みたく―――――なっていくんやろか?
そんなん・・・・・・俺には耐えられそうにないわ。
いつの間にか寝とったらしい。
温い風が頬をかすめる気配にそっと目を開けるとその途端、俺の顔を覗き込むようにしとったと目が合った。
慌てて起き上がり、MDプレイヤーの音量を絞ってイヤフォンを外していると、
「・・・・・・・・・!」
背中を向けて屋上から出て行こうとしているに気付き、俺は思わず大きな声で呼び止めた。
「・・・・・・なに?」
なんの感情も読み取れんその表情に戸惑いながら歩み寄ると、の顔が少し強張るのが見て取れた。
「なに?や、あらへんやんか。なんやねん、最近お前おかしないか?」
俺が言うと、は形の良い眉をしかめて俺を見た。
「なにが?」
素っ気ないその返事が、早くここから去りたいっちゅう意思の表れに思えて、俺も思わず眉をしかめた。
「朝迎えに行ってもおらへんし――――」
が俺を避けるようになってから2ヶ月間、言いたくても言えへんかった恨み言をぶつけてみても
「日直なんだってば」
返ってきたのは通り一遍な言い訳だけ。
「お前、2ヶ月間毎日日直しとるんか?そらえらい大変そうやな、手伝ったろか?」
冗談ぽく笑ってみせても
「・・・・・・うるさい」
不機嫌そうにしかめられた眉は緩みそうにない。
「俺と一緒に登校するんが嫌なんか?」
嫌なんやったら、嫌てはっきり言ったらええんや。
「・・・・・・違うけど」
誤魔化したりせんで
「したら、なんでやねん」
はっきり言ってくれたら――――――
「もう、しつこいなぁ・・・・・・そんなに誰かと一緒に登校したいんなら、彼女とすればいいでしょ?」
心底面倒くさそうな表情で告げられた言葉に、俺はため息を吐いた。
いつの話や、それ。
「あんなん、もうとっくに別れたっちゅうの」
最短記録や言うて、相当噂になっとったと思ってたけど・・・・・・
噂も届かんくらい遠くに居ったんか、お前は。
「は?」
「先月の半ばに別れて・・・・・・もう1ヶ月と2週間くらい経つやろか?」
指を折り曲げて数えながら「あぁ、そんくらいやな」と頷いとると、視界の端でがため息を吐いとるんが見えた。
「なんや?」
何か言いたげに口を開いたくせに、止まったまま何も言わんに俺は少し苛ついた。
「・・・・・・なんでもない」
目をそらして言ったが、もう一度ため息を吐いて
「じゃあ――――――」
屋上を出て行こうとするから、俺は焦った。
ここで素直に見送ってしまったら、きっとまた避けられて思うように話もできんようになる。
そんでそのうち疎遠になって――――――
「MDっ・・・・・・うちに置きっぱなしになっとったのMD、どうしたらええ?」
取りに行くとかそういう返事を期待して、わざとそう聞いた。
本当は、今も手に持っとるMDプレイヤーの中で鳴り続けとるんやけど。
「あの、ピアノの曲が一曲しか入っとらんヤツ・・・・・・」
どこに行くにも持ち歩いてずっと聴いとったから、きっと大事なモンなんやろ?
「・・・・・・あげるよ。もう聴かないから」
大事なモンと違ったんか?
そんなに俺と居るんがきついんか?
「ええのか?」
確かめるようにそう聞いたんは、やっぱり嫌やて言葉を期待してたからかもしれん。
「うん」
ためらうこともなく返ってきた言葉に、俺は会話を終わらせるんが怖くなった。
この会話が終わったら、俺達のつながりが本当に途切れてしまう・・・・・・そう感じたから。
「何回か聴いてみたけど、やっぱええ曲やな」
ドアノブにかけられた手を一瞬見つめて、引き止めるためにそう切り出した。
「・・・・・・うん」
は俺をいぶかしげに見つめながら、小さく返事を返した。
「アレ、なんて曲なん?」
いろんな映画で使われとる有名な曲やのに、俺は未だにタイトルも知らんかったことに気がついた。
「・・・・・・」
俺の言葉に、の口が小さく動いた。
「ん?」
せやけど、よく聞き取れんかった俺は聞き返した。
その途端射抜くような強い視線で見つめられて、俺は固まった。
「――――――――― 知りたい?」
「い、いや。別に・・・・・・」
俺は思わずそう答えて呆然としてしまった。
そんな俺を一瞥して、はその手に掴んだままやったドアノブを回した。
ドアの開く軋んだ音がして、の制服のスカートの裾がその扉に吸い込まれるように消えていった。
そしてその重い扉の閉まる音が、一際大きく響いて―――――
まるで、俺との間に現れた扉までもがきつく閉ざされるみたいに。
その日、俺は昼休みの図書館でタイトルも作者もわからんその曲のCDを探しとった。
氷帝の図書館は他の学校の図書室とは比べもんにならんくらい大きく、蔵書量も最多と言われるほどで
本の他にもDVDやCDが取り揃えられとるからすぐ見つかるやろ、と思っとったんやけど・・・・・・
「あかん・・・・・・・」
わからん。
曲調からしてシャンソンやな、ちゅうことはわかっとったんやけど・・・・・・
目の前の検索用の機械に『シャンソン』と打ち込んで出てきた、514件っちゅう検索結果に俺は驚きを隠せんかった。
「・・・・・・あの、どうしたんですか?」
機械にもたれかかってため息を吐いとると、背後から声をかけられた。
「おぉ、鳳やないか」
振り向いた先に見つけた後輩の顔に、俺はふと思い立った。
「お前、これなんて曲か知っとるか?」
後輩の手にポケットから取り出したMDプレイヤーを乗せると、俺は言った。
「え?」
鳳は俺の突然の行動に戸惑いを隠せんかったらしく、MDプレイヤーを手に思い切りうろたえとった。
「まぁ、ええから聴いてみ」
俺はそう言って鳳の耳にイヤフォンをねじ込んでMDを再生した。
「・・・・・・あぁ、『JE TE VEU』ですね」
鳳が口を開いたとともに聞こえた聞き慣れん発音に、俺は聞き返した。
「じぇ・・・・・・?」
「『JE TE VEU』ですよ」
「何語や、それ」
俺がそう聞くと、鳳は笑顔で「フランス語ですよ」と答えた。
「英語と違って、どんな意味か想像もつかへんな・・・」
俺が眉根を寄せて考え込んどると、鳳が突然俺に背中を向けて走り去った。
「・・・・・・?」
つづりもよぅわからんタイトルに、一人検索をかけることもできずにしばらくその場で佇んどると
「先輩!」
突然大きな声で呼ばれて、俺は顔を上げた。
声の聞こえた方向に視線を向けると、鳳がなにやら分厚い本を手に走ってくるんが見えた。
「ありましたよ!音楽史の本なんですけど・・・・・・このページ」
開かれたページの上で指差された場所を見ると、大きく『JE TE VEU』と書かれてあるんが見えた。
「この曲はアンリ・パコーリの詩をもとに作られた歌曲らしいです。タイトルの日本語訳は・・・・・・えっと」
そのページ上に鳳よりも先にタイトルの日本語訳を見つけてしまった俺は、思わず本を閉じて顔を上げた。
「あぁ・・・・・・ありがとな。これ、借りて帰るからもうええで」
鳳にそう言うと、俺はその本を片手に貸し出しカウンターへと向かった。
5限目の開始を告げるチャイムを聴きながら、俺はまた屋上の扉を開いた。
落下防止用のフェンスにもたれかかってさっきのページを開くと、
『――――――――― 知りたい?』
そう言って俺を睨みつけたの強い瞳が脳裏に浮かんだ。
『 JE TE VEU ; あなたがほしい 』
どういう意味なん?
都合よく解釈しても、ええんか?
ページをめくると、この曲のもとになった詩がフランス語と日本語の両方で綴られていた。
わたしは少しも悔やまない
願いはたった一つだけ
あなたのそばの すぐそばにいて
生涯を送ること
わたしの望み
あなたがほしい
読み終えたところで胸が痛くなった。
はずっとそばに居って・・・・・・
そばに居ったからこそ、俺は臆病になった。
幼馴染みやから
このままなにもなければ、ずっと隣に居ってくれる
そう思っとった。
なにより、誰かのものになったらあかん存在やと思っとった。
せやから、が変わっていくんが許せんかった。
今まで付き合った女は、みんなどこかに似とった。
せやけど二日もそばに居れば、やっぱ違うんやなって思いが強くなって
そんな自分に気付かずに、何度も何度も同じことを繰り返して
馬鹿やな。
今頃気付いたって遅すぎるわ。
『もう聴かないから』
遅すぎるわ―――――――
6限終了のチャイムが聴こえて、俺はようやくその場から立ち上がった。
緩い足取りで屋上の扉を開くと、その下の階段の踊り場から誰かの話し声が聞こえた。
「ずっと、好きだったんだ・・・・・・付き合ってくれないかな?」
その言葉に興味を引かれた俺は、階段の手すりに手をかけて下を軽く覗き込んだ。
その途端目に入ったんは、名前もわからん男と真っ直ぐにその男を見つめるの姿で
俺は勢いよく階段を駆け下りると、の手を掴んで
「ちょっとっ――――――」
駆け下りた時と同じスピードで階段を上がり、再び屋上の扉を開いた。
「なにしてんの?」
扉が閉まるのと同時にが俺を睨みつけた。
「あの男が好きなんか?」
聞かれた言葉には答えずにそう言うと、はしかめとった眉を緩めて俺から目をそらした。
「はぁ・・・・・・」
ため息を吐いてフェンスの外を見とるその横顔に、俺はMDプレーヤーから抜き取ったMDを差し出して聞いた。
「ホンマに・・・・・・もういらんのか?」
振り向いた顔が薄く微笑んだ。
「いらないって言ってるでしょ?」
諦めをまとったようなその肩を、俺は抱きしめた。
「いらんのか?」
俺を押し返そうとするの腕に俺が腕の力を抜くと、
そこから逃れたが俺の手からMDを抜き取って
「わかった、自分で捨てるから。ごめんね」
一息にそう言うと踵を返した。
「待てや!」
呼び止める声が少し震えた。
「・・・・・・なに?」
振り向いたが口を開く。
「もう遅いんか?」
俺の言葉に、が戸惑いの表情を浮かべた。
「『願いはたった一つだけ あなたのそばの すぐそばにいて 生涯を送ること』」
「あ・・・・・・・」
俺がこの屋上で何度も読み返したその言葉を口にすると、がサッと目元を赤く染めた。
「まんま今の俺の気持ちや」
そう言った瞬間、心臓が絞られたかのように痛んだ。
「わたしの望み あなたがほしい―――――」
願いはたった一つだけ。俺の望み・・・・・・が、ほしい。
「・・・・・・・遅いよ」
小さく呟かれた言葉に、俺は落胆を隠せんかった。
覚悟しとったはずやのに、期待なんかしてへんかったはずやのに。
「遅いよ、遅すぎるよ・・・・・・」
そう言いながら泣き出しそうに顔を歪ませたが、最後に聞き捨てならんことを呟いた。
「・・・・・・侑士のアホ」
「お前、関西人にアホ言うたらあかんて・・・・・・」
なんべん言わせるつもりや、と続けようとした言葉は最後まで言い切ることができんかった。
俯いたのその小さな肩が震えとったから。
「諦める、つもりだったんだからね・・・」
俯いたその顔から涙がどんどんこぼれ落ちる。
その言葉の意味を悟ると、俺は堪え切れずにを抱きしめた。
「いつもいつも、違う女の子と腕組んで歩いてるし・・・そばに居るだけでいいって思ってたのに、
すごく辛くて・・・・・・」
ポロポロと涙をこぼしながら告げられた言葉に、まるで心臓を鷲掴みされたような感覚を覚えた。
「だけや」
俺の人生で、今まで好きになったんは。
「・・・・・・嘘つき」
本当に。
きっと最初から、俺の心の中に居ったんはだけやったんや。
「ホンマやで」
信じてくれなくてもええ。
けど、それは本当やから。
ずっとそばに居ってほしい。
そんな風に想うんは、だけやから。
鈍い俺のせいで多少遠回りした感はあったけど、許したってや。
わたしは少しも悔やまない
願いはたった一つだけ
あなたのそばの すぐそばにいて
生涯を送ること
わたしの望み
あなたがほしい
そう。
願いはたった一つだけやから。
がそばに居ってくれたら何もいらん。
それだけやから。
茜サマに捧げますvv
500のキリリクですvv
500・・・・・・て、今頃になって;汗
お待たせして大変申し訳ありませんでした(泣)!!
忍足さんかリョーマさんでタメ、とのことでしたので・・・・・・
えっと、こんな感じになりましたが、いかがでせうか??
リョーマさんよりは書けるのではないかと忍足さんにしてみましたが・・・
忍足さん掴めません!!そのキャラクター!!
「忍足さんはこんなこと言わないっ」とか思われるかもしれませんが、
どうかご容赦くだされ!!
これからも頑張ります!!
Kさまから頂きましたキリリクですvv
忍足君かリョーマ君、書きやすい方でタメ設定ということでしたが・・・・・・。
おっしーっ!!
私はそんなあなたが大好きですvv
おっしーの為なら、遠回りしようが何しようがずっとここで待ち続けます!!
そんな覚悟です☆
もうおっしー大好きですv(浮気しすぎ)
Kさま、ありがとうございました! 大切に飾らせていただきます☆
これからもよろしくお願いしますねーv