「亮と一緒にいると落ち着く〜」





 好きな娘のそないなセリフを聞いてもうた俺



 ………これからどないしたらえぇねん………










  
好きだから










 「………昨日から元気ないね、忍足。何かあったの?」

 休み時間、頬杖ついてボケ〜ッとしっとたらが顔を覗き込んできた

 油断しとった俺は、少し後ろに仰け反るほど驚いてもうた

 「なっ、なんでもないで!………ちょお、寝不足なだけや。」



 びっくりしたやんけ!

 何かって、があんなん言うから悩んどるんや

 ………まぁ、偶然とはいえ立ち聞きしてもうた俺が悪いんやけど………




 「昨日も今日も?夜更かしして何やってるわけ?」

 「………勉強や。」

 「うそつき。」

 「うそちゃうわ。せやから寝かせといて。」

 そう言うて机に項垂れた



 ………あかん

 顔を見て話す気になれんわ



 めっちゃ情けないやん、俺

 自分がこない打たれ弱い奴やとは思わんかった

 失恋して落ち込む男やったんやな〜………

 しかも『好きや』って伝えてもおらんのに………有り得へん



 そら、全く気付いてなかった訳やないで
 


 とは今年初めて同じクラスになった

 で、すぐ仲良うなって、すぐ好きになったんや
 
 去年から可愛え娘やな〜と思おて気にしとったから

 ………宍戸の隣で笑とる姿に惹かれてな



 と宍戸は去年同じクラスで、その頃から名前で呼び合っとるほど仲がええ

 何度か『つき合うてるん?』なんて宍戸に探りを入れたことがあるんやけど、『そんなんじゃねーよ』って言うとった

 ………騙されとったんか?

 せやけど、隠す必要はないやん?

 まさか俺の気持ちに気付いとって、はっきり言えへんとかか?



 ………そらないな、宍戸に限って



 まだつき合うてへんってことか?

 せやったら、望みは全く無い訳やないよな?

 が言うてたあれかて、別に"告白"やないやろ?



 『亮と一緒にいると落ち着く〜』



 ………なんやねん、落ち着くって

 恋人通り越して熟年夫婦かっちゅうねん!

 宍戸はそない包容力がある男なんか?

 そらえぇ奴やけど、女心とか全く判らなそうやん

 "落ち着く"理由ってどこやねん?



 ………宍戸やないとあかんのか?









 「忍足。放課後部室に集合だってよ。」

 「………さよか。」

 次の休み時間、いきなり宍戸の声が頭上から聞こえてきよった



 悪いな、宍戸

 今はお前の顔もみたないねん

 大体なんでいつもお前が連絡回しに来んねん?

 ………と話す為なんか?



 「亮」

 「あっ、!英語のノート貸してくれよ。」

 「また〜!?たまには自分で予習してきなよ。」

 「………次はやってくるって。」

 「聞き飽きたよ、それ。」



 頼むからここから離れたとこで話してや

 ………1人になりたいねん



 「なんだよ、寝不足か?」

 俺に聞いとるのは判っとったけど、返事をする気になれんかった

 「………何かあったのかな?昨日から元気ないんだけど………」

 「そういやこんな忍足って見たことねぇな。」

 「でしょ。訊いても、夜勉強してたからって言うんだよ。」

 「嘘だな。」

 「だよね。忍足って元々頭良んだから、試験前でもないのに勉強する必要ないもん。」

 「おい、忍足。どうしたんだよ?」

 「……………」

 イライラして、頭に血が上ってくんのを感じる

 「忍足〜?」

 

 「うっさいわ、ボケ!俺かて悩みの1つや2つあんねん。」



 顔を上げたせいで、2人が並んどる姿をしっかり見てもうた

 「んだよ、心配してんだろ。」

 「要らんわ。静かに悩ませといてや。」

 「………悩みって………」

 心配そうに俺を見とる

 宍戸の隣でそないな顔されてもこっちは………





 「……………恋の悩みや」





 そのまま2人を見んで教室を出た





 ………どう思われたんやろ?

 せやけど、俺かてそういう想いを持っとることをに知って欲しかったんや



 言うだけ言うてみるか

 あの2人がまだつき合うてないんやったら、返事は保留で………

 中途半端なことに変わらんけど、今の状況よりはその方がえぇよな?

 そういう対象で考えてもらえるんやし

 このまま何もせんと見とるだけなんて冗談や無い



 軽い気持ちやないねん






 



 考えとるうちに午後の授業が終わっとって、教室に戻ったらの姿がなかった

 荷物はあるから待ってたかったんやけど、集合かけられとんのを思い出して仕方なく部室へ向かった



 「侑士!ちょうど良かった!大変だぜ!」

 その途中、俺んとこに岳人が慌てながら走って来た

 「なんやねん?そない急がんでもまだ全然集まっとらんやろ?」

 「違うんだよ!っているじゃん、お前等と仲良い子!」

 「がどうかしたん?」

 「なんか数人の女の集団と歩いて行くのを見たんだよ。なんか呼び出しっぽかったぜ。」

 「は?なんでが呼びされなきゃあかんねん!?」

 「俺に訊くなよ〜!けどその集団って、よく侑士と宍戸の練習見に来てる子達だったからさ。」

 「何処に向かったん!?」

 「あっちに歩いて行ったぜ。で、宍戸にも知らせたいんだけど、あいつ見当たらなくて………って、侑士!?」

 俺は岳人から聞いた方へ全力で走った




 


 「あのさ、いい加減はっきりして欲しいんだけど。」

 「何を?」



 すぐに見つけて近付いたら、そないな会話が聞こえた

 何かされとる訳やないし、俺は少し見守ることにした



 「さんは、宍戸君と忍足君のどっちが好きなわけ?それともどっちも友達としてしか思ってないの?」



 その質問に俺が固まってもうた



 「それってあなた達に報告しなくちゃいけないこと?」

 「………判ってると思うけど、あたし達ってそれぞれ2人のことが好きなの。」

 「………うん。」

 「宍戸君のこと好きな子は皆、去年からさんのことが羨ましかったんだからね。」

 「羨ましいって言われても………あたし達は友達だよ。」

 「それを信じて黙ってきたの!だけど、今年忍足君と同じクラスになったら彼とも仲良くなって………欲張り過ぎじゃない?」

 「欲張りって………別に2人に思わせぶりな態度取って弄んでる訳じゃないのに、なんでそんな事言われなきゃならないの?」

 「そういう事してないのは判ってるわよ。だから今まで黙ってきたんだけど、やっぱりさんがどういうつもりなのか知りたいの。」

 「………テニス部レギュラーとは1人しか仲良くなっちゃダメなの?」

 「………それってどういう意味?2人とも好きな訳?」



 「違う!あたしが好きなのは1人だけだよ!」



 ……………ちょお、待て



 「それってどっちのこと言ってるの?」



 ちょお待てって!

 こない形で聞きたい訳やないんや!!



 「あたしは、」



 「1人を何人で囲んどるんや?」



 「忍足!」

 俺の声に振り向いたはめっちゃ驚いた顔をしとった

 「お、忍足君!………あたし達はただ………さんに訊きたい事があっただけで………」

 「せやったら1人で訊けばえぇやん。傍からは質問しとるだけには見えんで。」

 「でも、本当にそれだけ………」

 「、帰るで。」

 俺はの腕を掴んで歩き出した



 「忍足くんとさんってどういう関係なの!?」



 思わず足を止めてもうた

 俺等2人に訊いとるんやろうけど、の方を振り返ることは出来んかった

 せやから、反対側から振り返った



 「………自分等が考えてるようなもんちゃうで。特別な関係やったら、堂々とそう言うとる。」



 そんだけ答えて、再び歩き出した


 
 

 

 「何もされんかったか?」

 「………うん。」

 「今までもこういうことあったん?」

 「………ううん。呼ばれたのは初めて。」

 は少し俯いとって、表情が判らんかった

 「………俺、邪魔してもうたな。あの子等にはっきり言うつもりやったんやろ?」

 「………うん。」



 「……………宍戸が好きなんやって…………」



 「え?」

 顔を上げたはさっき以上に驚いた顔をしとった



 気付かれてへんと思っとったんか?



 「そうなんやろ?………ホンマはもうつき合うてたりするん?」

 「……………」

 覚悟を決めて訊いたんやけど、はまた俯いて違う方向に歩き出した

 「?」

 「来てくれてありがと。………先に戻ってて。」

 「どないしたん?」

 「部室に集まる予定があるんでしょ。早く行った方がいいよ。」

 「せやけど………」

 「1人にして………」

 そう呟いたの肩が少し震えとった

 「?泣いとるん?」

 「泣いてない。」

 「ホンマはあいつ等に何かされたんか!?」

 「そんなことされてない。」

 「せやったらなんで泣いてるん?」

 「泣いてないってば!………1人にしてって頼んでるでしょ!」

 「嫌や。」



 好きな女が泣いとるのに放っとける訳ないやろ



 「……………失恋したから泣いてるの!」



 俺がしつこくついてったら、が急に立ち止まってそう言うた

 「は?………失恋?」

 「好きな人は、あたしのこと友達としてしか見てくれなくて………」

 「宍戸にそう言われたんか!?」

 「………もう放っといて!」

 「放っとけへんわ!ちょお、待っとけ!宍戸をしばいてきたる!!」

 「えっ!?」

 「あのアホ、何考えとんねん!今更友達としてしかなんてふざけんのもえぇ加減にせぇっちゅうねん!」

 「お、忍足?」

 「ええか?ここで待っとれよ!」

 「ちょ、ちょっと、忍足!!」

 走り出そうとした俺の腕をが掴んだ

 「止めんなや!」





 「亮じゃないよ!!」





 「は?………せやったら誰に言われたんや?」

 「………自分がさっき何言ったかも忘れちゃったの?」



 「……………俺?………えっ!?の好きな人って、俺なん?」

 「………うん。」



 「ホンマに?」

 「………うん。」

 「………は宍戸なんやって思っとったから、なんや実感湧かないんやけど………」

 「湧かなくていい!湧く前に忘れていいから!!でも、亮とのことを忍足には誤解して欲しくなくて………」

 「嫌や。」

 「え?」

 「絶対忘れへんで!取り消しもナシや。」

 そう言うて俺はを抱きしめた

 「おっ、忍足!?ちょ、ちょっと放して!!」

 「嫌やって言うとるやろ。暴れんなや。」

 腕の力を強めて強引に大人しくさせた

 「………なんでこんなことするの?」

 「実感させてや。俺かて失恋したと思っとったんで。」

 「え?」

 「『亮と一緒にいると落ち着く〜』ってのはどういう意味やったん?」

 「なんでそれ?………あれは、そのままの意味だよ。亮には忍足が好きなこと話してたから色々相談してたし………」

 「はぁ!?宍戸は知ってたんか!?」

 「うん。」



 ………悩んどった俺って一体………



 「俺と一緒やと落ち着かんの?」

 「す、好きな人と一緒にいて落ち着く訳ないでしょ。いっつもドキドキしてるんだから………」

 「なるほど。そういう意味やったんか。」

 「………ねぇ、忍足」

 「なんや?」

 「さっき、あんなに怒ってくれたのって………」





 「………がめっちゃ好きやからや。」





 「………あたしもね、去年から忍足のことが気になってて………いつの間にか凄く好きになってたの。」





 「俺もそうやで。」





 「………次、誰かに聞かれたらそう答えていいの?」

 「堂々とな。」

 「うん。」

 俺がニッと笑うと、も可愛え笑顔を見せてくれた



 思わず調子に乗ってまうやんけ



 「なぁ、もっと実感したいんやけど………」

 「え?」

 ゆっくりと顔と顔の距離を縮めた





 「!」





 「亮!?」

 唇まであと数センチちゅうとこで宍戸が現れて、に体を押し返されてもうた

 俺は脱力して大きな溜息をついた

 「あっ………悪ぃ………」

 しっかり見られとったみたいで、宍戸は気まずそうにそう言うて後ろへ下がった

 「宍戸〜!達と侑士いたか?」

 「あ、ああ!大丈夫みてぇだぜ!ほら、先部室行くぞ!」

 「えっ、おい、宍戸?」

 遅れて来た岳人が俺等に気付く前に、めっちゃ不自然な態度で消えていきよった

 「………恥ずかしい………」

 は耳まで赤くして俺のことを少し睨んどった

 「まだしてへんやん。」

 「し、してるように見えたんじゃない?」

 「えぇやん。ホンマにするんやし。」



 気を取り直してもう一度抱き寄せたんやけど………



 「や、やっぱり学園内ではちょっと………」

 また離されてもうた

 「……………」

 「怒った?………するのが嫌なんじゃないよ?」

 そない不安そうに訊かれたら、今は諦めるしかないやん

 「………怒ってへんよ。」



 待っとけ、宍戸!

 この後じっくり話し合おうやないか!





 しっかりと一緒に帰る約束をして、その前に宍戸から色々説明してもらう為に部室へ急いだ





 帰り道で続きを出来たかは、俺等だけの秘密やけどな









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楓さんからいただいた、お誕生日お祝いドリです♪
「付き合う前で、忍足君が勘違いしちゃうお話」をリクエストさせて頂きました。
宍戸君が好きなんだと思って忍足君が勘違いする所がすごくかわいいvv
そしてかっこいいですっ!!
私の中で、また氷帝がランクアップしてしまいました。
そしてこれからも氷帝ドリームが増え続ける模様(汗)

お祝いのお言葉だけでなく、更にこんな素敵なドリームまで頂いてしまいましたvv
とっても嬉しいです!!
本当にありがとうございました♪ 大切に飾らせていただきますね☆