君の温もり







「うわぁ・・・・どうしよ」


天気予報は見事にはずれ、窓の外は土砂降りだった。
当然傘など持っておらず、 は途方に暮れた。

帰り支度を済ませて、靴を履き替える。
そうしたところで、この雨の中を濡れて帰る気などないのだが。

委員会の仕事が遅くなってしまい、下校時間の近い校舎内は静まり返っている。
いつもならまだ日も明るく人も残っているのだが、今日は怪しい雲行きを見てみんな早めに帰ってしまったらしい。
の親しい友人達も先に帰ってしまった。

「・・・・早くやまないかなぁ」

誰にともなく呟いた言葉は、激しい雨音にかき消された。
は溜め息を吐き、校舎の壁に寄りかかった――その時。

「・・・・ ?」

声を聞いて振り返れば、クラスメートの越前リョーマがいた。
その手には、しっかりした傘を持って。

「あ、リョーマ君・・・・」

「何してんの、そろそろ門閉められちゃうと思うけど」

「・・・・――」

傘を持っていないことをわかっていて、困っていることをわかっていて、それで言っているのか。
だとしたらタチが悪いが、そうである可能性も十分にあった。

「傘がなくて帰れないの」

「ふーん」

予想通りの冷たい返事が返された。
そしてリョーマは傘を広げて、さっさと帰ってしまおうとする。

は真っ暗な空を見上げて、リョーマを引きとめようかと迷った。
それでも口に出来なかったのは、彼に迷惑をかけると思ったから。
この土砂降りの中、一つの傘に二人入って歩いたら、お互いかなり濡れてしまうことになる。

――それ以前に、リョーマがわざわざ送ってくれるとも思えなかったが。
の家の方が遠くにある。

そう思って諦めた。
門が閉じられるギリギリまで待って、それでも止まなければ仕方ない、走って帰ろうと。

「・・・・ねぇ、入れてほしかったら言えば?」

「・・・・え?」

リョーマの言葉に、 は耳を疑った。
広げた傘を手に、リョーマはこちらに近づいてくる。

「え、え・・・・でも、悪いから・・・・」

「遠慮してる場合じゃないと思うけど」

確かに、ここにいても結局濡れて帰ることになりそうだ。
門が閉まるまであと20分――雨は止みそうにない。

「・・・ありがとう」

はそう言って、傘の中に入れてもらった。
越前はが歩き出すと、 はその歩調に合わせて歩く。
はそのつもりだったが、実際にあわせてくれていたのは越前の方だった。

これといって話すこともなく、二人とも口を開かなかった。
雨が傘を打つ音が大きく響く。

「濡れるよ。もっとこっち来たら」

リョーマの言葉に、 は戸惑った。
あんまり近寄りすぎるのは気恥ずかしいし、悪いという気持ちがあった。

「・・・・離れられると、俺まで濡れるんだけど」

「あっ・・・・ごめん」

リョーマは少し離れた が濡れないよう、ちゃんと傘をさしてくれていた。
お互い、肩の辺りが少し濡れてしまっている。

それでも躊躇する
越前は小さく息を吐き、 の袖を引いた。

「・・・・・・・・」

恥ずかしいと思いつつ、わざわざ離れるわけにもいかない。
肌が触れるほど近くにいることより、それを変な風に意識してしまうことが恥ずかしかった。

再びおとずれた沈黙は、先程以上に気まずかった。
もちろん話すこともなく、思考だけが冴える。

よく考えてみたら、これはすごい経験だと思う。
越前の傘に入れてもらって家まで送ってもらうなんて。
もう二度とありえなそうだ。

友達に話したら、どんな反応をするだろう。
きっとみんな驚くだろうし、怒りだす人もいるあろう。

そう思うと自慢になると思い、 は微かに微笑んだ。
それを越前に見られ、すかさず突っ込まれる。

「何ニヤけてんの」

「に、にやけてなんかっ」

慌てて反論しようとしたが、 は途中で口をつぐんだ。
越前の言葉は間違っていないし、言い争っても勝てる気がしない。

「ほら、着いたよ」

そうこうしているうちに、 の家の前に着いた。
いつもより早く着いたような気もするし、遅かったような気もする。
越前は、が濡れないようにと気を遣い、わざわざ玄関先まで来てくれた。

「ありがとう。ごめんね」

そう言って越前から離れ、家の中に入ろうとする。
しかし越前に腕を掴まれて、動きを止めた。

振り返れば、越前はどこか不満げな顔をしている。
どうしたのと尋ねると、盛大に溜め息を吐かれた。

「あのさ、何で俺がここまでしてあげたか、わかってる?」

「・・・・は?」

随分と偉そうな口の利き方だ。
しかしそれは今に始まったことでもないし、世話になった後なので黙っておく。

越前の口から出た言葉を頭の中で反芻する。
質問の意味はわかっても、何故そんなことを聞くのかがわからない。

「・・・・私が困ってたから?」

敢えていうならば、それしか思いつかない。
が、越前はもう一度、わざとらしく息を吐いた。

「わかってないね」

は首を傾げるばかりだった。
そんな に越前は、意味深な笑みを向ける。

「『困ってたから』じゃなくて、『だから』、そうしたんだよ。わかる?」

「・・・・・・・・」

考えを巡らせてみて、ある答えにたどり着く。
それでも、それを口にして確かめるのははばかられた。

「・・・・ま、いいや、返事は明日聞くよ」

「返事って・・・・?」

越前は の腕を離し、問には答えなかった。

「じゃあね、

いきなり名前で呼ばれて、戸惑いつつも嬉しいと思ってしまう。
自分の腕を両手で抱くと、片方は濡れて冷たく、もう片方は温かかった。






                          END










水無月紅葉さまから頂いた、リョーマ君のドリームですv
生意気なリョーマ君好きvv
でも、こういう風に優しいリョーマ君も大好き☆
リョーマ君と相合傘したいなー♪♪
「困ってたからじゃなくて、茜だからそうしたんだよ。」
なんて言われたら、そのままリョーマ君に抱きついちゃいそうっ!!(オイ)

水無月さま、ありがとうございました!!

これからも仲良くしていただけると嬉しいですv