FAUCHONのアップルティーがキスの味に似てる、なんて。

    があんまり可愛いメールをくれるから。

    僕は改札の人並みの中、携帯を見つめたまま独り笑って。

    今が飲んでるだろう新発売のペットボトルを、キヨスクのドリンクコーナーから探し出す。

 

    それから、左手に持った小さなプレゼントを夕暮れの風に揺らせて。

    胸ポケットに収めた携帯を、もう一度開いた。

 

    『早速試してみなくちゃ、ね。

     待ってて、すぐに行くから』

 

    空に放った返信と、僕と。

    どっちが早く、の元に辿り着けるかな?

 

    ひとつひとつ灯り始めた明かりが、美しいステンドグラスを想わせるような街並みを。

    僕はが待つ帰り路の公園へと、真っ直ぐに走り出す。

    夏服の胸を撫でる、穏やかな初夏の追い風を味方につけて―――

 

 

 

 

            
『Holographic Pink』

 

 

 

 

    『ねぇ、不二。

     初めてのキスの味って、どんな味?』

 

    英二がそんな質問を放り投げてなんか来るから。

    ハニーサックルよりも甘い口付けを想い出した僕の唇は、冷めない熱を帯びて。

 

    『今すぐ逢いたい』―――そう電話したら。

    可愛い声が、30分後に公園でって応えをくれたから。

    僕は30分でできる小さな悪戯を想い付いて、急いで駅へと引き返した。

    姉さんが捲ってた雑誌の中で、一際瞳を引いたピンク色のプレゼントを。

    隣町の駅ビルで手に入れるために。

 

    僕は先刻貰ったのメールを想い出しながら。

    少し乾いた唇にそっと触れて、買ったばかりのペットボトルを開ける。

    甘酸っぱくて柔らかい、いい香りのするアップルティーは僕の大切な誰かさんの唇を想わせて。

    胸の鼓動が加速度を上げた。

 

    「確かに、キスの味に似てるかもしれないね。

     ―――だけど」

    

    だけど、どんなに林檎色の水で潤したとしても。

    この唇が満たされる事なんかない。

    先刻から、僕の唇が欲しがって仕方ないものは。 

    の甘い唇、ただひとつだけ。

 

    逸る気持ちを抑えきれずに階段を駆け上がれば。

    ハニーサックルの甘い香りが立ち上るアーチの向こうに、見間違えるはずのない人影が揺れて。

    僕は、真っ白なベンチに座って僕と同じアップルティーを傾けたシルエットに近づきながら。

    汗をかいた僕のペットボトルを、可愛い真っ白な頬にそっと付けた。

 

    「アップルティー、ずいぶんお気に入りみたいだね―――

    「きゃっ!冷た・・・もう、周助―――」

    「ごめんごめん、横顔が可愛かったからつい、ね。

     アップルティー、僕も買っちゃった」

     

    本当なら、小さく頬を膨らませて振り返るに今すぐにでもキスを贈りたいけれど。

    悪戯は、まだ始まったばかりだから。

    僕は唇の熱を抑え込んで、そのままの隣に座る。

 

    「急に呼び出してごめんね。どうしても逢いたくなっちゃって」

    ―――どうしても、キスがしたくて。

 

    その一言は飲み込んだまま、僕は右手に持ったままの小さな紙袋を差し出した。

    「それから、これを渡したくて」

    「RMK?って、お化粧品の?」

    の小さな手に紙袋を乗せたら、僕の大好きなソプラノがパッケージのアルファベットを読んで。

    傾げた細い首筋から、アップルティーよりも甘い香りがほのかに漂った。

    

    「うん。昨日姉さんが広げてた雑誌で、にすごく似合いそうな色を見つけたから。

     開けてみて?」

    「うん―――」

    「それに、本当かどうか確かめてみたい事があって」

    「確かめて、みたいこと?」

 

    確かめてみたい事―――それが、僕の悪戯なんだけど。

    僕はアップルティーを飲み干して、上がってしまいそうになる口許をそっと隠した。

    

    やがて、の手の中に咲いたピンクは。

 

    グロスの11番。

    【Holographic Pink】

 

    

    別名―――『キスまで3秒グロス』。

 

 

    ハニーサックルの蜜を狙って花に降り立つ蝶の罠にも気づかないで。

    僕の可愛い花は、セピアの大きな瞳を細めて歓声を上げる。

 

    「わぁ・・・!

     可愛い色ね。ありがと、周助」

    「つけてごらん?

     きっと凄く似合うから」

    「うんっ!」 

    

    それから、が淡いピンクのグロスを、花びらみたいに柔らかな唇に引いて。

    その唇を3秒見つめたら、仕掛けを教えてカウンターを放つ。

    ―――そんな、悪戯のはずだった。

 

    けれど。

 

    キラキラ光るホログラムみたいな淡いピンクが、アップルティーで潤したばかりの唇を彩って。

    僅かに開いた唇から、甘い囁きが零れ始めたら。

 

    その悪戯な唇に、囚われたのは僕の方。      

 

    「ねぇ、周助。

     綺麗に塗れ、て―――」

    

    の頬を包み込んだ、次の瞬間。

    の言葉を最後まで聴く余裕も許されない程。

    僕の唇は、訊き分けもなくを求めて。

    淡いピンクのヴェールを、すべて脱がせてしまうまで。

    の唇を離す事が出来なかった。

 

 

    アップルティーの甘い残り香の中、身体の力がすっかり抜けてしまったを抱き締めながら。

    僕は林檎色に染まったの耳許に、小さく降参を伝える。

 

    「やっぱり3秒なんて、待てないや」

    「・・・え?」

    「このグロス、キスまで3秒の唇を作るって書いてあったけど。

     の唇が綺麗過ぎて―――3秒なんて、僕は待てないよ」

 

    笑いながら、もう一度小さなキスをして。

    僕が脱がせてしまったグロスを、小さなリップスティックに載せてもう一度の唇に着せてあげながら。

    もう一度甘い輝きを放ち始める唇に、そっと呟いた。

 

    「とのキスは―――ホログラムみたいだね」

     

    僕達が交わしたキスの数を数えたら。

    星の数さえ、追い越してしまうかもしれないのに。

 

    柔らかな頬に贈るキスも。

    長い長い、情熱の夜に交わすキスも。

    聖書越しの神聖なキスも。

    とのキスはまるでホログラムみたいに。

    交わす度、色々な輝きを見せるから。

    胸の高鳴りは今でも、初めてのキスと少しも変わらない。

 

    「ねぇ、周助」

    綺麗に彩った唇から零れる言葉も。

    僕の胸を淡いピンクに染め上げる、僕だけの可愛いホログラム。

 

    「あの、ね―――」

    「うん?」

    「やっぱり、アップルティーよりも。

     周助のキスの方が美味しいね―――」

 

    僕を囚えて離さないHolographic Pinkは。

    悪戯な僕の恋人、そのもの。

 

    「って、本当に可愛い事を言うよね」

    「―――え?」

 

    東の空から顔を出した月の光に照らされて。

    の唇は、また彩りを変えるから。

    とても、瞳が離せない。

    唇の熱が、冷めない。

    

    「折角綺麗に塗れたのに、ね。

     だけどのせいだよ?もうしばらく、離してなんかあげないから」

 

    ハニーサックルの花陰に隠れて続けた口付けは。

    ほのかな月明かりに照らされて、淡い七色に輝いた。

 

    

 

 

    「周助、最近寝る前は毎日アップルティーね」

    姉さんの意味ありげな言葉に僕は小さく笑みを零して。

    ソファーに身体を沈めながら、 ティーカップに揺れる林檎色の波間を見つめた。

 

    「良く効くおまじないだよ」

    「占い師としては聞き捨てならないわね。どんなおまじない?教えてよ、周助」

    「駄目だよ、僕とにしか効かないから」

 

    願わくば、この香りに乗せて。

    夢の中まで、にキスを届けられるように―――

 

    見上げた窓越しの月が作り出す七色に、僕だけの淡いピンク色の輝きを想い出しながら。

    僕はキスの味によく似た甘い潤いに、そっと口付けを落とした。

 

 

 

                             2005.6.19

                             written by ラム

 

                                                    英二君「はじめてのチュウ」ことHoney Suckleの続編ですv
                                                    実は何気に超お久しぶりの周助さんドリーム。
                                                    イベントではよく書いてるものの、本編では3ヶ月ぶりになってしまいました!
                                                    周助メインサイトの名が廃る、ということであわてて書いたドリームですが。
                                                    周助さんがキス魔!!侑士君以上にキス魔!!
                                                    これでもキスシーンをむりやり減らしました(笑)
                                                    ・・・胸焼け、しますでしょうか?(おろおろ)
                                                    このドリームはFAUCHONのアップルティーにハマって思いついたんですが、
                                                    周助さんならこの紅茶、毎日飲んでそうな気がしますv
                                                    そしてもうひとつのドリームの柱(お前は手塚か)、RMKのグロスですが。
                                                    ラムオススメの可愛らしい色ですvv
                                                    周助さんの恋人には淡いピンクやベージュが似合って欲しい、という
                                                    ラムの願望が所狭しと綴られたお話になりましたが、
                                                    楽しんでいただけたら嬉しいです。
                                                    このドリームは、オフ会メンバーに捧げます。
                                                    そして、すべての方にDLFで差し上げます。
                                                    就活中にもたくさんの励ましを下さった皆様へのせめてもの御礼ですv
                                                    よろしかったらご自由にお持ち帰りくださいませーv
                                                    アップルティー=キスの味、に賛同してくれたオフメンバーさま、ありがとう!(笑)







ラムたんのサイトから強奪してきた周助さんでしたーvv
「はじめてのチュウ」の続編!!ということで読ませてもらいましたが・・・!!
しゅ、周助さんにキスされまくりですよv 私のモノとは比べ物にならないくらい甘いvv
こんな素敵な悪戯ならたくさんしてほしいですっ!(オイ)
私も周助さんには淡い色が似合うような気がします。
それからアップルティーはオフの時に教えてもらって、それから見かける度に飲んでます。
周助さんとのキスの味vv
でもやっぱり周助さんのキスの方が美味しいんですよね、きっと(笑)
今度のオフではRMKのグロスをつけて行きますvv周助さーん!

ラムたんの周助さんは甘くて大好きですーv
素敵な周助さんをありがとうございました。