今日は落ち着かねぇ
その理由は自分でも分かってるつもりだけどな――――
確かな声を聴かせて
朝練の為に他の奴らより早く家を出てジャージに着替え、コートに行くと先に来ていた部員たちから挨拶の言葉がかけられる
それに適当に答えていた
それからすぐに忍足や鳳など、レギュラーが来て、いつもの練習が始まったわけだが・・・・・
真っ先に俺の姿を見つけて駆け寄ってくるの姿が、今日ここにはない
いつもなら朝練も絶対に顔を出すが、今日に限っていつまで経っても現れねぇ
「今日はちゃん、来ないん?」
俺の考えを見透かしたかのように、タイミングよく忍足の奴が聞いてくる
そんなのは俺の方が聞きたいくらいだ
「俺が知るか。」
「彼女なのに、随分冷たい言い方やなぁ。」
「うるせぇ。」
忍足とそんな会話をしながらも、俺はの事を待っていた
だが結局、朝練が終わるまでが顔を出す事はなかった
朝に弱くて、俺が『無理するな』って言っても毎日来る奴だが、今日はどうせ寝坊でもしてるんだろう と思っていた
だけど、昼休みになってもアイツは来やしねぇ
昼休みになると、昼飯を一緒に食うために、ドアの向こうで俺の名前を呼ぶの姿が今日はない
どうしたんだ・・・・・?
携帯にかけても出ないし
喧嘩したわけでもねぇし・・・・・
そもそも今日は本当に学校に来てるのか?
来てたら俺に会わないはずねぇからな・・・・
と違うクラスだからアイツが来てるのかさえ分からない
俺が行ってもいいんだが、忍足にいろいろ言われるのがウザイから、なるべくのクラスには行かないようにしてる
だけど・・・・・・イライラする
そのままに会うことなく迎えた放課後
俺の気分がどんなだろうと、部活は毎日のようにある
ちっ 今日はヤル気がしねぇな
だが部長として、そんなことも言ってられねぇからな
一段と機嫌が悪いのを悟ってやがるのか、今日は誰一人話しかけてこねぇ
その方が楽でいいけどな
そんな中、コイツだけはいつもと変わらず俺に話かけてくる
「跡部、何でそんなに機嫌悪いねん。」
部室内でも他の奴らは声をかけてくることはなかった
樺地でさえ、今日は俺と距離をとっているくらいだってのに
「あ?テメェに関係ねぇだろ?」
「おぉ、怖い。」
忍足に完全に背を向けて、ジャージに着替える
「分かった。ちゃんが休みだから寂しいんやろ?」
忍足の言葉が頭に響いた
「休み?」
今度は俺の言葉に忍足が目を見開いた
「何や、知らんかったの?風邪引いたんやて。」
「どーしてお前がそれを知ってるんだよ。」
「どーして って同じクラスやから。」
そんなのは知ってる
学校には連絡するはずだよな
だけどどうして俺には連絡しないんだ
いつもたいした用もねぇのに電話してきて『景吾の声が聞きたかったの』なんて言ってるくせに
どうして俺が忍足に聞かされて初めての体調を知るんだ?
こういう時にこそ甘えてきたらいいじゃねぇか
そんなにお前にとって俺は頼りねぇのかよ
俺を頼ってくれなかった事に少し腹を立てたが、それはすぐ笑みに変わった
今まで気づかなかったが、いつの間にか、俺の中心はになってたんだな
始めは、ここまで想っちゃいなかった
と過ごす季節が増えていき、いろんなを知るたびにこの想いは少しずつ膨らんでいった
に逢えないだけで、こんなにも胸が締め付けられるような感じ
今までに味わった事のねぇ感覚
この想いはきっと膨らみ続けていくんだろうな
部活が終わると同時に、すぐに着替えて校門の所で待たせていた車に乗り込んだ
急いで着替えてる途中、他のレギュラーが俺に話かけてきたことを思いだした
「俺らもちゃんのこと、心配してるんやからな。よろしく言っといてな。」
お前らも心配なのは分かるが
俺ほどの事を強く想ってはいねぇだろ?
もっとも、そんなこと俺がさせねぇけどよ
ピンポーン―――
やっとのことでの家について、インターホンを鳴らす
インターホンを押して人が出てくる時間さえ、今の俺には長く感じる
そしてしばらくしての母親がでてきた
「はい・・・・・あら。」
「こんばんは。」
「もしかして、跡部君?」
「そうですが・・・・・。」
「に会いに来てくれたんでしょ?上がって。」
どうして俺のこと知ってるんだ?
のやつ、何か俺のこと話してるのか?
そんなことを考えながら、家へ上がって母親の後についていった
「、跡部君が来てくれたわよ。」
の部屋の前でノックしながら声をかけると、中からの弱々しい声が微かに聞こえてきた
「・・・・・えっ、景吾?」
「開けるわよ。」
ドアを開けて中を見ると、ベッドに横たわっているの姿があった
「景吾・・・・・・。」
そこから聞こえるのは、俺の知っている明るくて元気な声じゃなかった
「どうぞ。」
言われるがまま、の部屋に入る
そしての隣に腰掛ける
「、お母さんちょっと買い物行ってくるから大人しく寝てるのよ。
じゃあ跡部君、少しの間よろしくね。」
「はい。」
俺の返事を聞いて、ドアを閉めて出ていった
しばらく沈黙が続いた
は俺の顔を見ようとしない
熱があるせいか息づかいも荒く、顔も紅い
時折、眉間にしわを寄せたりしている
見てるだけで辛さが伝わってくる
「ごめんね、電話できなくて・・・・・。」
「どうして俺に連絡しなかった?」
「だって・・・・・・。
今は大分マシになったけど、こんな掠れた声聞かせたら・・・・景吾に余計な心配かけちゃうんじゃないかと思って・・・・。」
そんなこと気にしてたのかよ
柄にもなく、にとって俺は頼りないのかと思ってたから、そうじゃないと分かって少しほっとした
髪をそっと撫でてやった
「馬鹿。連絡ない方が心配だっての。」
「景吾、心配してくれた?」
「・・・・・・あぁ。」
素直に答えると、フッとが笑った
「何か今日の景吾優しい。」
「変なこと言ってんじゃねぇよ。」
抱きしめたい気持ちを押し殺して、髪を撫でていると、それが気持ちいいのか目を瞑っていた
それでもしばらくそのまま撫でてやってると、ゆっくりと目を開いて俺を見上げた
「景吾が来てくれてよかった。ずっと景吾の声、聞きたかったの。」
「俺の声ならいつでも聞かせてやるぜ?もっと近くでな。」
ふいにこぼれた笑みは力ないもので、何もしてやれない自分がもどかしい
枕元に置いてあるコップの横には風邪薬が置いてあった
見事に飲んだ形跡はない
薬飲まなきゃ治るものも、治らないじゃねぇか
1つため息をついた
「お前、まだ風邪薬飲んでないのかよ。」
「えっ・・・・・・、うん。」
「まったく。」
「だって、それ苦いんだよ?」
「そんなの知るか。飲まなきゃ治らないんだろ?」
「うん・・・・・。」
俺がにしてやれること、1つだけあったぜ
これを拒むことは俺が許さねぇ――――
「しょうがねぇな。」
「景吾?」
薬と少量の水を口に含み、首を傾げるの上半身を抱き上げると素早く口つけた
いつもの短い触れるキスとは違う深いキス
その間に薬も飲ませた
「ふっ・・・・・・・。」
薬だけで飲めば苦いかもしれねぇけど、俺が与えてやってんだから苦いはず、ねぇだろ?
「苦くなかっただろ?」
名残惜しくも離してやると、さっきよりも顔を赤くして息を乱しているの姿があった
「景吾・・・・・。風邪うつっちゃうよ。」
「俺はそんなヤワじゃねぇよ。」
「そーですか。」
呆れたように目を逸らしたが、代わりに布団から手をだし、俺の手を繋いできた
なかなか可愛いこと、してくれんじゃねーの、あーん?
「何か得しちゃった気分。」
「・・・・?」
「だって、普段と違う景吾が見れたんだもん。」
「どこが違うんだよ。」
何を言ってるのか分からず、に尋ねた
「・・・・・優しい所?」
「折角来てやったってのに、そんな風に言われるとは思わなかったな。」
「ごめんごめん。・・・・・・景吾。」
「あん?」
「ありがとうね。」
「ま、たまにはな。」
たまにはこんな日も、いいか
早く治して
今度はお前の声で、俺を酔わせてみろよ
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風邪が治らなくて、景吾に看病してほしくてとっさに書いたものです。
去年は景吾が風邪を引いた設定で書いたんですが、今の心境は・・・・
『景吾ーっ!私を看病してーっ!!』なので(バカ丸出し)
書いてしまいました。
今の私がヘタレなんで(いつもですが)いつもの景吾じゃないです。
全然俺様じゃないです。
こんなのでも自分は癒されたので、いいかなーなんて思ったりします♪
2005年 1月11日 茜