私は今、とても幸せです  act 6






夕食の支度をしている時に、ふと壁に掛けてある時計を見上げる

もうすぐ景吾が帰ってくる時間ね―――

そう思ったときに景吾の声が聞こえてきて、急いで玄関まで迎えに行く


「お帰り、景吾。」

「あぁ・・・・それより風呂、沸いてるのかよ。」

「うん、すぐ入れるようにしてあるよ。」

今日はそうとう暑かったからなぁ・・・・

確か今日の最高気温31度、だったっけ?

首に絞めているネクタイをうざったそうに解きながらお風呂場へと歩いて行った

私はお鍋に火をかけっぱなしだったことを思い出して

タオル置いてあるからねー と声をあげてキッチンへと向かった






。」

しばらくして背後から景吾の声がした

とっくにお風呂入りにいったと思っていたのに、リビングにいたみたい

「なに?」

火加減を見ていたので、振り返ることなく返事をした

「久しぶりに一緒に風呂入るか?」

口元を吊り上げながら

しかもいきなりそんなことを平然と言う景吾に、私は顔を真っ赤にした

「な、何言ってるのよ!まだご飯の支度終わってないんだから!」

「何赤くなってんだよ、いいじゃねぇか。初めてじゃねぇんだし」

そう言いながらゆっくり歩みよって完全に行き場を塞がれた

「と、とにかく。早く入ってきて!」

「・・・しょうがねぇな。今は勘弁しといてやるよ。」

クッ と小さく笑う景吾を半ば追い出すように、リビングから出て行かせてパタンとドアを閉めた


いきなりあんなこと言うんだもん

まだ赤くなってるであろう顔を手で抑えた

あ、でもいきなりなのは前からか・・・・

いつまで経っても変わらない景吾に小さく笑って食事の支度を続けた








 *


それからしばらく平穏な日々が続いたある日――――



「社長。」

「何だ、今会議中だぞ。」

書類に目を通していたので、返事をしただけでそいつの顔を見ようともしなかったが、次の一言で、俺はもう会議どころではなくなった


「ご実家から緊急のお電話が入っております。いかがなさいますか?」

それはすぐにのことだと悟り、会議中にも関わらず

「すぐ行く。」

と返事すると同時に身体が既に動いていた

ほとんど投げやりに置いた書類が机から何枚か落ちていたが、そんなの気にしている時間はない


「携帯よこせ!」

車に乗り込んですぐ秘書にそう言いながら、携帯を奪い取るような形で電話をかけた

「あぁ、俺だ!に何かあったのか?」

まだはっきりとのことだとは聞いたわけではないのに

俺の直感がそう言っている


執事から返ってきた言葉は――

「陣痛をおこしまして、たった今病院へ向かわれました。」

「分かった。」

が苦しんでるのかと思ったらいてもたってもいられなくなり、これ以上急ぎようがないのにイライラする

移動している時間が長く感じる

時間ってこんなに長かったか?って初めて感じた

その中で想っているのはのこと

急げ!早く・・・・・









病院について一目散にの元へと走っていく

「病院内は走らないで!」

そんな声も聞こえたが、今の俺はそれどころじゃない

分娩室の前まで来て、思うがままにドアを開けた

っ!!」

「あ、入ってきちゃダメですよ。」

医者と何人かの看護婦に囲まれた中央にはいた

「・・・・・・け、ご?」

医者が止めるにも関わらず、のもとへ近づいてそっと手をとる


いつも暖かい手が、今は熱い

いつも俺の前で笑ってたが苦しそうな顔をしている

そして吹き出るような汗


「・・・・大丈夫か?」

こんなこと聞いたって平気じゃないのは分かりきっているのに

そんな言葉しか言えない自分自身に腹を立てる

それでも笑って

「・・・・だい、じょぶだよ」

息をきらしながら小さく呟いた声が俺の中に響いた

「なんでそんな顔、してるの?

 私、苦しくないよ・・・・・だって、あたしと景吾の赤ちゃん、産めるんだもん。」

・・・・・・・」

の方が俺なんかより何倍も苦しいはずなのに、どうして俺が励まされてんだ?

情けねぇな

フッと笑って、頭をそっと撫でた

、がんばれよ。」

「うん・・・・・」


「陣痛が早まってきてます。もうすぐ出産準備しなくてはいけないので・・・・・・」


半ば看護婦に連れていかれる感じで分娩室を後にした

近くの椅子に腰掛ける


・・・・がんばれよ














 それから―――


握っていたの手の温もりを感じながら

どれくらい経ったんだろうか

何時間経ったか分からない

短かったのか、長かったのか―――

早く―――の姿が見たい


静まり返った病院の中に、小さく響く赤ん坊の泣き声

それと同時にドアが開いて看護婦が出てきた


「跡部さん、産まれましたよ!」


その声を聞いて急いで分娩室へ入ると、産湯につかっていた赤ん坊の姿

そして・・・・・・


っ!」

「景吾・・・・・・・」

小さく笑うの手をとると、握り返すこともできないくらい力がなくなっていた

「・・・・・産まれたのね」

「あぁ。」

「抱いてあげて、パパ。」

力なくしゃべるの横で看護婦に抱かれている、真っ白なタオルに包まれた産まれたての赤ん坊

間違いなく俺との子供だ

「・・・・・・あぁ。」

看護婦から産まれたばかりの綾香を預かり、顔を覗き込んだ

綾香は俺の腕にすっぽり納まるほど小さくて

まだ「父親」という実感がなかなかわかなかった俺が、初めて「父親」になったんだと実感した

「・・・・小せぇな」

「そうね・・・・・」


今まで2人だった生活が3人になる

しばらくは綾香に振り回される日々が続くだろう

だけど、それもいい

そんなことを思った俺は、やっぱり変わったんだろうな


と出逢えたおかげで―――













しばらくして個室の部屋に移動して

初めて親子3人だけになった

綾香は小さなベビーベッドで気持ちよく眠ってる

そんな綾香をずっと見ていた


だが、はやっぱり相当体力を使ったのか、さっきから眠そうにしていた

俺は、まだいつもより熱をもったの手を握り締めて

「眠いんだろ?眠るまでこうしててやるから、少し寝ろ。」

「うん・・・・・・ねぇ、景吾」

「あん?」

「結婚してくれてありがとう・・・・・」

まさかそんなこと言われるとは思ってなかったぜ

まさしく俺が言いたかった言葉を先に言われて、少し驚いた

「ばーか、そりゃこっちの台詞だ。」

「これからは3人なのね」

「あぁ・・・・もう1人や2人増えてもいいけどな」

「バカ・・・・・」

「俺様に馬鹿って言うなんていい度胸じゃねぇの。・・・・もう寝ろ。」

目を閉じてわずか数分で規則正しい寝息が聞こえてきた

相当我慢してたんだろうな


椅子から立ち上がって、そっとの顔を覗き込む

さっきは言いたかったこと言われちまったからな

「―――・・・ありがとよ。」

アイシテル、の意味を名前に込めて


子供と一緒になって寝てるの唇に、小さくキスをした











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まずは一言
長い間放っておいてすいませんでした!!!

そしてここが一番景吾じゃないですよね、ごめんなさい。(あたしが書くのは全部景吾っぽくないけど)
もう自分でさえ、誰で書いてるのか分からないです(オイ)
こんなこともあるんじゃないかと楽しんでいただけたら・・・・。
まぁ、今更こんなのを読んでる方もいないと思うけど(笑)
あ、その後のストーリーもちょっと書く・・・予定です。


 2006年 4月23日 日暮 茜