もうすぐと付き合って1年が経つ

俺自身、女と付き合ってきてこんなに続いたこともなかったし、ましてや記念日やイベントなどうっとおしいと思ってた

だが、と出逢って、付き合いだして

女関係にどうしようもなかった俺が変わった


本当に『キセキ』という言葉があるんなら、と出逢えたことが

『キセキ』だったんだろうな












        
とっておきの魔法













最近は部活も毎日のようにあって、デートと言っても俺の家がほとんどだった

それでもは文句1つ言わず、むしろ『一緒にいてくれるだけで嬉しい』なんて可愛いことを言ってくる

だからたまには気の利いたこともしねぇとな

そう考えてふと思い出したのは、前にに勉強を教えてやっていたときのこと







「ねぇ、景吾ー。ここ綺麗だと思わない?」

他の成績はいいくせに英語だけはどうも苦手らしく、仕方なく勉強を教えてやっていた

俺は一緒にいれるだけでも満足だったが、そう素直に言えない代わりに「・・・しょうがねぇな」と悪態づきながらも教えてやっていたはずが

「ここやってみろ。」と問題をおしつけて洋書に目を通している間に

いつの間にかペンを机の上に置いて、持ってきていた雑誌を読んでいた

「あーん?ちゃんと勉強しやがれ。」

折角教えてやってんのによ

思わず眉を動かすと、一度視線を俺に向けたが、頬を膨らませてまたすぐに雑誌に目を向けた

「もう終わったよ。それよりここ、行ってみたいな・・・・・」

まるで独り言のように呟きながら喋るに、俺は答えあわせをしながらその雑誌を盗み見た



『デートプラン! カップルで見るオススメの夜景』



そこまで見て、横目で見ていた雑誌から目を離し、答え合わせの続きをしだした

・・・・・夜景だ?

ったく、女ってのはどうしてそんなのに興味があるんだ?

俺には分からねぇな

心の中でため息をついたものの、頭の中で考えていた事

が見たいって言うんなら・・・・・一緒に行ってやろうじゃねぇの

思うように部活の休みがなく寂しい思いさせてるの為に、俺なりのやり方で夜景を見せてやるよ

ククッ 楽しみにしてろよ

俺の中である事を思いついて

未だに雑誌に夢中になっているに口角を上げた


















それから何週間か過ぎて

部活の帰りにいつものようにを家まで送っていく途中、いつもの会話をしだした

「日曜日は部活休みなの?」

「休みじゃねぇが、午前中だけだ。」

「じゃあ午後は一緒にいれるね。」

「あぁ・・・・。」

「何時くらいに景吾の家行けばいい?」

ここまではいつもの会話だ

デートと言ってもいつもは俺の家だからな

『どっか行くか?』そう言っても

『景吾は部活で疲れてるんだから無理しないでいいよ?』そう言ってくれる

なりに気を使ってくれてるんだろう

だから今回も俺の家でデートすると思ってやがる

素直に甘えりゃあいいのによ・・・・

「いや、家には来なくていい。」

「・・・え?」

いつもとは違う俺の返事に目を丸くして見上げてくる

そんなに一瞬目を向けてから、また視線を前に戻した

「俺が迎えに行くから家で大人しく待ってろ。」

「それって・・・・・・・・」

「たまには外でデート、したいんだろ?」

「でも景吾疲れるでしょ?」

「そんなことは気にしなくていいんだよ。行きてぇ所あるんだろ?」

「・・・うん!」



分かってねぇな

俺はのその顔が見てぇんだよ

こんな顔が見れるなら、もっと早くこうしてやればよかったと心底後悔する自分がいたが

今この笑顔を独り占めできてるのかと思うと、それはすぐ笑みに変わった
















 *


そして当日

部活が終わって急いでの家へ迎えに行って、今日の目的の横浜まで連れてきた

着いてしばらくショッピングを楽しんだりしていているうちに、だんだんと辺りは暗くなっていき

気づけば、焼け付くような太陽の代わりにぽっかりと明るい満月が顔をだしていた




「観覧車乗ろう!」


飯食った後にデザートが食べたいと、ソフトクリームを片手に

そう言いながらが指指す方には、たくさんのイルミネーションに彩られた大きな観覧車

まぁ、女が好きそうだな

なんて思ってるうちにぐいぐいと手を引っ張られて、観覧車のある方へと連れていかれた

「楽しみだなー」

嬉しそうに呟くに「・・・・そうだな」と素っ気無く答える

「え、景吾も乗りたかったの?」

俺は違う意味でそう答えたんだが、今説明することもないから適当に「あぁ・・・」と答えた

その返事を聞いて、より一層嬉しそうに笑っていた




だんだんと登っていく観覧車に、も次第に俺じゃなく外ばかり見るようになっていた

「今日はこの辺あんまり明かりがついていないね」

「そうか?」

観覧車付近はいつもよりも明かりがついてなくて、少ししょんぼりしていたが

理由を知ってる俺は素っ気無く返事した


そしてだんだん頂上へと近づいていく頃には遠くの夜景も瞳に映るようになり、はその光景に瞳を奪われていた

そんなの細い肩をそっと抱いてやると、俺に寄り添ってきた

「本当綺麗だよね。・・・・・・・この夜景、ずっと見ていたいな」

ポツリと呟くように漏らした言葉に俺は過剰に反応した

ずっと見ていたい・・・・そう言うと思っていた

俺なら他の奴には出来ねぇこともしてやるぜ?

ただし、お前だけにだがな



すっ と立ち上がり、お決まりのポーズ体勢をとる

そろそろ頂上だし、ちょうどいいな

はそんな俺の行動に首を傾げ

「景吾?立ったら危ないよ?」

「俺様にまかせろ!!」

何がなんだか分からないというように首を傾げたままのに優しく笑いかけてやってから

自信満々に指を鳴らした











パチ―――ン!!


ガクン








その瞬間、ゆっくりと動いていた観覧車は止まって

何も知らないだけが混乱し始める

「何!?何かあったの?まさか故障!?」

頂上で急に観覧車が止まって、慌ててが俺にしがみついてくる

それはそれで嬉しいが、今は外の景色を見てみるように促す

俺が人の為にここまでしたのはだけだからな

だがは本気で脅えているみたいで、大きな瞳にはうっすらと涙も溜まっていた


「外――――見てみろよ」

「・・・・・・外?」

まだ怯えてきってる目をしながらも、俺の言葉に顔をあげてゆっくりと外に顔を向けた





「あ・・・・・・・・・・・・」

俺の合図と共に停まる観覧車

ちょうど頂上で停まっている

そして、下を見下ろせば、一斉に点けられたたくさんの電灯や街灯

今までいつもより少し暗かった横浜の街が一気に光輝き始めた


今日の為にわざわざ作戦を考えていたんだからな

いつもデートと呼べるようなことしなかったかわりに

今日はちょっと豪華にしてみたんだが・・・・・・

それこそ他の奴らには出来ねぇようなやり方でな

フン どうやらうまくいったみたいだな


口角を上げながら満足げにしていると、いきなりがこっちを向いてきた

そして、どうだ と言わんばかりに満足気な俺の顔を見るなり

「・・・・・もしかしてコレ景吾がやったの?」

「あぁ。どうだ?たまにはいいだろ、こういうのも・・・・・・」



「だめじゃない景吾!近隣や今ここに来ている人たちに迷惑でしょ?」

「・・・・わ、悪ぃ」

あまりにいきなりのことで、ただ素直に謝っちまった

まさかこんな風に言われるとは微塵も思ってなかったからな

てっきり喜ぶかと思っていたが、少し困った表情をしていた

まさかがそう言い出すとは思ってなくて

だが自分のことよりも、まず人の心配をするに愛しさがこみ上げてくる


俺が素直に謝ったせいかもびっくりしたようで、肩をすくめていた

「いきなり怒ってごめんね。景吾がここまでしてくれると思ってなくて・・・・」

そして一度夜景を眺めて、また視線を俺に向けた

「でも・・・・すごく綺麗。景吾、ありがとう」

この夜景が霞んで見えるくらいの笑顔

お前のその顔が見れただけで、こんなことさえも、やってよかったと思ってしまう










「おい、アイス溶けてるぜ?」

ずっと夜景に見とれていたの手に持っていたアイスはすっかり存在を忘れられていたみたいで、すでに溶けはじめていた

「あっ、忘れてた」

急いで溶けていた部分を舌で舐めながら、また視線を外へ向けてしまう

おいおい、夜景もいいが俺がいることを忘れるなよ

自分で仕掛けたことなのに、いざが外ばかりに気をとられていると無性に腹立たしくなる

それが自分の我侭だと分かっていても

強引にの肩を掴んでこっちをむけさせ、きょとんとしているに心臓の鼓動が高鳴る

「美味そうだな・・・・・・・」

「景吾?」

片手をの背中に回して、親指で軽く唇をなぞって

そっと 触れるだけのキスを交わす

それだけでも頬がピンクに染まるに苦笑しながらもキツク抱きしめた

「ちょっと・・・・」

「黙ってろ。」


ソフトクリームを食べていたから冷たいはずの唇は既に熱を帯びていて――

ソフトクリームよりも甘い唇を味わいながら、もっと深い口付けを交わしていく




「甘い、な。」

名残惜しいが、ゆっくりと唇を離すとさっきよりも顔が真っ赤になっていた

「・・・もうっ、景吾!」

「そろそろ観覧車動きだすぜ?」

ずっと頂上で停まったままだった観覧車は、再びゆっくりと動き出す



「でも、光の洪水・・・・すごいね、雪が降ってるみたい」

「あん?」

「あのね、雪にね・・・・なってみたい、って言ったら笑う?」

雪だぁ?

そう言いたそうな表情をしてる俺に気づいたのか、が話を続けた



雪になって、景吾の周りに舞っていって

触れたりしたい―――



・・・・・・・あぁ そういうことか

それなら俺だって

「・・・俺もなってみたい、って言ったらどうする?」

「け、景吾が!?」

俺の発言はを驚かせるには十分すぎて

案の定、目を丸くして驚いてやがる

俺がこんなこと言うなんて自分でも思ってもみなかったからな



真っ白で純白の雪になって

いつも傍にいて という色に染まってみたい




なぁ、――

アイスよりも蝋よりも

溶けるスピードが速いもの、知ってるか?



「溶けるのが早い、もの?」

俺の目の前で考え込んでいるに小さく微笑んで、再び身体を抱き寄せながら耳元で囁く


「・・・・・・・・お前にとけるのは俺だけで十分だろ。」

「・・・・景、吾?」



俺のに対する想い

これはごまかしようがないほど、加速度を増しながらとけていく

そんなこといつもは思ってても絶対言わないが

今日は特別だ



この光輝く夜景を背に

俺たちは何度も甘いキスを交わした














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7月での横浜オフの時に書こう!となり書いた観覧車ドリームでした。
景吾は「安いことはしない男」(笑)だから観覧車に乗るときも普通の人が考えないことをするのです!!
まぁ、ギャグっぽいような甘いような・・・??
これを読んでみなさんも景吾と一緒に観覧車乗ってるような感じになってくれれば嬉しいですvv
でも、他のお客さんは迷惑極まりないですよね(苦笑)


 100のお題 :  11「とっておきの魔法」


        2005年 8月26日 茜