ゴロゴロ。











「おい、急げ!」

「はい。お坊ちゃま。」


いつもならこんな距離走って行く所だが、雨が酷くての家まで車で向かっている

吹きかけるような雨のせいで、外がまったく見えない状態

にも関わらず、俺は窓の外を眺めた

「・・・何だってんだ、まったく」

訳が分からない状況と、まだの家に着かないという苛立ちを募らせていた







さっきまでと一緒にいて、雨が降りそうだから と、家まで送っていった

玄関についてドアを開けても、はなかなか家の中に入ろうとしなかった

「どうしたんだ?入らないのかよ。」

そう言うと、少し悲しそうな顔つきで俺のことを見た

何だ?いつもと様子が違うな・・・

その時はそう思ったが、たいして気にすることはなかった

「・・・・そんなに俺と離れたくないなら今日泊まってってやろうか?」

ニヤリと冗談っぽく言うと、途端に顔を真っ赤にして家に入り込んで行った

「だ、大丈夫!送ってくれてありがとう、じゃあね。」

『泊まっていく』っていうのは俺は本気だったんだけどな







そして、事の起こりは数分前にあったから電話だった

『景吾・・・・・』

『どうしたんだよ、やっぱり俺と一緒に寝たくなったのか?』

『怖いよぉ〜・・・・』

明らかに泣きそうな声のに、ベッドに横になっていた上半身を起こした

『おい、・・・・・?』

『きゃあっ!!』


そこで通話は途切れた

妙な胸騒ぎがする頃には、俺は既に車に乗り込んでいた






それから車で走ること数分、が住んでいるマンションの前に車をつけた

だからに一人暮らしなんてさせたくなかったんだ

付き合い始めてしばらくして、は一人暮らしすると言い出した

その方がたくさん俺に会えるから と言って

俺はだったら一緒に住めばいいじゃねぇか って言ったがそれはまだ駄目だって言っていた

まだ駄目って、いつになったらいいんだよ

俺はいつだってと一緒にいたいと思っている

その方がいつだって守れるだろ

今、に何があったのか分からない・・・・

こんな不安、抱えなくてもいいだろ






急いでの部屋まで走る

いつもならエレベーターを使うが、今はそれどころじゃない

エレベーターの奥にある階段を一気に駆け上がった



ピンポーン ピンポーン―――――

人を呼びつけておいて、ドアを開ける気配すらしねぇ

しょうがなく、自分で持っていたスペアキーで鍵を開けた

中は電気1つついてなく真っ暗で、本当にがいるのかと疑問を感じずにはいられなかった

、いるのか?」

とりあえず靴を脱いで上がり、リビングの電気を付けようとした瞬間


――大きな音と共に、窓の外が光った

雷か・・・・・

その一瞬の光でテーブルの下にいるの姿を見つけた

「おい、どうしたんだ!?何があった!」

電気を付けるのも忘れ、の元へ駆けつけると瞳から大粒の涙が溢れていた

やっと俺が来たことに気づいたのか、俺の顔を見て更に涙を流した

「けい・・・ご」

そのまま泣きじゃくるを優しく抱いてもう一度、何があったのか問いただす

「怖かったの・・・・・・」

「何がだ?」

鼻をすすり、頬を伝う涙を拭いながらやっとのことで口にした言葉

「・・・・雷」

「は?」

雷、だと?

確かにさっきから雨は強くなる一方だし、雷は鳴り出すし・・・・・・

もしかして・・・・・

「お前、雷嫌いなのか?」

「・・・・うん。雷だけは、どうしてもダメなの。」

雷かよ・・・・

もしかしたら・・・なんて思っていた俺は一気に脱力して大きなため息をついた

「びびらせんじゃねぇよ。何かあったのかと思ったじゃねぇか。」

「ごめんなさい・・・・・」

「だったら何でさっき俺を引き止めなかったんだよ。」

さっき送った時に、なかなか家に入ろうとしなかったのは、雷が鳴るかも って思ったんだろ?

最初から雷が苦手だって言えば、を一人にすることなんてなかった

そしたら泣かずに済んだかもしれないじゃねぇか

「だって・・・・・・・・本当に雷なんて鳴ると思わなかったし、それに・・・・・いきなり景吾が変なこと言うんだもん。」

「『泊まってく』って言ったことか?別にいいじゃねぇか。初めてじゃねぇんだし。」

「そうだけど・・・・・だって景吾が泊まると・・・・・・・」

「泊まると、何だよ?」

言いたいことは予想つくが、あえて聞いてみた

そしたら口を尖らせながら俺の方を見た

「・・・・・・・・・寝かせてくれないじゃない。」

「今更だろ?」

俺が来たことで少し安心したのか、小さく笑った



「とりあえず、電気付けるぞ。」

そう言ってを抱いていた手を解くと、途端にがしがみついてきた

「いやっ!離れないで・・・・」

「すぐそこだろ?電気付けにいくだけだ。」

子供をあやすように頭をポンポンと軽く叩いて一歩踏み出した所で、またリビングの大きな窓が明るく光った

そのすぐ後に雷特有の大きな音が鳴り響いた

さっきより大きいから、これはどっかに落ちたかもな

途端にまた叫び声があがる

「きゃあっ!!」

その声と共にまたが抱きついてきた

とりあえず落ち着かせようと、その場に座り込ませ肩を抱いてやった

「お前、こんなんでよく今まで一人暮らし出来たな。」

「・・・一人暮らし始めてから一度も雷なんて鳴ったことなかったんだもん。」

確かに雷なんてしばらく見てねぇからな

しがみついて離れようとしないを見て、リビングの電気をつけることを諦めた

そして、そばにあるソファーに腰掛けた

相変わらずは俺にしがみついたまま

いつもこれくらい素直だといいんだがな


そんな事を思いつつ、しばらくそのままでいた






それから数十分して、雷もだいぶ遠のいていった


毎回雷がある度にこんなんじゃキリねぇな

俺はのためならどこへだって行くが、それよりもいつでも傍にいた方がいいに決まってる

お前は俺が守ってやるから・・・・・・

、俺と暮らせよ。」

しばらくしても何の反応もなく隣を見ると、規則正しい寝息が聞こえてきた

どうやら俺が来て安心したのか、今の俺の言葉はに届いていなかったようだ

聞いてなかったのかよ

小さく舌打ちをして、隣で安心して寝ているの前髪を少し掻き分けた

「んっ・・・・・・」

「・・・?」

もう一度、小さく呼んでみてもやっぱり返事はない

の顔を見て、口元がつり上がった

さっきまで怯えきっていた奴の表情じゃねぇよな、どうみても



「・・・・・こんなお前を放っとけるわけねぇだろ?」

俺といればお前にあんな顔させねぇから

だから俺と一緒に暮らせ




そう言う為に、今叩き起こしてもいいが

もう少しだけ、眠らせてやるよ



俺の腕の中で―――――

















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私も雷は大嫌いです。


 100のお題 : 90「ゴロゴロ。」


        2005年 3月28日  茜