act8 〜自分に正直に・・・〜
はぁ・・・・・・やっと着いた
学校まで一生懸命走った 途中何度も転びそうになっても 息が切れてもずっと走った
少しでも早く跡部にあって 話さなきゃいけないから
この気持ちを一秒でも早く伝えたいから
跡部を探しにテニスコートに向かおうと思ったら、ボールを打つ音や掛け声などがテニスコートがある方から聞こえてきた
校門からテニスコートまでは結構距離がある
よくここまで聞こえるなぁ
無理もないか 男子テニス部は200人以上もいるんだから
部活終わるまで待つしかないか・・・・・
その時、愛が教室で宍戸を待ってるって言ってた事を思い出した
1人で待ってるより愛と一緒に待ってようかな と思って教室へ足を向けた
ガラッ
自分のクラスのドアを開けて教室内を見渡すが、肝心の愛の姿はなかった
鞄もない
「う〜ん・・・・・どこにいるんだろう。」
独り言を呟き、ドアの所でしばらく考えていると、背中から声が聞こえた
「・・・さん?」
名前を呼ばれて振り返ると、見覚えのない女の子が5〜6人で、まるで私の周りを囲うかのように立っていた
「・・・・そうだけど。」
え〜と・・・・・・誰だっけ?
見る限りみんな3年生みたいだけど、なんせ氷帝は生徒数が多いっ!
とてもじゃないけど同じ学年ですら 全員の名前は覚えられない
・・・でも どっかで見た顔なんだよなぁ
「ちょっといい?」
いや、ちょっと用事が・・・・と言いたいけど言えない雰囲気
そう言って、私の承諾もなしに女の子達は教室へと入っていく というか押し込まれるような感じで、私も教室へ入らされた
そして一番最後に教室に入った子がドアを閉めた
何?何が始まるの?
そのまま 追いこまれるように教室の隅の方へ行き、とたんに始まった喧嘩越しの声
「つーかさ、あんた何様のつもり?」
「最近私達の景吾につきまとってるのってあんたでしょ?」
「いい迷惑よね。少し跡部君が声をかけてくれたからっていい気になって。」
「景吾だって迷惑してるの気づかないの?」
「そ〜よそ〜よ!!」
多勢なのをいいことに、優位な口ぶり
いきなりすぎて一瞬唖然としてしまった
私達の景吾・・・・?
思い出したっ
この人達、いつも跡部の周りにいた親衛隊の子だ
自分達以外に 少しでも跡部にまとわりついている子がいると、こうやって呼び出したりしてるって可奈達に聞いた
親衛隊の子はタチが悪いから気をつけなよって・・・・・・・言われたっけ
でも実際こういうのがあると思ってなかった
もし呼び出しとかがあったとしても、前までは跡部の事好きじゃないと思っていたから・・・・はっきりとそう言ってやるつもりだった
でも今は違う 今は跡部が好き
だからこそ、こういう事をする人達の気持ちも分からなくもないけど・・・・
でも私も跡部を想う気持ちは誰にも負けていないつもり
今は跡部が私を好きだと言ってくれた事を、正面から受け止めたい
どうしよう・・・・・・
「でもっ、跡部から直接『迷惑』だなんて言われてないし、あなたたちと違って つきまとってるつもりもないけど・・・・。」
私の発言で余計怒らせちゃったみたい
「生意気っ・・・・・・」
パンッッ
次の瞬間 響いた高い音と、頬に走った痛み
あまりの勢いに、よろけて倒れこんだ
叩かれた所からだんだんと熱が帯びてくる
後からくる痛みに、思わず叩かれた所を手で押さえた
まさかここまでするとは思わなかった
そんな私を見て、いい気味という風な感じで見下ろす女の子達
どうしてこんな事までされなくちゃいけないの?
何も悪い事はしていない
私はただ、跡部の事が好きなだけなのに・・・・・・
その時、聞こえるはずのない声が耳に入ってきた
「・・・何してんだよ?お前ら。」
座りこんでいたから姿は見えないけど この声は・・・・・・
「跡部君っっ」
「景吾・・・・・どうしてここに?」
親衛隊の子がバツが悪そうな顔をして跡部を見る
「どうしてって別に・・・・・・!?」
私の姿を見つけたのか、声を上げて走って私のもとまで駆け寄って来た
跡部にこんな所見られたくなかった
そんな想いがあり、真っ直ぐに跡部の顔を見れなかった
でも、久しぶりに名前を呼ばれた
それだけで 今までの気持ちが嘘みたいに晴れていく
「てめぇら・・・・・・どういう事だ?」
跡部が私の方へ駆け寄ったかと思うと、ゆっくりと視線を女の子達に向けた
その女の子達は、跡部が来てすっかり固まってしまっていた
私に一瞬向けてくれた優しくて、でも少し悲しそうな顔が嘘みたいに、女の子達に向けた跡部の目は今まで見たことがないくらい鋭い目をしていた
私でも怖いと思うくらい
こんな目をされて睨まれたら、いくら親衛隊の子だって怯えるよ
見たら、何人か泣き出しそうになっていて、中にはすでに泣いてる子もいた
でも それに怯むことなく跡部に食って掛かる子がいた
私を叩いた子 たぶんリーダー的存在なんだろうな
「景吾、どうしてそんな子をかばうの?景吾だってこんな子につきまとわれて迷惑してるんでしょ?」
「うるせえ、俺にしてみればてめぇらのが迷惑だ。 俺はこいつが好きなんだよ。」
跡部の声に1つ1つ反応する自分がいる
『好き』という言葉を聞いて目頭が熱くなるのを感じた
私ってこんなに弱かったっけ・・・・?
それでもその子は、叫ぶように声を上げる
「私だって・・・・・景吾の事好きなんだからっ!!」
「・・・・・てめぇら、俺の事本当に好きなら俺がいつも誰の事を見てるかくらい分かんだろ。
俺にはしか見えてねぇんだよ。」
跡部・・・・・・・
いつの間にか 頬に1粒の涙が伝っていた
どうして今まで分かろうとしなかったんだろう
跡部の気持ちを
「分かったら帰れ。」
親衛隊の子達に背を向けて、冷たく言い放った
女の子達は跡部に言われて、しぶしぶと帰っていった
「あ・・・・・・・」
跡部に声をかけようと思ったら先に話しかけられた
「・・・・・悪かったな、俺のせいでこんな事になっちまって。もう平気だと思うからよ。
気をつけて帰れよ。じゃあな。」
跡部が他に何か言いたそうな顔をしてたけど、あえてそれしか言わず教室を出て行こうとした
私と顔を合わせたくないみたい
振り返ることなく外へ出て行こうとする
待ってよ・・・・私・・・・・跡部に言いたい事があるの
今言わなかったら、一生後悔する
「待って! 跡部っ!!」
私の声に、歩いていた足を止めた
でもこっちを振り返ることはない
背中越しでもいい 私の気持ちを聞いて
今まで信じたくても信じられなかった
言いたくても言えなかった
胸の中に押し込めていたこの気持ちを
「私・・・・・・跡部の事が好き。やっと気づいたの自分の気持ちに。」
私の必死の告白に ゆっくりとこっちを見て、私と視線を合わせる
「・・・・・・・・本当か?」
「跡部、いろんな女の子と噂になってたし・・・・・・・すぐには信じられなかった。
好きになっちゃいけないって勝手に思ってて・・・・・・。でも本当は・・・・大好きだったの。」
「過去形かよ?」
フッと笑われて、慌てて言い返す
「えっ、ううん。今も大好き!」
その時見せてくれたのは、私の大好きな・・・・いつもの跡部の顔
教室を出て行こうとした跡部が 私の方へ向かって歩き出した
そして まだ座り込んでいた私の前で片膝をついて私を抱きしめた
ストリートテニスコートで一方的に抱きしめられたときとは全然違う
制服越しに伝わる跡部のぬくもり
制服越しに感じる跡部の鼓動
跡部のつけている香水が私を優しく包みこむ
全てがすごく心地よい
「まったく、遅ぇんだよ。」
優しい微笑みで 私の頬に零れ落ちた涙を指ですくう
「跡部ぇ・・・・・・。」
跡部の広い胸の中に顔を埋めた
それを両腕で受け止めてくれる
「好きだぜ、。」
耳元で囁かれた
少し照れたけど、跡部の背中にゆっくりと腕をまわした
「私も跡部が大好き・・・・・」
その瞬間、全身で愛されてると感じた
人を好きになるって・・・こういう事なんだね
今まで感じたことのなかったこんな想い
私は跡部からあと何度受け取れる?
私の頬を、跡部の大きな手が包み込んだ
お互いの視線が絡まると、だんだん跡部の顔が近づいてきた
私も反射的に目を閉じる
そして唇が触れた
軽く触れるだけの短いキス
それでも唇が離れた時には、今までにないくらい顔が赤くなっていたと思う
跡部もほんの少しだけ赤くなってるのは、教室から差し込まれる夕焼けのせい・・・かな?
「・・・さて、行くか。」
跡部の声に はっと我に返る
そういえば・・・・・・
「もう怒ってないの?」
「あん?」
「だって最近機嫌が悪かったでしょ?」
さっきまで機嫌悪そうにしてたのに・・・・・・もう機嫌直ったのかな
「誰のせいだと思ってやがるんだ?・・・ったく。」
遠くを見ながら大きくため息をつく
・・・誰のせいって?
「私のせい・・・・・?」
「ほら、行くぞ。」
質問に答えることなく そう言って立ち上がり手を差し伸べてくれた
私は迷う事なく跡部の手を取って立ち上がった
「うん!!」
「跡部っていつから私の事・・・その、好きだったの?」
部活が終わって帰り道
2人で並んで帰ってる時にふと思った事
会話したのだってストリートテニスが始めてだし
それまで同じクラスだって話したことすらなかった
一方的に跡部の姿を見た事は何回かあったけど、いずれも跡部はそんな事知らないはず
・・・一体いつから私の事知っていたんだろう
跡部は一瞬私の方を見て、視線を前に戻し、話をしだした
「初めてお前を見かけた時、変な奴だと思った。」
「いきなりなんてこと言うのよ!しかも初めてっていつ?」
「入学式の時・・・。」
入学式?・・・確かあの日は遅刻しそうになって、学校までダッシュで走ってきて・・・・・
跡部に会ったっけ?思い出そうとしても浮かんでこない
「・・・・ごめん、覚えてない。」
「だろうな。お前あの時そうとう慌ててたからな。」
慌ててた?じゃあ走ってた時にでもすれ違ったのかな?
考え込んでいる私の横で、跡部は話を続けた
「その次は・・・あれだな。2年の時に裏庭でお前が走って校舎に駆けていっただろ?」
ゲッ。あれは・・・・思い出したくもない出来事なのに・・・
しかも見られたとしても後姿だけのはず・・・・・
「・・・・私だって分かったの?」
「当たり前だろ?あの時はこんな所でなにやってんだ?と思ったけどな。」
まさか同じクラスの人に告白されていたとは言えません
しかもその後に来た、跡部達の話を聞いていたとも言えません
「大方、会話を偶然聞いていて、怒られると思って逃げ出したんだろうけどよ。」
あら、すっかりバレてる
私は返事することなく跡部の言葉に耳を傾けた
「・・・3年になって初めて同じクラスになった時も。
お前だけだったぜ?授業中に寝てたり俺に対して態度が変わらなかったのは。
他の奴らは、思いっきり化粧してたり香水つけすぎてたりでウザイだけだったからな。」
「それ、可奈たちにも言われた。『どうしてこのクラスで居眠りできるの?』って・・。」
「どうしてできたんだ?」
「・・・眠かったから。」
私の返事が跡部の考えていた答えと一緒だったのか、フッと笑った
「俺の前で飾る女なんてたくさんいる中で、お前だけは違う。
だから、お前が気になってたんだ。もっとお前の事知りたいと思った。」
「そ、そうなんだ・・・・。」
自分からこの話題をしたくせに、そう語る跡部の顔がすごく真剣で顔を合わせる事ができなかった
急に恥ずかしくなって俯いた
それを見ていたのか、跡部のフッという笑いが聞こえてきたかと思うと、私を抱き寄せた
「な、何?」
「これから時間をかけてゆっくりとお前の事、教えてもらうぜ?」
跡部の言葉を理解した瞬間に鼓動が早くなった
そんな私の行動を面白がるかのように跡部は笑ってる
いつも余裕かましてる跡部の表情を少しでも崩したくて、ついこんなことを口走ってしまった
でもこれはでまかせでもなくて本心
「じゃあその時は跡部の全てを見せてね。」
それを聞いて跡部は一瞬驚いた顔をしたのを見逃さなかった
まさか私がこんなことを言うとは思ってなかったんだろうな
自分でもびっくりしたくらいだもん
でも、すぐいつもの顔に戻って、優しく私を抱きしめてくれた
「上等だな。覚悟しとけよ?」
ずいぶん遠回りしちゃったけど、跡部を好きになれてよかった って今は心からそう思うよ
繋がれた手は、今の気持ちを表すかのように
温かくて心地よかった
――――――――――――――――――――――
とうとうっ・・・・・完成いたしました!!
Border Line♪ HP開通と同時に始まって、長かったですがここまでお付き合いしていただき
ありがとうございました。
何気に人気があったこのお話。少しびっくりしました☆
とりあえず長編は書いてて楽しかったです♪
時間ができたら「2人のその後」なんてものを書いてみようかなと思いますv
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました!!
11月10日 茜